これは、愛じゃない

 

一日目

 

よくある恋人同士のそれとは少し違った関係。

万事屋の銀時と居候兼従業員の神楽は互いの想いには気付いてはいるも、今一歩踏み出せないでいた。それはやはりこの今の関係が壊れる恐怖と、あとはぬるま湯のような心地の良い手放すには惜しい日常があったからだ。リスクを取って関係を進展させるくらいなら、変わらない事を望む。この傾向は神楽よりも銀時の方がやや強く見られた。神楽はと言えば、最近一人の女性として銀時に認めてもらいたいと欲をかき始めていたのだ。そろそろ蕾の時期も終わりを迎えようとしている。今にその麗しい花びらを開花させ、芳醇な蜜の香りに蝶が群がるだろう。しかし銀時はまだその予兆に気付いていない。まさか既に神楽を見つめる熱い瞳が存在するなど夢にも思っていないようだった。

 

そんなある日のこと。銀時がなにやら緩みきった顔で居間のソファーに座る神楽にもたれかかった。

「なぁ、神楽ちゃん。ちょっと聞いてくんない?」

神楽はテレビ画面を見ながらも「何?」と軽く返事をした。肩に回されるたくましい腕に心臓が高鳴り、頬まで熱くなっていたが平然とした顔でおくびにも出さなかった。

「あー聞きたい? そう、どうしてもって言うなら、まー教えてやらねえ事もないけど」

少々腹の立つ言い方ではあったが、どうしても神楽に聞いて欲しい話である事は推測出来た。少し前なら「さっさと言えよゴルァ」と言ったところだが、すっかりと大人の女性の色香をまとった神楽は余裕のある態度で耳を傾けた。

「はいはい、聞いてあげるからもう少し落ち着いてよね」

銀時の腕を肩から外した神楽はもたれかかる銀時の顔を見た。相変わらず締まりのない顔で、更にいやらしい笑みまで浮かべている。それでも神楽の心臓は煩い程に飛び上がっていて、思わず目を伏せた。

「これ、見てみろよ」

そう言って銀時が差し出した一枚のチラシ。神楽はそこへ視線を落とすと書かれている文字を読んだ。

「新薬の治験?」

どうやらある製薬会社が新薬を開発し、その薬の効果を試す為にアルバイトを募集しているようであった。そこには条件が書いてあり、見れば銀時と神楽にぴったりと当てはまるのだった。

「18歳以上の健康体の男女一組。恋人同士大歓迎……期間は1週間……報酬は……」

次の数字で神楽はうるさかった心臓がピタリと止まってしまったのだ。

「な? 新八には悪いけど、俺とお前で山分けってことでどうよ?」

「で、でも一千万円って、なんかちょっと怪しくない?」

銀時もそこは一応悩んだらしいのだが、製薬会社に確認したところ身体的苦痛が残ると言うことはないらしく、またきちんと書面で契約を結ぶ旨を聞いていた。

「それにお前、一千万円もあったら何出来るか考えてみろよ」

「たまってる家賃払って、来月分の家賃も払えて、お米……お米が買える!」

そこで銀時に額をペシッと叩かれた。

「もっと何かねえの? たとえば、新しいチャイナドレスが欲しいとか……指にはめる、でっかい石のついたなんかとか」

神楽は耳を疑った。そして瞬きをぱちぱちと繰り返してみる。今銀時はなんと言ったのか。心の中で復唱してみるとようやくそこで嬉しさが込み上がり銀時の顔を見つめ返した。

「指輪ってこと?」

「…………お前が欲しいなら、まぁ、そういうのもアリなんじゃね?」

銀時の頬もいつになく赤く、ただのアクセサリー以上の価値がその指輪にはある事が分かった。だが、どうも煮え切らない。今ここで二人の関係を大きく変えてしまう程の言葉があれば良いのだが、互いの口からそれらが出ることはなかった。それでも銀時が関係を発展させようとしている事が分かっただけでも神楽にしてみると大きな収穫であった。

「じゃあ、良いわよ。その治験に応募しても」

神楽のその言葉を聞いて銀時は早速製薬会社に連絡をすると、翌日には喫茶店へと呼び出されるのだった。

 

 

「では、こちらの契約書にサインをお願いします」

テーブル席の向かいに座ったサングラス姿のスーツ男。神楽と銀時は少し緊張した面持ちで一枚の紙切れに名前を書いていた。契約書には期間は1週間で終わる事と、身体的苦痛が残らないこと、そして契約中は全て製薬会社の指示に従う事などが書かれていた。

「あのー、念のためと言いますか聞いておきたいんですけど、この「指示」ってものに従わないとどうなるんでしょうか?」

銀時が頭をクシャッと掻きながらスーツの男に尋ねた。

「その時点で治験は終了し、お約束の報酬はお支払できなくなります」

「はいはい、そういう感じね」

神楽としては痛みには強く体は丈夫な方なのでさほど心配はなかったのだが、銀時が何か辛い目に遭うだとか、そんな姿を見る事は出来れば避けたいと思っていた。男の言う「指示」が何であるかは分からないが、淡々と眉一つ動かさない男にこの製薬会社と言うものが随分と冷たい組織に思えてならなかった。結果を得るためなら倫理的に問題のあることすらも厭わないような、どこか不吉なものを感じていた。だが、隣に座る銀時の言葉が蘇る。指輪を送ろうとしてくれたこと。舞い上がらないわけがない。神楽は気にしすぎなのかもしれないと考え直すと契約書にサインするのだった。

「……これにて私は失礼します。では、またお会いしましょう。詳しいことはじき……じき、分かると思います」

スーツの男は妙な言葉を残して席を立つと喫茶店を出て行った。

「案外あっさりしてるもんだな」

銀時はそう言っていちごパフェを口に運んだ。神楽はやはり何か胸騒ぎを感じずにはいられなかったが、もう契約書にサインをしてしまったのだからと、考えることをやめにするのだった。

 

