※土方×神楽さん(銀神、新神)

 

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「プール行きたいアル」

 

昼間っからパンツだけを身につけ、ソファーで寝ている銀時に向かって神楽は言った。

壁に掛かるジャスタウェイの室温計を見れば、30度を超えていて、いくら扇風機を回しているとは言え、暑さで溶けた脳みそが耳から垂れ流れてきそうだった。

 

神楽は裸同然で干からびている銀時を、ソファー脇で見下ろしていた。

その目は羨ましいのと、腹立たしいのと、プールに行きたいのとを混ぜたようなよく分からないものだった。

そんな神楽に銀時は喋るのも鬱陶しいのか、首を軽く左右に振った。

 

「なんでヨ!じゃあ、500円……620円頂戴アル!」

 

プールに連れて行ってくれない銀時に神楽は手のひらを突き出すと、お金をくれとせがんだ。

 

「なんで120円プラスされてんだよ!てめーに渡す金があんなら、エアコンの効いたパチンコでも行きてぇよ。つか家の風呂で水でも浴びとけ」

 

神楽はプクッと頬を膨らまし、目を三角にすると寝転んでいる銀時の腹の上に飛び乗った。

銀時の顔が歪む。

 

「私もさすがに学習したネ!もう、暴力に訴えてもダメだって事くらい分かってるアル。銀ちゃん?」

 

神楽がニッコリ微笑むと、銀時は誰かの顔を思い出し、青い顔をした。

 

「覚悟は良いアルカ?」

「……暴力には訴えねぇんじゃねーの?」

「ニヒヒヒヒ」

 

神楽は両手の指を動かすと、銀時の脇腹に両腕を突っ込んだ。

だが、銀時は身動き一つせずに、自分の脇腹をくすぐる神楽を見ていた。

――あれ?

神楽は思ってた反応と違う銀時に、両手の動きを止めたのだった。

 

「な、なんでヨ!もしかして、不感症アルカ!?」

「おいおいおい……なんて事言ってくれんだよ。まだ現役だバカヤロー」

 

銀時は自分の腹の上で驚愕の表情をしている神楽を、面倒臭そうに見上げた。

 

「このクソ暑いのにベタベタと引っ付いてきやがって……なぁ、お前さ、なんで俺の脇腹が弱点だと思ったワケ?」

「え?なんでって」

「それってお前の弱点じゃね?」

 

銀時は神楽の両脇に向かって腕を伸ばすと、チャイナドレスの上からくすぐった。

神楽は咄嗟の事に体が動かず、銀時の両手にその体を弄ばれることとなった。

 

「や、やめて!あひゃひゃっ、ひゃ!」

 

神楽は銀時の腹の上で体を跳ねさせると、息を弾ませ顔を赤くした。

 

「ぎんさーん、かぐらちゃーん、ただい……まっ!?」

 

ドサリと音が聞こえた。

神楽が音のした方を見れば、スーパーの買い出しを終えた新八が、居間の戸を開け青い顔をして立っていた。

 

「し、しんっ、ぱっ……」

 

息も絶え絶えに自分の名を呼ぶ神楽の姿に、新八は青かった顔を忙しなく赤くさせた。

 

「……じゃなくて、なにしてんだよッッ!あんたら、このクソ暑い中ベタベタベタと!」

「新八!てめぇ、おせーんだよ!アイス溶けてんじゃねぇだろーな!」

 

新八は先ほどスーパーで買ってきたアイスを取り出すと、座卓の上にドンと置いたのだった。

それを見てようやく体を離した銀時と神楽は、競うように座卓の上のアイスに手を伸ばした。

 

「私、ジャリジャリくんアル!」

「俺、アズキ棒!」

「被らないんだから、そんなに慌てなくても」

 

新八は残っていたスペシャルカップのバニラに手を伸ばすと、スーパーの袋から更に何かを取り出した。

 

「見てくださいよ!今度、宇宙最大級の屋内プール施設が江戸に出来るみたいですよ」

 

新八がそう言って取り出したのは一枚のチラシだった。

 

「ご、ゆ、う、た、い、け、ん?」

 

神楽はチラシに書かれている見慣れない漢字を読み上げると、首を傾げて新八を見た。

 

「どうもこのチラシを持って行けば、破格の値段で施設のパスポートが買えるみたいだよ」

「まじアルカ!いくらネ?10円アルカ?」

 

神楽はすっかり食べ終えたアイスの棒を噛み締めながら、プールの優待券に目を輝かせていた。

 

「馬鹿だね。10円で入れるプールなんてロクなもんじゃねーって。安全管理も衛生管理もマトモじゃねぇだろ。なんの病気うつされるか分かったもんじゃねーし」

 

銀時は新八からチラシを奪うと、優待券をマジマジと眺めた。

それを銀時の隣にいた神楽は、銀時の顔を押し退けて見ると、ワァっと声を上げた。

 

「更にキャンペーンで、カップルで行くと無料ネ!」

「……うちには関係ねぇだろ」

「……そ、そうですね」

 

神楽は確かにとガッカリすると、噛んでいたアイスの棒をプッと吐き出した。

 

「優待券って言う癖に、800円も取られるアル。カップルなら無料って……世の中不公平アル」

 

神楽は先ほどまで銀時が寝転んでいたソファーに顔を埋めると、足をバタバタと動かした。

 

