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賽は投げられた:03

 

昼休み、神楽はいつも銀八が隠れて煙草を吸っている屋上へと向かっていた。

多分、授業中に寝ていたのを怒られるのだろう。

神楽の屋上へと向かう足取りは軽くはなかった。

しかし、ドアはもうすぐそこで迫っていて、開けないワケにはいかなかった。

 

「遅かったな」

 

相変わらず、不良教師は塔屋の影で煙草を口に加え座っていた。

 

「誰が喜んで怒られに来るアルカ」

「だよな」

 

そう言った銀八は煙草を消すと、何食わぬ顔で神楽を自分の真ん前に座らせた。

神楽の鼻に煙草の匂いと、砂糖菓子の匂いが漂う。

そんな匂いのせいか、神楽は昨日の出来事を思い出した。

銀八に後ろから抱き締められて、そして――

 

「怒んのしんどいからさ、ちょっと罰な」

 

銀八はそう言うと突然、神楽のブラジャーのホックを外した。

神楽はハッとして、前屈みになると両手を胸に置いた。

 

「誰か来たらどうするネ!」

「誰もこねーよ。それに毎日やんねぇとダメだつったろ」

 

神楽はそれを思い出した。

1日でも怠れば1週間で巨乳計画は台無しだと。

それに今日は今を逃せばもう空いてる時間がなかった。

放課後は沖田の家でゲームをする約束をしていたからだ。

神楽は渋々両手を胸から離すと背中の銀八に言った。

 

「服の上からナ」

「……直接の方が効果はでけーんだけどな」

 

銀八は昨日と同じように、神楽の制服の上から柔らかな膨らみを揉んだり撫でたりした。

慣れてるような手付き。

ブラジャーのホックの外し方だってそう。

神楽はきっと自分だけじゃないのだろうと思っていた。

そんな事を考えると背中の向こうの銀八が、一体どんな表情でこんなことをしてるのかが気になった。

 

「ねぇ、銀ちゃん」

 

私だけアルカ?

その一言が躊躇われた。

私だけだったら良いのに。

神楽は思わず口走りそうになった。

揉まれる胸は確かに気持ちは良いのに、昨日みたいな気分にはならなかった。

ちょっと苦しい。

銀八の手が刺激を与える度に神楽は切なくなった。

好きだって想いは伝えられそうもないのに、一人前に嫉妬する自分が無性に腹立たしかった。

 

いつまでも何も言わない神楽を心配したのか、銀八の手の動きが止まった。

そして、後ろから包み込むように神楽の体を抱き締めたのだった。

 

「お前なんか勘違いしてねぇ?男ってのは、お前が思ってるほど胸のデカさなんて気にしてねぇんだよ」

「嘘アル。デカイ方が好きに決まってるネ」

 

神楽は銀八の言葉を信じられないでいた。

それに男子に好かれたいから大きくしたいワケじゃなかった。

神楽は自分に自信が欲しかったのだ。

せめて普通サイズになれたらどんなにいいだろう。

いつも胸を見て考えていた。

 

「私、他の子よりずっと小さいダロ?」

 

神楽はつい口にしてしまった。

なんだか涙まで出てしまいそうだ。

鼻の奥もツンとして痛い。

自信が持てれば、こんなに弱気にならないのに。

他の子の事なんて気にもしないのに。

神楽はあーあとこんな自分にうんざりした。

 

「他の子って……あのなァ」

 

呆れたように言った銀八は神楽を更に抱き締めると、神楽の耳元に唇を近付けた。

すると神楽は耳に掛かる息に体をブルッと震わせた。

 

「俺は真面目な教師だっつーの」

 

嘘つき。

神楽は心の中で呟いた。

昼休みに生徒の胸を揉む教師のどこが真面目アルカ。

神楽はいつも以上にふざけている銀八にムカついた。

だけど、それと同じだけ可笑しかった。

 