その後、二人を店を出て夕方のかぶき町を歩いた。万事屋まではこの空き家裏の道を通り、少し行けば5分もしないで着くだろう。人気のない細い路地を銀時と神楽は並んで歩くと、一瞬軽く手が触れた。互いに顔を見合わせる。どこか照れくさい。そんな事を考えていた時だった。次の瞬間には辺りに漂うガスに足元がふらつき、気づけば意識を失ってしまった。

 

 

何の音も聞こえない。いや、僅かに空調の音が耳に入る。神楽は重い瞼を強い意志で持ち上げるも、真っ白な光に目を強く瞑った。眩しい。だが、一瞬見えた。どこかの部屋の天井が。再び神楽は目を開けると、今度は真っ白い部屋と大きなベッドに横たわる自分の体が見えた。手は動く。足も動く。そしてベッドの上に体を起こしてみると、そこは見ず知らずの部屋で大きな窓からは……空しか見えなかった。

「銀ちゃん?」

声も出る。だが返事は聞こえない。何故ならこの部屋に銀時の姿が見えないからだ。一体どうなってしまったのか。ベッドの正面に見える部屋のドアから出ようと立ち上がった時だった。壁掛けモニターに何かが映し出されたのだ。

「神楽様、この度は我が社の治験に応募してくださり、ありがとうございます」

サングラスを掛けたスーツの男がそう言ったのだ。だが、喫茶店で会った男とは別人のようだった。

「どういうこと? ちゃんと説明しなさいよ!」

神楽が食って掛かるとスーツの男は淡々と治験の説明を始めたのだ。

「突然のことで驚かれているでしょうが、只今より治験を開始します。この治験では開発した薬品をガスにし、経過観察をしていくことが目的です」

「そんなこと聞いてんじゃないわよ! 拉致までして……銀ちゃんはどうしたのよ!」

するとモニターに別室にいるであろう銀時の姿が映し出された。神楽のいる部屋よりは小さめの部屋で、ベッドの上で眠っているように見えた。

「大丈夫ですよ。彼も目を覚ましますので」

「こんなやり方聞いてないんだけど」

正直もうお金などどうでも良かった。契約を破棄し、銀時を連れて万事屋に帰ろうと考えていたのだ。神楽は部屋から出ようとドアノブに手を掛けた――――――プシューと言う音と同時にガスが部屋に充満していく。

「何なのこれ!」

悲鳴にも似たような声をあげ、神楽は息を止めたが上手く行かず、結局は吸い込んでしまった。甘い香りがついていて、嫌なものではなかったが効能が何であるのか分からない上に怪しい製薬会社の開発したものだ。出来れば吸い込みたくはなかった。

「念のため申し上げておきますと、この建物から出て行く事は不可能だと思います」

しかし、神楽は言葉を無視し、部屋を飛び出した。そして、廊下に出ると正面と左右にドアが一つずつあった。

「ここ、一体どこなの……」

そう呟いた時には神楽の体には既に嗅がされたガスの効果が出始めていたのだ。熱っぽく、体の奥底がジンジンと熱い。だが、今はそれどころじゃないと銀時の姿を探した。正面のドアか右のドアか左のドアか。きっとそのどれかに居る筈だ。神楽は迷わず一番近くにある左のドアを開けてみた。

「銀ちゃん!」

そう叫んで飛び込んだ神楽の目に映ったのは、ベッドの上に横たわる一人の男の姿だった。上下黒の隊服に身を包み、よく見知った顔の男――――――そこに居たのは真選組の沖田総悟であった。

「なんで? どういうこと?」

神楽は後ずさりすると部屋を飛び出し、今度は右手のドアを開けて駆け込んだ。先程の部屋と対になっている造りで同じようにベッドがあり、そこへ横たわっていたのは紛れもなく銀時であった。神楽は体を揺すると銀時に呼びかけた。

「銀ちゃん!」

しかし、全く反応を見せない。強く揺すっているのに起きないのだ。

「どうして……」

すると壁掛けモニターがつき、スーツの男がその答えを神楽に伝えた。

「我が社が開発した新薬を既に投与していまして、目覚めるには脳へある電気信号を送らなければならないのです」

「じゃあ、さっさと流してよ! 電気だか電流だか分かんないけど!」

神楽はモニターを睨みつけるも、呼吸が上がり、既に自分の身がおかしくなっている事には気付いていた。たまらなく切ないのだ。ただでさえ大きな乳房は先程から痛い程に張っており、下腹部に感じる湿り気が何かも分かっていた。色んな感覚に敏感になっているせいか今も眠っている銀時を揺する手が銀時の熱に触れて、妙な気分にさせられるのだ。

「こちらから電気信号を送るのはどちらか一人とさせて頂きます」

「どちらか?」

「はい、坂田様か沖田様のどちらかとなります」

言っている事が理解出来なかった。どちらか一人しか目覚めさせられないと言うことなのだろうか。神楽は怪訝な顔でモニター尋ねた。

「なんであいつがいるの?」

あいつとは沖田のことだ。この治験に沖田が関わっているなど、神楽は知らなかった。いや、銀時だって知らなかった筈だ。

「そちらの説明はあとでさせて頂きます。神楽様、どちらを目覚めさせたいですか?」

答えはもちろん決まっている。

「銀ちゃん」

すると、スーツの男は忘れていたとある情報を神楽に伝えた。

「こちらが電気信号を流さなかったもうひと方は、永久に眠り続けることになりますが宜しいでしょうか?」

いくら沖田が憎たらしいとは言え、そんな事は望んでいなかった。永久に眠り続けるなど死と同等だ。神楽はさすがに待ってと言うと考え込んだ。するとそれを察したらしくスーツの男が更に情報を神楽に与えた。

「ですが、唯一電気信号以外で目覚めさせる方法がございます。神楽様の口づけにより、目覚めさせる事が可能です」

神楽はその言葉にドキッと心臓を跳ねさせると、目の前の銀時を見つめた。それは方法が口づけだからだと言うよりも、自分の頭に浮かんだ事柄について恥じた。キスをする大義名分が出来たと一瞬喜んだのだ。スーツの男はそんな神楽の思考すらも見透かしたように提案する。

