※2年後設定(神楽/銀時/新八/沖田/山崎/オリジナルキャラ)

  CP要素ほぼなし(あるとすれば薄く銀→神、沖←神)

  R-15G(血、死、暴力的な描写アリ)

  神楽(万事屋)と沖田が事件を解決する話


A friend in need is a friend indeed:01

 

 夏の暑さもだいぶ落ち着き、江戸にも秋の風が吹き始めた頃だ。一軒の屋敷から白無垢に身を包んだ娘が出てくると、厳かな雰囲気の中、迎えの車に乗り込んだ。それに足を止める者は多く、ここにも一組の親子が息を呑むようにその光景を見つめていた。

「うっわ~、いつかオイラもあんな綺麗な嫁さんが欲しいな」

 そう言ったのは五歳ほどの年齢に見える子供で、隣に立つ男を明るい表情で見上げていた。

「オイ、随分と生意気だなァ、宗助《そうすけ》」

 ニヤリと口元に笑みを作った男は宗助と言う子供の父親らしく、息子の頭をグリグリと撫で付けた。小脇には道具箱を抱えており、どうやら大工か何か職人であるようであった。

「なぁ、父ちゃん。母ちゃんもあんな別嬪だったの?」

 好奇心に満ちた目が男を映せば、これには男もフフっと笑ってみせた。

「ああ、別嬪だった…………」

 しかし、スグに遠い目をすると屋敷に乗る青い瓦屋根に目をやった。

「でもってなあ、すげェ強かった。結局、父ちゃんはあいつに死ぬまで勝つことが出来なかった……」

 男は懐かしむように目蓋を閉じると、小さく呟いた。

「お菊………………」

 男の脳裏に焼き付いた輝かしき記憶。それが鮮明に呼び起こされると――――――数年前、天国へ旅立った妻・お菊の言葉が頭に響く。

 

『どんな貧乏でも良い。大切な人を悲しませる人生だけは送りたくないものさ。だから、私も病気に負けないよ。あんたに笑って生きてほしいから』

 

 途端に男の表情は固いものに変わり、隣で無邪気に笑っている息子の顔へと視線が向けられた。

「宗助、父ちゃん……大事なことを忘れてた」

「大事なこと? 今夜も仕事があるってことだろ?」

 その言葉に男は何かを決意したような面構えをすると、息子の低い頭に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「……ああ、そうだ。だけど、もうそれも今日で終わりだ。宗助、今から話すことは誰にも言うんじゃねェぞ。父ちゃんとお前だけの秘密の話だ」

「秘密の話? なんだそれ!? かっけーよ、父ちゃん!」

「ふん、カッコ良いことなんてあるか」

 はしゃぐ息子に男は自分の人差し指を唇に押し当てると、声のボリュームを更に落とした。

「だがな、これから父ちゃんは……悪の組織と戦うんだ。それには宗助の力も必要でな……協力してくれるか? 」

「うん、オイラ協力する! もしかして父ちゃんって正義のヒーローなの?」

 目を輝かせて問う宗助の言葉に、父親である男の顔に焦りが見えた。脂汗が額に浮かび上がる。そして、うわ言のように力のない目で言うのだった。

「いいや、違う……俺は大工の茂吉だ。そうだ。俺は大工の茂吉なんだ…………」




 万事屋の玄関が開き、買い出しから帰った新八が荷物を持ったまま居間へ飛び込んできた。

「そう言えば、前に大工さんに依頼されて屋根の修繕を手伝ったお屋敷って覚えてますか? そこの娘さんが、このあいだ結婚式を挙げたみたいですよ!」

 鼻息荒くそう言った新八に対して、居間のソファーでだらけている銀時と神楽は興味ないと言ったような顔をしていた。

「新八、うっさいアル。大事なセリフ聞き逃したダロ」

「人の嫁さん覗見してる暇があったら、仕事でも取ってこいよバカヤロー」

 テレビドラマに夢中の二人に新八は理不尽にもボコボコにされると、眼鏡を曇らせて叫んだのだった。

「お前らこそ仕事しろォォオオ!」

 結局、新八の更なる大声に怒った神楽が新八へ飛びかかると二人はすぐに喧嘩に…………ならず、神楽のワガママボディを押し付けられた新八は、呆気無く白旗を振るのだった。これには銀時も苦笑いを浮かべ頬を引きつらせていた。

