※1時間ほどで書いたとても短い話です。

フォロワーさんのつぶやきから書いた話です。


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二人の時間/銀神


 夕方過ぎのこと。新八が買い出しに出掛けた万事屋には、居間のソファーの上で漫画雑誌を読み耽る銀時とその隣でジッと座っている神楽が居た。突然、何があったのか神楽はハァと溜息を吐くと、銀時の肩に頭を乗せた。

「ん、どした?」

 銀時は漫画雑誌から目を離すことなく尋ねると、神楽はフンと小さく鼻を鳴らした。

「もう疲れたアル。銀ちゃんに辛く当たるフリするの」

 そんな事を言った神楽に銀時はようやく漫画雑誌をソファーの脇に置くと、神楽の顔を覗き込んだ。

「おいおい神楽ちゃん、何か変なもんでも食っちゃった?」

 そう言った銀時の口元は緩んでいて、どこか気分が良さそうであった。そうこうしている内に銀時の顔は隣でぼーっとしている神楽の顔に近付いて————銀時の舌が神楽の唇を軽くなぞった。

「あれ、なんの味もしねぇわ」

 こんなことくらいで何を食ったか分かるはずもないが、銀時はやってみたかったのだ。僅かに息の詰まるような、なのに心地の良い時間。新八が居なくなるのを実は心待ちにしていたような、何だかそんな気分だ。

 銀時はもう少しだけ神楽を味わいたいと再び顔を近付けた。すると、神楽が赤い頬で照れ臭そうに顔を俯かせた。そして、銀時の腕にギューっとしがみつくと小さな声で言った。

「食べたヨ、さっき変なもの……」

 銀時はそう言えばと、先ほど昼寝をしていた時のことを思い出した。新八が洗濯物を干している間、神楽はずっと銀時の眠るソファーの近くに居たのだ。絵でも描いて遊んでいるのだろうか。そんな事を思いながら、神楽の机に向かう後ろ姿を見て微睡んでいた。夢か現実か。曖昧な視界と意識。そこで銀時は自分の唇に桜色の柔らかな唇をつける神楽を見つけたのだ————あれは夢だと思っていたが、どうやら紛れもない現実のようであった。神楽からキスをくれるなど、普段の態度からは考えられないのだが……今、隣に座る恥じらう乙女は、それもありえるんだと教えていた。

「あのな、変なもんってなぁ」

 銀時はそう言って神楽を覗き込むのをやめると頭を掻いた。しかし、横目でまだ神楽の様子を伺っているのだ。期待通りの顔をしてくれるのではないかと。

「ぎんちゃん」

 案の定、神楽は弱々しく自信なさげな表情で銀時を見上げた。まるで“キスしてくれないの?”そう訴えかけるように。

「ん、なんだよ」

 態とらしく銀時は何にも気づかないフリをすると、神楽は自から顔をこちらへ近付けて来た。でも、それは少し辛そうで頑張って首を伸ばすも僅かな距離が届かない。

「銀ちゃん、もうちょっと……」

 どうにか距離を詰めようとするが、銀時の唇には届かない。たまにヨロヨロと体まで左右にブレる。その必死な姿があまりにも可愛くて、銀時は意地悪をやめると神楽に顔を近付けてやった。

「その変なもん欲しがるのはどこの誰だよ」

「私アル……私だけネ……」

 神楽はそう言うと銀時の唇にチュッと短いキスをした。だが、それくらいで止まる時期は過ぎたのか、神楽は銀時の首に腕を回すと結局二人の体はソファーへと沈んで行くのだった。


「ねぇ銀ちゃん、私だけでしょ?」

 普段の神楽の口からは聞けない甘い言葉。それには銀時も素直に答える。

「寧ろ、俺にはお前しかいねぇわ。分かってんだろ。神楽ちゃんだけが、ほら……俺のことよく知ってるって」

 二人の体は重なる熱で溶けてしまうと、もう離れることが出来ないと錯覚を起こしてしまいそうだ。まるで一つになったかのような感覚。それを心地好いと思う一方で、銀時の胸には切なさが過る。このまま眠るわけにはいかないんだと。

 銀時は神楽の髪を撫でると、神楽はそっと目を閉じた。

「離れなきゃダメアルカ?」

「新八がそろそろ戻って来るだろ」

 でも、神楽はイヤイヤと首を左右に振って上目遣いで銀時を見る。

「銀ちゃんともっとずっとこうしてたいネ」

 そうは言われても、やはり新八の帰って来た時にこの格好は色々とマズい。銀時は神楽に軽い口付けをするとソファーの上に体を起こした。

「夜まで待てねぇの?」

 すると神楽は唇を尖らせた。

「待ちたくないアル」

銀時は時計に目をやるとあと10分なら大丈夫かもしれないと神楽を抱きかかえ、膝の上に向かい合うように乗せた。

「……じゃあ、あと少しだけな」

 その言葉に神楽はニコッと笑うと銀時の額にキスをした。

「んふふ。銀ちゃん、だぁいすきアル!」

 思わず銀時は情けなく腑抜けた面になると、神楽をめいっぱい抱き締めた。本当は自分も離れたくはないんだと、一生こうして側で愛し護ってやりたいんだと。

 

「銀さん、神楽ちゃん、遅くなってすみません!」

 銀時の読み通り、あれから10分後に新八は戻って来た。慌てることもなく玄関で並んで新八を出迎えた二人は、先ほどまでの雰囲気を既にどこかへ吹き飛ばしていた。

「お前、遅かったアルナ! どこのメガネに油売ってたアルか!」

 神楽はすっかりいつもの神楽で、先ほどまで銀時だけが欲しいとワガママを言っていた姿はどこにも無かった。

「メガネに油ってなんだよ! あ、銀さん、今日はトイレットペーパーが特売でしたよ」

 銀時も特におかしな様子もなく、新八と普段通りの会話をした。

「あ、そう。助かったわ。ありがとな、ぱっつあん」

 しかし、背中に回した二人の手はまだ離れることが出来ず、新八に見つからない所でしっかりと結ばれているのだった。


2014/10/21