桃色傀儡

9,沖田side


 日に日に色気が増し、欲情を煽るようになっていく彼女に対し沖田も狂おしいほど悩んでいた。神楽に約束させられたのだが、やはり体を繋げたいと望んでしまうのだ。だが、それが目的で交際を始めたわけではない。猿のように盛っていては動物と同じである。理性を働かせなければと今現在も思っているのだが……


 学校帰り、雨に降られた二人はずぶ濡れで沖田の家に居た。外は稲光が酷く、これは当分止みそうになかった。沖田は神楽にタオルを渡すも、服を乾かさないことには風邪を引きそうな程に濡れていた。

「最悪アル!」

 神楽は髪をほどき、タオルで乱暴に拭きながらどうも怒っていた。

「仕方ねえだろ、雨に怒ってなんになるんでィ」

「だって、帰れないアル!」

 何やら腹が減っただとか、冷蔵庫のプリンが兄貴に食われるだとかそんな事を言っていたので沖田はいつものことだと気にもしなかった。だが、改めて考えると今夜雨がずっとこの調子だった場合、神楽は本当に帰れないかもしれないのだ。

「泊まってくか?」

 沖田は濡れたシャツを脱ぎながらさり気なく聞いてみた。沖田としては神楽が泊まっていく事は迷惑でもなんでもなかった。だが、一つ問題がある。

「パピーになんて言おう……」

 そうだ。あの恐ろしい夜兎工業高校の教師である父親が立ちはだかる。

「迎えに来てもらうにしても……お前の家に居ることバレちゃうネ」

 バレて困ることはないのだが、きっと根掘り葉掘り聞かれたうえで面倒なことになるのは目に見えている。いつか挨拶をしなければいけないとは考えているのだが、それが今日でなくても良いと沖田は思った。

「なら、姐さんの家に居ることにして泊まって行けば良いだろ」

 神楽はまだ雫のついた髪で少し考えこむと、沖田にケータイを貸してくれと言った。

「姐御にはパピーから連絡が来ても話合わせてもらうアル。あとは、パピーに姐御の家に泊まるって連絡入れれば多分どうにかなるアル」

 沖田は思わず頬が緩みそうになったが、緩めば『エロいこと想像してんじゃねーヨ』と蹴られかねない。大人しく風呂にお湯を張りに行くと部屋から出るのだった。


 やはり雨は今夜中に止みそうにもなかった。もしかすれば明日の朝も土砂降りかもしれない。沖田は脱衣所で服を脱ぎながら激しい雨音にそんなことを考えていた。

「おい、神楽。テメーも一緒に入れよ」

 沖田は涼しい顔でそう言ったが、神楽から返ってきた言葉にケラケラと笑った。

「風呂ぐらい一人で入れヨ! ばかちんがッ」

 確かにそうだと沖田は浴室のドアを開けた。しかし、すぐに脱衣所に駆け込んでくる激しい足音が聞こえ、沖田は一旦シャワーを止めた。

「何でィ?」

「べ、べつに雷が怖いとか言ってないアル」

 その言葉にニヤリと笑みが溢れる。

「なら、入ってこいよ。制服も早く干さねーと風邪ひいちまうだろ」

 神楽の返事はない。だが、布の擦れるような音が聞こえ、扉の向こうのシルエットが肌色に染まった。そして、ゆっくりとドアが開くと手で体を隠した神楽が入ってきたのだ。

「へ、へんな事すんなヨ! 体温めたらすぐ上がるアル」

「変なことってなんでィ? ただ体を温めるだけでさァ……」

 そう言うと沖田は雨で冷えている神楽を抱きしめるのだった。


 全身の肌が神楽の肌と密着し、心地よさを感じていた。

「お、お前……お腹に当たってるアル…………」

 赤い頬でそう言った神楽に沖田は口づけをすると、神楽の小ぶりな胸に手を添えた。

「そう言うテメーも乳首固くしてんだろ」

 尖っている小さな乳首を指で摘めば、神楽が小さく声を漏らした。それが沖田の興奮を更に高めると、もう収まりがつかなかった。胸に唇を移動させて、子供のように吸い付く。すると神楽の体が跳ね、壁に背中がピタリとついた。

「それ……すんなヨ…………」

 だが、やめるつもりはない。神楽の腕が沖田の頭を抱え込むのだ。もっと善がらせてやろうと神楽のもう片方の乳房を揉みながら、舌で乳首を転がしていた。

 体だけが目的ではないのだが、惚れた女の体に触れたいと思うことは仕方がなかった。それに神楽に触れていると悦びを感じる。ミシミシと音を立てるように欲望が膨れ上がるのだ。

「風邪ひいちゃうダロ……」

 神楽がそう言って壁と沖田の間から逃げ出すと湯船に逃げ込んだ。だが、沖田も追いかけると狭い湯船に二人で浸かるのだった。


 神楽を膝の上に乗せ、二人して同じ方向を向いて入った。そのせいで神楽の股から、沖田のそそり立つ男根が顔を覗かせている。

「すぐこんな事になるアルナ……少しは我慢しろヨ!」

 神楽がそう言って先っぽをつつくものだから、沖田も負けじと背後から神楽の両乳首を引っ張ってやった。

「テメーこそ、すぐこうなる癖に」

 そう言って沖田は神楽の唇を塞いでしまうと、神楽の熱い舌が沖田の唇をなぞった。

 神楽の手が沖田の肉棒を擦りあげる。それが気持ち好く、沖田の口の中に唾液が溢れた。すると、目が合った神楽がクスクス笑った。

「ここでやったら逆上せるアル」

「でも、もうお前だってヤメて欲しくねえんだろ?」

 神楽のほんのりと赤く染まる横顔が小さく頷いた。

「…………もっと、強くして、欲しいアル」

 胸が張り裂けそうになった。そんな切ない顔を見せられては沖田も大人しくしていられないのだ。今すぐにでも一つになってしまいたい。だが、こうして弄り合っているだけでも悪くはないのだ。口の中で互いの舌を引っ付け、気持ちいい所を触り合う。それだけでも十分に愛は育まれていた。

