Restart/銀神:01
ふとした時にその横顔に見惚れるのは、もう終わりが近いから?
依頼者宅からの帰り道、神楽は銀時の隣に並び歩いていた。夕暮れの茜空とそれに簡単に染められた色彩のない癖っ毛。まつ毛までも髪と同じだ。神楽は銀時を軽く見上げると、それらを目に映していた。
「おーい、万事屋さん!」
威勢良く飛んで来た声に神楽も銀時も足を止めると、その声が聞こえてきた方へと体を向けた。見れば八百屋の大将が手招きをしていた。
「いやぁ、今日も神楽ちゃんはベッピンだね! 良かったらコレ持って帰んな!」
そう言って大将は、キュウリやトマトをたくさん袋に詰めて神楽へと渡した。
「嬉しい。助かるわ。ありがとう」
神楽は柔らかく微笑むと落ち着いた声で言った。
この夏が過ぎ、秋を迎えれば遂に神楽も二十歳になる。すっかりと大人の女性に成長した神楽は町でも一際目を引く存在であった。
誰もが“美人”と思う顔立ちに、チャイナドレスから覗き見える白く長い脚。肉付きの良いその体は、今し方貰ったトマトの様に丁度、食べ頃と言ったようであった。
こうして街を歩けば、馴染みの店の大将に呼び止められて何かを貰う。そこに下心があるのかないのか、それは定かではなかったが、神楽が軽く微笑んで礼を言うだけで皆満足そうであった。
「それにしても勿体無いなぁ。銀さんとこでくすぶってるなんて。神楽ちゃんならアイドルにだって成れただろうに」
すると、それまで黙っていた銀時が目くじらを立てた。
「うるせェ! 誰も居てくれなんて頼んでねーよッ!」
「はいはい、そうよね。私が勝手にいるだけだもんね。もう行くわよ!」
神楽は銀時の背中を押すと、八百屋の大将に愛想笑いを向けて足早に立ち去った。
最近、銀時はこうした冗談にも黙っていられないのか、言い返す事が増えていた。前までなら神楽が言い返し銀時は何も言わずに見ていたのだが、今ではその立場もすっかりと逆転してしまった。
黙ってたって構わないのに。
いちいち言い返す銀時に、神楽はどこか大人気ないなんて思っていた。しかし、銀時が大人気ないのなんて今に始まったことでは無い。そうだから、神楽も“まぁ、いいか”と初めは思ってはいたが、やはりこう毎回だと何も思わずにはいられなかった。
あんな事を言うなんて、本当は私に出て行って欲しいの?
銀時の言葉を聞いていく内に、そんな不安が募っていくのだった。
万事屋へと着いた二人は特に何と言う事もなく、各自バラバラに過ごしていた。新八はと言えば道場の復興に力を入れており、前よりも万事屋へと居る時間が減っていた。
新八は自分の夢を見失わずに生きている。
神楽はそんな事を思いながら居間のソファーに座り、ファッション雑誌を読んでいた。銀時はと言えば、窓際の自分の席に座って相変わらず漫画雑誌に夢中だ。それを神楽は横目で見ると、変わらないなぁとどこか安心するのだった。
「神楽」
見ていることがバレたのか、突然銀時が名前を呼んで神楽はビクッと小さく跳ねた。
「な、なに?」
急いで目線を読んでいた雑誌に戻すと、神楽は脚を組み替えて涼しい顔をした。
「いや、お前っていつもあんな感じなの?」
多分、銀時は八百屋での出来事を言っているのだろう。野菜を無料で貰った事を。神楽は何と無くそれを察すると、銀時へと顔を向けた。
「まぁね。だからたまに冷蔵庫の食料が増えてるでしょ?」
「ちょっと来いよ」
銀時は雑誌を机に置くと、神楽を手招きした。神楽はそれには面倒臭いと言う顔をしたが、その瞳の輝きは隠す事が出来なかった。
椅子に座っている銀時の前に立った神楽は、銀時を見下ろして首を傾げた。
「何かし……」
神楽が言い終わらない内に銀時は、神楽の長いチャイナドレスのスカートを太ももが丸見えになるまでたくし上げた。
「ここまでやりゃあ、食べ物じゃなく金でも恵んでくれるんじゃ――」
神楽は銀時の顔面に蹴りを入れると、その体を後ろへとぶっ飛ばした。
「悪いけど、お金と引き換えに肌を見せるような女じゃないの。知らなかった?」
神楽は長い髪を手で払うと、銀時へと背中を見せた。
腹立つ……以前に恥ずかしい!