「沖田様を電気信号で目覚めさせ、坂田様は神楽様の口づけで目覚めさせると言うのはどうでしょうか?」

神楽は眠っている銀時の唇を見つめながら、体の奥底から抑えきれない感情が溢れてくるのに気付いていた。それがあの嗅がされたガスのせいであると言うことも。もはや提案を飲み込まない理由はない。体が求めていて、状況も作られているのなら銀時に口づけをしたって構わないのだ。それにその事実を銀時が知ったところで叱られると言うこともない筈。神楽はゆっくりと唾を飲み込むと小さな声で言った。

「……それで、良いわ」

その言葉を呟いたと同時に神楽は我慢しきれないと言ったふうに眠っている銀時に跨がり覆いかぶさった。

「銀ちゃん、ごめんね」

やはり罪悪感はある。こんな状況で二人が唇を重ねることは想定もしていなかった上に望んではいなかったからだ。神楽は自分の顔を銀時に近づけると唇を落とすのだった。

温かい。思いのほか柔らかい。それを軽く唇でついばむ。ダメだと分かってはいるのだが、舌先を覗かせて軽くなぞる。はしたない。そんな言葉も頭に浮かぶ。目覚めさせる為の口づけに神楽はひどく興奮しているのだ。そんな自分がとても穢れたもののように思えた。

「……ん……っん?」

神楽の舌先が銀時の唇を割ろうとした辺りで銀時の目が覚めたようだ。どんな原理なのかは分からないが本当にスーツの男の言った通りになった。

「ぎん、ちゃん」

はぁはぁと息を弾ませ紅潮した頬で神楽は銀時を見つめた。見慣れた瞳は激しく揺れており、まだこの状況を把握しきれていない事が分かる。無理もないだろう。神楽ですら体の求めるままに動いているだけで、頭は追いついていないのだ。

「なんでお前……つうか、ここどこだ?」

ベッドの横には大きな窓があり、そこから見えるのはやはり空だけである。

「銀ちゃん、ここから出よう」

そう言って神楽がベッドの上に体を起こした銀時に抱きつくと、険しい表情の銀時は神楽をなだめるように頭を撫でた。

「変な薬を嗅がされたところまでは覚えてんだけど……おいおいおい、ここまさか……宇宙船じゃねえだろうな」

するとその銀時の言葉に反応したのか再びモニターがついてスーツの男が現れた。

「ご名答。そこは宇宙船の中です。ですので江戸にお帰りになることは不可能かと思います。一週間後、必ず帰しますので治験に最後までお付き合い頂きたく思います」

銀時と神楽の顔が青ざめる。やはりうまい話には裏があるのだと思い知ったのだ。

「銀ちゃん、今キスしたのも薬のせいで……」

「分かってる、分かってるから」

銀時は再び神楽を抱きしめると頭を撫で付けた。大きな手に包まれた神楽は体の状態とは反対に心は穏やかに落ち着きをみせていた。何があっても銀時となら大丈夫だと、そう思えるのだ。

「坂田様、神楽様、難しく考えないでください。この一週間で守ってもらいたい事はただひとつです」

二人はモニターを睨みつけた。恐怖心はない。ただ騙されたようで腹が立つ。混乱と言うよりは静かな怒りに包まれていた。もうどんな事を言われても驚かないくらいにこの治験が異常であることだけは分かっていた。

「神楽様、絶対に坂田様とセックスをしないで下さい。繰り返します。神楽様、絶対に坂田様と――――――」

神楽の耳は真っ赤に染まり、我慢しきれなくなった神楽はモニターに掴みかかった。

「す、するわけないでしょう! 何いってんのよ! バカじゃない! しねしねしねしね!」

神楽は背後のベッドの上に居る銀時をちらりと見ると、いつもと変わらない表情をしている事に驚いた。

「なんだよ。もっとキツイことかと思ったけど、それなら余裕だな」

「そ、そうよね、余裕すぎて腹が立つくらいよ」

神楽はショックを受けた。銀時にとって神楽と性的な関係をもつ可能性はないようだからだ。好きなら触れられたいとも思うし、触れたいとも思う。それなのに銀時にはそんな気はないようであった。こんな状況にも関わらず神楽は傷ついた。

「神楽様がもし約束を破られた際は報酬はお支払できません。その他は自由に過ごしてくださって構いませんし、食事等は廊下突き当りの部屋にて支給されますので」

この宇宙船の構造はよくわからなかったが衣食に困る事はないようだ。

「それと随時、指示を行いますのでその時は素直にしたがって下さい。制限時間内にクリアできなければその時点で治験終了となり報酬はお支払できません」

つまりスーツ男の指示を守り、銀時とセックスをせずに一週間を過ごせば報酬がもらえると言うことらしい。

「では、神楽様。自室へと戻って下さい。坂田様は待機でお願いします」

部屋を出る前に神楽は銀時を見るも、少しも不安な様子はなく、随分と呑気に見えた。まさか神楽の身に異変が起きているなど想像もしていないようだ。神楽は今すぐにでも銀時と――――――セックスがしたかった。だが、この一週間何もせず乗り切らなければならないのだ。

「銀ちゃん、じゃあ……」

「おう」

神楽は潤んだ目でそう言うと逃げるように元居た部屋へ戻った。その途中、沖田がいるであろう部屋の前を通った。

「なんで、あいつが?」

首を傾げたが今はそんな事よりも早く部屋に戻って気持ちを落ち着けたいと考えた。これから一週間地獄のような日々が待っている、そんな予感だけが神楽を取り囲んでいるのだった。

 

 

部屋に戻った神楽はベッドにダイブすると仰向けに寝転がり、両膝を立てた。そして足をはしたなく広げる。銀時とお揃いの生地で仕立てたチャイナドレス。元々は銀時の着物だったのだが、神楽はそれをチャイナドレスにして身にまとっていたのだ。そのチャイナドレスの裾からゆっくりと手を入れると太ももを撫であげ、そしてショーツ越しに疼きの源である秘部へ指を這わせる。

「……んっ」

体がいつになく敏感だ。ただショーツの上から割れ目をなぞっただけだと言うのに蜜が広がり、シミをつけてしまった。指先がヌメッと濡れる。ダメだと分かっているのだが、慰めたくて堪らなくなる。どこにカメラがあり監視されているのか分からないのに神楽の指は貪欲に体を弄るのだ。