「あッ……待ってヨ……クラクラするアル……」

 神楽はそう言って湯船の縁に腰を掛けると、白く輝かしい肉体が余すことなく目に入った。しなやかな四肢に小ぶりな乳房と尻。だが、痩せ過ぎということもなく男を興奮させるには素晴らしすぎる体であった。それをジロジロと見ている事に気付いたのか、神楽が体を腕で隠した。

「もう十分温まったネ、体洗ったら上がるアル」

「なら、俺が洗ってやろーか?」

 その発言に神楽の頬が膨れ、眉間にシワが寄った。だが、見えている顔は赤く、嫌だと逃げ出す雰囲気はどこにもなかった。

「自分の体くらい洗えるアル!」

 しかし、神楽はそう言って早々と体を洗い終えると沖田を残して上がってしまった。それには多少ハートが傷つく。

「なんでィ。あいつ、つれねーな」

 だが、洗うと言っても沖田の両手はどうせいやらしい動きしかしなかっただろう。そう思うと断られても仕方がないと諦めるのだった。


 それから冷蔵庫にあるもので夕飯を済ませ、リビングのソファーでテレビ番組を視聴して、そしてそろそろ眠るかと言う時刻になった。明日も学校があり、休むわけにはいかない。

「ふぁ~あ! もう寝るアル」

 大きな欠伸をした神楽は、サイズの合っていない沖田のTシャツをパジャマ代わりに着ていた。そのせいで時折、神楽の白い肩が覗く。

「ここに布団敷くか? それとも俺のベッド使うか?」

 そう言って沖田がソファーから立ち上がると、神楽が変な顔をした。

「妙に親切アルナ。どっちでも良いけど」

 ひとが気遣ってやっていると言うのになんて言い草だろうか。『この女は』と思わずにいられなかった。

「なら、廊下に転がってるか? 朝まで」

 すると神楽の拳が腹に飛んできて、ニコッと可愛い笑顔が見えた。

「じゃあ、朝までお前の睡眠を妨害するコースでよろしく!」

 これには沖田の口角も上がった。

「大胆なこったァ」

 その言葉通りに神楽は沖田を朝まで寝かさなかった。


「ハァ……ハァ……気持ちいいアルカ……?」

 ベッドの中で横になり向かい合う二人。だが、神楽の手は沖田の性器を握っており、また沖田の指は神楽の股ぐらを漁っていた。相互愛撫という遊戯だ。神楽は自ら股を下品にも大きく開き、沖田が触りやすいようにと剥き出しの状態であった。電気も消え、暗い部屋ではあるのだが、淫らな彼女に沖田の興奮も最高潮に達していた。しかし、頼りない神楽の指使い。発射させることが目的ではないのだろうが、消化不良では終わりたくないのだ。それはきっと神楽も同じだろう。それならばやはり体を結んでしまいたかった。

「なあ……」

 沖田が切ない声を上げるも、神楽は何も答えない。やはりセックスだけは駄目なようだ。しかし、どのみちもう限界である。男を知り尽くしたかのような神楽の手つき。急に巧みに動き始めたせいで、あと数秒で果ててしまいそうなのだ。もう沖田は神楽の体を触ることが出来なくなると歯を食いしばった。

「くッ…………イク……!」

 すると突然、腹部に妙な生温かさを感じ、だがそれが何か分かる前に情けなくも声を上げて果ててしまった。口から涎も流れ出る。果てたばかりの敏感な先っちょに何かヌルヌルとしたものが触れるのだ。

「いッ、な、なんでィ……」

 すると、神楽の声が随分と下の方から聞こえた。

「ひもち、よはった?(気持ちよかった?)」

 それで分かったのだ。自分がどこに精液を注ぎ込んだのか。それを考えるとまたしても沖田の肉棒は熱を集めた。

「飲めよ、こぼさず……」

 すると神楽の喉がゴクリと鳴ったような気がした。それが堪らなく心臓を揺さぶり、思わず沖田は神楽の口の中へ強引にも性器を突っ込んだ。あとはもう無我夢中である。神楽の口腔内を犯し、喉を孕ませるかの如くまたしても注いでやったのだ。沖田の加虐性が闇に浮かび上がる。

 もっと酷く犯してやりたい……

 だが、苦しそうに呼吸をする神楽に冷静になると、強く抱きしめたのだった。

「なんでここまでやるんでィ? 誰も頼んでねえだろ……」

 だが、神楽は浅い呼吸で小さく言った。

「やりたいから、してあげたいからするアル……文句あるネ?」

 もしかすると神楽は『セックス禁止令』を出した事に申し訳ない気持ちがあるのかもしれない。だが、沖田はそんなことに後ろめたさを感じる必要はないと思っていた。それでも一度神楽の口の中を味わってしまった以上、これからも自分はそれを欲するだろうと思っていた。

 欲と言うものは、与えれば与えるほど飲み込んでしまうのだ。底なしである。

 スッキリした体とは裏腹に心は晴れないと、沖田は窓の外に降る雨に心を重ねてみるのだった。