これは、愛じゃない

 

二日目

 

明け方、ようやく神楽は眠りに就いた。深い眠りがやって来て、気付けば窓の外は明るくなっているようだ。しかし神楽の体は重く、まだ起こすことは出来なかった。目蓋も開かない。そんな中、誰かが部屋へと入ってくる音が聞こえた。沖田だろうか。それとも銀時か。確認することすら億劫で神楽はたとえ沖田であっても構わないと思っていた。どうせいつか無理矢理にでもねじ込まれるのだろう。それが今か後かの違いだけだ。そんなことを思いながら神楽は微睡んでいた。だが次の瞬間、ベッドに腰掛けた男が神楽の頭を優しく撫でたのだ。それで確信した。銀時であると。神楽は目蓋を閉じたまま、その手に擦り寄ると握りしめた。そして唇へと誘うと軽い口づけをした。

「好き」

今までこんなふうに分かりやすく口に出したことはない。照れや馴れ合いが邪魔をして、どうしても言葉は後回しになってしまうのだ。神楽はようやく、やっと素直に言えたと嬉しくなると再び深い眠りに落ちた。そして次に目覚めたのは昼をだいぶ過ぎた頃であった。神楽は重い体を起こしてシャワーを浴びる終えると、真っ白な部屋で裸のまま窓の外を眺めていた。早く江戸に戻って銀時と抱き合いたい。今はそれしか考えられないのだ。それは体が求めると言うよりは、心が不安に陥っていて、少しでも早く安心したかった。そこで今朝、銀時が頭を撫でに来たことを思い出した。あまり会うのはよくないと言われたが、我慢できず銀時は会いに来てくれたようで神楽は嬉しくなった。

いつの間にか洗濯された銀時とお揃いのチャイナドレス。それに袖を通すと部屋を出て、銀時の部屋へと向かった。今日は変なガスを嗅がされていない事もあり、銀時を見ても襲いかかるマネはしなくて済みそうなのだ。神楽はドアをノックしようとして、僅かに開いている事に気がついた。悪いとは思ったが何の気なしに覗いてみると……銀時はこちらに背を向けてベッドに座っていた。その視線の先にはモニターがあるらしく――――――

「あッ、ぁ、ひぃ、イクイク、い……」

聞き覚えのある声とビチャビチャと言った卑猥な音。次の瞬間、神楽はその映像が何で、銀時が何をしているのかに気付いてしまった。銀時の右手はせわしなく動き、そしてモニターに映っているのは……昨日の自慰行為に耽る自分であった。どうやら銀時の”オカズ”にされているようなのだ。顔がカァっと熱くなり、恥ずかしさのあまり卒倒してしまいそうであった。

「かぐらぁ、イクッ、あ、あ」

そんな声が聞こえ、神楽は部屋へ踏み込むのを諦めると突然背後から口を手で塞がれた。そして引きづられると銀時の部屋の向かいである沖田の部屋へと連れ込まれた。ドアがガチャリと音を立てて閉まると、室内のドアの前で神楽は背後の沖田を目だけで睨みつけた。

「心配するな、俺以外にこのドアは開けられない仕組みらしい。一体どんな技術が使われてんだろうな」

まだ沖田は神楽の口を手で塞いだままでいるものだから、神楽は身を捩って沖田の腕の中から逃げようとした。すると沖田の部屋のモニターが着き、廊下の映像が映し出された。見れば銀時が部屋から出て、神楽の部屋へ向かっていたのだ。

「おい、神楽か?」

先程、ドアの閉まる音が聞こえ銀時が様子を見に来たのだろう。今、ドアが開けられると神楽が居ない事がバレてしまう。焦ったがこの部屋から出て行くことも出来ない。するとモニターの映像が切り替わり、男が映し出された。

「神楽様の部屋にロックをかけました。それと二回目の投薬を行います。今回はそちらの部屋にガスを送らせてもらいます」

「またあの変なクスリ!? 待って、ようやく抜けたところなのに!」

しかし、すぐにガスが通気口から送り込まれ、神楽はフラッと力が抜け沖田の胸へと倒れ込んだ。だが昨日のように倒れてしまうことはなく、すぐに沖田を押しのけ自分で立った。

「神楽様、今のものは昨日のものより1.5倍、人体の興奮を促します。もしご気分が優れない場合はすぐにおっしゃって下さい。治験を中止させて頂きますので」

そう言ってモニターは再び暗くなった。

「昨日より興奮するってマジかよ……もうキてんのか?」

「うるさい。黙って」

正直、沖田の顔を見るだけで昨日のことを思い出し、妙な気分になってしまうのだ。これがクスリのせいなのかは分からないが、みるみるうちにいやらしい気分が高まっていった。