「ダメ……だからっ……」

ショーツの脇から自分の細い指が侵入しようとしていた。自分の体だと言うのに少しも制御出来ないのだ。片手は胸へと伸び、大きな乳房をゆっくりと揉みしだき始めた。吐息が漏れる。白い肌は紅に染まり、艶っぽい色香をまとう。誰が見てもその花は芳香を放ち、舞う蝶を誘っているのだ。

神楽はチャイナドレスのホックを外すと胸をさらけ出し、両乳房を引っ張り出した。上向きの張りの良い乳房は外気に触れ、一気に乳首を勃起させると神楽はその小さくも硬い乳首を指でつまんだ。

「ひゃぁ、んッ!」

体に走る快感の波。そのせいで体は仰け反り、大きな声が出た。今までに感じたことのないような快楽。それがこの身を撫でるだけで感じることが出来るのだ。嗅がされたガスのせいなのだろう。一体製薬会社は何を作っているのか。しかし、そんなことすらも考えられない程に神楽の身も心も性的興奮に包まれていた。

その時、突然ベッド正面のドアが開き、神楽は慌てて身を起こした。見ればドアの向こうに居たのは沖田であったのだ。目が合う。さすがに驚きの表情は隠せず、だが用があるらしくゆっくりと部屋の中へ入ってきた。バタンとドアが音を立てて閉まる。

「何しに来たのよ!」

まだはだけている胸元を両腕で隠しながら神楽が叫んだ。

「誰のせいでこうなったと思ってんでィ」

神楽は沖田に背を見せて急いで胸をしまうと、両腕で体を抱いたまま沖田へ尋ねた。

「なんの話?」

「しらばっくれるな。テメェが俺をこんな恐ろしい部屋に呼び寄せたんだろ? さっきスーツの男から話を聞いた」

沖田はゆっくりと神楽との距離を詰めるとベッドの端に手をついた。そしてそこに腰掛けると足を組んだ。

「テメェらが妙な会社と契約したせいで、天敵として俺が連れて来られたってな。なんでィ、その天敵って?」

「こっちこそ知りたいわよ。私は何も言ってないし、あんたがここに居ることだって知らなかったんだから」

冷静に会話をしているのだが、先程の淫らな姿を見られてしまったのではないかと神楽は気が気じゃなかった。もし沖田に自慰行為を見られてしまっていたとしたら、一生の不覚なのだ。だが、こちらに背を向け喋る沖田はいつもと同じに見え、別段変わっては見えなかった。その様子に僅かに安心したのも束の間、一瞥した沖田の顔には薄笑いが張り付いており、神楽は表情を強張らせた。

「俺に構わず《さっきの続き》やってみろよ」

やはり見られていたのだ。顔が真っ赤に染まる。そうじゃなくても火照りに参っているのだ。

「なんのことよ……」

誤魔化してみようとしたが逃げることは出来ない。沖田の緋色の瞳がこちらに迫って来たのだ。ギシリとベッドが軋みスプリングが沈む。四つ這いになりこちらへ迫る沖田は何を考えているのか読めない目をこちらへと向けているが、この状況で考えることなど一つだろう。ましてやこの沖田だ。神楽は数日前に江戸の街で沖田とやり取りした会話を思い出していた。

 

 

銀時から治験の話を聞く数日前のこと。そよ姫と遊んだ帰り、夜のかぶき町を歩いている時だった。検問中の真選組に呼び止められたのだ。

「ちょっと急いでるんだけど」

神楽はそう言って振り切ろうとしたのだが、腕を捕まれ引き留められてしまった。面倒だと思い振り返るもそこに居たのは沖田総悟で神楽は余計にムッとしたのだ。

「攘夷浪士の取り締まりなら私を捕まえることないでしょう」

「これは別件だ」

そう言って沖田は神楽の腕を掴んで引き寄せると耳元で囁いた。

「てめー、旦那と出来てんだろ? いくらでも理由みつけてしょっ引けるってこと、覚えておけよ」

そう言い終えた沖田の顔には軽い苛立ちが見え、神楽はそれで分かったのだ。沖田はこの自分に気があり、妬いているのだと。神楽は腕を振り払うと長い髪を揺らして言った。

「欲しかったら欲しいって言えば良いでしょ? あげないけど」

沖田の表情を確認する前に神楽は逃げるように駆けて行った。あの沖田がまさかこの自分に興味をもっていたとは信じられない気持ちだった。突き詰めれば《負かしたい》と言う欲求なのだろうが、それでもこちらへ向けられる熱い瞳は間違いなく神楽を一人の女として映しているのだ。

 

そんな数日前の事を思い出し、神楽はこちらへ迫る沖田を浅い呼吸で見つめていた。

「この間、てめー言っただろ? 欲しかったら欲しいと言えって」

「でも、あげないって言ったでしょ」

「そうじゃねぇ」

沖田は何がおかしいのか声を出して笑うと神楽の体をベッドへ倒し、上から覗き込んだ。

「てめーに言ってんだ。欲しかったら《下さい》って言え」

「バカなこと言わないでよね」

強気ではいるが動揺は隠せない。立場が逆転したような不利な状況である。だが、いくら体が疼いたとしても沖田を求めることは絶対にない。それだけは分かっている。

「知ってんだよ。てめーの体に何が起きてるのかも、旦那とセックス出来ないことも全部。だから俺が慰めてやっても良いって言ってんだ」

「……なによその言い方、ふざけないで」

神楽は潤む目で睨みつけるも沖田は目を細め、喜んでいるように見えた。ゾクリと背筋が震える。しかし、そんな気持ちを無視するかのように体は新たな刺激を求めているのだ。嫌になるくらいに。

