ダウト/土神:05

 

 日が傾き始めて薄暗くなり始める室内。僅かに残る光だけが密室に二人を浮かび上がらせていた。神楽は黙ったまま土方の下着すら下げてしまうと、想像通りの土方の熱い肉体が現れた。それを目に映した神楽は、自分も淡いピンク色の下着を足首に引っ掛けた。そして、何もつけていない下半身で土方の体へと跨ると、土方の肉棒に神楽の湿った秘部が擦り付けられた。ただそれだけなのにクスリのせいで体が敏感なのか、神楽は大袈裟な吐息を漏らした。

「はあッ……んんっ……」

 ゆっくりと前後に体を揺らす神楽。動く度にヌチャヌチャと淫らな音が聞こえてきて、神楽の柔らかそうな大きな胸が揺れていた。土方はそれを下から眺めているのだが、思った以上に気分が良いのか、その瞳は随分と力のないものであった。

「ねぇ……ここ気持ち良いアル……」

 神楽はそう言ってチャイナドレスの裾を捲ってしまうと、白い肉体が土方の肉棒の上で滑っているのがよく見えた。

「あぁ、そうかよ……」

 土方はつまらなさそうに言いはしたが、荒くなる呼吸は隠しきれなかった。神楽の柔肌はほどよく熱く、滴る愛液のせいで滑りも良かった。気持ち良くないワケがないのだ。土方はそこから目が離せないでいると、いよいよ熱の塊は破裂しそうなほどに膨らんだ。堪らずに神楽の揺れている乳房を服の上から鷲掴むと、手のひらで感触を楽しんだ。

「ガキの癖に随分と生意気な体してんだな」

 神楽は紅潮する頬で土方を見つめた。そして土方の手首を力なく掴むと、情けない声で言った。

「ふぁっ……お前っ……ガキとか言うナヨ……」

 どうやら睨み付けて怒っているようなのだが、半開きの目と口のせいでそうは見えなかった。だが土方は神楽が元に戻りつつある事に気が付くと、このまま続けても良いものかと悩んだ。いつもの神楽なら土方とこんな行為に及ぶ筈がないからだ。いや、それは土方だって同じだ。いつもの神楽となら性器を擦り合わせるなど絶対に――――

「んんっ……あっ!」

 突然神楽が体をビクンと跳ねさせると、苦しそうに顔を歪めた。土方は急いで上半身を起こすと、まだ小刻みに震えている神楽の体を抱いた。おおよそ擦っている内に絶頂にでも達したのだろう。土方はいい加減クスリも抜けた頃だろうと、神楽との行為を終わりにしようと思った。本心を言えばこんな中途半端な状態で終わるなど苦しくて仕方なかったが、最後までしたいなどと情けなくて言えないのだ。

「もう満足しただろ……万事屋に帰れ」

 あとは一人でどうにか処理しよう。そんな事を思って言ったのだが、土方の上に乗ったままの神楽は帰るどころか、着ているチャイナドレスを脱ぎ捨ててしまった。

 バサッと畳の上に落ちた真っ赤なチャイナドレス。露わになった神楽の裸体は興奮しているためか所々が紅く、土方は思わず唾を飲み込んだ。

「まだ帰らないアル」

 神楽はそう言ってブラジャーまでも外してしまうと、長く鮮やかな髪を静かに掻き上げた。そして土方の唇へそっとキスをすると、再び二人は呼吸を荒く乱したのだった。

 舌を絡めながら愛のないキスを繰り返す。体だけの関係を持つ女なら他にいくらでもいるのだが、土方は神楽に特別なものを感じていた。それが何かと言われると答えに詰まるが、土方の下腹部は今までにない程に涎を垂らしているのだった。細い腰に手を回して、右手を神楽の乳房へ持って来ると乳首を弄った。すると神楽の唇が土方から離れて悔しそうな表情になる。

「あ、あんまりやるナヨ……やめて……」

「アホか。ンな声で言われて止める奴なんかいねェだろ」

 そう言うと土方は神楽の乳房へ口を寄せると、赤ん坊のように……いや、腹を空かせた卑しい獣のようにしゃぶったのだった。神楽の体は軽く仰け反り、しかしここが良いと言うように土方の頭を抱え込む。漏れる厭らしい音と声。この部屋が敷地内の奥の方にあるとは言え、誰かに聞かれてもおかしくは無い。しかし土方は誰よりもこの甘い声を聞いていたく、静かにしろとは言わなかった。

 そろそろいい頃合いか?