「あー、プール行きたいアル!なんで先月も今月も仕事全然ないネ!私が海水浴出来ないの分かってて、なんで銀ちゃんはプール代くれないネ!くそ天パ!」

 

神楽のその嘆きに銀時はこめかみに青筋を浮かべると、手にしているチラシを神楽の後頭部に押し付けた。

 

「だったらカレシと行けばいいんじゃねーの?あ、ごめん。カレシいなかったね、ぷぷぷ」

 

神楽はその言葉にムクッと顔を上げると、頭の上のチラシを手に取った。

そして、ソファーの上に体を起こすと、新八を睨み付けた。

 

「新八!カレシにしてやるアル。ありがたく思えヨ!」

「……別にいいけど、なんか腹立つな」

 

神楽はこれで無料でプールに行けるとほくそ笑むと、急に張り切って立ち上がった。

 

「そう言えば、水着どこだったアルカ?一昨年、買ったやつ押入れに入ったままネ?」

「え、お前水着なんて持ってたっけ?あの、ズンボラ星人のやつか?」

「違いますよ!確か、白のスクール水着ですよ!」

 

新八はありもしない記憶を妄想とごちゃ混ぜに喋ると、銀時に白い目で見られた。

 

「てめぇの気持ち悪い願望を押し付けんな!」

 

そうやって銀時と新八が神楽の水着について話している間、当の本人はと言うと、物置の押入れの中を一生懸命に探していた。

 

「確かこの箱にしまったはずネ……あった!真っ赤なビキニッ」

 

神楽は押入れの奥から段ボール箱を取り出すと、その中にあった目が覚めるような鮮やかな色の水着を手にとった。

それは文字通りの鮮やかな赤色で、そしてデザインはとてもシンプルなものだった。

上半身に身に付ける方は、首の後ろと背中の二箇所を紐で結ぶ形になっており、下半身に身に付ける方も、これまた腰の両サイドの二箇所を紐で結ぶものだった。

ワンポイントとして、白いリボンが胸の中心についていた。

 

「去年着た時はサイズが丁度だったネ。ってことは、今年は……?」

 

神楽は自分の両胸を手で鷲塚んだ。

ふくよかな胸。

神楽の体は目まぐるしく、日々オトナの女性へと成長していた。

――もしかして、サイズが?

神楽は焦った。

仮に水着のサイズが合わなかったとしたら?

貧乏なことはよくわかっている。

と言うことは、新しい水着など絶対に買ってもらえるハズがないのだ。

 

「水着なかったらプール行けないアル!」

 

神楽は着ている服を全て脱ぎ捨て、下着も全部取ってしまうと、真っ赤なビキニを身につけた。

下半身は相変わらず細く長い脚と白いくびれた腰で、水着も窮屈そうではなかった。

しかし、問題は上半身であった。

思ったよりも、成長して膨らんだ胸が“Sサイズ”の水着目一杯に詰め込まれ、去年まではなかった“谷間”を作り出していた。

ブカブカの水着を着ることに比べれば、なんてことはないのだが、いくらスタイルが良くなったとは言え、これを人前で着ることには多少勇気がいた。

――なんか、ちょっと恥ずかしい。

チャイナドレスとは比べものにならない露出度に、水着と言えども神楽は顔をしかめた。

しかし、思い出してみると、さっちゃんもツッキーも姉御……は違うが、みんなこんな感じだったことを神楽は思い出した。

プールに行けば、同じような人がごまんといる。

今は家で着ているから、どことなく恥ずかしさが込み上げるが、プールであれば何もおかしい事はない。

神楽はそうアルと1人納得すると、居間にいる“アイツラ”に見せてやろうと、物置の戸を勢いよく開けた。

“アイツラ”にこの水着姿を見せられないなら、他人が居るプールになんて絶対に行けないだろうと、神楽は予行練習のつもりで、居間にいる銀時と新八の元へ向かった。

 

 

 

「そう言えば、神楽どこ行ったよ?」

「あれ?トイレじゃないんですか?うーん、何か忘れてるような」

 

すっかり神楽の水着のことを忘れている銀時と新八は、いつまでも居間に戻らない神楽を気にしていた。

すると、ガタっと居間と廊下を仕切る戸が音を立てた。

その音の方を見た銀時と新八は、戸から顔だけを覗かせる神楽を不思議そうに見た。

 

「神楽ちゃん、何してるの?」

 

神楽はその言葉に下を向くと、目を泳がせた。

 

「ちょ、ちょっと、水着きてみただけアル」

「あ!見つかったんだ。やっぱり白いスクール水着?」

 

神楽はブンブン頭を振ると、ゆっくりと銀時と新八の前に姿を表した。

 

「……ヘン、じゃねーアルカ?なんか、ちょっとおかしくネ?」

 

神楽は下を向いたまま、銀時と新八の前に立ちつくすと、2人から何か言葉を掛けられるのを待った。

しかし、いくら待っても声は掛けられず、神楽は思い切って赤い顔を上げた。

すると、銀時は鼻をほじりながら漫画雑誌を読んでおり、新八はお茶を飲みながら眼鏡を拭いていた。

“興味ない”

そんな言葉が聞こえてくるかのようだった。

神楽はそんな2人にホッとしたような、なんかちょっとムカつくような複雑な気持ちになった。

とりあえず、何か言わせたいと、神楽は座卓の上に置いてあったテレビのリモコンを銀時にぶん投げた。

 