「別に誰もてめーと寝るなんざ言ってねーだろ。ただ、俺なりに哀れんでるだけでさァ。苦しいんだろ?」

沖田はそう言うとこちらに手を伸ばし神楽の熱い頬をゆっくりと撫でた。

「はッ、ん……やめ……」

妙な声が漏れる。触られただけなのに気持ちよさを感じるのだ。それは心地よいという類のものではなく、明確な性的興奮だ。

「……まぁ、いーや。その気になれば部屋に来い」

そう言って沖田は神楽の上から退くとベッドから降りた。そして部屋を出る前にこう言ったのだ。

「旦那はどうか知らねえが、てめーの部屋の様子は俺の部屋のモニターから見れるようになってる。じゃあな」

バタンとドアが閉まる。神楽は沖田の言葉に動揺が隠せなかった。もしかすると今の様子も銀時に見られているのかもしれないのだ。神楽はこの部屋を見ているであろうスーツの男へ呼びかけた。

「今の話聞いてたでしょ? どう言うことか説明しなさいよ」

するとモニターがつき、男が現れた。

「今回の実験では沖田様の協力が不可欠でしたのでお連れさせてもらいました。そしてモニターの件ですが沖田様のみ神楽様の様子がご覧になれます。そして坂田様は沖田様がいる事をまだ知らない状況です」

一体何が目的なのか。神楽はこの肉体の欲求にいつまで耐えなければならないのかと不安でいっぱいだった。

「それとこれ、いつ終わるの……」

「時間経過で自然と治まります。ですが快楽を得るとより早く薬が抜けます。ご自身でと言うことであればクローゼットに玩具を取り揃えておりますのでお好きにご使用下さい」

そう言ってモニターは暗くなると神楽は少し悩み、そしてドア横のクローゼットに向かった。別に使用するつもりはないし、ただ確認する為に見るだけだと言い聞かせ扉を開いた。

「嘘でしょ……こんなの……えっ、ふーん……」

驚きと衝撃と興奮が一気に押し寄せてきた。コスプレ衣装から大人のおもちゃ、他にもありとあらゆるアダルトグッズで溢れていたのだ。使用したい。そんな欲が生まれるがこの部屋は沖田に見られているのだ。自分で慰める所をあの男に見られるなど死んでも嫌だ。だが、既に神楽のショーツはぐっしょり濡れており、何かを突っ込んであげなければあまりにも可哀想である。銀時の元へ向かい、セックス以外の方法で慰めてもらうと言う手段もあると考えた。神楽は銀時に今自分の身に起こっている事を話しに行こうと決めると、部屋を出て廊下の右手にある銀時の部屋をノックした。

「銀ちゃん、ちょっと良い?」

「入れよ」

神楽は部屋へ入るとすぐに銀時の匂いを嗅ぎ取った。体が大きく反応する。今すぐにでも抱いて欲しいと本能的にオスを求めると、ベッドの上で寛ぐ銀時に飛びかかり体を押し付けた。

「えっ、なに? 神楽?」

「銀ちゃんごめんね。私、薬のせいでおかしくなちゃった……」

そう言って銀時を押し倒した神楽は被さり口づけをすると先程ではたどり着けなかった銀時の熱い舌へ辿り着いた。

「んー!」

銀時は急のことに慌てふためくとベッドをタップして神楽を引き剥がした。

「待て、落ち着けって。分かったから。ちょっと待て」

「でも、銀ちゃんが欲しくて欲しくて、体がおかしくなってるの。どうすれば良い?」

神楽は目に涙を溜めて銀時に迫るも銀時は難しい顔をしたまま動かなかった。どうやら何か思うところがあるようなのだ。

「神楽、お前には悪いとは思うけど、ここは我慢してくれ」

「それって……お金が大事だから?」

「そうじゃねえ!」

神楽の言葉を遮るように銀時は大声を出すとベッドの上で胡座をかき、頭をクシャッと掻いた。

「お前とこんな所で、こんな形で……結ばれるつうの? そう言うのは……望んじゃいねえよ」

「銀ちゃん……」

確かにこんな薬で発情させられてワケも分からず結ばれるなど、神楽だって望んでいない。

「それに分かるだろ? キスじゃそのうち収まりつかなくなるって……だからここじゃそう言うのはなしな!」

銀時は照れくさそうに笑って神楽の頭をいつかのように撫でた。それに応えるように神楽も笑みを浮かべて見せたが、もう前の子供だった頃とは違うのだ。持て余している熱が放置するだけではもう冷めないと知っている。つまり銀時によってその熱を下げさせてもらえないのなら、自分で……或いは……神楽は胸の奥が痛んだ。

「でも、それじゃあこの体が治まるまで会えないてこと?」

「一週間だろ? なんてことねーだろ。それが終わればまた飽きるほど狭い万事屋で二人になれるだろ?」

「……そっか、そうよね」

銀時は沖田の存在を知らないが故にそう言うのだろう。ならば、沖田が居ることを銀時に伝えればこの考えを改めるだろうか。神楽は頭の中でそんなことを考えた。しかし、体が妨げる。頭の働きは鈍くなり、代わりに体が疼き、今も銀時を欲するのだ。そして余計な事を口走ってしまう。

「触ってもらう事もダメなの?」

銀時の顔が歪み、頬が染まる。

「それだけじゃ済まなくなんだろ? 分かる? 神楽ちゃん」

「エッチしたくなるってことでしょ?」

「分かってんじゃねえか……だからやめとこうぜって話してんだろ」

聞き分けが悪いと言われるだろうが、神楽は再び銀時に迫ると色づく唇で言葉を吐いた。

「でも、やってみなきゃ分からないでしょ?」

さすがに銀時もグラッと揺れて、目線が泳ぐ。悩んでいるようなのだ。しかし銀時は頭を横に大きく振ると神楽の両肩を掴み遠ざけた。

「やっぱ良くねえって。それに銀さん、シャイだし、自宅以外ってのはちょっと……」

「分かった」

神楽は銀時の気持ちを理解すると諦めることにした。自分で慰めるほか無いようだ。神楽は銀時の部屋を出ると自分の部屋へ戻り、ドアを閉めた。そしてすっかりと汚してしまったショーツを脱ぐとクローゼットの中からローターを取り出した。使い方は知っている。前に友人の兄の部屋にあったアダルトな動画を見たからだ。

