※2年後設定

 
渦/銀神※
 グルグルと視界が回りだす。酔ってねぇなんて思い始めたら最後だ。もう酒に呑まれてんだよ。
 今日はパチンコで稼いだありったけの金をキャバクラスマイルに投資した。それで酒なんつー仮想通貨に替えて振舞えば、幾分か気分が紛れた。まあでもあんまり強くはねーから、気付けば隣りに座るお妙に介抱なんかされてたわけで。
「銀さん、飲み過ぎですよ! ほら、送って行きますから帰りましょう!」
 ソファーから滑り落ちた俺をお妙は担ぎ上げると、誰にも見えない所で蹴り入れやがった。
「い、いてェェ!」
 ケツが割れちまうだろ! なんて怒鳴りたかったが、言葉が出るよりも先に店の前まで転がされていた。仰向けに寝そべれば上から鬼のような雌ゴリラが俺を見ている。
「何ですか。だらし無いですよ」
 まるで新八だ。いや、あいつがお妙に似てんのか。まあ、どっちでもいいか。とにかくギャーギャーと騒がしい姉弟にゃ変わりねぇ。
「うるせー! 金払ってんだろッ! 文句あんのか!?」
 どうにか俺は起き上がると、電柱に向かってズボンのチャックを下におろした。やる事はただ一つ。俺のお――――目の前に銀色に光る刀身が現れる。
「お妙ちゃんの前で何をする気だ。そのぶら下がっているものを斬り落とされたいのか?」
 背後に迫る小さな影と俺の下腹部に集まる羨望の眼差し。これは間違いない。柳生九兵衞だ。俺のを斬り落として再利用するなんてことを真面目に考えるバカだった。
「あ、悪かったな」
 俺は出してたモンを引っ込めると、もうこいつらに関わり合いになるのは御免だと一人帰ろうとした。正直、メーワクなんだよ。男が女に送られてどーすんのって話だろ? それに女なんてこのナリで連れ込んでみろ。神楽が…………
「神楽」
 誰にも聞こえない声で呟いた割には、俺を見る二人の視線が憐れむような目つきだった。
「なんだよ。早く行けよ」
 分かってる。あいつらが俺を心配してんのは。でもな、もうそういうのは良いんだよ。別に今日だってただパチンコで儲けたから呑みに来ただけで……
「ああ、気分悪い」
 俺は少し歩くと万事屋へと伸びる道端でしゃがみ込んだ。もう、喉の辺りまで上がって来てんだよ。色んなもんが。だが、それをその辺りでぶち撒けるつもりはない。ましてや見知った女を連れ込んで、この言い様のない寂しさを埋めるつもりなんてこれっぽっちも無え。神楽と俺は約束したんだ。あいつが戻って来るまで大人しく待っててやるってな。そうやって感傷的になってる時に限って煩い連中に出会う。
「銀時ぃ!」
「銀さ~ん! 今ねクナイバーに行って来たところなの!」
 やけにテンションの高い酔っ払いの声だ。案の定、あいつらふざけやがって俺を民家の塀にクナイで張り付けた。どMくノ一と酒乱遊女だ。
「なんなのお前ら? マジでぶっ叩いても良い? やっちゃっても良いのかコノヤロー!」
 するとさっちゃんは俺にケツを向けながら咆哮した。
「ああああ! 叩けば良いじゃないッ! さぁ、銀さん迷うことないのよ! ここ目掛けて蹴り込んでくれれば……」
「何を言ってる猿飛! 銀時がわっちに蹴られたがってるのが見て分からんのか!」
 嫌な予感しかしねぇ。もうホント、マジで勘弁してくれ。目の前で起こっている不毛な争いに巻き込まれたくねぇと、俺はクナイを引き抜いて逃げ出した。
 だが、そう簡単にあいつらが俺を逃す筈もなく……いや、追いかけては来なかった。ただその代わり、お妙と九兵衛に似たような目でこっちを見ていた。明らかに意味のある視線だ。