「いてッ!何だよ!お前、人の優雅な読書タイムを邪魔して許されると思ってんのか!?つか、何なの?その水着で何すんの?人前でそんなの着るとか、もう水着なんてなくても一緒だろッ!」

 

銀時は漫画雑誌からほぼ視線を逸らさずにそう言うと、テレビのリモコンを新八にぶん投げた。

すると、新八の湯飲みにぶつかり零れたお茶が眼鏡に掛かった。

 

「何するんですかッ!八つ当たりとか大人気ないですよ!プールに自分だけ行けないからって、僕に当たらないでください」

「ハァァア?誰がプールに行きたいなんて言ったよ?あんなクソガキの巣窟、頼まれたって行かねーよ」

 

銀時はソファーから立ち上がり、読んでいた漫画雑誌を自分の机に置くと、シャワーを浴びると言い居間から出た。

そして、戸の辺りで突っ立ったままの神楽の横を通り過ぎる時に、銀時は頭を掻きながら小さな声で言った。

 

「……まぁ、似合わねぇってことは無いんじゃねーの。赤色だし」

 

銀時はそう言うと、風呂場へと消えて行った。

その言葉に神楽は下唇を噛みしめ、頬が緩みそうになった。

――素直じゃねーアルナ。

途端に自信に満ちた神楽は背筋を伸ばして胸を張ると、新八の前に立った。

そして、イタズラな笑みを浮かべた。

 

「家に帰ったら手ェ洗えヨ!」

「な、何言ってんだよ!ねーよッ!」

 

 

 

遂にオープンを迎えた宇宙最大級の屋内プール施設は、宇宙中からの客で盛大に賑わっていた。

神楽と新八は優待券を握りしめながら、チケット売り場に並んでいた。

“カップル専用”

法被を着たスタッフがそんなプラカードを掲げていた。

 

「ねぇ、神楽ちゃん……見てよ」

 

新八は列の先頭を指差すと、曇った眼鏡を拭きもせずに言った。

 

「あ、あれって、その、あの」

 

神楽は新八の指の先を見た。

その先には、一組のカップルが大衆の前にも関わらず、熱いキスを交わしていた。

 

「うげー、昼間っから何アルカ?」

「だから、多分その……」

 

どうもさっきから様子のおかしい新八に神楽は訝しい顔をした。

 

「言いたい事があるなら、はっきり言うアル」

 

新八は汗をダラダラ掻きながら、次々にキスやら抱擁やらをしては消えて行くカップルを見ていた。

 

「多分“ふるい”だよ。嘘カップルを無料で入れない為に、本当にカップルかどうかを確かめてるんだよ」

「あ、本当アル!前に書いてるネ。2人の愛の証を提示いただければ無料って」

 

新八は口をパクパク動かすと神楽にどうするのかと尋ねているようだった。

 

「愛の証……」

 

神楽はうーんと唸ると、腕を組んで考えた。

キスもせずに、抱擁もせずに、愛を証明する方法。

何かないかと考えている内に列はどんどんと進み、いよいよ次が神楽達の順番となった。

新八を見れば、真っ赤な顔で鼻息も荒く、何を想像してるのかは明らかだった。

しかし、神楽は対象的に涼しい顔をすると、新八に任せとけとウインクをした。

 

「次の方!お2人の愛の証をお願いします」

「うっス!」

 

神楽は一礼をすると、新八に目を瞑るようにと言った。

 

「はひっ!いよいよかッ!」

 

新八は身を強張らせながら神楽に全てを任せようと、言われるがまま目を瞑った。

 

「これでどうアルカ?」

 

神楽は目を瞑った新八を軽々と持ち上げるとお姫様抱っこをした。

それを見たスタッフは驚いた顔をすると、おお!と声を上げた。

 

「こんなに軽々と持ち上げるとは、日頃からお姫様だっこをしてないと無理でしょうな!はい、どうぞお2人さん、行ってらっしゃい」

 

神楽はいつまでも固まっている新八を抱えたまま、施設内へと入って行った。

 

 

 

あの後、神楽と別れて更衣室へ入った新八は、水着に着替え終わると先にプールへと向かった。

 

「確かこの椰子の木で待ち合わせって言ってたよね」

 

すると、目の前を通り過ぎた男の2人組が、何やら興奮して話をしていた。

 

「今、あっちで見た赤いビキニの子、モデルかな?」

「かなり可愛かったよな」

 

その話の内容に新八はもしやと、神楽を思い浮かべた。

スタイルの良さは昨日の水着姿を見れば一目瞭然だ。

顔だって自分の姉に負けず劣らず美人だ。

新八は神楽が遅いことに、もしかするとナンパでもされてるんじゃないかと心配した。

しかし、そんな事はなく、神楽は水着に着替え終わったものの、まだ更衣室に居たのだった。

――やっぱり、ちょっと小さいアル!

