※2年後設定/銀神/桂神/土神/沖+神
あと三十分で十時を迎える頃。万事屋の居間では銀時が窓際の椅子に座り漫画を読んでいた。今出て行けば確実に怪しまれる。神楽はどうしようかと思いながらソファーの上で膝を抱えていた。
コンビニに行ってくると言おうか。それとも素直に出かけてくると行き先をぼかして言うか。そんな時、銀時の顔が上がり目が合ってしまった。
「なにソワソワしてんだよ。う◯こ? 早くトイレ行って来いって」
神楽は手元にあったテレビのリモコンを投げつけると、ソファーから立ち上がった。
「デリカシーないアルカ!」
この勢いを利用しよう。神楽は閃いたのだった。
そのままわざと大きな足音を立てると物置に入って、以前土方をいじめた時と同じツーピースのチャイナドレスを身につけた。そして、ニーハイソックスを穿くと神楽は長い髪を揺らして万事屋を飛び出した。
「これで成功ネ!」
なんて悪い娘だと神楽は舌を出した。しかし、それは冗談ではなく本当にそうであった。銀時を欺き、土方の元へ蹴りこみに行くのだ。
神楽は真選組屯所へ軽い足取りで向かった。
着けば裏口から回れと門番に言われ、神楽は静かに裏口から教えられた土方の私室を目指した。着けばまたおっ勃てた土方を足で慰めるのだ。その行為は非常に下品であり、軽い足取りで向かうものではないと廊下を静かに落ち着いて歩いた。
土方の部屋の前へつくと静かに襖を叩き、返事を待った。
「入れ」
その声に神楽は深呼吸をすると、廊下を見回してから素早く室内へと滑り込んだ。
そこには寝間着の浴衣に身を包んだ土方で、まるで待っていたと言わんばかりに布団の上で煙草を吸っていた。それを見て神楽はようやく危険であると土方を認識した。当たり前であるが土方も男であり、ただ蹴られるだけで終わるとは思えなかった。
「ほら、お前の前かけ持ってきてやったアル」
神楽は胡座をかいている土方の頭にスカーフを置くと、こちらを見上げたせいでそれは布団へと落ちた。
「万事屋には何も言われなかったのか?」
銀時が何かを言う前に出てきたのだ。言いたいことはあったのかもしれないが、お前がそれを聞くのかと神楽は苛立った。
「いつもお前は私をイライラさせるアルナ。沖田カヨ」
《沖田》と言う言葉にあからさまに眉を動かした土方に神楽はおかしいと笑うと、鋭い目の望むまま右足で踏みつけた。
「あれ? もう硬いネ?」
土方は手元の灰皿で煙草を消すと浴衣を開いた。下着が露わになる。神楽は何も言われなくとも従順にも足裏を擦りつけてやる。土方は後手につくと、それを味わうように目を閉じた。
下着の先走った汁が滲み出して、見つけた神楽は下着を足で器用に脱がせてやると既に苦しそうな膨らみを開放してやった。そしてつま先で亀頭をくすぐるように汁を塗りつければ、土方の顔にも興奮の色が見えた。
「お前の体どうなってるアルカ? 蹴られて、踏まれて興奮するなんて頭おかしいネ」
「なら、テメェはどうなんだ?」
自分はどうか。正直、嫌な気はしない。それに――――――
そんなことを考えていると土方の手がスリットから伸びている神楽の脚に絡みつく。太ももの裏に回り、スリットの更に奥へと侵入していく。そして引き寄せられて、脚へと唇が落ちる。そして赤い舌が這わされた。
「テメェでなきゃイケねェ体になった。どうしてくれんだ」
そんな事を言われても責任を負う気はない。もともとは《神楽の玩具になる》ことが慰謝料代わりなのだ。
「そんなん知らんアル。私に何か求めるなんて図々しいにも程があんダロ!」
そう言って神楽が土方を蹴り飛ばすも、堪える様子はない。寧ろもっとしてくれと悦んでいるように見える。それには背筋が寒くなった。
「お前はまんま犬ネ。なんか可哀相アルナ」
「なら、少しくらい同情しろ」
土方はフゥフゥと言いながら神楽の脚にすがりつく。きっともうそんな事では満足出来ないはずなのだ。しかし、神楽に餌を与える気はない。ニーハイソックス越しにただ擦るだけだ。
