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4.気化熱

 

 神楽は寒いのか、短いスカートから出る足を手の平で擦っていた。

 それを見ていた隣の本郷は、首に巻いていた芥子色のマフラーを神楽へと渡したのだった。

 

「良かったら、使って」

「お、おぅ。悪いアルナ」

 

 神楽は本郷からマフラーを受け取ると、適当に折り畳んで膝の上に乗せた。そして、険しい表情で本郷を見つめると、意を決して言ったのだった。

 

「ごめんアル。私、尚から借りた写真集を……泥で汚してゴミにしてしまったアル。本当にごめんなさい」

 

 本郷は一瞬目を大きく開くと驚いた表情を見せた。だが、すぐにいつもの柔らかい顔付きに戻ると、小さく頷いた。

 

「そうだったんだ。それであの日、僕の家を訪ねて……」

「本当に悪いことしたアル。なのに、私はあの日、謝ることが出来ずに逃げ出してしまって……ずっと言わなきゃって分かってたのに、言い出せなかったアル」

 

 神楽は本郷へと深く頭を下げた。

 それを何も言わずに見ている本郷は、困ったような顔をすると、顔を伏せている神楽を覗き込んだ。

 

「仕方ないよ。それに、また買えば良いんだから。怒ってないから、顔を上げて?」

 

 神楽は本郷の温かな言葉に胸を打つものがあった。

 なんて優しいんだろう。

 自分を快く許してくれた本郷に神楽は深く感謝した。そして、言われた通りに、その頭を上げたのだった。

 だが、本郷の神楽を見る目は、その言葉とは裏腹にどこか冷めているように見えた。

 やっぱり、怒ってる? 神楽が不安そうな顔をすると、本郷はそれに気付いたのか取り繕うように笑ってみせた。だが、やはり何か思う事があるのか、思い詰めたような表情になった。

 そして、本郷は言った。

 

「きっと、僕の所為さ」

「な、何でアルカ!? だって、私が」

「……いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくてね」

 

 本郷は地面の長く伸びる影を見つめていた。

 神楽はそんな本郷の言葉が解せずに、一体何の話をしているのかと不思議そうな顔で眺めていた。

 

「僕の方こそ謝らなければならないんだ……ごめんね、神楽ちゃん」

 

 神楽を見つめ返した本郷はどこか弱々しく、一瞬昔のあの頃の彼に戻ったように見えた。だけど、視線の高さ、大きな体、低い声。どれもあの頃から時が流れている事を窺わせるものばかりだった。

 

「オマエが謝る事じゃないネ」

「……貸したのは僕だ。あの写真集の事で神楽ちゃんを悩ませてしまったなんて。本当に申し訳ない」

 

 神楽はそうやって謝る本郷に困ってしまうと、しょげて見える背中にそっと手を置いた。

 

「なに言ってんダヨ! そこまで思い詰めなくても大丈夫アル!」

 

 すると本郷は苦笑いを浮かべて神楽を見た。

 

「こういうこと……考えて……つまりは、出汁にしたんだ。写真集を。情けないだろう?」

 

 神楽は本郷が僅かに震えてる事を、背中に置いた手で感じていた。

 どうして? 神楽は本郷が震えている原因が分からなかった。

 もしかして、寒いから? 神楽は膝に置いているマフラーを急いで本郷の首に巻いてやった。

 

「寒いアルカ? 私、もう大丈夫だから返すネ」

「あ、ああ。うん、そっか」

「もう、冷えて来たし、そろそろ家に帰った方が良いんじゃないアルか?」

 

 神楽がそう言ってベンチから立ち上がろうとした時だった。

 

「神楽ちゃん」

 

 本郷が神楽の腕を掴んだ。その手は熱く力強く、神楽の知っている本郷の手とは思えない男の手であった。

 

「ひっ、尚?」

 