だが、プールは目の前だ。

ここまで来てプールに入らず帰るなんてもったい無い。

神楽は昨日の銀時の言葉を思い出すと、深呼吸をして更衣室から足を踏み出した。

 

神楽は更衣室を出ると、椰子の木の下にいる新八に声を掛けた。

 

「神楽ちゃん!」

「……ニヤニヤしてなにアルカ?ほら、あっちのウォータースライダー行くアル!」

 

神楽はニッコリ笑うと新八の手を引いて、施設の奥にある2つの大きなウォータースライダーを目指した。

 

「さすがは宇宙最大級だね。行列もなんて言うか……宇宙まで伸びそうな勢いだし」

 

最後尾のプラカードを持ったスタッフを見れば、そこには驚愕の“8時間待ち”

の文字。

神楽も新八も今回は諦めるかと、流れるプールに行こうとした。

 

「あれ?もう一つのウォータースライダー、ガラ空きアル!」

「本当だ。なんでだろ?もしかして、こっちの方が少しスリルがあるのかな?」

 

外から見える部分は至って普通で、特別なものは見えなかった。

 

「もしかして、中は針山アルカ?」

「そんなの遊具にしないでしょう!」

 

神楽も新八も不思議に思ったが、一度ガラ空きのウォータースライダーで遊んでみようと長い階段を駆け上がった。

そして、2人はそこで思わぬ事実を知るのだった。

 

「万事屋さん?」

 

行き着いた先、僅かな列の最後尾に居たのは……ご近所さんのお花屋さんある、あの“屁怒絽”であった。

神楽の顔は引きつり、新八の眼鏡は魂の叫びを上げた。

辺りに漂う殺伐とした空気、そんじょそこらのレジャー施設では味わう事の出来ないスリル。

こっちのウォータースライダーには何故誰も並ばないのか、それは最後尾が原因のようだった。

 

「ど、どうしよう、新八」

「ひ、引き返す?」

 

怯える2人は屁怒絽の視線に身動きが取れないでいた。

 

「甥っ子がどうしてもってせがむので、弟に代わって私が連れて来たんですよ。ウォータースライダーなんて初めてで、ちょっと緊張しますね。あっ、そうだ。万事屋さん達、先にどうぞ」

 

屁怒絽がそう話すも、神楽と新八の耳には、まともに入っていなかった。

――私達を溺れさせて食べるつもりアル!

神楽は何が何でも屁怒絽より先には行くまいと、その場に踏み止まった。

しかし、いつまでもウォータースライダーの入口でこちらに背中を向けてる屁怒絽に、神楽はあることを思いついた。

――今なら背中を蹴って始末できるネ。

 

「やっぱり勇気が出ませんね。恐いなぁ。誰かに背中を押してもらえると……」

 

神楽は気をためると、勢いをつけて屁怒絽の背中目掛けて蹴りをいれた。

 

「神楽ちゃんんんッ!」

 

慌てる新八、一仕事終えた神楽、そして発射する屁怒絽と甥。

まるで、それは地球を救うヒーローが誕生したような貴重な瞬間だった。

 

「勝ったアル!これで、ウォータースライダーに平和が訪れたアル!」

 

神楽は喜びのあまり、勢い余って頭からウォータースライダーに突っ込んだ。

新八が足を掴もうとしたが既に遅く、神楽はそのまま流されて行った。

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本日、宇宙最大級の屋内プールが江戸にオープンした。

それがどう言う事かと言えば、江戸に宇宙中から人が集まってくる事を意味していた。

その混雑に乗じ、誘拐や痴漢、裏取引等と犯罪が起こる可能性が十分に予見された。

そこで屋内プールの警備にあたることになったのが、江戸を代表する武装集団……警察である真選組であった。

黒い半袖のパーカーに、黒い水着。

それを身につけた男の集団が、プールのあちらこちらで鋭く目を光らせ、何やら無線で連絡を取り合っていた。

 

「こちら美女アリ、どーぞ」

「こちらも美女アリどーぞ」

 

そんな様子を一人眉間にシワを寄せ、厳しい表情で睨みつけてる男がいた。

真選組の副長、土方十四郎であった。

 

「テメェら、何浮かれてやがる!遊びに来てんじゃねェぞ!」

「そうは言ってもな、ただで水着美女を拝めるとあっちゃ、あいつらも仕事に身が入るまい」

 

土方の隣りで真選組の局長である近藤が、ニッコリと呑気そうに笑っていた。

土方はそれに目を瞑って頭を振ると、まるで遠足だなと溜息を吐いた。

 

「松平のとっつぁんも言ってただろ?たまには、息抜きも必要だと。良い機会だ、トシも童心に返ってみたらどうだ?」

 

近藤がそう言って土方の肩に手を置くと、土方はすかさずその近藤の手に手錠を掛けた。

 

「オイ、山崎。どうも局長が童心どころか、赤ん坊にまで戻っちまったらしい。至急、お帰り願え」

「えっ!?あっ、局長!アンタ水着どこやったんですかッ!」

 

いつの間にか全裸だった近藤が、山崎にプール内から摘み出されるの見届けると、土方はパーカーのポケットから煙草を取り出した。

それを口に加えると、ウォータースライダーから伸びる行列を眺めた。

 

「8時間待ちか。どMか?こいつ等。こっちはガラ空きだってのに」

 

そう言って、目の前のガラ空きのウォータースライダーの出口を見た。

すると、大量の水飛沫が上がり、土方は頭からずぶ濡れとなった。

 

「ハァ!?ふざけんなッ!」

 

そう言って顔についた水を拭うと、目の前のプールに浮かぶ恐ろしい緑色の天人に、口に加えていた煙草を落とした。

 

「あっ、アレは前に銭湯で戦闘した……」

 

