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賽は投げられた:05

 

神楽は沖田のマンションから出ると、頭の中でグチャグチャになってる考えに気分が悪くなった。

 

銀八がクラスの女子に手を出している噂。

銀八が女子にモテる事は半ば諦めていた。

だけど、体の関係を築いていることはショックだった。

神楽は最後に見た銀八の顔を思い出した。

自分の胸を触りながら、ちょっと赤い頬で……

まるで自分だけを欲しているような表情だったのに。

すると不意に神楽は沖田の顔を思い浮かべた。

自分だけを欲している表情っていうのは、きっとあの顔を指すのだろうと思った。

だけど、神楽は沖田を友達以上には見ることが出来なかった。

寝ても覚めても神楽の気持ちは銀八へと向いていたのだ。

 

「明日からどうしよう」

 

神楽は誰にも打ち明けられない悩みを抱えて帰宅したのだった。

 

 

 

次の日、隣の席の沖田は普段と変わらず、至って普通だった。

どこかスッキリとしたした顔に、何となく神楽は嫌な気分になった。

 

「銀八にはっきり聞けよ」

 

席に着いた神楽に沖田は昨日の話を振ってきた。

あまりにも普通の沖田に、なんだか神楽の方が調子を狂わされた。

 

「言われなくても確認するアル」

 

神楽はふと目の前を横切ったキャサリンの胸を見た。

キャサリンの胸は夏服を大きく押し上げて、不気味なまでに大きく盛り上がっていたのだ。

 

「なぁオイ、あれも銀ちゃんが?」

 

神楽は沖田を手招きすると、2人でキャサリンの事を青い顔して眺めた。

 

「さすがに腐ったう○こを食える程、飢えてもねぇだろィ」

「そうアルナ」

 

2人は銀八が教室に入ってきたにも関わらず、あーだこーだと言い合っていた。

 

「私、はっきりとクラスの女子に確認してみるアル!」

 

神楽は昼休みに皆に話を聞き回ろうと、さっそく教科書の影で弁当を広げたのだった。

 

 

 

「姉御、九ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるネ」

 

昼休み、神楽は珍しく教室にいて、お妙に話しかけていた。

 

「あら、なに?神楽ちゃん。お弁当足りなかったの?」

 

お妙は笑顔で神楽に自分の弁当箱を差し出すも、強烈な悪臭を放つ謎の黒い塊に、神楽は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「違うアル。その、ちょっと姉御も九ちゃんも他の皆も……」

 

神楽は声を潜めると、2人にだけ聞こえる声の大きさで話をしたのだった。

 

「どうして急に大きくなったアルカ?」

 

それを言い終わった時だった。

神楽は背後に人の気配を感じた。

お妙も九兵衛も神楽の後ろを眺めていた。

 

「神楽ちゃん、ちょっと話があんだけど」

 

神楽がその声に振り返れば、銀八が美味しそうな弁当片手に立っていたのだ。

 

「うぎゃああ」

 

教室から出ていく銀八を神楽は急いで追っていくと、昨日の放課後に来た準備室に辿り着いた。

神楽はキラキラした目で銀八の弁当を眺めていると、銀八は準備室の鍵を閉めた。

 

「なぁ、神楽。これ食いてぇだろ」

「当たり前アル!銀ちゃんありがとう!」

 

ちょっと待てと、机に置いた弁当を銀八は神楽の手が届かない所へ置いてしまった。

怒った神楽はケチと言って銀八に飛び掛かるも軽々と抱えられ、この部屋に似つかわしくない真っ赤なソファーへと運ばれた。

 

「何すんだヨ」

 

銀八は神楽をソファーに投げ捨てると、何を考えているか分からない顔で神楽を見ていた。

神楽は途端に寒気がした。

 

「いや、なんつーか、まぁ色々と聞きたいっていうか」

 

銀八の口調はいつもの調子なのに、自分を見つめる目が知っているものとは違っていた。

何か怒ってる?

神楽は体を起こすと銀八の名前を呼んだ。

 

「銀ちゃん?」

 

銀八は神楽の隣に座ると一度目を瞑った。

そして、頭を振るといつもの表情に戻っていた。

神楽は今のは何だったのかと少し不安になった。

何となくあの目は、血走った昨日の沖田を思い起こさせた。

 

「神楽、もう一度聞いときてぇんだけど」

 

神楽は待つアルと、その前に自分も聞きたいことがあると銀八に言ったのだった。

昨日の噂話。

真相を確かめるには本人に聞くのが一番良いだろう。

神楽は出来るだけ自分の不安を悟られないように、強気な口調で言ったのだった。

 

「銀ちゃん、うちのクラスの女子全員とエッチしてるって本当アルカ?」

 

神楽は自分の顔が熱いことに気付いていた。

しかし、それとは対照的に銀八の顔は顔色一つ変わることなく、冷めた目で神楽を見ていた。

神楽はその目に銀八が何を考えているか探ろうとした。

だけど、何もわからない。

ただ銀八はゆっくり瞬きをすると神楽に言った。

 

「信じてんのか?」

 

神楽はフルフルと首を振った。

 

「もし仮に本当ならお前はどう思う」

 

神楽はただ静かに首を振った。

本当の気持ちなんて言えるわけがなかった。

 

「なら、先生も聞いて良い?お前、沖田と付き合ってるって本当か?」

 

神楽は首を横に振った。

もう、色々聞かれ過ぎて何がなんだか分からなくなっていた。

 

「噂ってこえーよな」

 

銀八は煙草を取り出すと火をつけた。

神楽は黙って頷くと、隣の銀八の肩に頭を乗せた。

 

「あ?ちょっと」

 

銀八の焦ったような声に神楽は急いで体を離した。

嫌だったアルカ?