 本郷の神楽を見つめる瞳は、神楽を溶けさせてしまう程に熱く赤く燃えている。

 太陽なら、さっき沈んでしまった。それなのに何故、本郷の瞳はこんなにも熱を放っているのか。神楽は戸惑いの表情を浮かべていた。

 

 本郷はベンチから立ち上がると、神楽の腕から手を離した。

 そして、自分の首に巻いているマフラーを神楽の首へ掛けると、丁寧に巻きながら話し始めた。

 

「あの写真集の事なんだけど、たまたま話題になってたから、本屋に寄ったついでに買っただけなんだ。僕が特別読みたいものじゃなかった」

「……そうだったアルカ」

「だから、神楽ちゃんに苦しい思いをさせてしまった事が、本当に申し訳なくて」

 

 本郷の手は神楽の首の後ろへ回り、マフラーが解けてしまわないようにと結んでいた。そのせいで、互いの顔の距離が近くなった。

 少し赤い本郷の鼻先と頬。それが至近距離で神楽を見下ろしていた。

 

「僕は愚かだよ。神楽ちゃんにまた会うにはどうすれば良いか……口実を探したんだ。それがあの写真集だった」

「なんでアルカ? 別に普通に誘ってくれたら一緒に遊ぶアルヨ」

 

 本郷の瞳が神楽の青い瞳を捕らえる。

 ただそれだけの事なのに、神楽は自分の心臓が煩く騒ぎ立てている事に気付いた。

 

「そんな奴いないよ。理由がないと、どうして会いたいのかバレてしまうじゃないか……少なくとも僕は隠しておきたいんだ」

 

 神楽はその言葉をどう受け取るべきなのか分からなかった。ただ顔が熱く、今にも逃げ出したい気分だった。

 

「あ、あっ……う、うん。そうアルカ」

「このマフラーだってそうだ。僕は自分勝手だから、神楽ちゃんが寒いからじゃなく、また会いたいから貸すんだ」

 

 本郷はそう言うと、悔しそうな表情で神楽を見つめた。

 

「……あの、さっきの人って」

 

さっきの人――沖田のことだろう。

神楽は首を横に振ると、慌てて本郷の考えているような関係ではないと否定した。

 

「あいつは何て言うか、金魚のフンって言うか、もうすっごくムカつく男アル!」

「そうなんだ」

 

 本郷はいつもの柔らかい表情で神楽に微笑みかけた。それを見た神楽は安心したのか、ホッとしたような安堵の表情を見せた。

 

「私も気になってたけど、前に泣いてた女の子ってオマエの……」

「あぁ、彼女は僕の妹なんだ。少しワガママなところがあってね。思い通りにならないと、いつもああしてよく泣くんだよ」

 

 本郷はそんな言い方をしたが、そこに棘がない事を神楽は感じていた。

 あの写真集の事を本郷自身は興味がないと言ったが、きっと妹の喜ぶ顔が見たくて買ったのだろうと思った。

 今制作している写真集が、喜んでもらえるものに仕上がるかは分からなかったが、人の楽しみを奪ってしまったなら精一杯頑張るしかないと神楽は意気込んだ。

 直ぐにでも沖田の後を追いかけよう。

 神楽は沖田の後を追うことに決めた。

 

「用事を思い出したアル。マフラーちょっと借りて行くネ! 今度こそちゃんとオマエに返すから」

「……うん、分かった」

 

 神楽は本郷へ手短に別れを告げると、急ぎ足で公園から出て行った。向かう先は、江戸の町にでっかくそびえ立つターミナルだ。

 

「行っちゃった」

 

 一人公園に残された本郷は、芥子色のマフラーを巻いて公園から遠ざかって行く神楽の後ろ姿を、やはり悔しそうな表情で見つめていた。

 

「……はっきり好きって言えば良かったかな」

 

 その呟きは神楽に届く事なく、冷たい北風に掻き消されてしまった。

 

 

 

 神楽はターミナルのインフォメーションで、何やら大きな声を上げていた。

 