土方は震える手でまたパーカーのポケットから煙草を取り出すと、今度は直ぐに火をつけようとした。

煙草でも吸って気持ちを落ち着かせよう。

だが、それは背中からの蹴りで妨害されてしまった。

 

「消火準備オーケー」

 

土方は目の前のプールに落っこちると、自分の背中を蹴ったであろう男の名を口にした。

 

「総悟ッ!テメェ!」

 

またしても煙草をダメにした土方は、こめかみに青筋を浮かべた。

そんな土方を、プールサイドで浮き輪片手に涼しい顔で見ているのは、真選組の沖田総悟だった。

腹が立った土方は、腰ほどの水位のプールから上がり、沖田に仕返しをしてやろうと企んだ。

だが、背中の方――ウォータースライダーの出口から、再び大量の水飛沫が上がった。

しかし、今度はプールサイドにいる時とはワケが違い、大きな波が土方を襲う。

全身ずぶ濡れはもちろんのこと、体が一度水中へ引きずりこまれた。

一瞬の出来事だったが、土方の脳裏に先ほどの屁怒絽の姿が浮かんだ。

 

「殺されるッッ」

 

だが、プールの波が落ちつくと、そこにいたのは……土方の体にしがみ付く、神楽の姿だった。

 

神楽は頭からウォータースライダーに突っ込み、そのままプールまで猛スピードで駆け抜けた。

そして、プールに着水するも勢いあまってか、咄嗟に目の前の土方に抱きついたのだった。

 

「プハッ!死ぬかと思ったアル!」

「…………」

 

土方は無言で胸の中の神楽を抱きしめた。とても力強く。

――何アルカ?

突然、背中に回された腕。

神楽は顔を上げると、自分を抱き締める男の顔を見たのだった。

 

「なんで!?離せヨ!ゴルァ」

「……なんでかだと?こっちが聞きてェよ」

 

土方は神楽を抱き締めたまま、キョロキョロと辺りを見渡した。

焦っているような表情と、何かを探る目つき。

間違いない!

神楽は叫んだ。

 

「痴漢アル!助けッ」

 

叫ばれては困ると土方は、背中に回してる手で神楽の後頭部を押さえると、自分の胸に顔を押し付けた。

そのせいで神楽の声はくぐもり、途切れてしまった。

 

「チッ、厄介だ。人は呼ぶな!とりあえず探せッ!」

 

神楽はワケが分からず、しかし土方が理由もなくこんな事をするとも思えず、一体何事なのかと疑問を抱いた。

 

「なァ、何の話アルカ?」

 

そう尋ねた神楽は土方をジッとみつめた。

見えている横顔がどこか赤い。

――恥ずかしいなら離せばいいのに。

なのにこの体を離さない土方に、再度神楽は尋ねた。

 

「だから、何アルカ?」

 

すると、土方はようやく口を開いた。

だが、神楽の顔を見ようともせずに、それはとてもぎこちないものだった。

 

「アレだ。テメェは今……裸だ」

 

神楽は土方のその言葉に恐る恐る下を向いた。

土方の胸に押し付けている神楽の胸には、ある筈のものがなくなっていた。

白いリボンのついた、真っ赤なビキニ。

神楽の視界がグルグル回る。

――どこかで脱げたアルカ?

ウォータースライダーを滑る前までは確かにあった。

と言うことは……

神楽はここでようやく、土方が何故自分の体を抱き締めてるかを理解した。

この体が離れれば、神楽の胸は公衆の面前に晒されることになるのだ。

神楽は不本意ではあったが、水着が見つかるまでは仕方が無いので、土方と抱き合っていようと思った。

 

「何色の水着だ?」

「真っ赤アル」

 

土方と神楽は抱き合いながら必死に水着の行方を追った。

脱げた可能性があるのは、やはり着水時だろう。

そう考えた土方は、さほど広くないプール内を隈なく見た。

 

「見つかったアルカ?」

 

プールサイドの方を見ている神楽は、後ろを振り向けず、土方に水着の捜索を託すしかなかった。

――サイズが合ってなかったから。

神楽は後悔した。

こんなことなら、やはり無理をしてでも新しい水着を買うべきだったと。

 

「オイ、チャイナ。あっちだ!」

 

急に大声を上げた土方に神楽は驚いた。

どうやら水着が見つかったらしい。

土方と神楽はゆっくり向きを変えると、プールの端で浮かんでいる赤い布に向かって進んだ。

しかし、またしても大量の水飛沫が降り掛かった。

そして、スグに大きな波に襲われた2人は、体が離れてしまわないように強く抱き締めあった。

僅かにミシッと言う音が聞こえたが、神楽は気のせいだと思うことにした。

 

「神楽ちゃんッッ!」

 

神楽は聞き慣れた自分を呼ぶ声に、この水飛沫の犯人が新八だと断定した。

神楽はキィっと怒ると、驚いた顔をしている新八を睨みつけた。

 

「何してくれたネ!空気読めヨ!このダメガネ!」

「いやいやいや、それより何して……土方さんんッ?」

 

新八は神楽と抱き合ってる男が土方である事に驚愕していた。

 

「まさか、痴漢ですかッ!」

「なワケねぇだろ!ふざけんなッ」

「でも、周りはそうは思ってないみたいですよ」

 

その新八の言葉通り、ある親子連れは土方を指差し声を上げたのだった。

 

「お巡りさん!早く捕まえて!」

 