神楽は急に下着が見えそうな位置までスカートを捲り上げられ、顔を真っ赤にしているのだった。
なんであんな事をするのか、何を考えているのか。神楽は銀時の予期せぬ行動に心臓を激しく震わせていた。
「……でも、スリットから見えんのは良いのかよ」
銀時はそう言いながら顔を摩って立ち上がった。
「これは動きやすくする為のもので、他意はないわ」
「動きやすい格好なら、ズボンでも穿いてろよ」
そんな事を言って銀時はトイレに行ってしまうと、神楽は一人居間に残された。
銀時の着物と揃いの柄が入ったチャイナドレス。それは神楽のお気に入りの服であった。しかし、今の銀時の発言から、神楽がそれを着ることをどうも嫌っているように思えた。
銀時のネガティブな発言だけが積もっていく。やはり終わりは近いのか。銀時と向いている先が、もう随分とズレてしまっているように神楽は感じていた。もう先にも後ろにも、どこにも銀時はいない。いくら一つ屋根の下にいても、神楽は以前よりも銀時の熱を感じる事が出来ないでいるのだった。
夜、神楽が風呂に入ろうと脱衣所で服を脱ごうとしている時だった。カサカサと背筋の凍る音が聞こえた。神楽の頭に闇を纏し悪魔の化身が浮かび上がる。サァっと血の気が引いた。
「う、嘘でしょ……」
しかし、嘘などでは無い。真夏を前に活動的になったソイツが洗面台の下に――
「キャアアアアア!」
神楽は飛び上がり叫ぶと、一目散に逃げ出した。そして居間へ飛び込むと、ソファーに座っていた銀時に飛び付いた。
「え? 何? 銀さんに媚びたって金なんてねぇからな」
「違うッ! ご、ゴキブリがッッ!」
神楽は涙を流し、震えながら銀時にしがみついていた。いくら腕っぷしが強いとは言え、故郷には居ない未知の生物には手も足も出ないのだ。
「どこ? 風呂場?」
銀時は神楽を引き剥がすと、面倒臭そうに立ち上がった。そして殺虫剤を片手に脱衣所の方へ行くと、あっという間に退治をして戻ってきたのだった。
「もういねーよ。ほら、入ってこいよ風呂」
そうは言っても神楽はまだ体がゾワゾワとしている。もしかすると仲間がまだいるかもしれない。そう思うと足がすくんだ。
「今行くところよ」
強がって神楽はなんとかソファーから立ち上がりはしたが、やはりまだ恐怖心が拭えない。しかし、いつまでもここにいるワケにはいかないと、神楽は銀時の着物を掴むと廊下へと進んだ。
「ちょっ、神楽?」
分かっている。銀時を連れて風呂へ入れない事は。
「服脱ぎ終わるまでで良いから……ここに居て」
神楽はそう言って狭い脱衣所に銀時を連れ混むと、銀時の正面を壁側に向けて立たせたのだった。
「もう、いねぇって言ってんだろ? 殺虫剤置いといてやるから」
「べ、別にゴキブリが怖いとかじゃないんだからね!」
こんな変なところでどうして強がってしまうのか。神楽は自分に呆れていた。
「……って事はなに? これはお前の趣味なわけ? 狭い所に男連れ込んで脱衣するっていうプレイ?」
「そんなわけないでしょ! アンタはつべこべ言わず、そこに立ってたら良いの!」
銀時は本当に何も言わなくなると、神楽に背を向けたまま大人しく言われた通りに立っていた。
神楽は自分がこの状況を作り出した癖に顔を真っ赤にして、服に手すらかけられなくなっていた。しかし、一人になってしまう事もまだ怖い。今更どうしようかと思ったが、いつまでも銀時をここに置いておけないと、神楽は覚悟を決めて腰紐を解いた。