「同情が何になるアルカ」
神楽は銀時を思い浮かべた。もしかすると銀時は同情で抱いていたのだろうかと。神楽の銀時に対する想いはとっくの昔にバレていて、その上で『俺の心はやれないから』と体だけを与えてくれていたのだろうかと。
目の前で自分を欲しがっている男に意識を戻すと、神楽はニタリと笑みを浮かべた。
「くれてやっても良いけど、お前に私を愛せるアルカ?」
体だけを愛するなら誰にでも出来るのだ。この心ごと受け取ってくれる相手でなければ、神楽はもう誰にも体を許したくないと考えていた。
「ああ? 愛? ンなもん……俺は……」
声が震え、最後には消えた。もう限界は近いのだろう。神楽は足を離すともう終わりだと意地悪く言った。
「じゃあナ、ここまで付き合ってやったアル。それだけでもありがたく思えヨ」
土方はキツく閉じていた目を開けると浴衣を直し、帰ろうとする神楽の二の腕を掴んだ。
「待て」
「終わりだって聞こえなかったアルカ?」
「待てつってんだろ!」
土方の大声に神楽は思わず足を止めると振り向いた。
「……私じゃなきゃダメな理由でもあるアルカ?」
きっと無いはずだ。神楽はそれを知っている。土方も銀時同様に神楽の体…………足だけが欲しいのだ。しかし、銀時が他でも満足しようとしているのに対して土方は神楽のモノしか欲しがっていない。そんなふうに見えた。
「いいや、無え」
しかし、土方は否定した。それを悔しくも悲しくもない神楽ではあるが、土方の言葉が嘘なのではないかと疑っていた。見える瞳は神楽だけを望んでいることくらい、それくらいならばもう分かる。
「じゃあ、ここで終わりアル」
そう言って神楽は土方を蹴ると畳の上によろけて座り込んだ。崩れた足の間を見れば…………やはりそれは興奮して起き上がっている。土方の顔を見れば頬を染め、悔しさの滲むものであった。もう分かっているのだろう。他の誰も求められないことを。
「どの道もう元には戻れねェんだ。テメェは俺を壊した。なら、もういっそのこと殺してくれ」
神楽は何も言わずに見えている土方の性器を足でつついた。そして、片足だけで擦ると、冷めた眼差しを土方に注いだ。汚物でも見るように温度の低い瞳で。
「神楽様の足に踏まれて死ねるなんて、お前も贅沢な男アルナ」
土方は快感に酔いしれるように目を伏せ、ただ息を荒らげている。もう神楽の言葉など耳に入っていないようだ。
「また硬くして…………本当にお前、変態ネ」
その罵りすらも今の土方には褒美のようである。それが余計に神楽を腹立たせ、軽く陰部を踏みつけた。
「オラオラ! なんか言ってみろヨ!」
すると土方の鋭い目が開かれ、神楽を見た。
「随分と発情して見えるが、テメェはどうなんだ? チャイナ娘」
神楽はハッとした。熱くなる体と疼く胸。高鳴る鼓動は隠すことが出来なかった。だが、体を繋げはしない。もう愛の無い繋がりなど必要ないのだ。
「煽ってるつもりかもしれないけど、そういうの興味ないネ。残念だったアルな、フクチョ」
神楽はキュッと強めに擦り上げると、土方の欲の塊が大きく脈打った。そして、先っぽから神楽のニーハイソックス目掛けて体液が放出される。汚れてしまった靴下。それを神楽は脱ぎ捨てると、まだ出きっていない白濁液を絞り出そうと、生足で挟み込んだ。
「やっ、やめろ!」
「ほら、まだ残ってるダロ。全部出せよ」
歯を食いしばる土方を神楽はおもしろいと思い眺めていた。嫌なのに善いと啼く。真選組の副長が赤子のようなのだ。神楽は出きったそれを土方の浴衣で拭うと、持っているニーハイソックスを頭に乗せてやった。
「それ、お前にやるアル。好きに使えよ。ついでにこっちもやるヨ」
そう言って神楽はもう片方の靴下も脱ぐと、土方の頭に乗せた。そして、微笑む。
「もしかして、これも欲しかったアルカ?」
神楽はスリットから脚を出し、スカートを捲ると下着を見せた。
