お題:【パロディ】【SM】【襲われても知らない】【舌が熱い】【何処にも行くな】を基にした沖神。

※シンデレラ=神楽、魔法使い=沖田、クリスマス


 

シンデレラとドSと靴/沖+神

 

 むかーし、むかしあるところに、と書くだけ書いておきます。ある町に神楽と言う一人の少女がおりました。彼女は意地悪な継母……ではなく、パー子、パチ恵と言う血の繋がりのない男共と暮らしていました。その二人がどうもかまっ娘倶楽部のクリスマスイベントに駆りだされたらしく、可哀想なことに神楽は家で一人留守番を預かる事になりました。大きなケーキもプレゼントもないクリスマスの夜。神楽は星に願いました。

「パーティーに行きたいとは言わないネ。せめてコンビニのケーキで良いから食べたいアルッ!」

 なんと言うことでしょう。その叫びは魔法使いの老婆……ではなく、万事屋前を通りかかった一人の男の耳へと届けられたのです。その五分後には白いビニール袋を引っ提げた男が万事屋の呼び鈴を鳴らしました。神楽は夜分に誰だろうと思いましたが、これはシンデレラのパロディなので『魔法使い的な老婆だろう』などと思い戸を開けるのでした。まさかそこに真っ黒な隊服に身を包んだドSが立っているとも知らず……

 

 神楽は玄関の戸を開けて、すぐに顔を引きつらせました。

「なんだヨ! お前、一体何しに来た!」

「なんでィ、その顔。折角ひとがテメーを馬車馬に変えて、尻をぶっ叩いてやろうってのに」

 神楽のこめかみに青筋が浮かび上がった。

「なんで馬車馬アルカ! 魔法使えるならでっかいケーキとか出せヨ! ゴルァ!」

 そう言って沖田に飛びついた神楽だったが、一応沖田は魔法使い(黒魔術師)の設定なので今日に限っては簡単に神楽を引き剥がした。そして、靴を脱ぐと居間のソファーにドカッと腰を掛けた。そして、これみよがしに長い足を組むと突っ立っている神楽に向かってニヤリと笑った。

「ほら、テメーが欲しがったケーキだ」

 そう言って神楽に向かって白いビニール袋を掲げてみせると、神楽は再び沖田に跳びかかった。

「うぎゃー!」

 何度も言うが今回の沖田は魔法使いである。そう簡単に神楽にケーキはやれないと、指を鳴らすとあら不思議、空間からケーキが消えてしまったのだ。これには神楽も呆気にとられ、ただ大きな目で沖田を見ているだけであった。

「ケーキが欲しいなら、俺の言うことを聞け。悪いようにはしねえ、安心しろ」

 神楽の背筋に悪寒が走る。だが、嫌だと突っぱねても今日は無理にでも沖田の好きなようにされてしまうだろう。神楽は悔しそうに下唇を噛み締めた。

「フン、じゃあ好きにしろヨ」

 神楽はそう言って沖田の隣にあぐらをかいて座ると、胸の前で両腕を組んで黙った。沖田のことだから、どうせ碌でもない事だと思っているのだ。

「なら、そうだなァ……そこのわんころ、ちょっと貸せ」

「定春?」

 神楽は一体何事かと思ったが、定春くらいならと沖田の前に連れて行った。すると、沖田がよく分からない黒魔術的儀式を行うと……定春は白馬へ……ではなく、三角木馬へと変身したのです。神楽のこめかみにまたしても青筋が浮かび上がった。

「オイッ! お前、定春に何してくれてるアルカ! ふざけんなッ!」

 しかし、沖田はまあまあと神楽をなだめる素振りを見せると、次にこう言ったのだった。

「テメーもパーティーに行きてーんだろ? 俺が叶えてやろうって言ってんだ。黙って見とけ」

 そう言って沖田はテーブルの上にあったみかんを手に取ると……今度は何の結びつきもない荒縄へと姿を変えた。ドサリと言う音と共に神楽の足元に落ちた荒縄。

「さすがにこれは無理があるダロ……」

「荒縄で三角木馬を引っ張ってパーティーへ行く。これで文句ねーだろィ?」

 文句がないハズないのだ。こんなものでパーティーに行くなど、その集まりは何なんだと、なんのパーティーだと言ってやろうとした神楽だったが、次に沖田が出現させたアイテムに思わず息を飲むのであった。

