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ADULT/銀神

 

「銀ちゃん! 約束破るアルカ? 破ったら針千本って……さぁ、好きなだけ飲むアル!」

 

 神楽は小さな針から大きな針まで、どこから掻き集めて来たのか、大量の針を座卓の上に置くと、銀時に詰め寄った。

 

「待てよ、神楽。いや、神楽ちゃん? ちょっと、何言ってるか銀さんわかんねーから、病院に行って……」

 

 神楽はそう言ってこの場から逃げ出そうとした銀時の首根っこを捕まえると、無理やりに居間のソファーへ座らせた。

 そして、神楽は銀時の胸ぐらを掴み、ソファーに片脚をかけると、針を一本手に取った。

 

「2年前の誕生日、約束したダロ? 私が16歳になったら大人として扱うって」

 

 銀時は汗をダラダラと掻きながら、顔の前で両手を振った。

 

「いや! ちょっと待てって! 言った? 俺、そんな約束したッ!? それ、本当に俺だったか? べ、別の男じゃね?」

 

 神楽は銀時を冷めた表情で見下ろすと、手に持つ針をゆっくりと銀時に近付けた。

 

「ウソついたらあ、針千本のーます!」

「ぎゃ、ぎゃあああ! 神楽ァ! ストップ! ストーップ!」

 

 神楽は銀時の唇ギリギリで針を持つ手を止めると、ポイッと後ろに放り投げた。

 

「じゃあ、やってくれるアルカ?」

 

 銀時は頭を抱えて項垂れると、血走った目で頷いたのだった。

 

 

 

 あれだけあった針山は、コマの外にでも追い出したのか、はたまた画面の外へと投げ捨てとのか、一瞬にして消え去った。

 神楽は銀時の隣に座ると、どこか少し照れ臭そうに、だが、嬉しそうに正座をしていた。

 

「準備、出来たアルヨ」

「んっ」

 

 銀時は短く返事をすると、疲れ切った表情で隣の神楽を見た。

 赤い頬と伏せられた長いまつ毛。目を閉じていても大きいと分かる瞳に、艶っぽく映る桜色の唇。実に女らしい。

 銀時は、確かにもうガキだ何だと、子供扱い出来るものじゃないと思っていた。

何よりそう思わせるのは、腹が立つほど豊かに育った胸と、正座をしているせいで、短い丈のチャイナドレスからはみ出た腿の肉付きだった。

 見た目だけなら、ただの女。それは、もう認めざるを得なかった。

 銀時は神楽との距離を更に詰めると、ゆっくりと自分の唇を赤く染まる頬へつけた。

 

「ほら、約束通りしてやったからな。もう、俺は知らねぇ」

 

 そう言ってどこかへ行こうとした銀時を、神楽はすかさず捕まえた。

 

「誰が頬っぺたって言ったアルカ? それなら赤ン坊と変わらんアル」

 

 神楽は再び目を閉じると、更に頬を赤く染めてジッと何かを待っていた。

 銀時はそんな神楽を何とも言えない表情で見下ろすと、薄っすら汗を滲ませた。

 

「つーか、約束なんてしたか?」

 

 銀時はそう言うと腰を屈め、神楽の僅かに見えている額に口づけをした。

 だが、神楽の開かれた青い瞳は、銀時を上目遣いで見つめると、悲しそうに揺れていた。

 

「私、嘘つかないヨ。銀ちゃんと約束したモン。16歳になったら、大人として扱うって……だから、ここにキスしてヨ」

 

 神楽はそう言うと、自分の唇を人差し指で触った。

 銀時は何を馬鹿な事をと思っていたが、神楽の冗談ではない真剣な瞳に、頭を激しく掻きむしった。

 

 何故神楽は、自分にキスを求めるのか。銀時は考えてみるも、つまらない理由しか思い浮かばなかった。

"大人として認めてもらいたい"

 神楽のそんな強い思いだけが伝わって来る。キスに対する特別な感情などまるで皆無だ。

 銀時はどこで育て方を間違えたのかと、自分を責めるのだった。

 

「そんなに大人として扱われてぇなら、バイクの免許でも取れば良いだろ?」

「じゃあ、お金ちょうだいヨ」

 

 銀時は納得すると、これが何よりもの理由だと確信したのだった。

 キスなら金が掛からない。だが、それだけの理由で、こちらもキスをしていいものか悩んでいた。それに、大人だからと言って、皆が必ず唇にキスをするとも限らなかった。

 

「銀ちゃん、まだアルカ?」

 

 目を瞑って銀時を待っている神楽は、腿の上に置いた手をギュッと握り締めた。

 銀時はそれを見ると、心臓がチクリと痛んだ。そして、体がほのかに暖かくなるのを感じた。

 

「お前、緊張してんじゃねぇか。自分から誘って来た癖して」

「べ、別にっ。緊張なんてしてねーアル。ただ、ちょっと……心臓のドキドキ止まらないアル」

 

 湯気が出そうな程に真っ赤に染まっている神楽に、銀時はもう何も余計な事は言わないでおこうと、見えている唇にそっとキスをした。

 

 柔らかく温かい唇は僅かに震えていて、銀時はそんな神楽が堪らなく可愛かった。今までも神楽は、可愛くてずっと側に置いておきたい存在ではあったが、今の可愛い気持ちはそれとは異なった。一人の女として、自分の体で愛してやりたいのだ。

 銀時は煩くなった自分の心臓に慌てて神楽から離れると、神楽の自分を見つめる表情に唾をごくりと飲み込んだ。

 

 溶けてしまいそうな程に潤む瞳と、上気した頬。口元はだらしなく開かれていて、呼吸が荒い。

 銀時はこんな表情など、今まで一度も見た事がなかった。軽く戸惑いはしたものの、女ならばこんな顔だってすると受け止めた。

 

「銀ちゃん、もう一回」

 

 神楽は銀時にキスをせがんだ。

 銀時も、もう拒みはしなかった。

 神楽の細い両肩に手を置いた銀時は、神楽の唇を再度塞ぐと、今度はゆっくりと舌を差し込んだ。そして、 神楽の瑞々しい唇が割れてしまうと、中で同じように熱を持て余している真っ赤な舌と触れ合った。それが余りにも愛しくて、銀時が軽く吸い出してしまうと、神楽は初めての刺激に小さな声を上げた。

 その声は随分と色っぽく、銀時は薄っすら瞳を開けて神楽を見ると、まるで何かを感じているような切ない表情がそこにはあった。

 舌先がくすぐったく擦れて、神楽が甘い声を上げる。

 ヤバい。銀時は自制がきかなくなりそうな自分に気が付いた。

 もう、銀時は我慢ならないと、どこを目指す宛てもなく、神楽をソファーに押し倒した。

 唇はまだ重ねたまま、銀時は器用に着物の帯を解いて脱ぎ捨てると、神楽の胸を右手で乱暴に揉んだ。

 しかし、次の瞬間には、銀時の体は宙を舞い、いつの間にか現われた針山に頭から突っ込んだのだった。

 

「銀ちゃんッ! そういうのは、18歳の誕生日迎えてからダロ! 何勘違いしてるアルカ!」

 

 血塗れになった銀時は理不尽だと思いながらも、ごもっともであると涙を流したのだった。

 

2013/11/11

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