桃色傀儡

 

8,神楽side


 日の落ち始める国語科準備室で、神楽は足元にポタリポタリと雫を落としていた。

「あッ……ふッ……んッ…………」

「イキそう? 良いって、イケよ」

 足首まで下ろされた下着。立ったまま銀八の腕にしがみついている神楽は、目を閉じて快感に耐えていた。

 イキたい……でも、イッちゃダメ……

 必死に神楽は堪えるも、沖田とは違う銀八の慣れた手つきと太い指に理性はグチャグチャに掻き乱されていた。ジュプジュプと音を立てながら神楽の膣はだらしなく涎を垂らしている。もう白い太ももまでぐっしょりである。


『先生はお前に同情してんだよ。我慢しなきゃならねえなんて……可哀想だってな。指でいいなら手伝ってやるけど…………どうする? 神楽』


 その言葉を無視して逃げてしまえば良かったのだ。それなのにそうしなかったのは、疼くカラダが悲鳴を上げていたからである。

 沖田に触って欲しい。そう強く願っていたのだが、今日は委員会がありそれが叶わなかった。それならば次の機会を待てば良かったのだ。それなのに神楽のカラダはもう《待て》が出来なくなっていた。触られれば触られる程、体は敏感になって欲するようになっていたのだ。

 神楽は銀八の腕に掴まりながら、体を激しく震わせた。

「いッ……あッ……イクッ……ううッ……ああンっ!」

 銀八の指を咥え込むように膣が締まり、神楽は意識を飛ばしてしまった。頭をショットガンで吹き飛ばされたかのような感覚だ。体を大きく脈打たせるほど激しく果てたのは初めてのことであった。沖田の指でとろける事はあったが、こんなふうに潮を噴いて逝ったことなどない。神楽は恍惚の表情で腰をビクビク震わせると、今にも膝から崩れ落ちてしまいそうであった。銀八にしがみつきどうにか立っている状態だ。

「お前ビショビショじゃねーか。そんなに良かったの? ちょっと先生嬉しいんだけど」

 銀八はそう言いながらひどく濡れている手を振って水分を飛ばした。神楽はソファーに倒れこむように座ると、銀八も隣に腰を下ろした。そして、カチャカチャとベルトを外し、ズボンを下げると既に固く反り立った性器を取り出したのだった。

「えっ、銀ちゃん?」

 すると銀八は『シーッ』と言って神楽の手を股間へと誘った。

 初めて握る男根。神楽はその固さと熱さに思わず手を引っ込めてしまいそうであった。だが、銀八にそれを阻まれると、銀八の手が神楽の手の上から肉棒を握ったのだった。

「もしかしてやったこと無えの?」

 神楽は小さく頷いた。沖田のものを見ただけで、触ったことはないのだ。

「お前ら二人で居て、一体何してんの? 手コキくらいやってやれよ」

「なんで、アルカ?」

 銀八のどこか馬鹿にしたような目線が神楽に送られる。

「なんでって……気持ちいいからに決まってんだろ」

 そう言った銀八は握っている神楽の手をゆっくり上下に動かした。神楽の手の中で熱い塊が更に固く育っていく。

「なぁ、神楽ちゃん……先生として言っておくけど…………」

 銀八の目に光がなくなり、吐く息も温度の高いものへと変わった気がした。神楽は自分の手の中で膨らんでいく銀八の欲に戸惑いと好奇心が入り乱れた。慕っている教師が初めて見せる男の顔。心臓が震えた。

 これは沖田と付き合う前のことだが、銀八に対し淡い恋心があったのだ。しかしそれははっきりと姿を見せる前に消え去り、神楽の心は沖田へ引き寄せられたのだ。それでも揺れた想いは確かに存在した。それだけにこの状況に異議を唱えることが出来ず、ただされるがまま手を動かし続けた。

「やっぱり……セックス……やめといた方が良いと思うけどな…………」

 神楽の手にヌルヌルとした体液が触れ、それが余計に手を滑らせる。次第に銀八の手も離れていき、神楽は自ら擦り始めると銀八の顔色を窺った。

「そこ、うん……そのまま握って……もう少し強く……」

 速度を落としたり、強弱をつけたり、神楽は手に覚え込ませるように動かした。銀八も呼吸を浅いものに変えると感じているようだった。それを見ていると再びカラダが火照りだす。

「あのな……セックスってのは……もっと大人になってから……たとえば……学校卒業してから……あッ……出る」

 そう言って銀八は神楽の手の中で果てると、指や手のひらにドロドロとした熱い体液が絡みついた。独特のニオイと感触。神楽は初めて直接精液を見たのだ。

「いや、お前上手くて、マジでビビるわ。本当に初めて?」

 神楽の手と自分のものを綺麗に拭った銀八は、身なりを整えると煙草に火をつけた。

「ちょっと神楽、窓開けて」

 神楽はふらつく体で立ち上がると、既に藍色に染まった空を見ながら窓を開け放った。さっきまでグランドを駆けまわっていた生徒たちはもう帰ったようだ。

 何してんだヨ……

 神楽は深呼吸をするとそんな事を冷静になった頭で考えた。恋人ではない男と性器を弄りあったのだ。それでいて…………どこか満足している自分が嫌になった。こんなにもイケナイ事をしているのに開放的な気分なのだ。

