※神楽→神楽さん。
14歳で江戸を立ち、宇宙でエイリアンハンターの修行。
2年間越しに江戸の街へと帰って来た設定。簡単に言えば2年後設定。

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marry me/近←神+沖+土

 

 真選組の沖田総悟はパトカーのハンドルを握り、かぶき町内を走行していた。

 助手席には局長である近藤を乗せて、午後の町中を巡廻している時だった。

「おい、総悟。アレ」

 沖田は近藤の指差す方へと目を向けた。見れば、一人の女がノーヘルでスクーターに跨っているのだ。だが、跨っているだけで、エンジンはかけていないようであった。

 少し離れた後方にパトカーを停めると、沖田はハザードを焚いた。

「あのままいきゃ、かけますねィ」

「だろうな」

 両腕を組みニヤリと笑った近藤に、沖田は女を捕まえる事を決めたのだった。

 他に大きな事件もなく、こんな時は交通違反で点数稼ぎするのが通例となっていた。

そんな暇を持て余している沖田は、心の中で早くエンジンをかけろと願っていた。後ろ姿からでも分かる生意気そうな女の様子に、今日の取り調べは楽しめそうだと嫌な笑みを浮かべた。

 短いスカートから伸びる長い脚。そして、男の目を射止める腰のくびれ。顔は見えなかったが、あんな真っ赤な服を着ているのだから、余程自分に自信があるのだろうと睨んでいた。

「オイ、総悟! エンジンかけたぞ!」

 近藤がそう言って助手席のドアを開け飛び降りると、沖田はすかさず車を出してスクーターの前につけた。

「あ?」

 沖田は思わず変な声を出した。どこかで見たことのある女なのだ。白い肌と青い大きな瞳。鮮やかな髪は長く、それを二つに結っていた。その体つきに似合わず子供じみた髪型ではあったが、ギャップと言うものを感じずにはいられなかった。

「ちょっとちょっと、おねぇさん。免許証見せてくれる?」

 近藤はスクーターに跨る女の手首を掴むと、逃げないようにスクーターのキーを引っこ抜いた。すると、女は近藤の手を捻り、その場に組み敷いてしまったのだった。

 昼間の大通りで、真選組のトップが無様にも女に負けた。

 沖田は半分笑っていた顔を一気に引き締めると、パトカーから飛び出したのだった。

「オイ、何してんだ。近藤さんから下りろ」

 沖田はそう言って、近藤を押さえ込んでる女の肩を強く掴んだ。

 すると、振り返りこちらを見上げた女は近藤を離すと立ち上がり、沖田を睨みつけながら両腕を胸の前で組んだのだった。

「お前らこそ何してるアルカ! 善良な一般ピーポー捕まえて。私がいない間に不良警察も、いよいよ地に落ちたアルナ」

 その独特の喋り方。沖田は頭の中のモヤが晴れるように、疑問に思っていた事が一気に解決したのだ。

 どこかで見たことがあると思っていたのだが、目の前にいる女の正体が万事屋の神楽だと知ったのだった。

「てめーかよ。また不法入国か。その体、縄で縛るには丁度いいメスブタ具合だぜ」

「誰がメスブタアルカ! 縄で縛るならチャーシューダロッ!」

 神楽と沖田はそんな事を言い合ってメンチを切っているせいで、重大な事に気付いていなかった。

「お前ら! 俺から下りて! 頼むッッ! 出ちゃうゥゥ!」

 その言葉に神楽と沖田が近藤から下りると、ようやく敷かれていた近藤が立ち上がった。

 神楽はこちらに背を向けて腕を組んでおり、相当苛立っている事が窺えた。

 その様子に近藤は沖田に耳打ちをした。

「とりあえず、奴らに関わると面倒だ。ここは見逃してやろうぜ」

 しかし、沖田にそのつもりはなかった。いつからか江戸で神楽の姿を見ないと思っていたのだが、どうやら父親と修行に出たと耳にしたのだ。それなのに今ここに居るということは、その修行が終わったということなのだろう。つまりは、前よりも更に神楽がパワーアップしていると言うことだ。

