ダウト:03の続きになっています。
※2年後設定。

 

ダウト/土神:04

 

 神楽を連れ出した土方は自分でも馬鹿であるとは分かっていた。今更どうしてやろうと言うのか。いや、ただクスリが抜けるまで、神楽を銀時から引き離したいだけであった。

 それにしても野郎とどうにかなる事をチャイナ娘は望んでなかったのか?

 てっきり神楽と銀時は何が起こっても問題の無い関係だと思っていた。しかしそうではないようで、パトカーの助手席で窓の外を眺めている神楽は虚ろな目をしていた。

 土方はコンビニで水を買って来てやると、神楽へとそれを手渡した。

「飲んで少し落ち着け」

「……うん」

 神楽はこちらを見ずに水を受け取るとそれを口に含んだ。その様子は自分の今までの行動を悔やみだしているように見え、いざとなると土方は何て声を掛けるべきか悩んだのだった。

「とりあえず病院に行くか? あそこなら安全だろ」

 しかし神楽は首を横に振った。そして水の入ったペットボトルを置くと、運転席の土方を振り返り見た。

「私、お前が思ってるよりも……」

 そう言うと神楽は土方にグッと詰め寄った。

「今、ものすごく男を求めてるネ。本当は大人しくなんてしてたくないアル」

 神楽は気だるそうな表情で土方の首に巻いてあるスカーフを掴むと、つまらなさそうにそう言った。

「でも、ダメなんでショ?」

「当たり前だ」

 土方は神楽の白い手を振り払うと、パトカーのエンジンをかけた。そして病院へ行こうとハンドルを握るも、その手は小刻みに震えており、今までにはない武者震いのようなものを感じていた。 一体どうしてなのか。それは急に神楽に色気が漂ったからであった。大人の女の色気が。

 土方は煙草を吸って落ち着くと、とりあえず病院へ向かおうとしてハンドルを――――――握る手に神楽の手が重ねられた。

「仕事の邪魔はしないから、お前の部屋にいさせてヨ。今の私じゃ患者も医者も、片っ端から食い散らかすアル」

 その言葉に土方は軽く目を瞑ると煙を吐いた。 

「……あーあ」

 そう言って土方は行き先を屯所へ変更すると、結局神楽を再び自室へと招き入れたのだった。

 

 神楽は言葉通りに部屋の隅で大人しくしていた。ダルいのか畳の上に直に体を横たえて、大人しく何も無い空間を見つめているのだ。そんな神楽を背に文机に向かっている土方だったが、それはそれで気が気では無いとあれだけ仕事を優先したいと思っていたにも関わらず、意識は神楽へと向いてしまった。

「オイ、腹具合はどうだ? そろそろ空いただら?」

「……うん」

 小さな声で神楽は返事をした。それが更に土方を心配させると、持っている筆を置いてしまった。

「何か欲しいものはねェのか? 飲み物とか甘いモノだとか」

 返事はない。気になった土方は、遂に神楽の方へと体の正面を向けたのだった。すると、神楽はゆっくりと体を起こし、乱れた長い髪も直さずに土方を見ていた。

「分かってんダロ?」

 神楽は四つ這いになって、赤ん坊の様にハイハイをすると土方へと近付いた。

「お前が欲しいアル。欲しくて欲しくて気がヘンになりそうネ」

 そう言って土方の前でぺたんと座り込んだ神楽は、腹を空かせた仔犬の様に鼻を鳴らした。

「自分でも何でお前なのかとか、そう言うの分からんアル。でも、せめてキスだけでもって……なぁ、ダメアルカ?」

 今更、キスが駄目だとは言わない。ただ、今回は色々と良くないのだ。先ほどまでの神楽の様子ならガキ臭いと思って適当にやれたのだが、今の神楽は次第に戻りつつあるせいか、無邪気なガキだと言うには無理があった。そうなると軽い気持ちで口付けなどは出来なかった。

「なら、万事屋としてこい」

「それは……そうアルけど」

 神楽は黙ってしまうと軽く俯いた。銀時とは既にキスもしたのだ。どのみち神楽と銀時は、このあと元には戻れないんじゃないかと土方は考えていた。だが、それは己にも言える事であった。神楽とのキスはもう数回はしており、このあと神楽が元に戻ったとしてもその事実は消える事はない。それならばキスくらいしてやれよと思うのだが…………ある一つの不安が過るのだった。

「仮にキスしてやったとして……止まらなくなったらどうすんだ?」

 そんな事を尋ねてみた。すると神楽は、うーんと唸って土方を見た。

「大丈夫ダロ。お前が止めてくれるアル」

 そう言って柔らかく笑った神楽に、土方は思わず顔が熱くなった。それは神楽の表情が自然なもので不意をつかれたと言うのもあったが、何よりも土方自身が暴走しないと純粋に信じている神楽に恥ずかしくなったのだ。

「……そうじゃねェ。今は俺の話をしてんだ」

 土方も一応は男だ。勤務中とは言え自室であり、神楽とは言え美人である。これだけ揃っていれば十分に暴走する可能性を秘めていた。一つのキスから火をつけて走り出すのは、さほど難しい事ではないのだ。するとそれまで柔らかい表情をしている神楽だったが、土方の言葉に僅かに顔を赤くすると固まってしまった。

「それでも構わねェってんなら好きにしろ」

 土方はそう言うと再び机に向かった。

 背後の神楽はあれから動かず、まだ固まったままだ。まさか土方が神楽相手に暴走するとは、全く疑っていなかったのだろうか。優男でもない自分の何処に神楽が安心していたのかと、土方は不思議に思っていた。確かに他の男ならもっと早い段階で抱いていたのかもしれないが……いや、他の男ならキスすらせずに踏みとどまっていたのかもしれないのだ。少なくとも神楽が“イイ男”に引っ掛かったなどとは、土方自身も思ってはいないのだった。

