2016 Request

銀神。

原作設定。

二日酔いの状態で目覚めた銀時の体が定春に。

スキンシップをする定春に嫌がりながらも頬を染める神楽。

定春になった銀時の色んな意味でのドキドキ日常もの。


 

可愛いペット/銀神(リクエスト)

 

 昨晩、飲みすぎて眠った銀時は具合の悪さに目を覚ました。時計を見れば午前四時。布団の上に体を起こし、室温の低さにブルッと体が震えて、口から舌が出てくる。体も重く、やけに熱い。

「くぅん」

 妙な音が聞こえるが気にせずトイレに行くと……全身を覆う真っ白い毛に思わずチビりそうになった。

 これは一体どういうことか? 銀時は慌てて鏡を覗き込んだ。真っ白な毛につぶらな瞳。ハァハァと生臭い呼吸に『あんっ!』とおかしい言う奇妙な声。鏡に映っているのは銀時ではなく、万事屋で飼われている定春であったのだ。

(これは悪い夢だ。そうに決まってる)

 銀時はフラフラと廊下を四つ足で歩くと、再び布団へ潜るのだった。

 

 そこから数時間後。

「うぉりゃぁあああ!」

 絶叫により銀時は目を覚ますと襖の向こうの光景に絶句したのだ。神楽に飛び付いている坂田銀時がたった今吹き飛ばされた。

(はぁああ!? どう言う事だ!?)

 坂田銀時が――――――この自分がどういうワケか目の前に居るのだ。理解が出来ない。坂田銀時はこの俺だと言うのに一体何が起こっているのか。するとよく分からない内に神楽がこちらへ向かって来た。

「定春ぅ!」

 そう言った神楽に銀時は抱き締められると、そこで全てを悟ったのだ。俺があいつであいつが俺で――――――つまりは何らかの非科学的、或いは科学的な要因が重なり《定春は銀時、銀時は定春》へと変わってしまったようなのだ。

 首元にうずくまっている神楽はまだニセモノの坂田銀時に怯えている。

「今日の銀ちゃんいつもに増してキモいアル」

 その言葉に定春になってしまった銀時は更にショックを受けると、このとんでもない状況に頭を抱えるのだった。

 

 

 とにかくヒドい光景である。神楽にどれだけぶっ飛ばされても中身定春の銀時は諦めず、何度も飛び掛る。そうこうしている内に新八がやって来て――――銀時は新八にも飛びつき顔中をベロベロと舐め回した。地獄絵図だ。

(やめてくれ……俺の体でやめてくれ……)

 さすがにもこのおぞましさに青い顔の新八が銀時を投げ飛ばした。

「いい加減にしろッッ!」

 ようやく彼は大人しくなるとフラフラと床へ倒れ込んだ。そして体を丸めたのだ。きっとつまらなくなり眠るのだろう。中身はただの犬なのだ。仕方がない。だが、この先一体どうすれば良いのか。銀時は白い体を神楽に抱きしめられながら考えた。

(源外のじいさんに相談するか?)

 しかし、今は言語を持たない。意思疎通は困難とみられる。ならば、もうなす術はないのかもしれない。残りの人生を毛だらけの体で禁欲的に過ごすしかないのだろうか。そう考えると罰でも当たったような気分だ。

「定春! 銀ちゃんなんて放っておいてお散歩いくアルヨ!」

 銀時は定春の体で首をブンブン横に振った。何が悲しくて地面を這いずり回り、人前で足をおっぴろげて小便をしなければならないのか。絶対に無理だと頑として動かなかった。しかし、神楽が心配そうに自分を見るのだ。

「どうしたアルカ? どこか痛いネ? よしよーし。いい子アルナ」

 普段との扱いの違いに銀時は嬉しいような悲しいような、なんとも言えない気持ちになった。優しく自分を撫でる手。その心地よさに思わず勝手に鳴いてしまう。

「くぅん」

 そして、尻尾がパタパタと分かりやすく床を叩くのだ。なんて無様だろうか。だが、どんなに抗おうとも、この体は本能に正直であった。すると突然、床で眠っていた銀時が起き上がり四つ這いで駆け出した。

「ちょっとォオ! 銀さん!?」

「あいつ、ついに頭イカれたネ?」

 定春の格好をしている銀時は嫌な予感がした。定春が表へ出るには理由があるのだ。いつもその後に神楽がついて行くのを今まで何百回と見てきた。

「わんわん!」

 銀時は慌てて定春が出て行った後についていくと、四つ這いで階段を駆け下りた。そして、アパートの裏に回ると…………

「ぎっ、銀時ぃ!」

 お登勢の叫び声と、電柱に小便を引っ掛ける四つ這いの銀髪侍の姿が!