「銀さんっ!」
「やめなんし。わっちらじゃ無理じゃ」
 そんな聞こえよがしな言葉に腹が立ったが、俺の真っ暗な穴はそう簡単に塞げるもんじゃなかった。それは俺自身よく理解していた。もうなんでもかんでも飲み込んじまうブラックホールみたいになってんだよ。全部は神楽のせいだ。あとは、あんなガキに依存していた俺のせいだ。
 別れは本当に急だった。前触れはまあ……あったらしいけどな。俺はいつものくだらねぇお喋りだと思ってた。
「なぁ、銀ちゃん。私が居なくなっても、ちゃんとご飯食べて仕事して、お風呂入るアルヨ」
 居間のソファーで漫画雑誌を読む俺に神楽はそんな事を言った。
「あー、分かった分かった」
 よくあるいつもの光景だ。あいつが止まらないお喋りをして、俺がそれを聞き流す。あいつの喋ることなんざ大抵が誰が何を買ってもらっただ、何が美味そうだ、パチンコ行くなだ……あんまり意味の無いものだった。そんなんだから、その日もどうせくだらないモンだと俺は聞き流してたわけ。
 その後も神楽はいつも通りに物置へと出たり入ったりを繰り返していて、俺は気にも留めなかった。だから、その晩も飲みに行こうと万事屋を夕方に出たら――――玄関の前に神楽の親父が立っていた。
「よぉ、神楽が世話になったな」
 聞き馴染みのない言葉。そんな挨拶に俺は顔を歪めた。
「あー……えっ? 過去形?」
「やっぱり聞いてねぇのか。とりあえず奢ってやる。ついて来い」
 そうしてついて行った飲み屋で、俺は神楽が万事屋を出て行くことをようやく知ることとなった。親父についてエイリアンハンターの修行をするそうだ。神楽が出て行くまで残り数時間。急のことで驚きはしたが、大して寂しいだとか悲しいなんて気持ちは存在しなかった。その時はな。
「ひとつ聞いてもいいか?」
 突然、神楽の親父が俺にそんな事を言った。この男の性格からして伺い立てる時は……あまりいい話じゃないような気がした。
「断るッ!」
 そうは言ってみたがヤツはその言葉を無視して、勝手にペラペラ喋り出した。そういうところは神楽とソックリだ。
「神楽が修行を終えた時、もしお前んとこに戻りたいって言ったらな、俺はそれを受け入れるが……銀時、お前はどうすんだ?」
 まだ神楽が出て行ってもいない内にそんな事を言われても正直な話、あまりよく分からなかった。だから俺はテキトーに返事をしておいた。
「まぁ、いいんじゃねぇの? 食費さえ払ってくれれば俺は。え? 養育費も頂けるんですか! お父さん!」
 いつもなら怒鳴り声が飛んで来るところだったが、星海坊主の顔はどこか悟りを開いた仏のような顔だった。
「分かってねぇな、若造」
 意味ありげな表情で酒を呷ったおっさんを俺は首を傾げて見ていることしか出来なかった。どういう意味だ? その言葉が喉から出るよりも前に星海坊主は店から出て行っちまった。
 俺も少し経ってから店を出ると、神楽の待つ万事屋へと帰って行った。
 その晩、神楽が押入れに入らずに居間でモジモジしてるのを俺は分かっていた。だから無言で寝室に二組の布団を敷いてやると、神楽は明るい顔で黙ったままその布団に寝そべった。
「もう電気消すぞ」
 俺も神楽も普通だった。別に一生会えなくなるわけでもねぇーし、互いに元気でやれればそれで良いってもんだし。だが、神楽は布団の中から左隣りの俺をずーっとニタニタした表情で見つめていた。
「何? 明日、早いんだろ?」
「銀ちゃん」
 神楽は俺と出会ってからずっとこうだった。
“銀ちゃん”
