いつか神楽の誕生日に書いたものですが、ずっと放置してあったので今更ですが掲載します。
とても短いです。

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神楽誕生日小説/銀神+沖+土

 

 珍しく1人で晩飯を食べた銀時は、先程から何度も時計に目をやり時刻を確認していた。

「おいおいおい、もう10時過ぎてんじゃねえまか。ったく、アイツまさかこのまま帰らねぇつもりじゃねーだろな」

 銀時は歯を磨き終えると、玄関の前で落ち着かずソワソワと歩き回っていた。すると、外から車のドアを閉める音が聞こえた。かと思うと、騒がしい声が徐々に万事屋へと近付いて来た。

 銀時は神楽が帰って来た事を確信すると、大人しく待っていられなかったのか玄関の戸を開けて外へ飛び出した。

「かぐっ……らァ!?」

 騒ぎながら階段を上って来たのは、両脇を真選組の沖田と土方に固められた神楽であった。

 銀時は一体何があったのかと、神楽の側へ駆け寄った。

「てめぇら何? つか、酒くせっ!」

「あり? ぎんしゃん? ぎんちゃんアリュ!」

 赤ら顔で呂律も回らない神楽は、アルコールの匂いを漂わせながら座った目でこちらを見ていた。

「お前、誕生日会で酒飲んだのかよ! オロナミン四位とアリナミン部位だけだって約束しただろ!」

 銀時は神楽の両脇の2人を見ると、どちらも神楽と同じく赤ら顔だと言うことに気が付いた。

 銀時は神楽を酔っ払いの2人から引き取ろうとしたが、目の座った3人が離れる様子はちっともなかった。

「何なの? バカなの? 良いから神楽、中に入れ!」

 銀時は軽く苛立ちながら酔っ払いトリオに言うと、ニタリといやらしい笑顔を作った沖田が口を開いた。

「旦那ぁ、中に入れったァどういう意味でさァ? 中にって」

 意味ありげに笑っている沖田に銀時はこめかみに青筋を浮かべると、神楽を引き取ろうと神楽の腕を掴んだ。

「お前ら仲悪いよね? 何一緒に酒飲んでんの? そよ姫と城で誕生日パーティーやってたんじゃねーのかよッ!」

「やめろヨ! 銀ちゃん! 男の嫉妬みっともないアル」

 銀時はその言葉に神楽から手を離すと、今度はこちらを鋭い目付きで睨む土方と目が合った。

「テメェ、まさかそよ姫に呼ばれなかった事を……プッ、わりぃ。いやあ、仲間外れは可哀想だなあ」

「別にガキとヤローばっかの誕生日会なんざ、羨ましくもねぇよ! 腹立つな」

 銀時は更にもう1つ青筋を浮かべると、勝手にしろと1人で玄関の中へ引っ込んでしまった。

 それを黙って見ていた3人はまた進み出すと、銀時の後を追って万事屋へと入って行った。

「銀ちゃーん、帰ったよぉ」

 銀時は居間から廊下の向こうの玄関先を睨み付けた。

「うっせぇ! 知ってんだよンなこと」

 神楽はようやく土方と沖田から離れると、玄関のタタキでふらふらしながら立っていた。

「じゃあ、チャイナ。次はどっちが酔拳で先に土方さんをダウンさせられるか勝負な」

「じゃん拳だろーが酔拳だろーが、オマエには、絶対負けないアル!」

「テメェら……今度はンな事言えねェくらいに酔わせてやらァ」

 そんなくだらない事を言い残し沖田と土方は万事屋を後にした。

 途端に万事屋の室内は静寂に包まれ、先程までの賑やかさはまるで嘘のようであった。

 銀時は玄関先でまだふらふらしている神楽が気掛かりではあったが、それを見ないフリをした。約束の時間を過ぎたこと、酒を飲んで帰って来たこと。銀時は神楽に怒っていたのだ。

「あー、もう俺は寝るから」

 銀時は冷たい口調で居間から一歩も出ずに神楽に言った。

 そんな銀時の胸の内など知らないと言った風の神楽は、ようやく履物を脱ぐと、倒れ込むように居間のソファーへと飛び込んだ。

「うー、なんか気分悪いアル」

 銀時は寝室への襖に掛けていた手を外すと、神楽の方を振り返った。

「ここで吐くなよ」

「吐かないけどー、なんか銀ちゃん、ちょっと来てヨ」

 ソファーに仰向けに体勢を変えた神楽が、銀時に向かって両手を伸ばしていた。

 銀時は何やら面倒だとは思ったが頭を乱暴に掻くと、仕方ないと言った風に神楽に近付いた。

「何?」

「きゃー、ぎんちゃーん」

 明らかに酒の抜けてない神楽は、1人で楽しそうに笑っていた。今まで酒など飲ませたことのなかった銀時は、神楽の意外な酒癖に少々困惑気味みだった。

「俺は全然っ、楽しくねぇんだけど」

「銀ちゃんっ」

 銀時は何だよと仰向けの神楽を上から覗き込んだ。すると、神楽の伸ばしている腕が銀時の寝巻きを掴み、一気に引き寄せられたのだった。

「いてぇ! だから、何だよ!」

 神楽は銀時を無理やりに抱きしめると、満足そうな笑みを携えたまま目を瞑った。

「誕生日会、楽しかったアル」

「あっ、そう。良かったな」

 銀時は軽く溜息を吐いたが、神楽は初めて誕生日会を開いてもらい、相当嬉しかった事が伝わってきた。

 銀時は神楽に抱きつかれたまま何をするでもなく、ただ静かに側にいてやった。

 さっきまでは、色々と腹が立ったりと気分が落ち着かなかったが、今は神楽の程よい温もりに銀時の心はすっかりと平穏を取り戻していた。

「祝い事かもしんねぇが、酒はまだはえーだろ。分かったら二度と飲むんじゃねぇぞ」

「はい、はーい」

 神楽は分かっているの分かっていないのか、適当に返事をすると銀時にしがみついたまま寝息を立てだした。

 それに困った銀時はこうなったら仕方ねぇと、自分の布団へと神楽ごと移動したのだった。

 やけに高い体温。それが心地よく、銀時は狭いなと文句を言いながらも目を閉じた。

 色気より食い気でまだまだ酒の飲み方も知らない神楽だったが、銀時はそれで良いと思っていた。先ほどの連中とのことですら、勘繰りたくなってしまうからだ。

 まだまだガキでいろ。

 そうは思っても、抱き締められている体は、無駄にドキドキと鼓動を速めていたのだった。

 

2014/02/01