神楽はベッドの上でM字開脚をすると電源の入ったローターをクリトリスへと押し当てた。体がビクンと跳ね、口元がだらしなく緩み誰にも見せたことのない表情になる。

「ぁ、ぁ、ぁ、ああ、ぁ……」

着衣は乱れ、乳房が大きくはみ出し、尖った乳首を片手で弄りながら神楽は快感に酔いしれた。中の方が切なくなる。奥までもっと満たされたい。神楽はあと少し満たされない自分の体に苛立ちを覚えた。このままでは火照りが収まりそうにないのだ。でも、これ以外に方法は知らない。自分で慰める以外に方法は……沖田の顔が頭に浮かぶ。だが、それだけは絶対に許してはいけないのだ。いくらこの体を鎮めてくれる可能性があったとしても沖田だけは頼っていはいけない男だった。それなのに満足しない体は訴えるのだ。治療だと思って沖田を頼れと。神楽は気力だけで善からぬ考えを振り払うと頭を冷やす為にもバスルームへ向かうのだった。

 

 

足りない。満たされない。油断すれば体を洗う手が胸や下腹部へ伸びてしまう。しかし、神楽はここで性欲に負けてしまうことになれば銀時との将来はないと思ったのだ。沖田と何か間違いが起こればもちろん、銀時とここで結ばれてしまう事もそうだ。どちらも絶対に避けなければならないことであった。

風呂から上がった神楽はクローゼットの中から着替えを取り出した。見たこともないセクシーな下着にミニ丈のチャイナドレス。明らかに性的なものである。神楽は銀時とお揃いのチャイナドレスは用意されていた専用のボックスに入れると真っ赤なチャイナドレスに袖を通した。

先程よりは随分と気分も落ち着いて来てはいたが、壁にかかった姿見に映る姿は自分で見ても男を誘っているような雰囲気だと思った。

「神楽」

突然ドアが開き、銀時が入ってきた。

「なっ! 銀ちゃん、ノックくらいして!」

「いや、悪い。飯、向こうの部屋で食えるって」

どうやら洗濯物は専用ボックスへと入れると翌日洗濯されて戻ってくるらしく、食事は廊下の突き当りの部屋にある大きな食品庫に一日三食用意されるようなのだ。薬の影響さえなければ悪くない環境なのだが、今は妙な気分に打ち勝つことだけを考えていた。

「神楽、大丈夫か?」

時折こちらを気遣う銀時が憎らしかった。そんなふうに優しくするのなら、その手で愛して欲しいと思うのだ。

その後、神楽は銀時と食事をとることにした。沖田が今何をしているのか気がかりではあったが、食事の時くらい忘れたいと考えないことにしたのだった。

 

「ごちそうさま。もう寝るわ。じゃあね、おやすみ」

神楽は一人先に食事を切り上げた。いつまでも銀時の側に居てはよからぬ事を考えてしまいそうだからだ。名残惜しさはあったが、銀時に挨拶をすると部屋へと戻った。

「それでどうでィ? 考え直したか?」

部屋へ入ればベッドの上に濡れた髪の沖田が居たのだ。それもバスローブ姿で。

「何考えてんのよ」

神楽はプイっと横を向くと窓辺に向かい外を眺めた。既にそこは夕日が落ち始め、薄紫色の景色が広がっている。

「分かってんだろうが、俺に惚れろなんて下らねえ事を言うつもりはねぇ。ただ旦那が出来ない事を俺がしてやろうって話だ。悪くねえだろィ?」

「なんであんたがそこまでするの? こっちも言っておくけど、どんな事したってあんたに惚れるなんて事ないから」

沖田は窓辺に立つ神楽の背後に立つと長い髪をすくい上げた。それを指に絡めると目を細めて言った。

「勘違いするな、馬鹿チャイナ。旦那からテメーを取り上げてどんな顔するか見てみたいだけだ」

「悪趣味……」

しかし、神楽の心臓は爆発しそうに脈を打っていた。口付けられた髪と肩に置かれた手。またしても体は疼き求め始める。

「まだイッてねえーんだろ?」

耳元で囁かれる言葉に神楽はきつく目をつぶった。誘惑に負けてはダメだと。しかし、次の瞬間体の力は抜け、神楽は立っていられなくなった。耳に口付けられ、甘噛されたのだ。

「やめっ、て……」

膝から崩れそうになった体を沖田は抱きしめると、そのまま抱え上げてベッドまで運んだ。

「変なことしたらタダじゃおかないから!」

口だけはまだ強気であったがベッドに寝かされた体は無防備であった。短い丈のスカートから今にも下着が見えてしまいそうだ。だが、それを隠す力は残っていない。

「さっきコレ使ってただろ?」

そう言って沖田が取り出したのはローターであった。電源をいれるとブルブルと震え、それを沖田は神楽の白い太ももに押し付けた。

「いや、しないで……」

そう言って顔を横へ向けたが、肌の上を滑り徐々にスカートの中へ移っていく振動に期待値が膨らむ。言葉とは真逆であった。それを沖田も分かっているのか顔色一つ変えずに、むしろ楽しそうに手を滑らせていく。そうして神楽のスカートの中に手が消えるとレースの薄いショーツの上からローターを押し当てた。

「んッ、ん」

神楽は想定できない沖田の手の動きに腰がガクガクと震えると必死に声を我慢した。しかし感じている事は隠しきれず、穿き替えたばかりのショーツにシミが広がった。

「クソガキもすっかり女だな」

「うるさい、黙って……」

しかし、沖田が強めにローターをクリトリスに押し当てると神楽は言葉を途切れさせ、苦しそうに呼吸をするので精一杯であった。

「あれで満足しなかっただろ? 物足りねぇ理由を教えてやろうか?」

どこか女の扱いに慣れているふうな口ぶりだ。まともな恋愛などしたことなどなさそうな男だが、女とこうした関係を結ぶことはお手の物と言ったところだろうか。尚更腹が立った。