 定春の格好をしている銀時は、失神してしまうとそこで意識を失くすのだった。

 

 

 どれくらい眠っていただろうか。万事屋の居間で目を覚ました銀時は《くぅん》と鳴いて目が覚めた。そして、ぼんやりとした視界に入る二人の人物に思わず目を丸くした。ソファーに押し倒された神楽と――――――その体の上にのしかかる銀時が居たのだ。中身はもちろん定春である。寄り添って眠っているつもりなのかもしれないが、下にいる神楽はどうやらそうではないようだった。浅い呼吸と赤い頬。そしてどこかうっとりと潤んだ目で銀時を見ていた。

「銀ちゃん……そろそろ下りてヨ」

 だが、さほど嫌がってはいない。銀時の体温に酔いしれているようなのだ。しかし、中身が定春である銀時には他意はない。ただ神楽が好きで寄り添い眠っているだけだろう。これが犬の姿であれば何も問題はない。だが、今は違う。成人男性だ。それもこの自分の姿をしている。大問題だ。しかし、何故神楽があんな顔をしているのか、その原因を知りたくなったのだ。眠っているであろう銀時の体を咥えて引きずり下ろすのは簡単だが、それをあえてしなかった。

「なんで今日の銀ちゃん、こんなに距離が近いネ? まるで…………」

 定春みたい。そう言うのだろうか。床に転がる銀時はじっと静かに見守っていた。だが、神楽は銀時の髪をいじって言ったのだ。

「恋人同士みたいアル」

 そう囁くように言った神楽に耳の辺りがカァと熱くなって、尻尾がパタパタと動き出す。そして考える。神楽は普段この自分をどう思っているのだろうか。その答えが今の表情や言葉なのか? 

 そんな事を思って見ていると神楽の上に乗っている銀時が神楽の頬をぺろっと舐めた。それを嫌がりもせずに受け入れる神楽。いつの間にかごく自然にそれは行われ、満更でもない様子の神楽に焦った。それ以上はやめてくれ。だが、定春である銀時は神楽の唇をペロペロと舐めた。そして神楽から銀時に顔を寄せると唇に――――――白い巨体は飛び出し、銀時の体を引きずり下ろした。そして、代わりに神楽の上に乗ったのだ。これには神楽も驚いていた。だが、すぐにくすくす笑うと神楽は黒い鼻先に口づけしたのだ。

「定春もして欲しくなったアルカ?」

 床に転がった銀時は目を白黒させていたがすぐに丸まった。神楽の上の銀時……定春はと言うと神楽に口づけをされ、尻尾のパタパタが止まらない。どんなに念を送っても動き続ける。さっき鼻先にキスされた事がくすぐったくて堪らないのだ。きっと。

「定春。お散歩行かなくていいアルカ?」

 銀時は首を振ると、定春の体を利用してもう少し神楽に甘えてみた。頬を舐めて、そして唇に軽く口づけ。普段の自分ならこんな事は出来ない。しようと試みたこともない。今なら軽いじゃれ合いくらい簡単に、それも誰に遠慮することなく出来るのだ。だが、飽くまでも犬。神楽からはただの犬としてしか見られていないが、実際の坂田銀時はちゃんとひとりの男として見られているのだ。今日一日の神楽を見ているとそれは誰の目にも……いや、定春の眼だから分かった事だろう。この体になって、定春の眼を通さなければ見えなかった事実だろう。この異常な事態もそう悪いことばかりではない、そんなふうに思ったのだ。だが、それは元の体に戻れたらの話だが。

 銀時は神楽の上から下りると、何も知らずに眠っているもう一人の銀時を見た。もしこのまま生活をしなければならなくなったら……犬として神楽と銀時を見守らなければならないのだ。やりきれない気持ちが沸き上がった。

「そうネ! 定春、お風呂入れてあげるネ」

「あん?」

 突然、神楽がそんな事を言って立ち上がった。体を撫で回され、あんなところやこんなところまでまるっと洗われてしまうことだろう。それはさすがに嫌だと銀時は必死に踏ん張った。だが、神楽は笑顔でその巨体を風呂場まで引っ張って行くと、投げ入れられるのだった。

「定春、待っててネ」

 戸が閉められ、布の擦れるような音が聞こえる。もしかするとこれは神楽が……まさか、いや、そのまさかかもしれない。チャイナドレスを脱いで、そして下着すらも。それはダメだろう。いくら犬とは言え動じないとは決して言えない。だが、これも役得……ではなく、仕方のないことなのだ。ペットと言うものはそういう飼い主の誰にも見せないような所まで見て初めてペットと言えるのだから。こうなったら見てやるしか無い。神楽の白い肌や…………

「おまたせアル」

 銀時はそこで意識を失い倒れると、ソファーに運び込まれるのだった。

 

「しっかりするアル!」

 神楽の声に薄っすらと目を開けた。どうやら神楽が風呂に入って来たところで頭に血が上り倒れてしまったらしい。神楽と新八がこちらを覗き込んでいた。心配そうな顔の神楽。自分が定春だと言うだけでこんなにも心配されるのか。そう思うと少々やりきれなさも感じたが、それでもこうして今の瞬間大切に思われているのは間違いなくこの自分である。神楽の瞳に映っているのは…………

「あん!」

 銀時は神楽を喜ばせようと飛びかかると頬をぺろっとの舐めるのだった。だが、次の瞬間には神楽に天井裏までぶっ飛ばされて、銀時は頭から突き刺さった。そう。気を失っている間に定春から銀時へと姿が戻っていたのだ。

「な、ななななに考えてんダヨ!」

 その後しばらくの間、神楽の半径二メートル以内への立ち入り禁止が言い渡されるのだった。

 

2016/07/28