そこに颯爽と登場したのは土方をプールに突き落とした沖田であった。

 

「あり?チャイナ娘と土方さん?」

 

沖田は浮き輪を体に掛けたままプールに飛び込んでくると、神楽の背中に回されている土方の手に手錠を掛けた。

 

「土方さん、言い逃れは出来ねぇでさァ。現行犯逮捕だ」

「コラ!テメェ!良い加減にしろッ!」

 

土方は口で抗議をするも、沖田は全く気にも留めていないようだった。

 

「まさか土方さんがチャイナをねィ」

「驚きましたよ。神楽ちゃんも嫌がってないみたいだし、案外……」

 

神楽と土方はそんな呑気な2人をきつく睨んだ。

 

「私の水着がなくなったアル!」

 

新八はようやく2人が抱き合っている理由を察すると、目を細めて辺りを見渡した。

 

「オマエが滑ってくるまでは、プールにあったネ」

「じゃあ、まだ近くに」

 

急に新八は、あっと声を上げた。

そして、震える手である一点を指差したのだった。

プールサイドに佇む一際緑の人物。

その頭に生えている禍々しい角に、真っ赤な血……ではなく、どうやら神楽の水着が引っかかっていた。

 

「屁怒絽さんの角に神楽ちゃんの水着がッッ」

 

その言葉に、一同は全員顔を真っ青にした。

 

「どうすんだよ」

「無理アル」

「でも、取り返さなきゃ」

「しーらねっ」

 

沖田は一足先にプールから上がると、すばしっこく流れるプールの方へと逃げて行った。

土方は沖田に向かい舌打ちをするも、今はそんなことより、作戦を立てる必要性を感じていた。

とりあえず土方は水着奪還作戦と称すると、作戦会議を始めた。

 

「どうやら奴はもう一度、ウォータースライダーを滑るらしい」

「本当アル!また階段上って行ったネ」

「気に入ったんですかね?」

 

土方の作戦はこうだった。

ウォータースライダーを滑ってくる屁怒絽を神楽と土方が下のプールで待ち伏せ、そして何かダメージを与えて隙を作り、背後から滑ってきた新八が角から水着を奪還と言うものだった。

 

「ミスは許されねェ。覚悟は良いか?」

「おう!やるしかないネ!」

「眼鏡かけてないから、ちょっと遠近感が心配だな」

 

新八はブツブツ言いながらも屁怒絽の後を追い、急いで階段を駆け上がって行った。

 

下のウォータースライダーの出口で待ち構える神楽と土方は、どうやって奴にダメージを与えようかと悩んでいた。

 

「手が使えねェとなると、足か」

「蹴りなら任せるアル」

 

そうは言っても、抱き合ったままの状態で、神楽は上手く力が入る自信がなかった。

――これに失敗したら、二度目はもっと成功率が低くなるアル。

神楽は少し不安になり、下唇を噛み締めた。

 

「……夜兎のテメェでも怖いか?」

 

神楽は土方のその言葉に思わず顔を上げた。

近い距離にある顔は神楽に向いてはいなかったが、どう言うわけか自分を心配しているような表情に見えた。

――まさか、コイツが。

いつも敵対している土方が自分を心配するなど、考えられないことだった。

しかし、現に神楽が恥を掻かないように、土方も乗り気でないのにこの体を抱き締めている。

その事実が、土方の表情の真実を示しているようだった。

 

「こ、怖いワケないダロ。私を誰だと思ってるネ。私はかぶき町の女王様アル」

「なら、問題ねェな」

 

フッと軽く笑った顔に神楽は目が釘付けになった。

――コイツ、こんな顔して笑うアルカ?

鬼の副長が一瞬、ただの青年に見えた。

神楽は再度、下唇を噛み締めた。

胸のざわめき。

高揚る気持ち。

気持ちが落ち着かない神楽は、土方の背中に回す手をソワソワと動かした。

 

「ジッとしてろ」

「なッ、だって……」

 

ただ体を隠す為に抱き合っているのだが、急に土方とこうして引っ付いていることが恥ずかしくなった。

分かりやすい程に赤くなる神楽の肌。

だが、土方はそんな事には気が付かず、屁怒絽が落ちてくるであろう出口から目を逸らせないでいた。

 

「そろそろ、奴が来るぞ」

「お、オゥ!」

 

荼吉尼族のあの恐ろしい姿。

想像するだけで、神楽の心臓が震えた。

トクン、トクン、トクン、トクン。

体が痺れる。

見えている土方の首筋に、汗とも水とも分からない雫が伝う。

それが首から胸に落ち、神楽の押し付けている胸の谷間に溜まる。

その光景が神楽の体を熱くさせた。

こんな事態にも関わらず、神楽は触れている土方の肌に恥ずかしくて堪らなかった。

できる事なら、一刻も早く離れたい。

だけど、それには水着を取り戻すしか方法は無い。

神楽はウォータースライダーに意識を集中させると、静かにターゲットを待った。

 

「来たネ!」

 

緑の巨体が不気味な声を上げながら、猛スピードでこちらへと突っ込んで来た。

神楽も土方も顔を真っ青にするも、無我夢中で脚を突き出した。

すると、大きな波が2人を襲い、またしても水中に引きずり込まれる。

しかし、その体は離れずに、何とか体勢を元に戻した。

 

「やったアルカ!?」 

 