「だーかーらー、20歳くらいのどS面を下げた鬼畜系男子アル!」

「絶対迷子じゃないですよね! そんなアダルトな迷子聞いた事ないですからッ!」

 

 ターミナルに着いた神楽は、館内放送で迷子の沖田総悟をアナウンスで呼び出してくれと、受付の女性にお願いしていたのだ。

 だが、もちろんそんな要望に応えてもらえる筈もなく、普通の呼び出しとして放送されたのだった。

 

 神楽はインフォメーション前のソファーへ腰を下ろすと、沖田が何故このターミナルへやって来たのかを考えていた。

 残す写真はサンセットビーチと星空で、もしかするとわざわざ宇宙船に乗って星空を撮影するのだろうかと、沖田のただならぬ気合を感じていた。

 だが、そんなに暑苦しい男ではないと、神楽はやはり沖田の考えが読めなかった。

 

「何しに来た? ガキはガキと公園で仲良く遊んでろよ」

 

 不満そうな顔で神楽の元まで来た沖田は、カメラを固定した三脚を担いでいた。

 

「フン、オマエに任せてたら下らねェ写真撮るかもしれないダロ!」

 

 神楽はそんな事を口にしたが、沖田が三脚を担いでいる事が気になり、目を輝かせてそれを見つめていた。

 屋上にでも出て星空でも撮るつもりなのだろうか? 神楽は自分の胸が弾む音を聞いた。

 

「ホラ、早く来いヨ!」

 

 神楽はソファーからポンと立ち上がると、沖田の襟首を引っ張った。

 

「迷子になってたのはてめーだろ! おい、離せ! 首がァアア!」

 

 神楽は沖田をズルズルと引きずると、屋上へと向かったのだった。

 

 

 

 屋上に上がった2人は、風の強さと寒さ、何よりもそこから見える江戸の街に声も出せないでいた。

 神楽は星空を期待して屋上に上がって来たのだが空は光害のせいで星など一つも見えず、代わりに眼下に広がる夜景が宝石箱をひっくり返したかのように眩い光を放っていた。

 神楽はフェンスに手を掛けると、ワイヤーの網目の間から大きな瞳で景色を眺めていた。

その隣で沖田はカメラが倒れないように三脚をしっかり支えると、無言でシャッターを切っていた。

 

「上手く撮れるアルカ?」

「……聞こえねーや」

 

 屋上は風の音と宇宙船の音のせいで、地上と同じ声量で会話を交わすことは難しかった。

 

「何でもねぇヨ!」

「あ? マジで聞こえねーから!」

 

 神楽はこれはいい機会だと、普段沖田について思ってる事や他にも溜まってる鬱憤などを思いっきり叫んでみた。

 

「給料寄こせ腐れ天パッ! 眼鏡もアイドルに鼻の下伸ばしてんじゃねーヨ!キモいアル! そこのオマエも毎回毎回、ガチで殺しにかかって来てうぜェんダヨ!」

 

 神楽は一通り叫ぶとスッキリとした表情になった。だが、まだ何かが胸の辺りに引っかかっている。

 神楽は先ほどの本郷を思い出すと、首に巻いている芥子色のマフラーを触った。

どうしてあんなに熱い瞳で見つめていたのだろう。

 思い出すだけで胸を騒がせる温度の高い視線。神楽は今まで誰にも、そんな色の目で見つめられる事がなかった。

"特別"なものを感じていた。

 戸惑いと不安とほんの少しのときめき。そんな複雑な感情に神楽は叫ばずにいられなくなった。

 

「なんなんダヨォオ! 意味わかんねぇダロッッ!」

 

 沖田には何も聞こえてないのか、相変わらずカメラに夢中だ。

 

「会いたい理由とか"ただ会いたい"だけで良いダロォオ!」

 

 何かと口実を見つけなければ、会いたい理由がバレてしまう。本郷は確かにそう言った。しかも、それを隠したいと。

 しかし神楽は、会いたいなら会いたいでいいだろうと思っていた。それ以外は自分も聞きたくないし、知りたくない。

 仮にもし、その理由を聞いてしまったら、知ってしまったら――想像するだけで胸が苦しくなった。

 