「銀ちゃん部屋に戻ったみたいだから、私ももう戻るわ」

神楽は部屋へ戻り、早く自慰で気分を紛らわせないと。そう考えていた。だが、性玩具は沖田が管理することになった事を思い出した。使いたいのであれば沖田へその旨を話さなければならない。屈辱的であった。しかし、この男に再びこの体を触らせる危うさを考えたら、恥を偲んで申し出る方がずっとマシである。神楽は真っ赤な顔で俯き気味に沖田へと正直に話すのだった。

「あんたが……管理してる……オモチャあるでしょ……それ渡してよ」

沖田は神楽の顔を覗き見ると笑った。

「馬鹿だろィ。あんなもんで騙せると思ってんのか」

「どういう意味よ」

顔が近い。それが神楽の体温を更に上昇させた。昨日の激しい口づけ。そして擦りつけられた肉棒を思い出す。硬くて熱いあの野性的な肉体。火照る体は知っているのだ。それが与える刺激の大きさを。それはフィジカルに関してだけではない。そう、一番感じてはならない精神的な快感であった。

沖田は神楽のチャイナドレスのスリットに手を差し込んだ。そして太ももを撫で付ける。その間も神楽の瞳は沖田に貫かれ、動くことが出来ない。何もかもを見透かすような目。怖い。それなのにどうしても体は女性的な反応を見せるのだ。そんなことを考えている間にも沖田の手は神楽の内股へと滑り込み、そしてピタリと動きを止めた。

「今日はやめろって言わねーのか」

神楽はハッとして、そして赤い顔で沖田を強く睨みつけた。

「……どうせやめろって言ったって無駄でしょ」

「本当は俺に触られてーだけだろ」

「そんなわけないじゃない!」

神楽は内腿から動かない沖田の手にもどかしさを募らせていた。嫌になるくらい期待しているのだ。だらしなくその口は涎を垂らし始める。

「そうかィ。なら、これ持っていけよ」

沖田は神楽の内腿から手を抜くと、神楽に卑猥な形をした棒状の性玩具を差し出した。

「旦那も自分の女がそんな極太ディルドでヒィヒィ言ってると知ったら、どう思うだろうねィ」

銀時は先程、神楽の自慰行為の映像を観ていたのだ。もしこれを使えばそれも観られてしまうかもしれない。そう思うと沖田が差し出した玩具は受け取れない。銀時のカラダを知る前にこんなもので初めてを迎えたくないのだ。しかし、この身を放っておける状態でない事は既に分かっている。自分の指では限界がある。ただ切なくなって終わるだけだろう。もうそんなもので満足出来る時期は過ぎている。神楽は自分の指以外のものを膣へと欲しがった。そんな神楽を見透かしたのか沖田がニヤリと笑う。

「もっと良いもん、くれてやる」

そう言って沖田は神楽の唇に人差し指を引っ付けた。それを使って唇をなぞられる。神楽はゾクゾクと身を震わせるも沖田の行動が読めず不安になった。だが沖田は人差し指を神楽の唇の中へ差し込んでいくと舌先を優しくなぞった。

「ぁ、んひゃ?」

神楽が眉を潜めれば沖田がどこか満足そうな笑みで言った。

「テメーが今朝大事そうにしていた指だ。それでテメーを慰めてやるって言ってんだよ」

そんな筈はない。神楽は驚いて沖田の指を口から引っこ抜いたがすぐさま突っ込まれると、今度は舌を軽く摘まれた。

「あ、ああ! ひゃい!」

「なんだって? まぁいーや。それより旦那の手と間違えるくらいなら、この手に慰められたって……そう悪くはねぇだろ?」

今朝、ベッドの脇で神楽の頭を優しく撫で付けたのはこの手だったと言うのだろうか。違う。絶対にあの愛しい手つきは銀時のものだ。それは絶対に間違えない。自信がある。それなのに今は分からないのだ。何が嘘で何が真実なのか。

「テメーの中に入るんだ。たっぷり濡らせ」

この指が自分の奥底へと侵入する。阻止しなければいけないと頭では分かっているのだが、神楽のショーツは既にシミを作っていた。体中がジンジンと熱い。昨日沖田によって弄られたクリトリスは悦びを隠しきれなくなっていた。それでも言わないと。そんなことさせないとハッキリ口にしなければ。神楽は沖田の指を口から出すと否定した。