 居間の天井からぶらさがる光量の弱い白熱灯に照らされたそれは、まるで宝石のように輝いて見えた。そうだ――――この物語のキーポイントとなるガラス製の靴だ。神楽の目がガラスの靴を映しているせいか煌めいて見える。

「キレー……」

 沖田もその言葉にニヤリと笑うと、得意気に指を鳴らして……神楽の中華服が高級感漂う真っ赤なチャイナドレスへと姿を変えた。

「これならどこのSMパーティーに出しても恥ずかしくねえ。ガラスの靴で踏んでこい。『この薄汚い豚め』って叫んでな」

 神楽はその言葉も耳に入っていないのか、その場でくるくる回ると嬉しそうに跳ねてみせた。

「キャッホーイ! これで私もパーティーに行けるネ!」

 三角木馬も荒縄も気にならない程に神楽はガラスの靴とチャイナドレスに胸を躍らせていた。

「あっ、いっけねえ。言い忘れてたが、魔法は0時に解ける。だから早いところ三角木馬へ跨がって出掛けやがれ」

 沖田のその言葉に神楽は……三角木馬へは跨がらずに玄関を飛び出した。そもそも三角木馬がなんであるのか幼い知識の神楽には分からなかった。

 あんなバランス悪いもの、乗り物じゃないネ! と、そんなことを思ったのだ。

 スリットから惜しげも無く白い足を出して、かぶき町を駆け抜けると神楽は皆の注目を浴びているような気がした。なんて言っても今日は、今日だけは魔法でドレスアップしたのだ。人々の視線が気持ちよかった。そして、ふと目についたクリスマスイベント会場へ入ってみた。少し年齢層の高いパーティーらしく神楽のような少女には場違いな雰囲気であった。しかし、神楽は人混みに流されるがままフロアの中心へ辿り着くと、一人の紳士が声を掛けた。

「お嬢さんはお一人かな?」

 どこか脂ぎった笑顔に神楽は思わず舌を出しそうになったが、今夜は機嫌が良い。お喋りの相手くらいならしてやっても良いと思ったのだ。どうせ家に居ても暇で、0時までは魔法も解けない。神楽は声を掛けてきた男に誘われるようにフロアの更に奥、VIPルームへと足を向かわせるのだった。

 

 男とどれくらい話しただろうか。神楽は時計もない小さな部屋で心地の良いソファーにもたれかかっていた。喧騒からも遠い、まるで魔法にでもかかったかのように時の流れを感じなかった。そして、少し眠たい。いや、だいぶ眠い。普段はお子様タイムに眠っている神楽からすると、随分と夜更かししている気分であった。重たい目蓋が視界を狭める。

「あれ? お嬢さん? もうお休みの時間かな?」

 男の声が聞こえる。だが、それに返事を返す事も出来ない程に眠いのだ。少々それはおかしいと思うほどに。テーブルの上に置かれた空になったグラスが神楽の目にぼんやりと映っていて…………そこで神楽の記憶は一旦途絶えてしまった。

 

 次に目が覚めた時には、男の野太い悲鳴のような声が聞こえ――――目の前には三角木馬へと跨った亀甲縛りの紳士の姿があった。そして、その傍らには刀を持った沖田が退屈そうに立っていたのだ。神楽は目蓋を擦るとグッと背伸びをした。

「お前ら何してるアルカ?」

 すると沖田がこちらを振り返り見た。一瞬、その顔に安堵のようなものを見つけ、神楽はどうしたのだろうかと騒ぐ自分の胸を押さえた。だが、次に見た時にはいつもの飄々とした沖田になっており、今のは錯覚だったのだろうかと首を傾げた。

「テメー、俺の言葉を聞いてなかったのか? 魔法は0時に解けちまうって。今はもう23時半だぜ」

 すっかりと眠り込んでしまったせいで、クリスマスを満喫することなく日付が変わろうとしていた。

「最悪アル! もう帰らないと銀ちゃん帰って来てバレちゃうアル!」

 パー子とパチ恵がむさ苦しい男衆に混じり頑張って仕事をしていると言うのに、夜遊びしている事がバレれたらお土産が貰えないかもしれないのだ。それは困ると神楽は急いでVIPルームから飛び出そうとして――――沖田の手が神楽の頭を掴んだ。