 もう早く神楽の中へ入ってしまいたかった。神楽が帰らず続けたと言うことは、ハメても構わないと言うことなのだろう。神楽の乳房から唇を離した土方は再び畳の上に寝ると、跨っている神楽の脚を大きく開かせた。

「見るナ! お前……最低アル……ほ、ホントもう、ぶっ飛ばすぞ……」

 しかし神楽は脚を閉じずに、愛液をダラダラと流し続けていた。そこへ土方は自分の竿をあてがうと、ゆっくり神楽の中へ挿し込んだ。神楽の白い肉体へと徐々に飲み込まれていく男根。温かな温もりと柔らかな膣内。土方はたったそれだけで腰が浮き、達してしまいそうな程であった。神楽はと言うと、同じような快感を得ているのか高い喘ぎ声を漏らしている。完全なる雌の啼き声。土方が下から腰を突き上げると、神楽の中がキュッと締まった。そして柔らかな乳房を揺らしながら、切ない顔と声で土方を見下ろした。その表情が月並みだがあまりにも可愛くて、もっと見てみたいと望んだ。土方は上半身を起こすと神楽の髪を掻き上げて、火照る頬に愛のないキスをした。そして繋がったまま神楽の体を畳の……座布団の上に寝かせると、土方が覆いかぶさる形となった。もっと感じさせてやりたい。淫らにしてやりたい。壊してやりたい。そんな色んな想いを全てぶつけるように土方は腰を打ち付けた。

 

 すっかり暗くなった部屋には乾いた音だけが響いていて、時折神楽の声が漏れる。文机に置かれた小さな灯りだけが二人を照らしていて、襖に浮かび上がる影は激しく揺れている。必死に声を我慢して見える神楽だったが、押し寄せる快感に堪らないのか土方の体へとしがみ付いた。しかし頑張っていてもどうしても出てしまうらしく、神楽の甘い声が土方の耳へと注がれてしまう。だが、そんな物じゃ足りないのだ。もっと声が聞きたい。土方はスカーフを投げて、ベストとシャツも脱いでしまうと、神楽の上に汗をポタリと落とした。もう神楽の理性など木っ端微塵に壊してやりたいのだ。すると神楽の中で最大限に膨らんだソレが解除スイッチでも押してしまったのか、途端に神楽はワガママを言い出した。

「気持ちいいアル……あっあ……止めないで……もっと頂戴ヨ」

 土方は神楽の反応に嬉しくなると、自分の事などもうどうでも良いと、神楽が欲しがるままに突いてやったのだった。しかし、いつまでもそう言うわけにいかない。土方も限界だったのだ。あと数回擦れば……達してしまうだろう。土方は腰を引いて膣外へと出そうとしたが、神楽が咥えて離さなかった。

「いやヨ! 離れたくないアル!」

「後でいくらでもくれてやる! だから離せ! 頼む!」

「……ダメっ! あっ……んっ!」

 結局、二人は繋がったまま絶頂を迎えると、神楽の中は白濁液で満たされたのだった。

 どーすんだよ……。

 神楽の上でグッタリとしている土方は呼吸を整えながら色々と考えていたが、もう頭が働かないと思考を停止させたのだった。

 

 すっかりクスリの抜けた神楽は静かに体を起こすと、黙ったまま身支度を整えていた。土方も服を着ると、煙草を吸って神楽に背を向けていた。何て言えば良いのか言葉が出ないのだ。この煙草の煙のように、簡単に口から出てくればどんなにラクか。しかし、結局何も言葉を掛ける事が出来なかった。背後の神楽が立ち上がる音が聞こえた。

「……じゃあナ」

 そこに来てようやく土方は言葉を発した。

「待て」

 そして煙草を咥えたまま立ち上がり、まだ力のない瞳で神楽を見下ろした。

「……何かあれば連絡しろ」

 しかし神楽は紅い頬で土方を睨みあげると、土方の頬を平手打ちした。

「アホ言うナヨ!」

 神楽にしてみれば、惚れてもいない男に抱かれる原因となったクスリが憎くて堪らないのだろう。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのだ。土方は殴られたせいで煙草が口から落ち、それを急いで拾い上げると今度はスカーフを掴まれてしまった。

 また殴られる!?

 土方は思わず身構えた。

「待てッ! 確かにテメェは被害者だが元々は総悟が……」

 神楽は土方を再びぶっ叩こうとして、結局やめてしまった。その表情は悔しそうに歯を食いしばり、しかし紅い頬は怒りのせいには見えなかった。

「誰がお前に連絡するアルカ。二度と……顔なんて見たくねーヨ」

 神楽はそう言うと土方を離して、部屋から逃げ出すように出て行ってしまった。あまりにも呆気ない別れ。しかし、これでこそいつもの神楽であると土方は頬を腫らしたまま僅かに白い歯を零した。だが、困ったことにその身から神楽の温もりが消えていかなかった。残る香りもまるで身を包むように纏わりついている。神楽にまみれているようだ。そんな事を考えていると、どういうワケか心まで温かく感じ、これはマズいと急いで頭を振って掻き消そうともがいた。しかし、これは煙草の煙とは違って、なかなか吹き消えない。簡単に消えてしまえばどんなにラクか。そう思いながら土方は文机の上に置かれた書類に手を伸ばすのだった。

 

2014/07/26