「ふざけろ、良いからもう帰れ」
「何それ。感謝くらいしろヨ。遊んでやったんだから!」
しかし、土方は何も言わず煙草に手を伸ばした。白い煙が部屋に漂う。
神楽は腹が立つと部屋から出て廊下を歩いた。もう二度と来てやるか。そう思って部屋の角を曲がった時だった。誰かに腕を捕まれ引っ張られた。
「謝っても許さんアル!」
土方だと思いそう言った神楽だったが、自分の腕を掴んだ男を見れば沖田総悟であった。睨みつける敵意を剥き出しの目。何事かと神楽は驚いた。
「なんだヨ。離せヨ! ゴルァ!」
しかし、沖田は痛いくらいに強く握った手を離さない。それには神楽もいつもと様子が違うことを感じた。
「…………何アルカ?」
まだ隊服姿と言うことは夜勤中なのだろうか。その沖田が一体何の用なのか。何も言わずにいる沖田に不気味さを感じた。
「てめー、どこ行ってた。旦那が探し回ってんの知らねえのか?」
その言葉に神楽は心臓を飛び上がらせた。
「銀ちゃんが? なんで?」
「そら、俺の方が聞きてぇ。なんでテメーはここに居る?」
先ほどまで土方の性器を足で擦っていたから。なんて事は答えられない。だが、こちらを睨む沖田の目は言っていた。
『俺は見たんだぜ、一部始終をな』と。
神楽は沖田から視線を逸らすと腕を振り払った。
「うっせーナ。お前に関係ねえダロ」
しかし、沖田は神楽を離さない。
「旦那の女じゃねーのか? まさかとは思うが…………」
皆まで言うなと神楽は沖田の言葉を遮った。
「違う、私は誰のものでもないネ」
するとそれまで怖い顔をしていた沖田が一瞬目を細めた。
「はァ? じゃあ、旦那とは……」
もう神楽はうんざりであった。どこへ行っても銀時の女だと勘違いされている。確かに体は許していたが、それも今では過去の話で、更に言えば心など通わせていなかったのだ。
「銀ちゃんが私を探す理由って何ネ? 心配だから? きっとそうじゃないアル。絶対にそうじゃないネ! なんで探すんダヨッ!」
どうして探すなんて事をするのか。神楽の胸は張り裂けそうであった。まるで愛されているかのような錯覚に陥るのだ。またそうやって気を持たせるような事をする。好きでもないのに気にかけたり、心配したりしないで欲しい。
神楽はその場にしゃがみ込んだ。
「泣いてんのか?」
「泣いてねーアル」
遂に沖田の腕が離れると、神楽は両手で顔を覆った。
どうして銀時は心の中から出て行ってくれようとしないのか。どうして心配して探したりするのか。今までしたことがなかった癖に。今になって手を伸ばすなどズルいのだ。
「オイ、ここで泣くな」
さすがに神楽が泣いている事に焦っているのか、沖田は対応できずにいた。
なんとも言えない空気に包まれる。神楽もそれには気付いているが、顔を上げるタイミングが掴めないのだ。どうすれば良いのか何も分からない。この後、銀時と会って何を言えば良いのかも、自分の気持ちの有り様も全てが分からない。
「俺は旦那に連絡してくる。テメーはここでブヒブヒ鳴いてろ」
そう言うと沖田は離れていった。それが神楽に対する気遣いなのか、それとも本当に銀時を呼びに行ったのかは定かではないが、神楽は少し安心していた。
そこでようやく顔を上げると、どれくらいかぶりに泣いただろうかと思っていた。銀時のことで辛くはあったが、一度も涙を流さなかった。昔はこうではなかったのに。いつからか泣くことを我慢し、気持ちを抑えこみ、素直さが上手く出せなくなっていた。沖田の前で涙を零すなどしたくなかったが…………いや、沖田の前だから泣けたのだとなんとなく感じた。変わらないでいられるのだ。昔のように男も女も関係なく隣に立っていられるのだ。
「…………嫌な感じネ」
神楽は沖田が戻って来ない内に屯所から離れると、乗り気ではないが万事屋へと戻るのだった。
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