神楽は思い出したのだ。

自分が好きになった坂田銀八という男のことを。

銀八はいつもこうだ。

テキトーで不真面目で、だけど何故か惹かれる。

自分をいつもドキドキさせてくれる存在だった。

 

「昼間から生徒の乳揉むなんてダメ教師ダロ!」

「マジかよ。んなダメ教師がいるとか世も末だねぇ」

 

神楽は気が付けばケラケラと笑っていた。

やっぱり銀ちゃんが好き。

神楽は改めてそう思ったのだった。

自分が特別じゃなくても、こうして2人だけで笑い合う時間があるだけで充分だった。

 

そろそろ昼休みも終わりが近付き、銀八は神楽を腕から解放した。

神楽はそれにまた寂しくなった。

あともう少しだけ。

そう思っても態度にすら出せなかった。

神楽は座ったまま身なりを整えると、先に立ち上がった銀八を見上げた。

すると銀八も神楽を見下ろしていて目があった。

 

「お前、放課後空いてる?」

 

神楽はその質問に首を横に振った。

 

「サド野郎ん家でゲーム誘われたアル」

 

銀八はふぅんと言うと、煙草に火をつけた。

そして、背伸びをすると神楽に言った。

 

「10代のガキは俺と違って自制きかねーからな。そこんとこ忘れんなよ」

 

神楽は銀八のその言葉が分かったような、分からなかったような。

とりあえずテキトーに返事だけをしておいた。

 

身なりを整え終わった神楽は立ち上がると、銀八にじゃあナと言って背中を向けた。

しかし、ドアに向かって歩きだすことが出来なかった。

煙草の煙が神楽の体をを覆ったのだった。

 

「えっ、銀ちゃん?」

「神楽。やっぱり放課後10分で良いから残れ。いつもの準備室に居るから」

 

銀八に背中から抱き締められた神楽はうんと小さく返事をした。

だけど、それが精一杯で、神楽は銀八の腕をすり抜けると逃げるようにその場を後にした。

ドキドキする。

神楽は階段を駆け下りながら銀八の言動の意味を考えていた。

なんでいちいち抱き締めるんだろう。

それに急に放課後残れなんて。

まるで嫉妬しているようだった。

まさか、あの銀ちゃんが私を――

神楽はそんな事あるわけないと頭を振った。

ああ見えて先生はモテるから、ガキ臭い自分に特別な感情を抱くなんて考えられなかった。

 

 

 

放課後、神楽はちょっと先生に呼ばれてるからと言うと、沖田を教室に残し銀八の元へと向かった。

 

使われていない教室がいくつもならんだ校舎の3階。

準備室と書かれたプレートのある角の教室をノックした。

 

「ぎんちゃーん」

 

すると直ぐに鍵は開けられ、銀八に招き入れられた。

ここには何度か来たことがあったが、前に来たときよりも中は私物で溢れていた。

 

「先生、ここに住んでるアルカ?」

「何だよ、今日お前ここに泊まりたいって?」

 

言ってねーヨと神楽は突っ込むと、相変わらず不真面目に煙草を吸っている銀八に用件を訊ねた。

 

「何の用アルカ?」

 

神楽は少し期待していた。

もしかしたら、銀八の口からはっきりと何か聞けるんじゃないかと。

 

窓際でイスに座って煙草を吸っている銀八は、チラリと神楽を見ると手招きした。

神楽の心臓が高鳴った。

一歩一歩踏み出す足が震えて、膝から崩れてしまいそうだ。

何を言われるんだろう。

神楽の期待は詰める距離と共に膨らんだ。

しかし、何も言わない銀八に神楽は腕を掴まれたのだった。

そして、そのまま引っ張られると、銀八の腿の上に横向きに座らされたのだった。

 

「用って胸のマッサージアルカ?」

 

銀八は煙草を窓の側に置いていた灰皿に押し付けると、神楽の太ももに軽く手を置いた。

神楽はそれにあからさまに反応を見せると、また顔を赤くした。

 

