賽は投げられた:02
神楽は薄く目を開けると、自分の胸をゆっくりと揉む銀八の手を見た。
神楽はその光景に、改めてこれは現実なんだと認識した。
銀八の手は紛れもなく自分の上にあって、神楽は再度顔を赤らめた。
「耳まで真っ赤にしやがって、そんなに恥ずかしいか?」
神楽はそこでようやく口を開くと、銀八に思ってる事を聞いたのだった。
「銀ちゃんは恥ずかしくないアルカ?」
生徒とは言え、自分も女性の端くれだ。
少しくらいは何か意識してても良いんじゃないかと神楽は思った。
自分はこんなに恥ずかしくて緊張しているのだから、銀八にも普段とは違って欲しかった。
だが、大人の余裕なのか銀八の声を聞く限りじゃ、いつもの調子だった。
「なんで俺が恥ずかしくなんだよ。全校の前でパンツ擦り下げてるワケじゃあるめぇし」
腹立つ。
神楽は眉間にシワを作った。
どこまでも普段の銀八だった。
するとここで銀八の手の動きがピタリと止まった。
神楽は少し安心すると、ようやくまともに呼吸が出来た。
しかし、安心したのも束の間だった。
「神楽、ホック外して良い?」
なんの話だろうか。
神楽は突然の銀八の言葉に首をかしげてみせた。。
「直接マッサージしねぇとアレだ……効果がねーんだよ」
そう言った銀八は神楽の背中をトントンと軽く叩いた。
それでようやく神楽は、銀八の指す“ホック”の意味が分かったのだった。
自分が着けているブラジャーのホックだと。
「何言うアルカ!恥ずかしいアル!それにいくらマッサージでも、カレシ以外に触らせるのは……」
胸を大きくしたい気持ちはずっと変わらないでいた。
だが、服の上からと違って直接触るのは、ただのマッサージで済まない気がしていた。
だってそれって……
神楽は、前に神威の部屋で見つけたエッチなDVDを思い浮かべた。
愛し合ってないのにあんな事をするなんて、神楽にはとてもじゃないが考えられなかった。
「じゃあどーすんの?俺は別にお前が1人ぺたんこで、あの沖田に笑われたって全然構わねぇけどさ」
「な、ななななんでサド野郎の名前が出てくるアルカッ!」
神楽は銀八を振り返ると睨み付けた。
すると銀八はプッと吹き出して笑ったのだった。
「お前は本当分かりやすいな」
神楽はまた前を向くと銀八から顔を隠した。
顔が赤いのは別に沖田の名前を聞いたからではなく、銀八と2人でこんな事をしているからなのにと神楽は頬を膨らませた。
結局は私の気持ちに気付いてないアルカ?
神楽は思わず勢いで自分の気持ちを言ってしまおうかと思った。
だけど、やっぱり口では言えないから、神楽は自分でブラのホックを外すと銀八の手を取り――
「神楽?ちょっ、お前っ!」
神楽は服の中でブラを外すと、服の上の自分の胸へと誘ったのだった。
「直接じゃなくてもマッサージできんダロ」
薄い夏服一枚が、神楽の胸を辛うじて守っていた。
胸に銀八の手の温もりがはっきりと伝わる。
温かくて、ちょっと汗ばんでいるのが分かる。
「そんなに沖田に笑われたくねーのか」
「だから、アイツは関係なっ!ンっ!」
銀八の手が大きく動き、先ほどまでよりも強い刺激が神楽を襲った。
比べ物にならない。
直接触られるのと差ほど違いはないように思えた。
そして、恥ずかしさに付随してやってくるのは、今までに感じた事のない押さえようのない気持ち。
それまで強張っていた神楽の体は一気に力が抜け、銀八の胸に寄りかかった。
そして、フゥフゥと息を上げると、思わず声を漏らした。
「きもちいぃ」
「……マッサージはそういうもんだろ」
銀八は慣れた手付きで、神楽の胸を撫でたり揉んだりと繰り返した。
神楽はその度に小さな声を漏らした。
頭の中は既に空っぽで、ここは何処だとか自分がただの生徒だとか一切忘れていた。
「神楽?」
銀八の自分の名を呼ぶ声に神楽は我を取り戻すと、何かと返事をした。
それなのに銀八の指は神楽をまた快楽の淵へと追いやると、糸も簡単に突き落としたのだった。
銀八の指は神楽の薄い夏服越しに膨らんだ突起を擦った。
身体中が痺れるような快感に神楽は声にならない声を上げた。
その声は小さく可愛いものだったが、とても危険なものでもあった。
銀八は咄嗟に神楽の口を手で押さえると、胸を弄るのを止めたのだった。
「神楽、お前ダメだろ。本当ダメだわ」