「……ワケわかんねぇヨ」

 

 神楽がそう呟いた後、風向きが変わったのかシャッターを切る音が聞こえた。だが、カメラのレンズが夜景ではなく、こちらへと向けられている事に気が付いた。

 神楽は怒ったような顔になると、沖田へ飛び掛かった。

 

「今のは消せヨ! ゴルァ!」

「誰もてめーの湿気た面なんか撮るわけねぇだろィ!」

 

 神楽を引き剥がした沖田はまた三脚を担ぐと、屋上から出て行こうとした。

 

「もう終わりアルカ?」

 

 沖田は神楽の言葉に足を止めると、アゴで何かを指図した。

 

「ついて来いって言ってんのカヨ?」

 

 神楽は文句を垂れながらも沖田の後に続き、ターミナルを後にした。

 

 

 

 駅前のファミレスで沖田と食事をしている神楽は、先程から険しい表情で目の前の皿を次から次と空にしていた。

 

「何でオマエの顔見ながらご飯食べなきゃなんないアルカ!」

「ブヒブヒうるせーな。牝豚は黙って食ってろィ」

 

 神楽は誰が牝豚だと怒りながらも、その口を休める事はなく腹を満たして行った。

 

「……サンセットビーチか」

 

 そう呟いた沖田は、グラスに入った氷を噛み砕きながら、今までに撮った写真を確認していた。

 向かいに座っている神楽からその手元は見えなかったが、一瞬上がった沖田の口角を見逃さなかった。

 

「私にも見せろヨ」

「なァ、チャイナ。夕焼けと朝焼けの違いが分かるか?」

 

 突然の質問に神楽はうーんと唸り、首を傾げた。

 

「カラスが飛んでるか飛んでないかダロ」

「……マジで言ってんのか?」

 

 沖田は呆れた表情になるも、まぁいいとテーブルの上の伝票に手を伸ばしイスから立った。

 

「もう、次の休みは24日まで無ェや。こうなったら仕方ねーが、サンセットからサンライズに代替えでィ」

「何でだヨ! 普段仕事サボってんダロ! 明日もサボれヨ!」

「今月だけはそうもいかねーんだよ」

 

 変なところ融通が利かないと神楽は沖田に苛立ったが、思った以上に写真集を真面目に製作している態度は評価していた。

 本郷の妹が満足してくれるかは定かではないが、今やれるだけの事をやるしかないと、神楽は沖田と暗く静かな夜の砂浜へと向かったのだった。

 

 

 

 夜の海は気色が悪い程に黒く、不気味な静けさに包まれていた。

 ファミレスから出た2人は適当に毛布を一つ購入すると、朝陽が拝めるであろう海浜公園へと来ていた。

 

 沖田はカメラを固定した三脚を日の出の海が写るであろう位置にセッティングすると、先ほど購入した毛布に包まり木製のベンチへと座ったのだった。

 

「チャイナ、6時半に起こせ」

 

 そんな事を言いアイマスクをつけた沖田を、神楽はベンチの脇に突っ立ったまま眺めていた。

 

「オイ、コラ待て。何1人でぬくぬく寝てるアルカ」

 

 街灯に照らされた沖田は、面倒臭そうにアイマスクを軽く捲ると神楽に言った。

 

「なら、てめーも毛布買えば良かっただろィ」

「そんな金持ってると思ってんのカ! 万事屋舐めんなヨ!」

 

 薄給の神楽には、毛布を買うなどという無駄遣いが出来るわけがなかった。

 朝の6時まで脚の出た格好の上、コートとマフラーだけでは風邪を引いてしまうだろう。神楽は沖田に任せて帰ってしまおうかと思った。

 