 土方は煙草を一本取り出すと火をつけた。改めて考えると神楽は何故銀時と関係を結ぶことを避けたにも関わらず、この自分とはキスを望むのか。その理由は分からなかった。ただ、先ほどの様子だと神楽はこのまま思い留まるのではないかと考えていた。

「じゃあ、お前の言う通り好きにするアル」

 しかし神楽はそんな言葉を吐くと、土方の背中に頬を寄せて後ろからその身を抱いたのだった。やはり我慢は無理のようであった。土方は額に汗を滲ませた。

 無遠慮に柔らかな体を押し付けられると、途端に神楽と関係を結ぶことが現実味を帯びたのだ。しかし好きにしろと言ったのは自分だ。武士に二言はないと、神楽の選択を受け入れることにした。あくまでも仕方がないと自己犠牲を払って、他に方法がないと諦めて。

「割り切って考えられるのか?」

 その確認は重要であった。ただじゃなくても面倒だと思っているのに、責任だ、賠償だと後から言われては堪らないのだ。すると、神楽は鼻で笑ったのだ。

「そっちこそ大丈夫アルカ? 私以外に興味無くなっても、責任は取らんアル」

 随分と強気な発言であった。今さっきまで赤い顔して固まっていた女の口から出たとは思えないのだ。

「ガキに惚れるほど青くもねェよ」

 土方は天井に向かって煙を吐き出すと、まだ真新しい煙草の火を消した。そして向きを変えると、抱きついている神楽の頭に手を置いた。

「一つ聞くが……万事屋の野郎とは割り切れねェって事だな?」

 すると土方の胴にくっ付いていた神楽は、体を起こすと正座をした。

「多分、そうアルナ。今の関係が壊れるなんて嫌アル」

「確かに俺とテメェは何の関係も結んじゃいねェ。壊れるものなんざ何も無え……そう言う事か」

 だが逆に言えば、新たに生まれる可能性を秘めているのだ。それは土方も目の前の神楽も口には出さないが、分かっているようであった。

 土方は隊服の上着を脱いで適当に畳の上に置くと、神楽は二つに結っていた長い髪を解いた。それが障子から差し込む柔らかな陽射しを受けて、目映い光を纏って揺れていた。

「……ありがとナ」

 目を細めて笑った神楽に土方は何と答えるべきだろうかと考えている内に唇は奪われ、二人はまたしても愛のない口付けを交わすのだった。

 その様は異常であった。酸素を奪い合うような激しいキス。胡座を掻く土方とその上に乗った神楽は、まるで愛しあうように抱き合う形でキスをしていた。どうしてここまで興奮するのか。土方は尋常ではない鼓動の高鳴りに、自分が如何に煽られているかを知った。いくら口の中で交じりあっても、少しも満足出来ないのだ。それはきっと神楽も同じで……いや、土方以上の事だろう。遂に神楽は土方を畳の上に倒してしまったのだ。跨ったまま舌を絡めて……片手は土方の腰にあるベルトへ伸び、ガチャカチャと激しく音を立てていた。土方はそれに気が付くと、一旦唇を離して神楽の手首を強く掴んだ。

「何してんだ!」

 すると神楽はハッとした表情を浮かべたかと思うと、悔しそうに僅かに俯いた。

「べ、別に……ちょっと酢こんぶ……探してただけアル」

 そんな嘘をついたところで信じてもらえると思ったのだろうか?

「本当にあるとは思って無ェだろ?」

 神楽は黙ってコクンと頷くと、ベルトに掛けていた手を離した。この行為が恥ずかしいと言う事は分かっているのか、神楽はこちらを見ない。しかし、クスリが急に抜ける事はなく、今も神楽は土方を堪らなく欲しがっている筈なのだ。そんな神楽に土方は突然愛しさを感じると、胸の奥が擽られてしまった。正直、求められる事に嫌な気はしない。

「疼いてんのか?」

「やっぱりダメアルカ?」

 今にも泣き出しそうな情けない声。お預けを食らってクンクンと鼻を鳴らす仔犬のようだ。土方は、普段は手懐ける事の出来ないお転婆な神楽を我が物にしたような感覚に陥った。今ならば何でも自分の言うことを聞くんじゃないか、そう思える程だ。

「好きにしろって言ったのはお前ダロ?」

「嗚呼、確かに言った。悪かったな」

 土方は短い丈のチャイナドレスから出ている太腿に手を置くと、神楽の頬に赤味が増した。それが土方の手をジッとはさせてくれず、スカートの裾の中へ消えてしまった。

 小ぶりだが、ハリのある形の良い尻。それを手のひらで確かめると、土方は何てこと無い顔をして神楽を見つめた。すると神楽はそんな土方を怒るでも諌めるワケでもなく、ただ切なそうな顔をすると息を漏らすように囁いた。

「じゃあ、もう一回言ってヨ」

 土方は軽く目を瞑るともう良いかと、今度はこの後に起こる全て受け入れる覚悟で言った。

「好きにしろ」

 その言葉を聞いた神楽は体を起こして土方の下腹部辺りに跨ると、再びベルトへ手を伸ばした。そして、両手でベルトのバックルを弄れば、簡単にズボンからベルトを引き抜いてしまった。

「もう、待ったは無しアル」

 そう言って神楽は躊躇うことなく隊服のズボンを軽く下げると、下着越しにでも分かる熱い膨らみが晒されたのだった。

 

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