神楽はソファーの上で膝を抱えると顔を伏せたまま銀八に言った。

 

「エッチは信じないけど、皆の乳揉んでるんだと思ったアル」

「んな夢のような話あるわけねぇだろ」

 

神楽はブスッとすると、揉みたいんじゃんと呟いた。

だけど、皆にこういう事をしてないって事は、自分は特別な存在なんじゃないかと神楽は期待した。

銀八に聞いてしまおうか。

神楽は何よりも一番知りたい事があった。

答えてくれるか分からなかったが、神楽は顔を上げると銀八に尋ねた。

 

「なんで私にだけマッサージするアルカ?」

 

銀八はその質問に動じる事はなく、真っ直ぐに神楽を見つめていて、神楽も真っ直ぐに銀八を見つめていた。

あの口からなんて言葉が出てくるんだろう。

神楽の心臓は激しく脈を打った。

 

「……じゃあさ反対に聞くけど、なんでお前は俺にだけ触らせんの?」

 

神楽は顔をボッと赤くするとまた顔を伏せた。

それだけは言えなかった。

好きだからなんて言えなかった。

銀ちゃんに触られると嬉しいからなんて絶対に言えなかった。

 

「とりあえずどっちの噂もホラって事で」

 

銀八は煙草を消すと、神楽を自分の股の間に座らせた。

背中に銀八の熱を感じた神楽はそれだけで体がゾクゾクとしていた。

マッサージを期待して体が疼く。

銀八は神楽のブラのホックを外すと、いつものように制服の上から神楽の柔らかい膨らみを撫でた。

神楽は深く息を吐くと頬を紅潮させて小さく声を上げた。

 

「だから、お前。声はダメだろ」

 

銀八が神楽の耳元で囁けば、神楽は余計に呼吸を荒くした。

耳に当たる銀八の息が神楽の体を更に熱くさせる。

体の中心から突き上げてくる快感に、どんなに我慢しても小さな声は漏れてしまうのだった。

 

「随分と敏感になってきたな。そろそろ直接マッサージさせてくれね?」

 

神楽がブンブン頭を振ると、銀八は神楽の胸を刺激しながら目の前の小さな耳を唇で挟んだのだった。

そして、ぬめっとした熱い舌が神楽の耳をゆっくり這った。

 

「んっ!」

 

神楽はビクンと体を跳ねさせると、力が抜けてしまったのか銀八の胸に寄りかかった。

耳が火傷したかのように熱い。

気のせいか、体が何かスイッチを押された気分だった。

どうしよう。

神楽は自分の収まらない体の疼きに怖くなった。

収まらないだけならまだマシだが、明らかに加速していくのが分かる。

 

「せんせェ」

 

神楽の甘く切ない声が部屋に響く。

その声に銀八の手の動きが止まった。

神楽はフゥフゥと苦しそうに呼吸をしており、薄い制服がうっすら汗で湿っていた。

神楽はどうすればこの体の疼きが収まるのか分かっていた。

前に家の風呂場でそれは経験済みだ。

ただここは学校で、しかも今は先生の前だ。

出来るはずがなかった。

だけど、苦しい。

神楽は脚をモゾモゾと動かした。

 

「せんせっ、なんで手止めるネ」

 

神楽はさっきから動かない銀八が気になっていた。

もしかして幻滅された?

神楽はハッと我に返ると、自分の後ろの銀八を振り向き見た。

 

「銀ちゃん?」

 

神楽が見た銀八はグッときつく目を瞑り、険しい表情をしていた。

どこか体調でも悪いのか?

神楽は心配になった。

 

「銀ちゃん大丈夫ネ?」

「何が?全然平気なんだけど。別にどっこもおかしくないし」

 

そう答える割には息も切々で顔も赤かった。

まさか風邪?

神楽は銀八の髪を掻き上げると、自分の額と銀八の額を引っ付けた。

 

「うーん、熱ないネ」

「あがががが神楽!やめろ!」

 

神楽と目が合った銀八は叫ぶと、急いで神楽を横へと退かした。

全く理由の分からない神楽は銀八から離れると、鍵の掛かっているドアの前に立った。

 

「なんか銀ちゃん体調悪そうだから行くネ。じゃあネ」

「あっ、待てって」

 

神楽は駆け足になると、急いで準備室を離れた。

あの部屋にいるとまた体が疼き始めそうな、そんな気がしていた。

銀八の手により、日に日に体が開発されていくのが分かった。

今日なんて耳を舐められただけで、もっと刺激が欲しいと体が求めていた。

ただのマッサージなのに。

神楽はこのままじゃ自分は、銀八に今以上のものが欲しいと口に出してしまう気がしていた。

そんなの幻滅されるに決まってるネ。

だけど神楽はもっと近くに銀八を感じたくて堪らなくなっていた。

次の時にはきっと――

神楽は一刻も早く準備室から離れるように、教室へと戻っていった。

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