穏やかになったプールを見れば、ぷかりと男が1人浮いていた。

 

「新八は犠牲になったアル」

 

どうも2人が夢中で蹴ったのは、屁怒絽ではなく、残念ながら新八だったようだ。

肝心の屁怒絽はと言うと、ウォータースライダーに飽きたのか、プールサイドを更衣室へと向かい歩いていた。

 

「まずいッ」

 

土方は神楽と息を合わせてプールから上がると、屁怒絽の後を追ったのだった。

 

 

 

更衣室の前は色んな人が行き交い、そして2人はもれなく軽蔑の眼差しを向けられた。

抱き合っている手錠男と半裸女。

どっからどう見ても変態であった。

 

「チッ、見せもんじゃねェんだよッ!」

「そうアル!見るなら金置いてけヨ!」

 

神楽も土方も周囲の人間に怒鳴っては、野犬のように牙を向いた。

しかし、今はその眼差しよりも、男子更衣室の先、屁怒絽と甥の行方が気になっていた。

 

「どうしよう」

「こうなりゃ、行くしかねェだろ」

「でも、ここ男子更衣室アル」

 

神楽も土方も、出来ればむさ苦しい男の裸体など見たくなかったが、そうは言ってられないと、意を決して男子更衣室へと足を踏み入れた。

 

「あれ?副長、何してるん……えッッ!?」

 

男子更衣室の警備にあたっていた山崎が、神楽と抱き合う土方を信じられないと言った表情で見ていた。

だが、説明はこの際あとだと、土方は山崎に一つ命令を下した。

 

「男子更衣室を封鎖しろ!今からここは戦場になる。俺が合図を送るまで、誰も入れるな」

「えっ?あんたら、一体何しでかす……」

「いいからオマエは、黙って出入口でアンパン食っとけヨ!」

 

山崎は鬼気迫る2人の雰囲気に圧倒されると、更衣室内にいた人々を追い出した。

そして、男子更衣室は封鎖されると、屁怒絽と甥、土方、そして神楽だけとなった。

 

「わぁ、屁怒絽おじさん。シャワーがあるよ!僕たちだけの貸切りみたいだね」

「こら!走るんじゃない!」

 

屁怒絽はそう言うと、甥と2人でシャワールームへと消えて行った。

頭の角に赤い血……赤い布を乗せて。

 

「とりあえず、奴らの隣のシャワーブースに入るぞ」

 

各シャワーブースは、薄い壁とカーテンで仕切られた簡素な作りになっていた。

その一つに神楽と土方は入り込むと、隣の壁の上部からはみ出ている屁怒絽の角に、赤い布を見つけた。

土方はそれにそっと手を伸ばそうと、軽く背伸びをした。

 

「ちょっと、待つアル」

 

しかし、神楽はそれを遮ると、頭をブンブン振ったのだった。

 

「違う!あれじゃ……」

「はぁ?」

 

土方は眉間にシワを寄せると、こちらを覗いている赤い布をよく見た。

 

「ま、まさか!」

 

焦った土方は神楽の顔を見た。

目が合った神楽は黙って静かに頷くと、悲しい表情を浮かべた。

 

「あれ?屁怒絽おじさん、頭に何か乗ってるよ?」

「ああ、これは――」

 

屁怒絽の角に巻き付く赤い布。

結論から言うと、それは神楽の水着ではなかったのだ。

屁怒絽の替えの真っ赤なフンドシ。

赤ふんだったのだ。

 

「新八、見間違えたアルナ」

「なら、テメェの水着はどこいったんだよ!」

 

水着捜査は振り出しに戻った。

一体、神楽の水着はどこに?

思いも寄らない結末に、土方も神楽も、一気に疲れが押し寄せた。

 

「ちょっと、休憩したいネ」

 

神楽は溜息を吐くと、土方の肩に額をくっ付けた。

クラクラする。

神楽は少しだけと目を瞑ると、この体を土方に預けた。

 

「…………」

 

そうしてる内にも屁怒絽と甥はシャワーを浴び終え、更衣室を後にしたのだった。

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思えば、もう結構な時間を2人は体を合わせていた。

汗がベタベタと不快感を与え、そうじゃなくても自由を奪われた体はストレスを感じていた。

――せっかくここにいるなら、シャワー浴びたいアル。

神楽は土方の背中に回してる腕を、壁に掛かるシャワーヘッドへと伸ばした。

 

「オイ、何してんだ」

「ここがどこだか分かってるアルカ?」

 

神楽はシャワーの水栓を捻ると、シャワーから湯を出した。

それを土方と密着している胸の辺りへと掛けたのだった。

 

「オマエも汗掻いてんダロ?」

 

確かに土方は上に着ている半袖パーカーのせいで、水着姿とは言え汗を掻いていた。

軽く羽織っているだけのパーカーははだけていて、神楽の胸と直接体が触れ合っている。

そのせいで、胸から腹にかけて熱気が篭っていた。

それをぬるめのシャワーの湯が取り払う。

僅かな隙間を流れる湯が心地良く感じた。

 

「ついでアル」

 

神楽はそう言うと、腕を伸ばし、手のひらに備え付けのボディソープをかけた。

それを自分の胸の辺りに垂らすと――

土方が待ったを掛けた。

 

「それはヤメろ」

「なんでアルカ?」

 

