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3.卒業式数日前/沖田【沖→神(→銀】

 

初めてあいつを見た日。

俺は変な奴だと思ってた。

いや、それは今も思ってる。

だけど、違う。

もう少しなんか、今は……こう全部を見た上で思うから、悪気がないって言うのか……

取り敢えず、初めは何も分からない中で変な奴だと思ってた。

お団子頭とか、雪みたいに白い肌とか、桜色の唇とか、細い手足とか。

他の奴とは何かが違った。

 

「オイ。中国にはオマエみたいな奴ばっかりなのかよ?」

 

休み時間、1人でポツンと座ってるチャイナに初めて声を掛けたあの日。

 

「あん?うるさいアル!今、残りの酢昆布の数かぞえてたのに初めっから数え直しダローが!」

 

余りにも予想外の返答に俺は面白いオモチャを発見した気分だった。

その瞬間から、俺はチャイナを暇つぶしの相手にする事に決めた。

その度にチャイナは期待を裏切らねーで俺を楽しませた。

チャイナも、初めこそは白い目で俺を見てたが、最近は言い合い以外の会話も増え、割と普通に話せる間柄になっていた。

 

「オイ、チャイナ。売店で焼きそばパンを買ってこれたら、俺の持ってるメロンパンと交換してやってもいいですぜィ?」

「メロンパンが報酬アルか?それだけじゃ動かないアル!プラス酢昆布5箱でようやく相殺ネ!」

 

こうやってチャイナと屋上でパンを交換をし、昼休みを2人で過ごす事が多くなってた。

いや、毎日と言っても過言じゃなかった。

でも、ある日。

チャイナにいつもの様に話しを持ちかけると、少し言いづらそうに“今日は無理アル”と言って直ぐに教室から出て行った。

気になった俺はチャイナの後を気付かれないように、ソーッと付いて行った。

 

「宿直室?」

 

普段、生徒とは無縁のこんな部屋にチャイナが何の用なのか……

俺はどうしても確かめたくなり、周りに誰もいないのを確かめると静かにドアに耳を付けた。

 

「今日は昼の分も用意したから」

 

どうやら呼び出したのは銀八らしかった。

 

「いいアル。パンがあるネ」

「バカヤロー。パンがあるじゃねー。育ち盛りが昼飯にパンだけなんて…育つところも育たなくなるよー?神楽いいの?」

「うるさいネ!!大丈夫アル!」

「だいたい、アレよ?おめーが早弁なんかするからいけねぇんだよ」

「だって、お腹空くアル。仕方ないネ」

「取り敢えず今日はもう弁当余分に作ったから食べろ」

「分かったネ。ありがとネ。銀ちゃん、じゃあ……」

「ちょっ、ちょっ、待て。どこ行くんだよ?ここで食え……」

 

本当は大した内容じゃなかったのかも知れないが、俺は聞いてはいけない会話を聞いた気分だった。

銀八がチャイナの弁当を?

どういう意味だかハッキリは理解出来なかったが、しばらくしても出てこないチャイナから何となく予想はついた。

気付けば俺は全力疾走で教室まで戻っていた。

 

「おぉ総悟、今日はチャイナと屋上で食ってないのか?」

「今日は雨でさァ。屋上で食えるわけないだろィ。今日はもう帰りまさァ。じゃあ、皆さん午後のお勤めも頑張ってくだせー」

「いや……どう見ても今日は晴れてるよな?トシ」

 

その日以来、俺達は昼休みに屋上でパンを食べることが無くなった。

それがいたって普通な気がした。

今まで一緒に居たことの方が不思議なくらいだった。

チャイナが銀八とコソコソ2人で居るを見たのは、これが最初じゃなかった。

前にもあった。

たまたま忘れ物を取りに戻った時だった。

 

「今日はついてないでさァ」

 

なんて呑気に教室のドアを開けた。

銀八と2人っきりで居るチャイナを見た。

その時はチャイナの事を深く知ろうとまだ思わなかった時で、そんなに気にならなかった。

だから、放課後に居残りくらいにしか思ってなかった。

だけど、段々とチャイナが学校に馴染んで来るのと比例して、色々な噂が目立つようになっていった。

 

「寮生活をしてるらしいけど、その寮って言うのは銀八と同じアパートらしい。」とか「留学の本当の理由は国外追放になったから。」とか「実は理事長の娘!」とか。

 