「あんたに教えられなくたって……別に……」

そう言った神楽に沖田は被さると目線を合わせてきた。

「てめーに足りねえのは……この”俺”だ」

そんなわけない。はっきりと否定出来る。それなのに唇は少しも動かず、ただ必死に呼吸をしているだけだ。今口を開けば危険だと分かっている。唇から漏れ出るのはきっと自分でも耳を塞ぎたくなるような啼き声だろう。硬く勃起したクリトリスに不規則な振動が与えられ、気を抜けば絶頂を迎えてしまいそうになる。神楽は力を振り絞って震える手で沖田の手を跳ね除けようとした。しかし、その腕は簡単に掴まれ、押さえつけられてしまった。

「今更嫌なわけねーだろ。布越しでもビンビンに勃ってんのが見えてんだよ」そうして指でクリトリスを弾かれてしまった。

「んッ! んグッ!」

神楽は必死に声を我慢するとビクンッと大きく体を跳ねさせた。体に電流が走ったような快感と衝撃。初めての刺激に腰を浮かせたままの神楽はしばらく小刻みに震えていた。目からは涙が溢れ、ハァハァと乱れた呼吸が精一杯であった。

「だらしねぇ格好」

嘲笑うような沖田の言葉。屈辱的。体に力は入らないが、神楽は目に生気を取り戻すとキツく睨みつけた。しかし沖田を少しも傷つけることは出来ず、それどころかその反抗的な態度に口角を上げてみせたのだ。ゾッとするような薄気味悪さ。今ベッドの上に居るのが銀時であればどんなに良かっただろうか。まだここに来て一日目だと言うのに、神楽は絶望的な未来しか見えなかった。

「何する……つもりなのよ……」

覆いかぶさったまま沖田は動かず、神楽を見下ろし見つめている。力づくで犯すのなら早いところ済ませて欲しい。抵抗するだけ無駄なことはもう分かっているのだ。こんな沖田相手に体を捧げることになるとは……不快な気分が湧き上がってくる筈なのだが、どういうわけかそんな曇りは微塵もなく、心臓の鼓動がまたしても神楽の体を淫らにさせた。これが嗅がされたガスのせいだとは分かっていても、実は根底でこんな状況を望んでいたのではないかと不安になる。そんな筈は絶対にないのだが、ヒクヒクと動くクリトリスとキュンと啼く子宮に神楽の思考は鈍くなっているのだった。

「期待するのは勝手だが、テメーは何もしねー癖に何かしてもらえると思うな」

まだ切ないままの膣。いくら軽い絶頂を迎えたとは言え、神楽の体の中心はまだまだ足りないと涙を流していた。それを悟られてしまった事への恥と後悔。しかし体を制御することは出来ない。今もまだ愛液が溢れ出て、クリトリスはジンジンと熱を放っている。

「そっちこそ、馬鹿言わないでよね……誰があんたに期待なんて……」

「口ではいくらでも言えるってことを俺が教えてやる」

そう言って沖田はバスローブを脱ぐと、既に下着を押し上げている肉棒がそこにはあった。それを神楽の股間へと押し付けた。たった二枚の布。それが二人の体を阻んでいるだけだ。熱い。布越しでも沖田の体が発情している事が分かる。

「これがテメーん中に入ったらどうなるか知ってんだろ?」

神楽も一人で慰める夜を送った事がある。奥へと指を滑らせて迎える絶頂は、何もかもを忘れさせてくれるのだ。自分の細い指ですらそうなのだから、男根ならどうなってしまうのか。思わずゴクリと喉が鳴った。それが沖田にバレてしまったのではないかと焦ったが、沖田も赤い頬で神楽を見下ろしている所を見るに余裕はそうないように思えた。

「入れて欲しいか?」

沖田はそう言って神楽の割れ目に肉棒の先っちょを押し当てた。ショーツ越しに僅かに沖田が押し込まれる。

「い、いやあ! ヤメてよ……」

神楽はそう言ったが腰が勝手に突き出してしまった。密着する体。

「そんなにヤメて欲しいか?」

沖田の手が神楽の胸へと伸びて薄いチャイナドレス越しに尖った乳首を摘んだ。

「ぁはっ、んっ」

妙な声が出てしまい、神楽は慌てて口を閉じると今度は……沖田に不意打ちのキスをされた。唇を舌が割り、触れられたくないのに粘膜を舌がなぞる。舌を噛み切ってやれ。そう頭に言葉が浮かぶがすぐに掻き消された。ショーツ越しに沖田の肉棒が割れ目に入ろうと押し込まれ、両乳首は指でコリコリと遊ばれている。口の中に至っては沖田の舌先がネチョネチョと刺激していた。神楽の目に涙が浮かび、それが流れて伝っていく。フゥフゥと苦しそうな呼吸は二重に聞こえ、神楽の腰はすっかりと浮いていた。舌を追い出してやろうとしているのだが、擦られて力が抜けて行く。銀時とのキスの味なんてもうすっかりと忘れてしまっていた。思い出したいのに思い出せない。あんなにもドキドキしたのに。神楽は小刻みに震えながら、痺れる舌先にただただ耐えろと命令していた。だが、沖田は容赦なく神楽の体を刺激する。ついに沖田は下着を脱ぐと直接神楽のショーツに亀頭を引っ付けたのだ。神楽の割れ目に先程よりも高い熱が押し付けられる。

「ヤメて欲しいなら、そう言え」

沖田は神楽のショーツの脇から肉棒を差し込んでしまうと、そのあまりの濡れっぷりにニヤリと笑った。神楽は慌てて沖田を押し返したが、その手に力は入っていなかった。沖田の亀頭も既に先走り汁で濡れており、神楽の勃起しっぱなしのクリトリスにあたるとニュルっと滑った。

「あっ、やめっ、ぁ、ぁ……いや……」

「聞こえねーや。ハッキリと言え」

歯がガチガチと音を立てだす。嫌でダメなのに、肉体が期待してしまっている。もうすぐで雌になれるのだとヒクヒクと割れ目が興奮していた。

「でけー乳の癖に感度良いな」

チャイナドレスの胸元を大きく広げられ、神楽は乳房を服の外へ出されてしまうと直接沖田の指にいじられた。神楽の男慣れしていない小さな乳首はまるで吸ってくれとでも言わんばかりに先を尖らせ、擦られる度に膣からは愛液が流れた。それが潤滑油となり沖田の肉棒の滑りを更に良くさせた。