 あいつだけがそうやって俺のことを看板まんまにそう呼んでいた。せめて年下ならさん付けで呼べなんて風に最初は思ってたが、今じゃあいつに銀さんなんて呼ばれた日にゃ気分悪くて堪んねぇと思うほどだ。人懐っこいつーのか、危機感がないつーか……だいたい俺だったから良かったものの、もしあの日轢いてたのがどっかの悪いおっさんなら絶対遊郭行きだったからね。マジで世間を舐めてんだよコイツは。いや、まあ確かに神楽に勝てる男もそうそういないけど、いざとなればこんなガキなんて簡単にどうにかされちまうもんだろ。そんな事を考えていると、布団の中から俺を見ている神楽が言った。
「万事屋のマドンナの席、ちゃんと空けといてよネ! 銀ちゃん」
 その言い方がさも自分をいいオンナだと言ってるようで俺は思わず笑っちまった。すると神楽の足が布団の中に進入して来て、俺の足を思いっきり蹴り飛ばした。
「お前みたいな暴力的でガサツで、大喰らいな女の後釜なんて誰も務まんねぇよ! つか、キャラが薄くて霞んじまうだろ 」
 よっぽど過去に禁固100年を食らったが脱獄して、右手をサイコガンに変えて……なんて女じゃなきゃどうやっても神楽の濃さを越えられねぇだろ。だって夜兎族だぜ? 更に元アイドルの癖に無限の胃袋の持ち主で、なのに貧乏くさい飯ばかり好む。毎日卵かけ御飯でもあいつ全く問題ないんだから、ホントそんな女は神楽の他になんていねぇから。
「それよりもお前こそどーなんだよ」
「わたしアルカ?」
「そうだよ。よその惑星で急に車の前に飛び出して轢かれて、そいつがすんげーイケメンで金持ちで臭くなくて、しかもお前の危機をお姫様抱っこで救い出すとか、なんかそう言う奴がいたら……住み着くんじゃねーの?」
 神楽は急に黙り込みやがった。正直、少しは否定するかと思ってたが……まあそうだよな! もし仮にそんなヤツが実際いたら神楽もバカじゃねぇんだ乗り換えるよな! 自分でも仮の話なんざ持ち出して何してんだと思ったが、どうも多少は動揺してたらしい。布団の中の俺の体は微妙に震えていた。別に神楽がどこで生きようが俺には関係ねぇ。そんな風にずっと思ってたがそうじゃない。もう神楽も新八もただの他人じゃ済まないほど、俺の一部になっていた。家族でもない。友達とも違う。そういう言葉じゃ言い表すことの出来ない間柄だが、一部って程だから千切れればやっぱ痛い。結局は別れが寂しいなんて感情がごく普通に湧き上がった。
「……銀ちゃんが約束してくれたら、私も約束してあげるネ。絶対に私の場所空けて待っててヨ。浮気したら一生帰って来てやんないネ」
 浮気ってなんだよ。いちいち笑っちまいそうになったが、もう蹴られるのは御免だ。俺は堪えると神楽に約束した。
「お前こそ、今までに掛かった食事代持ってくるまでバックレるんじゃねーぞ。約束だ」
 神楽には言わねぇが、食費なんて最近はほとんど気にしたことなんてなかった。口いっぱいに白飯を頬張って、満面の笑みしてるヤツにあーだこーだ言えるほど俺も鬼じゃない。貧乏飯で幸せなんて言ってる神楽に、平穏を身に沁みて感じる日々が確かに存在した。
「おうヨ! 銀ちゃんの年収の何倍も稼いで帰って来てやるネ!」
 俺も神楽もそれから何も言わなかった。いつの間にか眠ってたんだろう。まさかこんな会話が最後になるとは思ってもみなかった。翌朝起きた時には布団はもぬけの殻で、ただ枕元に一枚のメモが置かれていただけだった。
「また自分の名前間違ってるわアイツ」
“また手紙かくアル! 2年後には戻るネ。 約束守ってヨ”