その間にもドロッとしたボディソープは、神楽の谷間や土方の胸の上を滑って行く。

その感触に土方は眉をひそめた。

 

「スッキリしたら、また頑張れるかもしれないジャン」

 

神楽はご機嫌に鼻歌交じりに胸を撫でた。

するとキメの細かい泡が立ち上がり、土方の体の上を柔らかい胸が滑った。

 

「きゃっ」

 

一瞬、離れてしまいそうになった体に神楽は焦った。

だが、土方が神楽を抱き寄せたお陰でそれは免れたのだった。

 

「だから、言っただろ。ヤメろって」

 

神楽は頷きもせず黙ったまま、土方との体の隙間に挟んだままの手を動かした。

神楽の細い指が、土方の胸や腹を這いずり回る。

神楽も触れるつもりはなかったが、自分の体を洗うとなると、どうしても土方に触れてしまうのだった。

その動きに、土方は顔をあからさまに赤くさせた。

 

「いい加減にしろッ」

「これくらい我慢しろヨ!」

 

神楽は土方を情けないとなじると、見えている赤い顔を睨み付けた。

――あ、あれ?赤い?

そこでようやく神楽は土方の顔色に気が付いた。

ただ単に嫌ならあんなに赤い顔はしないだろう。

ならば、どうして?

神楽は今の状況を改めて考えてみた。

 

密室で半裸の美女が、自由のきかない男の体を――

 

「オマエ、女に慣れてるんじゃねーアルカ?」

 

神楽の突然の質問に土方は、益々眉をひそめたのだった。

 

「……さァな」

 

目を見ずにそう答えた土方に、神楽は確信した。

――銀ちゃんや、新八とは違うネ。

土方が女に慣れてるかどうかは分からなかったが、神楽を女として意識してることはよく分かった。

 

「そう言えば、オマエ見たアルカ?私のオッパイ」

「見てねェよッ!」

 

土方のあまりのキレっぷりに、神楽は笑わずにいられなかった。

 

「あー、良かった。右胸のアザを見られたら、私お嫁に行けないところだったネ」

「はァ?ンなのなかっ……」

 

そこで土方は急いて口を閉じたが、神楽は聞き逃さなかった。

神楽は体をぐっと土方に押し付けると伸びをして、その赤い顔に近付いた。

 

「やっぱり見たアルナ」

「仕方ねェだろッ!テメェが裸で飛び込んで来て」

「別に怒ってねーヨ。ただ……」

 

神楽は水栓を捻りシャワーから湯を出すと、体についている泡をキレイに洗い流した。

 

「オマエで……良かったって思ってるアル」

 

神楽のその言葉に偽りはなかった。

“土方でよかった”それは、素直に心からそう思っていた。

土方もこの状況は不本意だったにも関わらず、こうして協力的に動いてくれた。

これが新八だったらどうだろう?鼻血でそれどころではないか?

沖田だったらどうだろう?早い段階で、水着の捜索どころではなくなっていたかもしれない。

トラブルに巻き込まれた相手が土方だったから。

神楽はなんとか身も心も無事でいることを感じていた。

 

神楽は全てを洗い流すと、土方の背中にまた腕を戻した。

そして、そっと抱き締めると、土方の肩に額を付けた。

それはまるで甘える子猫のように。

そんな神楽に土方の瞳は揺れ動いた。

 

「でも、だからって、私の全てを知った気になってんじゃねーヨ」

 

土方はその言葉に目を瞑るとフッと軽く笑った。

 

「女の全てを知る趣味はねェ」

 

少しくらい謎は残しておいた方が良い。

土方はそう言うと、見えている神楽の頭に唇を寄せたのだった。

 

 

 

「で、結局どこにあったんだよ。水着」

 

その日の夜のことだった。

銀時は新八の話を、漫画雑誌片手に窓際の自分のイスに座って聞いていた。

 

「それが早い段階で、落し物として届けられてたみたいで」

 

新八の言葉通り、神楽の水着は誰かの手によって、キチンとプールの警備課に届けられていたのだった。

それをあの後、更衣室から出た神楽と土方は山崎から聞かせられることとなったのだ。

 

「つか、この請求書ナニ?」

 

銀時は新八に突きつけられた一枚の紙を面倒臭そうに眺めていた。

そこには“貸し切り料金”と書かれてあり、30分5万円の文字があった。

 

「2時間って何だよッ!20万円ってもらえるの?なんなのッ!」

「貰えるわけないだろッ!だから、神楽ちゃんが男子更衣室を封鎖させちゃって……」

 

銀時はその青い顔をようやく新八に向けた。

金額に驚いたのもあるが、2時間も貸し切り……土方と2人っきりだったと言うことに驚愕していた。

頭に浮かぶのは良からぬ妄想。

 

「お、おい、新八。もちろんお前も一緒だったんだよな?」

「銀さん、聞いてました?僕は気絶してて、気付いたら救護室だったって」

「ひ、ひぇ!じゃあ、あいつら2時間も何してッ」

 

銀時は手に持っている請求書をビリビリに破り捨てると、狂ったように机に頭をぶつけだした。

 

「で、でも、土方さん!手錠掛けられてましたし」

「は、はァ?そんなプレイ、山ほどあんだろッ!黙っとけ童貞ッ!」

 

錯乱状態になった銀時は、自分もプールに行けば良かったと、ただただ後悔をしていた。

 

2013/08/12

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