「触らせるわけないじゃない」

「誰もテメーの許可は求めてねーよ」

「馬鹿にしないで!」

神楽は沖田の体を掴むとぶん投げようとして……出来なかった。力が不思議なほどに抜けていく。気付けば沖田の胸に頬を寄せ、震える膝に掴まり立っているのがやっとだった。悔しい。せめて睨みつけようと顔を上げると――――唇を奪われてしまった。想像よりもずっと丁寧なキス。舌を舌でなぞりあげられると卒倒してしまいそうになった。そのままベッドまで連れて行かれるとベッドの上に投げ捨てられるように寝かされた。

「あんたに何が出来るって言うのよ」

昨日も神楽の体を触っただけだ。無理やり犯すことは沖田も望んではいないようだった。それだけでもどこか救われた気持ちであった。

「こんなにシミ作ってるやつがエラソーな口叩くとは。笑えるな」

仰向けに寝かされている神楽は力が入らず、沖田に大きく脚を開かれると、愛液が染み入ったショーツを見られてしまった。

「これはさっきのクスリのせいなんだから! 勘違いしないでよね!」

そう言って神楽は脚をどうにか閉じようとしたが、沖田にそれを阻まれてしまった。

「昨日は直に見れなかったが、今日はちゃんと確認してやる」

そう言って沖田は神楽のショーツに手を掛けると、腿の辺りまで引き下げてしまった。

「糸引いてらァ」

「……最低」

ショーツにベトっとついた濃い愛液は糸を引いており、神楽の肉体が男を欲しがっているのは明らかであった。真っ赤な顔で神楽は顔を横に向けるとその強気な目に涙を浮かべた。

「今すぐにでも指突っ込んで掻き回してやっても良いが……それじゃつまんねーだろ? 今からゲームしようぜ」

「ゲーム?」

神楽はどういう事かと沖田に耳を貸した。

「俺に従えば、テメーに触れずに部屋に返してやる」

どうやら沖田の命令に従うと、神楽に触ることはやめるようなのだ。それは神楽にとって朗報の筈なのだが、愛液が止めどなく溢れ出る肉体にとって悲報であった。だが、まだ認められない。沖田に指を突っ込まれ、かき回され絶頂を迎えたいなどと認めるわけにはいかないのだ。

「わかったわ……それで何すれば良いの? また口でしろって?」

沖田はニヤリと笑った。

「なんでィ。あれ気に入ったのか? とんだド変態だな」

「違うわよ!」

「安心しろィ。そうじゃねー。もっと簡単なことだ」

沖田はそう言って神楽から離れると大きなクローゼットを開けた。そして何かを取り出すと神楽の元へと戻った。その手に持たれていたのは……首輪とそれを繋ぐリード。ギャグボールにアイマスク。嫌な予感がした。

「これ着けることが出来れば、部屋に帰ろうが何しようが……テメーの好きにしろ」

「悪趣味にも程があるわよ」

神楽はこれを身につける自分を想像すると毛が逆立った。恐ろしい。しかし、これさえクリア出来れば沖田に体を弄られることなく部屋へと帰れるのだ。

「身に付ければ良いだけでしょ? 他は何もしないって約束してよね」

「全裸で身に付ければ良いだけだ。俺の指に犯されることを考えたら簡単だろ?」

その言葉に飲み込む以外の選択肢はなかった。全裸で……しかし、もう愛液まみれの性器までも見られているのだ。それなら身につけるくらい。神楽は黙って体を起こすと着ているものを全て脱いだ。白い肌が沖田の目に映り込む。形の良い大きな乳房。くびれた腰。丸い尻。神楽は赤い顔で生まれたままの姿になると、痛いくらい注がれる沖田の視線にうつ向いた。

「早くしてよね」

ゆっくりと沖田に手渡されたものを身につけていく。革で出来た太い首輪。それを細い首に着ければ自分が自分でなくなったような気がした。次にギャグボール、そしてリード。最後にアイマスクをつける。何もかもが見えなくなった。そして沖田の存在を先程よりも敏感に感じる。背後に息遣いが聞こえ、そしてリードを引っ張られた。