「あ、それで俺の言いたかったことだけどな、そんな急いでセックスして何になるんだよってこと」

 神楽は窓の外を眺めながら答えた。

「別に何になるとかじゃないネ。したいからするだけの話じゃないアルカ? 世の中のひと、みんなが……」

「でもな、もしもって事があんだろ? お前の年齢で子供出来たらどうすんの? 今の沖田くんにもお前にも経済力ってもんが無えだろ」

 さっきまで生徒に男性器を握らせていた男の発言とは思えず、神楽は大きな目で銀八を見た。

「それにホラ、別にセックスしたくて沖田くんと付き合ってるわけじゃねえんだろうし、それなら我慢出来るだろ? 卒業くらいまでなら」

 銀八の言っている事を理解出来ないわけではない。まだ自分も沖田も大人とは言えなくて、幼い熱のままに体を引っ付ければ…………望まない結果を生まないとも限らなかった。

「それにまたシて欲しくなったら指くらいなら俺も手伝ってやるし、それに…………」

 神楽はふと窓の外に目をやると――――校庭を横切って行く男子生徒数人が目に入った。近藤と土方と山崎だ。沖田の姿はない。神楽は慌てて鞄を持つと銀八にハッキリとこう言った。

「これは事故みたいなもんネ。二度はないアル。じゃあナ」

 準備室から飛び出すと慌てて下駄箱まで駆け下りた。沖田がさっきの集団にいなかったと言うことは、もしかすると自分が残っている事に気付いて捜しているのかも知れないと思ったのだ。今日のことを知られるわけにはいかない。神楽は沖田に会わない内に学校を飛び出すと、家まで走って帰るのだった。


 その夜、神楽はベッドの上で考えた。銀八に言われたことについて。

 卒業までセックスをしない……

 会えばきっとしたくなる自分がいる。沖田と体だけの関係に堕ちてしまうような恐怖を感じた。いや、既に会えば体に触れて欲しくなるのだ。今日だって……だから、銀八とあんなことになってしまった。今後、こうならない為にも神楽は沖田と二人きりで会う回数を減らそうと思ったのだ。家に招かれれば、きっと体を弄って欲しくなる。そう思っているそばから、神楽の右手はパジャマのズボンの中へと滑り込んだ。

「……また濡れてるアル」

 神楽はこんな体になってしまった事が恐ろしかった。一度知った快感を忘れる事が出来ないのだ。前までならクリトリスを軽く触って満足していた。それなのに今は膣穴に指を入れて激しく出し入れさせなければ気が済まない。

 神楽はパジャマのズボンとパンツを脱いでしまうと、天井を見て寝転がった。そして、股を大きく開くと一人沖田とのセックスを想像したのだ。

 きっとこんな感じアル…………

 だが、自分の細い指ではもう満足出来ない。神楽はもっと太い何かを入れて欲しいと懇願するように名前を呟いた。

「総悟……」

 しかし、体目当ての交際ではない。それを自分自身に分からせる為にも神楽は当分沖田に会わないことを決めたのだった。だが、心の奥底に眠る感情の中に沖田への後ろめたさも存在していた。銀八と性器を弄りあったという行為に関して。だからしばらく会いたくない……それも事実であった。だが、事故だったと蓋をすると沖田のことだけを神楽は考えた。



 それから一週間は沖田と二人きりになることはなかった。学校では普通に喋るし、時折小突き合ったりもする。それでも頑なに家には行かなかった。その間、神楽は疼くカラダをどうにか自分の手で慰めていたのだが、休日を控えた金曜日。遂に我慢が出来なくなった。明日は沖田に絶対に会いに行こう。そう心に決めたのだ。これだけ我慢していたのだから、明日くらいは淫らになっても許されるのではないかと思っていた。一張羅のチャイナドレスを着ていくことを決めると、翌日神楽はなんの連絡もなしに沖田の家を目指した。

 沖田もあれだけ家に誘ってきたのだから、相当溜まっているはずだ。神楽は沖田を襲うつもりでインターホンを押すとドアが開かれるのを待った。だが、こんな時に限って沖田はなかなか出てこない。

「まだ寝てるアルカ?」

 休日とは言え、もう昼は回っている。神楽は苛立ちをぶつけるようにドアを蹴ろうとして――――ようやくドアが開いた。しかし、すぐにその金属製のドアはうるさく閉じられた。

 もう待てないアル……

 扉の向こうでは、我慢の限界を迎えた神楽の可愛い欲望が猛威をふるうのだった。