ヌプヌプと神楽の割れ目の上を滑り、時折ジュブっと卑猥な音を立てる。

「ぁ、いや、ぁ、んッ……」

嫌だと、やめて欲しいと口に出しているつもりなのだがその声はか弱く、悦びを隠しきれないように聞こえた。

「それじゃわかんねーだろ。体は嫌がってねぇんだ。入れたって文句ねぇだろ……」

それだけは絶対にダメなのだ。銀時と結ばれることを願っている。どんなに今沖田の愛撫で興奮していたとしても、それは嗅がされたガスのせいなのだから。誰にも罰せられなくても、禁止されていなくても、自分がそれを許さない。神楽は沖田の体をどうにか押し返すと首を横に振った。

「入れないで……いや、銀ちゃん以外、いや……」

「何が嫌かハッキリ言えよ」

「それ、入れないで……んっ、それ、いや」

神楽は自分の股間へと腕を伸ばし、沖田の肉棒を触った。信じられないほどに熱く硬く、自分相手に沖田が発情していることを身をもって知った。

「ちゃんと言えって言ってんだろ」

そう言って沖田は神楽の胸へ顔を寄せると、神楽の顔を見ながら乳首へと舌を這わせた。

「ひゃぁ、あッ!」

またしても濡れていく。神楽の尻の下はすっかりびしょ濡れで、赤子がおもらしでもしたかのようにシミを作っていた。

「それもヤメて!」

沖田はわざとらしくチュパチュパと音を立てて神楽の乳首をしゃぶった。そのせいで神楽の僅かな理性が音を立てて崩れていく。それでもガタガタと震えながらも必死に堪えた。全ては銀時との関係の為である。指輪を贈りたいと言ってくれたのだ。それは将来を考えての発言だろう。だからこんな所で肉欲に溺れ、惚れてもいない相手と体を結んではいけないのだ。

「あんたと……エッチ、したくないって言ってんの!」

強い口調であった。しかし体は限界だ。もし無理やり性器をねじ込まれても、もはや抵抗出来る気力は残っていなかった。沖田がどこまで本気なのかは分からないが、沖田の肉棒も暴発寸前であることは誰の目にも明らかであった。

「……無理やりやっても良いが、くだらねぇクスリのせいってのは面白くねーからなぁ」

沖田は神楽の体の上から一旦退くと、横たわっている神楽の顔の前に性器を持っていった。

「でも、これはテメーの責任だ。しゃぶれ」

神楽は頬に押し当てられた熱い肉棒に心臓を破裂させそうになっていた。なんて匂いなのだろうか。雄が放つ獣のような野性的な匂い。普段ならこんなもの目に映すこともしたくはないのだが、今は喉が鳴って仕方がないのだ。どう扱えばいいのかさえも分からない筈なのに、神楽は肉棒を握ると黙ってその口へと運ぶのだった。

喉の奥が擦れる。舌が勝手に絡みつく。沖田の顔を見ればさすがに余裕がない表情をしていて、こちらを見下ろす目がギラつき恐ろしさを感じる程だ。

「旦那もまだなんだろ」

その言葉が耳には入っていたが、今は目の前の肉棒をしゃぶる事に夢中で反応することが出来なかった。ジュボジュボと音を立て、神楽は喉の奥を突かれながら体がゾクゾクと興奮していくのが分かった。触られているわけでもない。ただ肉棒を口を使って奉仕しているだけだ。それなのに神楽の体は再び熱を帯び、男を求めだす。

「あ、イク。ちゃんと口で受け止めろよ……零したら……分かってんだろうな」

そう言って沖田は神楽の口の中へ熱い精液を注ぎ込むと――――――

「んぐッ! げほ、げほ……」

神楽はむせて口の中から白濁液を吐き出してしまった。

「あーあ。なにやってんでィ。零すなって言っただろ」

「うるさい……」

神楽はハァハァと苦しそうに呼吸をするとバスローブを着て部屋を出ていこうとする沖田を見上げた。

「なんて顔で見てんだ。そんなに物欲しそうな顔して良いのかよ」

「違うっ! してない」

そうは言ったが神楽の頭にはこんな言葉が浮かんでいた。

《お仕置きしてくれないの?》

沖田が出て行く音を神楽はベッドの上で聞いていた。愛液を垂れ流し、その目にも涙が溢れていた。異常だ。もう普通じゃない。あんなに嫌っている沖田に奉仕してしまったのだ。悔しさと良くわからない興奮が身を包む。しかしそんな余韻に浸っている間もなく、部屋のモニターがつき男の声が流れた。

「神楽様、お疲れ様でした。現時点より性玩具の没収が決定し、今後使用は沖田様の許可が必要となりました。では」

なんのことだろう。今はもう何も考えられないと神楽は静かに目蓋を閉じた。まだ熱が冷めず体は熱い。一体これは誰のせいなのか。あんなに嫌っている男の――――――銀時には言えないような事をしてしまった。涙が溢れ、それなのに神楽の指は何も入れてもらえなかった膣を慰めた。

「はぁッ、ん、ああ、なんでッ、いやっ」

沖田の肉棒が擦りつけられていた感触が消えない。それを思い出し今体を弄っているのだ。罪である。神楽は今すぐにでも手を止めて、少しでも早く銀時を思い出したかった。それなのに銀時の顔も声も何も浮かばない。あるのは沖田の熱と匂い。そしてまだ口の中に残る白濁液だけであった。

神楽は声を押し殺し泣きながら指を動かした。しかしどんなに刺激しても、先程沖田から与えられたものと同等の快楽は得られなかった。今もモニターで見られているかもしれないとは分かっているのだが、持て余した熱を発散させる方法は自慰しかないのだ。沖田を拒む以上、他に方法はないのだから。それなのに実質、沖田によって身の快楽がもたらされているのだ。神楽の顔は涙で濡れ、泣きはらした目が痛々しい。それでも指の動きは止まらずビチャビチャと音を立てて、膣内に出たり入ったりを繰り返した。そうして物足りなさと空虚感を味わった神楽は二日目の朝を眠れず迎えるのだった。