「私居なくても写真撮れるダロ? そうアル! オマエはやれば出来る子アル! 1人でも絶対大丈夫ネ! じゃあ……」

「俺が寝過ごしたら、24日になるけど良いんだな?」

 

 神楽はそれで良いと言いかけて、24日が何なのかを思い出した。

 元々、本郷と約束していた期限であり、世の中はクリスマスイブと言うイベントの日であった。

 きっと子供達は、何か素敵な事の起こる日だと瞳を輝かせていることだろう。かつての自分のように。

 たとえ枕元に置いてあるものが、欲しかったものじゃなくても、お金の掛かっていないものでも、神楽は胸を躍らせていた当時の気持ちを今でも簡単に思い出せるのだった。

 

 神楽の脳裏に先日見た、泣きはらした少女の赤い瞳が浮かび上がった。

 あの子は――本郷の妹もきっと他の子供達と同じ様に、素敵な事の起こる日だと信じている筈だ。

 それに間に合わせて写真集を作るには、24日に写真を撮っていては間に合わなかった。

 神楽は帰るのを諦めると、沖田の座るベンチの端に腰を下ろした。

 

「……6時半に私が生きてたら起こしてやるヨ」

「てめーも暖かそうなマフラー巻いてんだろィ。それ巻いたまま死んだら、二度と何も貸してもらえねーだろーな。あ、死んだら借りれねぇか」

 

 神楽はそんな事を言った沖田を驚いた表情で見ていた。だが、スグに芥子色のマフラーを外してしまうと、沖田にそれを突き出した。

 

「だったら、オマエの毛布と交換しろヨ! それだったら私は死なないし、マフラーも返せるし、オマエは死ぬしで良い事ずくめアル」

 

 沖田は毛布を頭から被ると、神楽の言葉を無視して眠りだした。

 神楽はマフラーを巻き直しながら沖田に近付くと、無理矢理に沖田から毛布を引き剥がそうとした。だが、引っ付くと思いの外沖田が暖かい事に気が付き、神楽は毛布を引き剥がすフリをしながら丸まっている沖田に寄りかかった。

 

「か、貸せヨ! 神楽ちゃんが可哀想ダロ!?」

「あー、そうかィ。だったら、頭の一つくらい下げてみたらどーだクソアマ」

 

 誰がそんな事をするものか。

 神楽は文句を言いながらも、その体は沖田にしがみ付き離れなかった。

 沖田もそんな神楽に気付いたのか、毛布から顔だけを覗かせた。

 

「オイ、何勝手に人の毛布満喫してんでィ」

「良いダロ別に。減るもんじゃねーし」

「てめーの涎がついたら、ばっちぃだろィ」

 

 そんな事を言う沖田だったが、神楽を無理矢理に引き剥がしはしなかった。ただ毛布に包まり丸まりベンチの上に座っているだけで、アイマスクの端から覗かせている目で、自分の体にしがみ付いている神楽を見つめていた。

 

「……頭下げる事知らねぇと、いつか嫌われちまうぜィ」

「はぁ? 誰にアルカ? オマエにならもう間に合ってんダロ!」

「何言ってんでィ。俺ならテメーに嫌われようが痛くも痒くもねぇよ」

 

 神楽は沖田が何の話をしているのかと、怪訝な顔をした。

 そして、ふと思った。もしかして本郷の話ではないだろうかと。

 すると、突然神楽は顔が熱くなり、胸の鼓動が速まった。そのせいで、沖田を抱く腕に力が入る。

 

「な、なに言ってんダヨ。ちゃんと謝ったアル。それに、許してもらえたネ」

「良かったな」

 

 沖田の口から小さな声でそんな言葉が紡がれたような気がした。

 まさかこの沖田が? 神楽は沖田がそんな言葉を口にするとは到底思えなかった。

 聞き違いだろう……いや、本当に聞き違いだったのだろうか?

 実際のところは分からなかったが、もし本当に口にしていたとしたら、沖田も少しは大人になったのかもしれないと神楽は思うのだった。

 

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