 沖田は体が疼いた。自分もここ数年で更に剣技に磨きがかかった。くぐり抜けた修羅場の数も大台に乗った。土方の背中を取ることも増えて来て、黒魔術の成功率も格段に上がったのだ。力を試さずにはいられなかった。

「いや、近藤さん。あいつをしょっぴきましょう」

 そう言うと沖田は、こちらに背を向けている神楽の正面に回った。案の定、不貞腐れた顔が沖田を見た。

「……連れて行くんでしょ? 分かったアル」

 しかし、神楽の口から出た言葉はその表情と随分かけ離れていた。

 沖田は眉間にシワを寄せるも、素直にパトカーの後部座席へと乗り込んだ神楽に、まぁ良いかと自分も運転席へと座った。近藤はと言うと念の為、後部座席で神楽の隣に座ったが、神楽は少しも逃げる様子がなかった。

 沖田はそんな大人しい神楽をルームミラーで確認すると、すぐにパトカーを走らせたのだった。

 

「いやァ、それにしてもチャイナ娘が帰ってたとはな。何も教えてくれないなんてお妙さんも水臭いな!」

 笑いながら話をした近藤を、隣の神楽は溜息を吐きながら見つめた。

「相変わらずストーカーアルカ? 飽きないアルナ……でも、今回は姐御には言ってないネ」

 神楽はそう言うと、狭い車内で脚を組み替えた。短いスカートから伸びる長い脚が少々窮屈そうであった。

 それを近藤は見ているも、神楽と目が合って急いで窓の外へと視線を逸らせた。

「あ、あぁ、サプライズってやつか。それにしても、なぁ総悟。チャ、チャイナ娘も、す、すっかりと成長したもんだなァ」

 沖田は焦っている近藤の声に何事だと、ルームミラーをチラリと見た。すると、映っていたのは近藤に迫る神楽の姿だった。

「そ、総悟ォ! 前見ろッ!」

 沖田は慌て前を見ると、耳だけを後部座席へと集中させた。

「なぁ、お前。まだ姐御の事好きアルカ? ゴリラの癖に姐御のハート射止められると思ってるネ?」

 神楽は近藤の腕に成長した胸を押し付けると、逞しい太ももへ手を添えた。

 そんな神楽の態度に近藤もこめかみに青筋を浮かべてはいたが、その頬は僅かに上気していた。

「私、江戸を離れて宇宙で色々考えたアル。まず江戸を支配するには、どのポジションを手に入れるべきか」

 神楽はそう言って近藤の耳元に唇を寄せると、そっと囁いた。

「お前のヨメになって赤ちゃん産んで、真選組を牛耳るアル。それが良いと思うんだけど、お前はどうアルカ?」

 近藤は両腕を組んで考え込むと、何か答えを探し出そうとしていた。

 そんな二人のやり取りを聞いていた沖田は急ブレーキを掛けると、後部座席を振り返った。

「近藤さん! 目を覚ませッ! 姐さんとならゴリラ×ゴリラのサラブレッドが産まれるが、この女とは地球人×戦闘民族との……」

「そうアル。スーパー○○人が産まれるアル。どうアルカ? 私と作る気になったアルカ!?」

 近藤は益々眉間のシワを濃くすると、唸りながら考えた。その間も神楽は近藤の体に胸をあてており、可愛い顔と声で寄り添っていた。

「どうしてもダメネ?」

 神楽そう言うと、近藤の頬へ軽く唇を引っ付けた。

 それを目の当たりにした沖田は運転席から飛び降りると、後部座席の近藤を引きずり降ろし自分と入れ替えた。

「てめぇ、近藤さんを誘惑して真選組を乗っ取るつもりだろうが、そうはいかねぇ。お前を姐さんと呼ぶのは御免こうむるぜィ。近藤さん、車を出してくれ」

 言われたままパトカーを走らせた近藤に、神楽は一気にシラけたのだった。

「人の恋路を邪魔するなんて、お前サイテーアルナ!」

「言ってろィ。近藤さんがテメーに取り入れられる事なんざ死んでもねぇよ。なぁ、近藤さん?」

 その言葉を受けて近藤は、ルームミラー越しに沖田を強い眼光で見つめていた。