「しっかし、新八。お前も、いい加減慣れろって。逆にこう、とか、こんなんとか揉んでやる勢いで……」

 大きな胸をエア揉みする銀時に怒った神楽は、拳を握ると銀時の頭に叩き込んだ。

「いッ、てェェエエッ!」

 そう叫び、床に頭を押さえて転がる銀時を神楽は白い目で見下ろすと、唾でも吐くかのように言った。

「大袈裟アル…………ちょっと出てくるネ」

 神楽も十六歳と言う難しい年頃だ。銀時の下ネタを最近は笑えなくなっていた。

 銀時と新八に呆れた神楽は傘を持つと、特に用事もなく万事屋から飛び出すのだった。


 怒号が聞こえ、そしてバタバタと駆け回る数人の足音が混ざった。神楽はアテもなく散歩をしていたのだが、急に変わる町の気配に身構えると、臨戦態勢を整えた。前方二時の路地からこちらへと向かってくる集団。聞き耳を立てれば……五人は居る。追手が四人で、追われているのは――――――

「うわぁあああああ!」

 神楽の耳に入ってきたのは泣き叫ぶ子供の声であった。それもかなり幼い事が窺える。もしかすると追われているのはその声の主で……そう思っていると目の前に血相を変えた男の子が一人飛び込んできた。涙で顔が濡れ、その表情は恐怖で強張っている。

「だすけでぇぇええ!」

 神楽は咄嗟に傘を開くと、狭い路地で追手の前に立ちはだかった。

「私が傘閉じる間に、お前ら逃げた方が良いアルヨ」

 神楽がそう言って傘の向こうに居るであろう追手に凄めば、さすがに追手も足を止めるしかないようであった。傘の下から見える足は四人分だ。神楽は予想が当たったと思わずニヤリと笑った。

「邪魔するなら、女だろうが切り捨てる…………」

 しかし、よく知っている声に傘を畳むと、そこに居たのは真選組一番隊隊長・沖田総悟とその部下であった。

「なんでィ、テメーかよ。それなら問題ねえ。心置きなくぶっ叩ける」

 そう言って刀を抜いた沖田に神楽は傘の先端を向けると、コック音を鳴らした。

「子供相手に随分と駒を使うアルナ。少しやり過ぎじゃねーアルカ? 折角だから私が相手してやるネ。ちゃんと上手にイかせてやるアル。誰から来るネ?」

 神楽はそう言って大きく口を三日月にすると、チャイナドレスのスリットから、わざとらしく脚を覗かせた。神楽の真っ白な太ももが、薄暗い路地で不気味に光る。

「た、隊長……我々は現場へと戻りますので……」

 神楽にビビったのか、沖田の部下たちは全員血相を変えて逃げて行くと、神楽はそれを見てつまらないと言った顔をした。

「お前はどうするアルカ?」

 しかし、沖田は眉一つ動かさない。

「今はテメーの相手してる場合じゃねえんだ。そのガキは重要参考人でィ。黙って引き渡してもらおうか」

「重要参考人? 取り調べでお前ん所の副長に何されるか分かったもんじゃないネ。それなら一層渡せんアル」

 神楽は要求などクソ食らえと、沖田の眉間に傘の照準を合わせた。沖田も神楽の首を簡単にハネ跳ばせる位置に刀をかざす。もういつでも互いの息の根を止める準備は出来ていた。片一方が動く瞬間を今か今かと待っている。空気の流れ、殺気、喉を通る唾液、瞬きのタイミング。それらから推察し、呼吸を整えると開戦に備えた。しかし、二人が一線を交えることはなかった。先ほどの子供が姿を消していたのだ。

「あのガキ! 逃げたな!」

 神楽もそれを横目で確認すると、神楽の脇に居たはずの子供の姿はどこにもなく、忽然と姿を消していた。すると沖田は刀を収め、神楽に言った。

「次また邪魔するようなら……そん時はただぶった斬るくらいじゃ済まねえからな」

 そう言って来た方へと戻って行った。神楽も傘を元に戻すと、どこかへ行ってしまった子供について考えていた。真選組に追われるなど一体何をしたのか。至って普通の子供に見えたのだが……神楽は何となく銀時達にこの出来事について話したくなると、騒がしい万事屋へきびすを返した。