 短い言葉。それが神楽の残した俺へのメッセージだった。だが、その言葉のどれ一つあいつは守らなかった。期待してたわけじゃねぇ。便りがない内は元気にやってる証拠だろ? そうは言っても神楽がどの言葉も守らなかった事実は変わらなかった。それを残念がる俺はもうすっかりと神楽の存在に依存していて、失えば必要以上に寂しくなった。
 酔いの醒めない俺は、まだ覚束ない足取りで万事屋に帰れないでいた。 
「今日はあいつら何なんだよ。お陰で余計なこと思い出しちまっただろーが。マジで腹立つ」
 いつまでもガキとの約束に振り回されてる俺を周りは“馬鹿”だと嗤ってんだろう。神楽が出て行ってからもう2年と半年は過ぎていた。新八の奴がまめな事にわざわざカレンダーに書き込んでるもんだから、神楽が居なくなって何日くらい経っているのか嫌でも分かる。
 手紙も寄こさず、2年過ぎても帰らない。そうとなればあの約束もまあ……果たされる事は無えのかもな。それにしても俺も何やってんだ。律儀に約束守って、神楽がいなくなったにも拘らず女の一人も連れ込まねぇで……そりゃ、病気を疑われても仕方がなかった。自分でも何度言ったことか。ガキの一人くらいなんだって。忘れちまえよと。だってそうだろ? 神楽はきっと今頃、あの日俺が言ったようにどこぞの星でもっと良い止まり木でも見つけたんだろう。そうじゃなきゃ神楽が戻らないことについて説明しようがなかった。さすがにくたばっちまったなんて考えねぇ。それに万事屋が嫌いになったとか、そういうのもなんつーか……考えられねぇんだよ。あるとしたらやっぱり、どっかで今まで以上に笑ってる神楽の姿だった。
「ああもう! ちくしょーッ!」
 俺はようやく戻った万事屋前の電柱にもたれかかった。意味もなく叫んで空を仰ぎ見れば、幾分か気分がマシな気がした。この宇宙のどこかにあいつが居ると思うと、それだけで明日ももう一日だけ待ってみようと思えるからだ。だが、星の一つも見えねぇ。まるで神楽なんか存在してねぇと言われてる気分だ。それが無性に不安を掻き立てて、ヒトリで居ることなんて慣れてるのにどうしようもなく誰かに頼りたかった。それもとびっきりの美人で出来れば尻の大きくて、胸は————もう家に帰っちまおう。寝れば少しは気も紛れる。それに寂しさを理由に誰かを求めんのは無責任過ぎる。そんなことを考える俺は珍しくマトモだった。
 万事屋に伸びる階段を一歩一歩、ゆっくり上がっていく。玄関が近付くにつれて足取りは重くなる。帰れば俺の布団で図々しくも寝ている神楽は居ない。酒飲んで帰った俺に“お土産は?”と尋ねる神楽は居ない。水を持ってきてくれる神楽も、ヨダレ垂らしたままソファーで寝てる神楽も……
「神楽、居ないんだな」
 改めて口に出せば鼻の奥がツンと痛んだ。神楽が居なくなって初めて俺は神楽の存在のデカさを知った。いない日々が俺の神楽への執着を強くした。マジで厄介だ。こんな風になるなんざ俺が一番想像していなかった。こんな事が神楽に知れたら笑われるくらいじゃ済まねぇだろうな。冷ややかな目でそれも唾を吐き捨てながら“キモいアル”なんて言われて終いだ。いや、それでも良いから俺は神楽に会いたいと思うほどだった。
 遂に誰も待つことのない万事屋に帰ると、俺は静まり返る室内に分かってはいるが言ってみた。
「ただいま」
 暗闇に言葉が吸い込まれていって、外を走る自動車の音に掻き消された。虚しさが込み上げる。それでも俺は自分で捨てたわけじゃないと、あいつが巣立ったという事だけが救いだった。己の手で葬ったわけでも、突き放したわけでもねぇ。正当な別れだった。