「総悟ォ! 舐めてもらっちゃ困るな。俺が心に決めているのはお妙さんだけだ! だから、お妙さんとは来世で一緒になる!」

 沖田はあーあと声に出すと、隣の神楽に言った。

「良かったな、クソチャイナ。だが、嫁になって終わりだと思うな」

「どういう意味ダヨ?」

 いつの時代もそうであった。強い男を求めるのは一人や二人ではないのだ。嫁になったからと言って、その立場が脅かされないとは限らないのだ。

「接待先の遊女に取調室での禁断の恋。もしくは女性部下に、出世した途端に擦り寄って来る過去の女。まだまだ安泰は見えて来ねぇな」

 沖田がニヤリと笑うも神楽は余裕であった。

「そんなもん百も承知アル。全員ぶっ飛ばせば良いだけネ」

 物騒な発言を涼しい顔で言ってのけた神楽に、沖田は変わってねぇなと変な安心感を覚えたのだった。

 だが、神楽はまだ近藤の嫁の座を諦めきれないようで、次はそれを邪魔する沖田へと照準を合わせたのだった。

「お前さっきから何アルカ? 小姑みたいにグチグチと。そんなにゴリと私を引き裂きたいのカヨ?」

 そう言った神楽は、沖田の首に巻かれているスカーフを乱暴に掴んだ。

「そもそも近藤さんが本気だと思うか? 姐さんにあれほど忌み嫌われ、ゴミ同然に扱われてもまるで堪えず、それでもへばりつくヘドロのようにストーキングを繰り返す近藤さんが、テメーと結婚すると思うのか?」

「総悟ォォオオオ!」

 その発言にはさすがの近藤もキレたのか、パトカーを停めると沖田を車内から引きずり出した。

「なんなのッ! お前、俺に何の恨みがあんのッ!」

 見れば、どうやら屯所に着いたようだった。

「俺は近藤さんの為を思って言ってんだ」

「どこがッ!?」

「そうアル! そうアル! なんで私とゴリの結婚阻止したいアルカ!」

 沖田は近藤と神楽の両者に挟まれ、非難の嵐に遭っていた。さすがにその騒ぎに他の隊士達も気付いたらしく、遠巻きに皆がこちらを見ていた。

 すると、屯所内にいた副長の土方もこれに気が付いたらしく、三人の元へとやって来た。

「なんだ騒々しい」

 すると興奮状態にある近藤が、土方の右腕を強く掴んだ。

「なぁ、トシ! 総悟が俺とチャイナ娘の結婚に反対するんだ! この機会逃したら来世まで、一生出来なくても良いってのかよッ!」

「あ? チャイナ娘?」

 事態を把握し切れていない土方は、困ったような顔をした。

「そうアル! 馬鹿サドが私の結婚阻止するアル!」

 神楽も土方の左腕を掴むと訴えかけた。

「テメーら、土方さんに訴えたところで無駄でさァ」

 沖田はそう言ってニヤリと笑うと、近藤と神楽の仲を引き裂く計画でも立てるかと、神楽らに背中を向けた。

「……そういや」

 土方は何かを思い出したのか、そんな沖田の背中に僅かに微笑んだ。その表情は次第に薄笑いへと変わり、不気味な笑顔となった。

「すっかり忘れてたが、総悟テメェ確か、チャイナに昔、プロポーズしてたよな」

 その言葉に沖田は思わず足を止めた。

「あいつが私に!?」

「あぁ、いつだったか夜の船上で……嫁に貰ってやるとか何とか、えらく格好つけて言ってたよな? 総悟」

 土方の顔はしてやってりと言ったもので、沖田は怒りなのかなんなのか体が熱くなり震えたのだった。

「あー、なんか確か言われたネ。嫁に貰ってやるとか何とか」

「総悟、それ本当か! って事はお前がチャイナ娘との結婚を阻止したかったのは――」

 そんなワケない。あれはそう言う意味じゃねぇ!

 沖田は色々と言いたいことはあったが、一つの言葉に集約したのだった。

「死ねェェエ! 土方ァァアア!」

 刀を抜いた沖田と土方。

 それを見ている近藤と神楽だったが、二人は見つめ合うと屯所の奥へと消えて行ったのだった。

 

2014/05/10