 居間のソファーに並んで座るのは、銀時と新八。その表情はどこか不愉快そうな小難しいもので、向かいのソファーで身を引いてこちらを見ていた。その二人の視線の先には、神楽が座っており、その胸には子供が一人泣きついていたのだ。

「で……どこの子だよ? まさかお前の子供じゃねえだろうな」

「銀さん、神楽ちゃんの年齢考えましょうよ……」

 神楽の胸に泣きついている子供。それは、先ほど沖田に追われていたあの男の子供であった。どうやらあの後、万事屋へと向かったようなのだ。神楽と出くわしたのは偶然なのか、それとも偶然を装っただけなのか……いや、こんな幼い子供が何かを企む事は考えられなかった。

「参ったな。泣き止まねえ事には話も聞けねーし……」

 銀時は神楽の胸に顔を埋めている子供に手をこまねいていた。隣に座る新八も子供に煎餅を勧めてみたりしているのだが、一向に顔を上げないのだ。そこで神楽は子供を膝の上に乗せると、慣れないながらも小さな体を抱いてやるのだった。

「銀ちゃん、新八。とりあえずコイツは私が面倒みるネ。真選組に追われてた理由はわからんけど、それが…………」

 神楽の視線を辿れば、テーブルの上に置かれた紙の束に行き着いた。ざっと見た感じでは人の名前、そして何かの売上金額が記載されている写しであった。

「まぁ、こんなもん持ってるところから察するに、コイツを追ってるのは真選組だけじゃねえだろうな」

 銀時は名簿と思われる紙に手を伸ばすと、うーんと唸った。そして顎に手を置くと子供を目に映した。

「大人しく真選組に捕まっといた方が身のためじゃねーの? 正直ンな危険なガキ匿ってやる義理なんかねーだろ」

「銀さん!」

 諌めるような新八に銀時はうるせェと言うも、何かを考えているようであった。

 神楽としては、こんな子供を追い出すなんて考えられないのだ。今も大人しく………………

 突如、神楽の顔が真っ赤に染まった。それにいち早く気付いたのは新八であった。

「神楽ちゃん? どうしたの?」

 神楽は口を真っ直ぐに結ぶと、ただ目を白黒させているだけであった。その原因を新八は知ろうとしていた。何に驚いているのだろうと眼鏡の奥の瞳が動けば…………泣きついている子供の左手が神楽のふくよかな胸を大胆にも揉んでいたのだ。

「オイッッッ! 子供だからって許されると思うなよぉォォオオ!」

 心の底からの『羨ましいだろボケ』の叫びに銀時の視線も神楽へと向いた。

「オイオイオイオイ! このクソガキッ! 何ヤってんだテメェ!」

 銀時によって子供が引き剥がされると、神楽はようやく解放された。だが、怒り心頭の銀時は子供を窓の外に投げようと抱え上げ…………さすがにこれにはやり過ぎだと言って神楽は止めに入ったのだった。

「まだマミーが恋しい年頃アル! ちょ、ちょっとびっくりしたけど、少しなら問題ないネ!」

 すると、銀時に薄気味悪い笑顔が貼り付いた。神楽の背中に悪寒が走る。

「えっ? 少しなら良いって? じゃあ、仕方ねえな。そう言うことなら……」

 銀時の手がいやらしい動きをし、神楽に迫る。

「銀さんッ! おっぱい揉み券もなしにそんな事が出来るとでも思ってるんですか!」

 おっぱい揉み券さえあればどうにかなると思っている新八は、さすが童貞と言った所である。神楽は眼の色を変える男共に後退りをすると、ついに壁に追い込まれてしまった。

「お、お前ら……死ぬ覚悟出来てるんだろーナ!」

 この後、神楽の足が二人に蹴りこまれたのは言うまでもない。

 