神楽は肩で呼吸をすると、うんうんと無言で頷いた。
こんな事が見つかったら、きっと2人とも学校に居られない。
神楽の脳裏にそんな事が過った。
「たかがマッサージになんて声出してんだよ」
「ごめんアル」
今日はもう終わりと、銀八は神楽の体から手を離した。
すると神楽の体は、一気に全ての熱が引いたかのように冷えてくのだった。
もう少し触れられていたい。
神楽の体は切に願った。
しかし、暗くなり始める窓の外に、それは叶わぬことと分かっていた。
神楽はベッドから下りるとシワの付いたスカートを直した。
そして、背中に手を回すとブラのホックを着けたのだった。
「神楽、分かってんだろーが誰にも言うなよ」
「言うわけないジャン」
神楽は銀八の顔を見ずに答えた。
終始恥ずかしくて、いつまで経ってもその顔を見れそうになかった。
身なりを整えた神楽は鞄を持つと、ベッドを仕切るカーテンを開けた。
「明日も……してネ」
それだけを言い残し神楽は学校を後にした。
その日の夜、神楽は風呂場の鏡で自分の胸をまじまじと眺めていた。
少し大きくなったような。
だけど、気のせいのような。
しかし、そんな直ぐに効果は現れないだろうと、1週間後に期待する事にした。
それよりも何よりも他人に胸を触られるのは、あんなにも気持ちいいんだと驚いていた。
それは大好きな銀八だったから?
それとも他の奴でも気持ちよくなるの?
「確か、こんな感じで」
神楽は今日の銀八の手の動きを思い出すと自分の胸に触れ、そっと目を閉じた。
柔らかな胸の膨らみを揉んだり撫でたり。
たったそれだけの事なのに神楽は息を荒くした。
今まで自分でマッサージをしても、こんな事はなかったのに。
どうやら一度快感を植え付けられた胸は、敏感になっているようだった。
しかも、それは胸だけではなく、体全部がそのようだった。
胸を刺激しているのに、下腹部にまで疼きを感じる。
まさか。
神楽は片手を恐る恐る下腹部へ滑り込ませると、ピチャッと水分を含んだ音を聞いた。
体が熱くなる。
神楽はそのまま銀八の手の動きを想像すると、下腹部に宛がっている指も動かした。
背中越しに伸ばされる逞しい腕。
それを神楽の言葉とは裏腹に体は悦んで受け入れる。
「銀ちゃん、ダメっ」
胸は優しく撫で回され、本当はもっと強くされても良いのにと焦れったさを感じていた。
下腹部は銀八の指がわざと音を立てるように這い回る。
もう我慢出来ない。
神楽は一秒でも早く、この体をどうにかして欲しかった。
神楽は銀八の腕にすがると言ったのだった。
「もっと頂戴ヨ」
そこで神楽は目を覚ました。
机の上には食べかけの弁当が広げてあり、机の傍らには顔に影を作った銀八が立っていた。
「あのな、それ以上何を食いたいワケ?神楽、お前は昼休み俺んとこへ来い」
クラス中の視線を独り占めにした神楽は、赤い顔のまましばらく放心していた。
授業を再開する銀八に神楽は今のは夢だったんだと、ようやく気が付いた。
自分はなんて夢を見てしまったんだろう。
今までこんな事は一度もなかったのに。
それもこれも、昨日銀八が自分に快感を教えたせいだと神楽は思っていた。
昨日入浴中にしたイケナイ遊びだって、銀八が教えたようなものだった。
あれから壊れてしまったかのように、神楽は体が疼いていた。
「なぁ、チャイナ」
突然、隣の席の沖田が声を掛けてきた。
神楽は沖田の事を、何かと自分に張り合ってくる面倒な奴だと思っていた。
「なんダヨ」
神楽はまだ冷めない熱い顔のまま沖田を見た。
「今日、帰り俺んちでプリン賭けて格ゲーしねぇかィ」
「いいアルナ!どうせ私が勝つに決まってるネ!」
神楽は頬に米粒を付けたままニッコリ笑うと、沖田はシラッとした顔で神楽の頬の米粒を取った。
「相変わらずガキくせぇな」
そう言うと沖田は前の席の土方目掛けて米粒を飛ばしたのだった。
神楽はそれに声を押し殺して笑うと、沖田も顔を伏せて笑いを堪えていた。
こんなクダラナイ事のお陰で神楽は体の疼きなど、すっかり忘れているようだった。
たまに突き刺さる銀八の視線にドキリとしたが、神楽はいつもの自分に戻れたような気がしていた。
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