「こっち来い」

そう言ってベッドから引きずり下ろされると肩を押さえ込まれた。

「犬が二足歩行するかよ。ちゃんと四つ這いになれ」

「ん、ぐっ!」

言い返しているつもりだが口からはただ唾液が流れ落ちるだけだ。

「良いのか。いつでもテメーの中に突っ込めるんだからな。指だろーがなんだろーが」

神楽はその言葉に大人しくなるとしゃがみ込み、四つ這いになった。恥ずかしさと悔しさ。沖田にリードを引っ張られ、まるで本当の獣のように歩かされた。

「チャイナ娘、おすわりだ」

その言葉に何も出来ず四つ這いでじっとしていると沖田が違うと尻を叩いた。「ひゃぁ!」

「犬飼ってんだろ? おすわりって言ったらこうだ」

神楽はしゃがみ込まされると両手を床につかされた。まるで犬そのものだ。

「もっと脚を開けよ。その状態で待て」

神楽は震えていた。こんなポーズは恥ずかしすぎるのだ。開いた股のせいで割れ目から愛液がポタリポタリと床へ雫を垂らしていた。

「見られるのが好きだったとは以外だな」

そう言った沖田の気配が近づいて、そして顔の真横で声がした。

「もうビンビンになってんじゃねーか。触ってもねーのに、そんなに興奮するのか」

昨日の比ではない。神楽はフゥフゥと呼吸しながら疼く体をどうにか制御していた。

「さすがの俺もテメーには同情する。ってことで部屋に帰してやる。こっち来い」

リードを引っ張られ歩かされるとドアの開く音が聞こえた。まさかこの格好のまま廊下を歩かされるのか。神楽は立ち上がるとリードを首輪から取ろうとした。しかし沖田の手にそれを阻止された。

「分かってんだろうが、部屋まで戻れねーってことなら……」

続きは聞かずとも理解出来る。犯されるのだ。神楽は震える体でゆっくりと四つ這いになると犬のように歩き始めた。

ひんやりとした空気。銀時がいつ出て来るかも分からない恐怖と緊張。それが更に神楽を震え上がらせると神楽は弱々しい足取りで部屋を目指した。長く感じる。短い廊下だと思っていたのだが、こんなに部屋まで遠かっただろうか。

「そこでおすわり。一分間おすわり出来れば部屋を開けてやる」

もし今銀時が部屋から出て来たらどうなるのだろう。そんなことを考えながら一分を耐えた。沖田をぶん殴るだろうか。それともこの自分に幻滅するのか。とにかく怖い。怖いのだが、変わらずに愛液は床へポタリポタリと滴り続ける。

「よし、部屋へ入れ」

神楽は引きずられるようにようやく部屋へ戻って来ると、アイマスクを取った。目の前にあったのは大きな姿見でそこに映っていたのは恍惚の表情を浮かべるメス犬であった。赤く充血した秘部を光らせ、口は涎まみれ。トロンと緩んだ目元ははしたない姿を見られ興奮しているようであった。背後から沖田が神楽の髪を掴み頭を引っ張り上げた。

「見てみろ。スケベなメス犬だろ。それなのに犯されたくねーなんて嘘にきまってらァ」

「ん……な、わけないじゃない……」

否定したが、今目の前に居るのはどこからどう見ても変態趣味のあるMっ気の強い女である。でもそれもこれも全てクスリのせいなのだ。クスリが神楽をこんなふうにしてしまったのだ。悲しい。悔しい。情けない。色んな感情が混ざり、神楽は顔を伏せると涙を流した。沖田はそんな神楽に何も言わず服だけ置いて部屋から出て行った。それを着れば人間に……いつもの自分に戻れる。だけど神楽は銀時とお揃いのチャイナドレスを着る勇気が出なかった。なぜなら神楽の指は割れ目の中へと入り込み、刺激を求めていたのだ。グチョグチョと音が立ち、泡立っていく。それなのに少しも満足出来そうにないのだ。

「なん、で……んっ、う、うう……」

細く白い指がたどたどしく中をかき乱す。しかしやはり物足りない。それは沖田の目がないからか。それは沖田の言葉がないからか。それは沖田がいないからか。軽く絶頂に達してもすぐに高揚感が戻ってきて、いつまでも冷めることが出来ない。中途半端な快感。この先にある大きな波を神楽は求めていた。その波に飲み込まれ、たとえもう二度と戻ってくることが出来なくなったとしても。それでも良いからと今は本能に従い、ただそんなことを思っていた。

結局その日も神楽は満足に快感を得ることが出来ず、自分を誤魔化して一日を終えた。そのせいで銀時を襲ってしまう夢を見た。怯えるような軽蔑するような銀時の瞳。愛しい人にあんな目で見られることだけは絶対に嫌だ。それだけはどんな事があってもしてはいけないと、神楽は一人ベッドの上で誓うのだった。