 居間のソファーに並んで座る神楽と子供。そして、その正面のソファーで色のない顔で腹を擦っている銀時と新八。場を仕切りなおすと、神楽は泣き止んだ子供に再度尋ねた。

「お前、名前はなんて言うネ?」

 先程は泣きじゃくって話しが出来なかったのだが、今はその目も乾いており、話が聞けそうであったのだ。子供はうんと頷くと、はっきりした口調で言った。

「オイラは宗助ってんだ……」

「なんで追われてたのか説明出来るアルカ?」

 宗助はまたしても『うん』と頷くと、鼻をすすりながら答えたのだった。

「父ちゃんが……父ちゃんに紙の束を渡されて、それで急に怖い人たちが走ってきたから……オイラ一生懸命逃げたんだ………………」

 突然、目に涙を浮かべるとまたしても泣き出してしまった。余程父親が恋しいのか、それとも恐怖を思い出したのか。どちらにせよあまり詳しい話は聞き出せそうになかった。

「銀さん……どうしますか?」

 困惑気味の新八に銀時は腕組をして答えた。

「とりあえず新八と神楽はそのガキの子守をするとして……俺は沖田くんに会って話聞いてくるわ。報酬の出どころを捜さねえとこっちも迷惑だからな」

「そうアルナ……宗助のパピーをまずは見つけないとネ」

 銀時、新八、そして神楽は目を合わせると頷いた。正直、父親が危険な名簿をこんな幼子に渡したところを見れば相当切羽詰まっていたように思われる。真選組なんかよりも更に大きな危険が迫っていたのだろう。となれば今頃どうしているかなど……神楽は頭を振ると悪い考えを掻き消した。まだそうとは決まっていないのだ。とにかく今は少しでも多く情報を集めるしかない。

 神楽は玄関に向かった銀時を追いかけると、ブーツを履いている背中に言葉を掛けた。

「銀ちゃん、頼んだアル。それと……ありがとうネ」

 するとブーツを履き終えた銀時が神楽を見てフッと笑った。

「お前の為じゃねえよ。もちろんあのガキの為でもねえ。あいつの親父に子守+乳揉まれた慰謝料貰いてえだけだし」

 これには神楽も噴き出して笑った。

「お前の乳じゃねーダロ」

 銀時はその言葉を聞き終えると、ふらふらっと玄関から出て行った。普段はどこか腑抜けて見える銀時ではあるが、神楽はいつだってその銀時を一番信頼しているのだ。あんな言い方をしてはいるが、本当は宗助を心配しているのだと神楽は知っていた。

「このクソガキィィイ!」

 しかし、そんな雰囲気をぶち壊す如く新八の発狂する声が聞こえてきた。どうも新八一人に宗助を任せてはおけないようだと、神楽は急いで戻るのだった。

 

 煎餅を食べ、少し落ち着いた宗助は神楽の質問にたどたどしいながらも素直に答えた。

「オイラが知ってるの、それだけだよ……」

 父親に公園の茂みで名簿を渡されたこと。万事屋に行けと言われたこと。そして、明日の正午、埠頭で落ち合う約束をしたこと。それを聞いた神楽と新八は顔を見合わせると宗助の父親が何をしたのか……漠然とだがそれを察したのだった。

「神楽ちゃん、ちょっと……」

 そう言って新八が神楽を廊下へ呼び出すと、宗助を置いて神楽も居間から出た。

「多分、宗助くんのお父さんは、どこかの組織から足抜けしようとしたんじゃないかな?」

 神妙な面持ちで新八がそう言えば、神楽も腰に手を当てて頷いた。

「それは間違いないアルナ。でも、なんで名簿や帳簿の写しを宗助に預けたネ? 危険まで犯して……」

 ただ単に足抜けするならば、飛べば良かったのだ。体一つで。それなのに金になるとでも踏んだのか、宗助の父親は危険を犯してまで、名簿と帳簿の写しを持ちだしていた。しかもそれを幼子に託すなど、普通では考えられないのだ。だとすると、金以外に何か理由があったのだろうか。考えてみるも神楽にも新八にもそれは分からなかった。

「とりあえず宗助にこの話は黙ってるネ。自分の父親が悪い組織に居たなんて知ったら……悲しいアル」

「うん、そうだね。宗助くんには聞かせられる話じゃない……」

 そうして神楽と新八が宗助の子守をしている頃、銀時の向かった真選組屯所では、沖田が山崎と担当している事件について話しているのだった――――――

 