「いでででッ! オイ、ゴルァ! 何すんだヨ!」

 そう言って神楽は逃れようと暴れたが、沖田の魔法によってそれは阻止されてしまった。

「テメーがどこぞの野良犬に襲われようが、食われようが俺には関係ねえが……余計な仕事が増えんのは迷惑だ。家までリード着けさせてもらうぜ」

 そう言って神楽の首にチョーカーが巻かれ、鎖で繋がれてしまった。

「こんなもん噛み切ってやるネ!」

 しかし、もちろん噛み切れる事もなく、神楽はこうなったら自分が沖田を引きずってやると鎖を引いて会場から出るのだった。

 

 万事屋までの帰り道、神楽の三歩程後ろを歩く沖田が突然鎖を引っ張った。そのせいで神楽は後ろに倒れ……沖田の胸に受け止められてしまった。

「なんだヨ……」

 こちらを見下ろす緋色の瞳が何も言わずそこにあって、神楽は眉間にシワを寄せた。何を考えているのか全く分からないのだ。

「……テメーはバカなのか、危機感がなさ過ぎる」

 神楽はその言葉に思わず目線を逸らした。分かっているのだ。浮かれて、知らない男と二人だけになって、そして飲み物にクスリを盛られて……。もし沖田が来なければどうなっていたことか。どこぞの惑星に売り飛ばされていたかも知れない。いや、もしかするともっと恐ろしい目に……口には出せないが、沖田が来てくれて助かったと思っていた。

「この調子なら、外に出る時はリードが必須だな……旦那にプレゼントするかねィ」

 沖田が何かを企むように言ったので、神楽は背伸びをするとジャンプして沖田の額に頭を強く打ち込んでやった。

「いってェエエ!」

「フン、大げさネ」

 そうして神楽が沖田を見上げている時だった。空から白い雪が降りてきたのだ。積もるには激しさのない緩やかな降り方だが、クリスマスの夜にとても似合うと神楽は思った。

「くしゅん! 通りで冷えると思ったネ」

 その後、神楽も沖田もしばらく空を見上げたまま何も言わなかった。時刻はあと2分で0時を迎える。そんな時、不意に沖田が言ったのだ。こちらを見ることもなく。

「オイ、目を閉じろ」

 こちらを見ずに言った沖田に不信感を抱くも、なんとなくこの静かな雰囲気を壊したくないと思ったのだ。それにどこか幻想的な景色で、神楽の気分も高揚していた。沖田の命令など大人しく聞くタイプではないが……今夜は少し楽しませてもらったのだ。神楽は言われたまま目を閉じると、まつ毛を震わせながら息を呑んだ。

 すると、次の瞬間には顎を掴まれて――――――――――――口の中へ大量のタバスコが突っ込まれた。

「辛いッッ! 舌、あ、あああ熱いッ!」

 涙目で飛び上がった神楽は、既に背中を見せている沖田を追い駆けた。

「ど、どどどうしてくれんだヨ! 舌が、舌がァァア!」

「テメーが寒いって言うから気を利かせてやったんだろ!」

 魔法使いならもっと非科学的に暖めろと思うも、確かに汗を掻くほどに今は寒さを感じない。とにかく今は沖田を捕まえなければと神楽はガラスの靴で沖田を追い駆けた。しかし、鎖が放置自転車に引っかかってしまい神楽は転んでしまうと、ガラスの靴が片方脱げてしまった。その物音に気付いたのか沖田の足も止まり、こちらを振り返り見たのだ。

「あっ、いっけねえや。もう一つ言い忘れてたが……魔法が解けると素っ裸になる仕様でィ。じゃあな」

 神楽はその言葉に顔面蒼白になるとガラスの靴を握りしめ、全速力で沖田を追い駆けた。

「なんて呪いかけてくれたんだテメェ! こら、待て! どこにも行くナッ! 呪い解けゴルァ!」

 こうしてシンデレラはガラスの靴でドSをぶん殴ると0時になる一秒前に魔法を解いてもらい、無事に万事屋へ帰りましたとさ。おしまい。

 

2015/12/24