「してってならするけど?まぁ正直、昼間のじゃ足りねぇわ」

 

神楽はじゃあ10分だけだと言うと、赤い顔を下へと向けた。

初めて銀八の顔が見える状態に、今まで以上に恥ずかしくなった。

だけど、嫌じゃない。

銀八が一度どんな顔でこの胸を撫でるのか見てみたいと思っていた。

 

銀八は片手でブラのホックを外すと太ももから手を移動させ、また服の上から神楽の胸を撫でたのだった。

 

神楽は下唇を軽く噛んだ。

昼間と違って大胆な手の動きに、神楽は漏れそうになる声を我慢した。

だけど、激しく指で擦られる。

気持ち好いアル。

頭の中は真っ白になり、触られる悦びを神楽は全身で感じていた。

どうしてこんなにも自分の体は反応するのか。

擦られるほどに固くなる胸の突起が、薄い夏服にピーンとしたシワを付けた。

 

神楽は片手で銀八の肩の服をしわくちゃに掴みながらも、なんとか自力で座っていた。

しかし、銀八の指が摘まんだり擦ったりする度に、神楽は体を後ろへビクッと仰け反らせる。

そのせいで自然と顔が上がり、銀八と目があった。

 

「エロい顔だなオイ」

「やあっ……」

 

神楽はついに声を漏らすとまた顔を下へ向けた。

だけど、銀八の手は容赦なく神楽の上で蠢く。

せめてもの救いは、銀八が片手だと言うことだった。

もし両手でされていたとしたら――

神楽は体の奥の方が熱く燃えたぎるのを感じた。

 

きっと体は望んでいる。

“これ以上”を求めている。

胸は勿論、身体中をもっと触って欲しいと。

マッサージなんて事は今の神楽には、もうどうでも良いことだった。

神楽は銀八の目を見た。

とろけるような表情で情けなく懇願するように。

 

「ぎんちゃん」

 

もっと触って。

しかし、それが言えないまま約束の10分が経ってしまった。

銀八の手の動きはピタリと止まり、神楽を膝から下ろした。

 

「……ほら、待ってんだろ?早く行けよ」

 

神楽はまだ力の上手く入らない体で、ボケーっと突っ立っていた。

余韻が神楽の足枷となっていた。

時々垣間見えた銀八の赤い頬。

あれはマッサージとは言え、少し私を意識してるからなんだろうか?

神楽はほんの少し嬉しくなった。

そして、銀ちゃんに触れたい。

急にそんな思いが沸き上がった。

今まで散々銀八に自分の体を触れられてきて、気持ち好い事をいっぱいしてもらった。

今度は自分が銀八を気持ち好くしたり、自分から触れてみたいと思った。

 

「あとちょっとだけ、ダメ?」

「沖田君、待ってんだろ?」

 

銀八はそう言うと窓の外を横目で見た。

神楽も釣られて窓の外を見れば、一階の玄関の辺りで待っている沖田が目に入った。

 

「俺は別に何だって構わねぇけど?」

 

神楽は黙った。

人を待たせてまで自分は何をしようとしてたんだろうと。

神楽は帰る用意を素早く行うと、ずっとイスに座ったままの銀八の傍らに立った。

そして、思い切って両手を広げると銀八の頭を抱くように胸に押し込めた。

 

「はァ?オイ!神楽!」

「いつものお返しアル」

 

そう言って神楽は銀八から離れると、じゃあネと教室から出て行った。

沖田の待っている玄関を目指して。

 

「あーあ」

 

1人教室に残った銀八はそう呟くと、物が散乱しているデスクに突っ伏した。

 

「どーすんだよ」

 

銀八がそんな言葉を吐いてるなどと知らない神楽は、玄関で沖田と合流すると、チラリと3階の角部屋を見た。

初めて抱き締めちゃった。

躍る胸に足取りは軽く、早く行こうと沖田の背中を押したのだった。

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