 屯所の一室。山崎の右手にある書類には《黒龍――こくりゅう――》の文字と、吉原で落籍されていった遊女達の名前が載るリストがあった。

「洗ってみましたが……黒龍のフロント企業として《大江戸木材》の名前がありました。埠頭に旧木材置き場もあるところから……まぁクロでしょうね」

 沖田は山崎からリストを受け取ると、余白に走り書きされた文字を読んだ。

「大工の茂吉――――――こいつが自分の息子に骨っこ持たせたのは確かでィ。お陰で俺らが追う羽目になったが、あのバカに邪魔されちまって……」

 沖田は先ほど裏路地で会った神楽を思い出していた。ただの子供だと思ってかばったのだろうが、少しはこっちの事情も汲めと苛立っていた。そうじゃなくても今はかなり大きなヤマを捜査しており、殺気立っているのだ。余計なトラブルは避けたい所であった。

「ザキ、それで大江戸材木が身請けしていった女達は……誰一人消息が分かってねえのか?」

「はい、元々が借金のカタに売られた女達でして、更に言ったら客も取れないような遊女が殆どで……店も喜んで身請けさせていたようです」

 言い終わると山崎が脂汗を滲ませた顔で沖田を窺った。

「あの……それと今、屯所の入り口に……万事屋の旦那が来てるんですけど……隊長に会わせろって……」

 この忙しい最中に言うのが躊躇われたのだろうか。山崎は恐る恐る口にすると、スグに殴られてもいいようにと身構えた。しかし、沖田は分かったと言ってズボンのポケットに手を突っ込むと、銀時の元へ向かったのだった。


 沖田が門まで出れば、銀時が腕を組んで壁にもたれていた。話は大体、検討がついている。

「金なら貸せやせんぜィ」

「ちげーよ」

 銀時はそう言って背中を壁から離すと続けて言った。

「ガキ捜してんだろ? なんでウチに乗り込んでこねーの?」

 もっともである。追っていたのは確かなのだが、事件の本質は別の所にあると、捜査方針が変わったのだ。飽くまでも宗助が持っていた写しは、付属品でしかないのであった。

「旦那、話しても良いですが……ちィと手を貸してくれやせんか?」

「金は貸してくれねーつうのに、手貸せってか? 随分と虫の良い話だなオイ」

 沖田は違いねえと笑うも、ついて来いと銀時を誘った。正直、戦力も手も足りないのは確かである。今相手しているのは、黒龍と名乗るシンジケートだ。使えるものがあるなら昔の鬼でも使えと、それくらいの気構えであった。

「事件のあらましはこうでィ。吉原で売れなくなった女達が次々《大江戸木材》に落籍されて行った。正直、売れなくなったとは言え、女達にも借金がある。その身請け金は相当の額でさァ」

 沖田は歩きながら淡々と事件の内容について話した。

 ある時、一人の遊女が客を取ったあと変死した。そこから事件は始まったのだと。司法解剖の結果、江戸で禁止されている薬物が検出された。その薬物は客から買ったものだと判明したが、その客を捕らえることが出来なかった。何か糸はないかと吉原を捜査していると――――そこで大江戸木材の話を知ることとなったのだ。大江戸木材について調べてみると、どうも業務実態がほとんど存在しない。その癖どこからか資金が湧いてくる。明らかに怪しいと山崎が大江戸木材の事務所を偵察していると、腕に龍の彫りの入った男たちが出入りしている事に気が付いた。つまり大江戸木材は黒龍というシンジケートのもう一つの顔であったのだ。

 そこまで聞いて銀時は口を挟んだ。

「黒龍か、いつか聞いたことがあるな。黒龍の彫りを見たら生きてられねぇ……なんつう話をな」

「そんなもんじぇねェ。あいつらは……黒龍はただの人身売買組織だ。女をヤク漬けにして正常な判断力を奪うと、埠頭にある旧木材置き場からどっかの星に売り飛ばしてるらしい。生きた玩具としてな」

 沖田のなんてことない表情はそこで崩れると、白い歯を零して笑った。

「女をクスリでしか跪かせられねェ連中なんてのは、大したことねえや」

 そして、何よりもそんな連中が虫酸が走る程に嫌いであった。しかし、なかなかにすばしっこく、沖田は黒光りしたそいつらを叩くには、スリッパも良いが丸めた新聞紙も必要であると考えていたのだ。

「俺たちは正面から黒龍を追うことになるが、旦那には裏から黒龍を叩いてもらいてえ」

 銀時はその言葉に足を止めると、親指を立てて何かを指した。

「パフェくらい奢れよ、話はそれからだ」

 沖田は一つ返事で目の前のファミリーレストランへ入ると、宗助について知っている事を話すのだった。