ファサと足元に落ちたそれが大袈裟な音を立てる。銀時は何を言うわけでもなく大人しく壁を見つめており、それには安心感を覚えるのに、何故か少しだけ悔しさを感じていた。
銀時とは昔から付かず離れずの関係で、だがいざという時は家族よりも深く繋がっていた。とは言っても本当の血の繋がった家族はちゃんと居て、神楽にとって銀時は次第に“大切な人”と言う括りに変わって行った。
そんな人のいる狭い空間で服を脱ごうとしている。それはとても恥ずかしく緊張する事なのに、僅かに芽生えた別の感情が神楽の体を熱くさせた。
何考えてんのよ! バカみたい。
自分に対してそんな言葉を胸の中で呟くと、神楽はニーソックスを脱いで、髪飾りを外した。
「悪かったわね。もう良いわよ」
「は? もう全部脱いだ?」
「気になるなら、こっち見て確かめてみる?」
神楽はそんな言葉を出すと、銀時が下を向いた。
「バカヤロー。音で分かるわ」
そう言って銀時は神楽を見ずに脱衣所から出て行こうとして――足を止めた。そして、頭を雑に掻くとポツリと言った。
「一人で入れるか? 銀さんと入んなくて良いの?」
落ち着いた声音。銀時が冗談のつもりで言ったのか、それとも本気で言ったのか。それを判断する事は難しい事だったが、本気のワケがないと思っていた。
「入るわけないでしょ」
脱衣所から出て行った銀時が何を思っていたのか、服を脱ぐことができなかった神楽は、そればかりがただただ気になっているのだった。
神楽が風呂から上がり、長い髪をようやく乾かし終わった後のこと。脱衣所から出れば、立ったまま銀時が漫画雑誌を読んでいた。
どうしたの?
神楽は驚いて銀時を見ていたが、直ぐにその理由に気が付いた。神楽がいつ叫んでも良いように待っていたのだ。でないと銀時がこんな台所とも洗面所とも言えないところで、漫画を読んでいる筈がない。
いつまでも知らん顔で漫画雑誌から目を離さない銀時に、柔らかい表情になった神楽は後ろから声を掛けた。
「別に頼んでないけど一応言っておくわ。ありがと……」
すると、ようやく顔を上げた銀時は片眉を吊り上げた。
「え? 何が? お前のプリンを食った事?」
その言葉に神楽は焦ると、冷蔵庫の中を急いで見た。
「ない! 私のプリンっ!」
叫んだ神楽に銀時は急いで居間へと駆け込んだ。だが、神楽がそう簡単に銀時を逃がすわけがない。追い掛けて神楽も居間へ入ると、駆け回っている銀時目掛けてタックルを決めた。そして、そのまま二人はソファーへ倒れ込むと、下敷きになった銀時の腹の上に神楽が跨った。
「覚悟は出来てるんでしょうね?」
「いやいやいや! ゴキブリを退治したの誰だと思ってんだよ!? 俺だろ! プリンくらい奢っても罰当たんねーだろッ!?」
確かにそう言われるとそうなのだ。神楽も銀時が退治してくれた事には感謝していた。しかし、プリンをあげるとは言っていないワケで……勝手に食べられた事にはどうも納得がいかなかった。
「せめて断わってから食べなさいよ!」
神楽はそう言って銀時の着ているシャツの胸ぐらを掴むと、自分へと引き寄せた。
「はぁ? 言ったらお前、ぜってェ食わせねぇだろッ!」
そんなの当たり前でしょ?