どれも根も葉もない噂にしか思ってなかった。

俺にはそんな噂、全くどうでも良かったから。

なのに、今俺ァ……その噂が決定打になりそうで。

チャイナが悪いわけじゃねぇ。

だからって俺が悪いわけでもねぇ。

あいつを自分だけのオモチャにしたいと思った、俺の独占欲が悪い。

あいつは俺の、俺だけの物じゃなくて…神楽って言う人間だ。

血もかよってて、痛みも感じて、意思もある。

チャイナだって誰かを想ったり、好きになったりするわけだ。

 

「全然、変な奴じゃねぇし。俺とも、他の奴とも変わんねーや」

 

 

 

今日俺は何を思ったのか、屋上に来てた。

誰ともパンの交換なんてしないのに。

大の字に寝転がると晴れ渡った空を見上げた。

実を言えば、俺はあのままずっといつまでも、この屋上であいつとパンの交換が出来ると思い込んでた。

なんの確信もなく。

寒すぎる屋上は俺以外誰もいなくて、チャイナと2人で過ごしていた日々からの時の流れを感じた。

特にあの後、パンの交換について互いに話すこともなく、向こうも俺の気紛れ程度に思ってるだろうと感じてた。

俺は目を閉じ、少し昔を懐かしむことにした。

この場所での生活も、あと何日もなく終わってしまう。

チャイナと普通に話しがもっとしたかった……なんて後悔はしないけど、あと何日かで一生分話してやろうとも思わなかった。

気付けばチャイナの事ばかり。

あいつが来た日から、俺の頭ん中はチャイナで溢れてた。

 

「やっぱり、変な奴でさァ」

 

俺の頭ん中まで入り込んで来るなんて。

 

「変な奴で悪かったナ。」

 

突然、頭上で聞こえた声に俺は目を開けた。

そこには、お団子頭の雪みたいに白い肌で、細い手足をばたつかせ、桜色の唇から文句を垂れる変な奴が居た。

 

「わざわざ捜してやって有り難く思うヨロシ。もう、授業始まってるネ。今から卒業式の練習アルヨ。あっ!言っとくけど、私は銀ちゃんに頼まれて捜しに……」

「チャイナ、今日はピンク色でさァ」

「!?」

 

チャイナの蹴りがすかさず入れば、俺はそれを受け流す。

 

「てめぇがそんな所に立ってるから悪いんだろィ」

「捜してやった恩を徒で返すつもりネ!!オリャー!!」

 

どれくらい進んでいたか分からない時の流れが、一瞬にして元に戻った気がした。

でも、この場所に居ても良いのはあと数日なんだ。

それは変わらない。

 

「ハァ……ハァ……取り敢えず、今日はここまでにしといてやるネ。練習に行くアルヨ」

「ケッ、負けをすんなり認めやがれ。それに俺はてめぇに捜しに来てくれなんて言ってねぇ」

「なぁ、サド。」

「あ?」

「久しぶりにココに2人で居るアルな。」

 

俺は何て答えりゃいいか分からなかった。

 

「私、アレから探したアルヨ。あのメロンパン。どこにも売ってなかったネ。好きだったアル」

「あれはな、この辺には売ってねぇ。俺の家の近所のパン屋でしか手に入らないものでさァ」

「じゃあ、今日俺の家に来てみるか?」

 

何てことはもちろん言わなかったけど、言いたい気持ちだけはいっぱいだった。

 

「ふぅん、そうネ!なら、明日からまた、そのメロンパン買って来るヨロシ」

「何と交換なんでィ?」

「そうネ……」

 

チャイナはそう言って少し考え込んだ。

 

「お前は何がいいネ?」

 

愚問過ぎる。

俺は何がいいか。

そんなのずっと前から決まってる。

 

「焼きそばパン」

 

と見せかけて、チャイナ。

だが、言えねぇ。

心の声をあいつが聞けるかどうかは知らねーが、俺の心は正直だった。

 

「わかったネ」

 

無邪気に笑って頷いたその顔に、悔しいくらい目が奪われた。

 

「早く練習行くアルヨ!」

 

屋上を後にして、階段を下りながら自分より低い位置で揺れる頭を見て思った。

今の状況を変えられる、変えられないじゃなく、やるか、やらないかだけだ。

もう、そこまで訪れようとしてる春に誓った。

あとの数日に、俺の正直な心を一生分を注ぎ込んでやろうと。

 

2010/02/15

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