 適当にブーツを脱ぐと、居間の電気がつきっ放しになっている事に気が付いた。
「新八のヤロー、消し忘れて帰ったな。ほんっとにあの眼鏡何やってんだよ」
 そう文句を垂れて居間に入れば————女が一人、お茶漬けを食っていた。茶碗で顔は見えねぇが、電気に照らされた腕は白く、オレンジ色の髪と真っ赤なチャイナドレスが俺の目に飛び込んで来た。悪い夢なら早く覚めろ。幻覚を見せるなんざ悪質だろ。
「あ、銀ちゃん。おかえり」
 茶碗を置いた女は俺の思っている女とは少し違った。だが、頭に浮かんでいる顔とそう違いはない。俺はその辺りで一気に酔いが醒めると瞼をこすってみた。女は消えることなく俺を見て笑っている。
 神楽だ。間違いなく神楽は帰って来た。その事実にようやく気付いた俺は、ゆっくりと神楽の隣りに腰掛けた。
「やっぱり地球の飯が一番美味いアルナ」
「……飯ってお前、それお茶漬けだろ。どこでも食えるじゃねぇか」
 他に言葉が出なかった。今まで何してただとか腹立つ気持ちだとか。土産のこととか金のことか。もう全てがどうでも良かった。神楽が今、ここにいる。その事実だけあれば俺はもう何もいらない。そんな事を考えていた。
「銀ちゃん、約束守ってくれてたアルナ。万事屋、新八と二人だけでやってたんでしょ?」
 神楽はそう言うとニッと笑った。だが、もうそこにかつての神楽は居なかった。長く伸びた髪のせいか妙に大人臭く、よく見れば唇には紅が塗られている。目線の位置もあの頃よりずっと俺に近づいて……それらが俺をくすぐった。
「すっかり忘れてると思ってたんだけどな」
 頭を掻きながらそう言えば、神楽も軽く俯いた。互いに思っているよりも距離が開いている事に気付いたんだろう。今までにはなかった照れが生まれた。
 そこで俺はようやく分かった。あの日、神楽の親父が言っていた言葉の意味が。若造だと嘲笑ったのは、きっとこういうことを想定しての発言だったんだろう。あの日から2年も経った神楽を受け入れるということ。俺はいつまでも神楽をガキのまんまだと思ってたが、実際はこんなに成長していた。俺は考えが甘かったことを反省した。神楽はもうガキじゃなかった。いや、大人じゃねーんだけど……俺と一つ屋根の下でと思う暮らすには問題がある程には成長していた。
「じゃあ、銀ちゃん。今日はもう休むことにするネ」
 神楽はそう言うとそそくさと風呂に入って、いつかのように物置の押入れに消えて行った。
 俺も今日はなんだか疲れたと寝室に敷いたままになっている布団に倒れこんだが、眠る前に神楽が俺を起こしに戻って来た。
「銀ちゃん、眠れないアル。押入れ狭いネ」
 俺は目を閉じると黙って布団に潜った。さすがに隣りで寝るのは何もなくてもマズいだろう。もう寝たふりしてやり過ごす以外に方法は思いつかなかった。なのに、神楽のヤツは俺の上に乗っかってそれを妨げる。
「オイ! 聞いてるアルカ! 押入れ狭いって言ってるネ!」
「だったら何なんだよ! 銀さんカンケーねぇだろ!」
 そう言って布団から顔を出せば、俺を覗き込んでる神楽の顔が間近にあった。妙に くすぐったい。だが、それは神楽も同じらしく急いで俺の上から下りた。
「な、何でもないアル。やっぱり良いね」
「お、おう。そうかよ。じゃあ、もう寝てこい」
 神楽は大人しく物置へと戻って行った。ようやく俺の悩みは消えて、今日からまた平穏に暮らせると思ってたが、どうもそう上手く行かねーみたいだ。悩みの種はつきないらしい。これから神楽とどう接するべきか。やけに騒がしい心臓に俺は不安が募る一方だった。
2014/11/23