そう言おうとして、神楽は銀時との顔の近さに今頃になって焦ったのだった。
神楽は息を飲んだ。たまにこの現象はやってくる。銀時とふいに目と目が合って息が詰まる瞬間。それが訪れると体の奥が痺れるのだ。言葉は出ない。見つめている銀時の瞳が僅かに揺れていて――神楽の頬が紅く染まった。
改めて考えれば、大人の男と女が狭いソファーの上で何をしているのか。神楽はゆっくり瞬きをすると、痺れる唇でようやく銀時に言った。
「あたり前でしょ……」
すると銀時も瞬きを繰り返すと、神楽から視線を外して呟いた。
「分かってんだよ。それくらい」
しかし、また直ぐに銀時の瞳が神楽を捕らえると、二人は引き寄せられるように視線が繋がった。
疼くように逸る気持ち。それが何を望んでいるのか、熱い耳や頬に神楽は既に気付いていた。その頃には胸ぐらを掴む手からは力が抜けており、銀時は自らの力で体を起こしていた。
酸素が薄く感じる室内。まるで閉鎖環境に身を置いているように、互いの息遣い以外は意識に入らない。銀時が僅かに神楽との距離を詰めると、神楽もその行き着く先を想像して顔を近付けた。
「プリンの味くらいなら、まだ口ん中に残ってるかもな」
そんな口実を銀時は放言すると、神楽は酷いと思いながらもただひっそりと、銀時の吐く二酸化炭素を吸っているだけであった。お陰で神楽はクラクラだ。神楽はふらついて銀時の着物を咄嗟に握ると、首を伸ばして小さく言った。
「……じゃあ、頂戴ヨ」
神楽を見つめる銀時の瞳孔が開いて、神楽の後頭部へと手が回る。胸の鼓動が最高潮に達すると銀時の唇は――――神楽の唇とは重ならず、神楽の顔の前でピタリと止まった。触れそうで触れ合わないこの距離がもどかしい。しかしそれ以上、二人の距離が縮まることはないのであった。
銀時を見れば顔を歪め、奥歯を強く噛み締めている。そして、口が開く。
「何やってんだよバカヤロー」
誰に言うわけでもなく、銀時は悔しさを滲ませ呟いた。
神楽も今自分が何をしようとしていたのかを思い出すと、連打する心臓に胸を押さえ瞬きを繰り返していた。耳の中に心臓があるかのように煩い。鳴り止むまでにはまだ時間がかかりそうだ。
ふと銀時を見れば向こうもこちらを見ており、また目が合ってしまった。しかし、今度は何かが起きる前に急いで視線を逸らせた。
どうしてこんな事になってしまったのか。
あり得ないのだ。この銀時と唇を重ねるなんて事は。銀時はただの同居人で雇い主で毛玉でマダオで――誰よりも好きな男であった。しかし、それは神楽の秘めた一方的な想いであり、叶うことない淡い願いであった。
だから、キスなんて絶対にあり得ない。
そう思うのに、油断すれば銀時の唇に視線を戻してしまいそうになるのだ。
「わ、私、もう寝るわ」
神楽はその唇から逃げるように銀時の腹から下りた。これ以上ここにいては危険なのだ。しかし、銀時の腕が容赦無く神楽を掴む。
「悪かったな」
伏せられた顔と弱々しい声。銀時自身も参っていることが窺えた。
神楽はそんな銀時に困ったように笑いかけると、逞しいその腕を剥がした。
別に悪くなんてない。 そんな気持ちでいたのだった。
「銀ちゃんも疲れてるのよ。もう寝た方が良いわ。おやすみ」
そう言って背中を向けた神楽に銀時は、年甲斐もなく泣きそうな表情を浮かべ狼狽えて見えた。
「……あぁ、おやすみ」
その声は言いたい言葉を飲み込んだような、押し殺したものに聞こえた。神楽はそれを聞き届けると足早に居間を出て、物置へと飛び込んだのだった。
まだ体の震えが止まらない。悔しそうな銀時の表情が浮かび上がる。神楽は押し入れへの布団に横たわると、それが何を表していたのかを考えた。意味深な表情と自身を戒めるような言葉。それはまるで自制が効かなくなり、暴走しようとしている自分への怒りにも思えた。まさか銀時も神楽とのキスを望んでいたのか?
嘘よ。
そう思うのに、浮かび上がる表情が否定させてはくれなかった。そのせいで激しく動く心臓が落ち着きを見せない。
「あー、もう! 眠れない!」
神楽は我慢ならず押し入れから飛び出すと、物置を出て廊下を渡って居間へたどり着いた。もうハッキリさせなければ眠れないのだ。銀時が自分のことをどう思っているのか、それとも今のは単に気の迷いだったのか。それを問いただす事が必ずしも良い結果を生むとは限らない。だが、神楽はそれでも銀時に聞きたいのだ。“私とキスしたかったの?”その答えを――
神楽は覚悟を決めて銀時が居る寝室の襖を開け放つと、震える体を抱きながら言った。
「あんたのせいで眠れないんだけど」
しかし、神楽の目に耳に飛び込んできたのは、思いも寄らない銀時の姿であった。
「神楽ァアア!」
布団の上に転がる銀時は、神楽の名を呼びながら愛しそうに枕を抱き締めていた。
「な、なにしてるの?」
すると、その声でようやく神楽に気付いたのか、銀時は枕を抱えたまま顔だけを神楽の方へと向けた。みるみるうちに赤く染まっていく顔。
「だあああああああ!? なに!? お前いつから居たの!? いや、これはちげーよ! 別にお前の名前なんて呼んでねぇから! 勘違いすんなよ? アレだから! か、か、かつらァアア!って……イヤイヤイヤ、そっちの方が問題だろ!」
1人で慌てふためく銀時に、神楽は呆れたような顔をした。
バッカみたい。
枕を抱き締めて神楽の名を呼んでいたことは、もう隠しようのない事実である。そう、紛れも無い事実であった。
神楽はわざと笑わずに怖い顔をすると、布団の上で正座している銀時を両腕を組んで見下ろした。
「誰のせいで眠れなくなったか、分かってるんでしょうね?」
神楽はそんな事を言うと、口を開けたままこちらを見ている銀時の隣に腰を下ろした。もうこうなったら徹底的に追及しなければ、今日も明日も明後日も未来永劫に眠れる気がしないのだ。
「あんたの持てる力すべてで、私を眠らせてみなさいよ」
神楽は銀時の肩に手を置くとそう囁いた。額に汗を滲ませた銀時が、こちなくコチラを向く。
「いや~、それはつまり、えーっと……疲れさせろって意味ですか? ちょ、ちょっと僕ゥ分からないんですけど~」
激しく動揺している銀時に神楽は更に迫ると、面倒臭いと言ったように頭を振った。
「じゃあ、もう良いわ。眠らせてくれなくても構わないから、一つだけ聞かせて」
神楽は銀時が逃げられないように熱い頬に手を添えると、顔を赤らめて小さな声で尋ねた。
「私と……キスしたかった?」
銀時の喉が動いてゴクリと唾が飲み込まれる。それを黙って見ている神楽だが既にその息は熱く、不安と緊張とで倒れてしまいそうだった。しかし、ここで逃げ出すわけにはいかない。ちゃんと知りたいのだ。銀時の出す答えを。
「したかったってか? んなもん聞くなよ。分かんねぇの? 俺が今もなお、継続してしたがってるってこと」
神楽は驚きのあまり大きく息を吸い込むと、呼吸を止めてしまった。銀時の顔も分かりやすい程に赤く、互いにこの状況に照れや緊張しているのが伝わる。くすぐったい気分だ。
「銀ちゃん!」
神楽はじっとなどしていられなくて、遂に銀時の首に飛びつくとその身を押し付けた。
「銀ちゃん、好きだよ」
「ひゃああ! 神楽さんんっ! ちょっとダメだろ! 銀さんが、お前の為を思って我慢してるの気付いてねーの!? ああ! やめてっ!」
何を我慢する必要があるのか。神楽としては自分を愛してくれているのなら、今すぐにでもこの体ごとくれてやっても良いのにと、そんな事を真剣に思っていた。
一組の布団の上に倒れこんだ男女。そこから何か始まるのか、それとも何も始まらないのか。ただ終わりの見えない心臓の高鳴りは、これから始まる夜に期待しているのだった。
2014/06/08
以下あとがき。
リクエストありがとうございました。
私も5年後神楽さんが好きで、未来銀神は悶えるほどに萌えます。
モダモダをご期待に添える形で書けたか分からないのですが、
自分なりの越えられない一線の2人を綴ってみました。
アンバランスな場所で、どちらかが踏み込めば簡単に落ちてしまいそうな……
みたいなイメージで書きました。
こういうシチュエーションは自分も好きなので、書いていて楽しかったです!
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