2016 Request

原作

神楽は13~14歳

神楽→銀時、銀時→←お妙

銀時→←お妙を知ってる神楽は、精神的に限界がきてる状態で近藤に会う

神楽と近藤、二人で過ごす日が増える

酔っ払った銀時が神楽を抱く

最終的には銀神


 

セーフティーゾーン(リクエスト)

 

 比較される事には慣れていた。いつでも周囲の評価は《怪力で腕っぷしの強い夜兎族》だ。護られるか弱い存在――――――それは兄との決別で故郷に置いてきていた。どこに行っても自分の身は自分で護ることを神楽は常に考えていたのだ。それでも自分の前に立ちはだかる大きな背に安心する。

《護られる存在》

 自分はそれだけの価値があると言われているようで嬉しくなる。背を見せる誰かにとって大切だ、そう言われているようで。だが、神楽は欲をかいた。特別になりたいと願ってしまったのだ。

 

「あら、いやだ銀さん。そんなに私の手料理が食べたいんですか?」

「言ってねえッ!」

 志村邸宅の客間で、神楽の隣に座る銀時は机を挟んだ向かいに居るお妙にダークでマターな物質を口に押し込まれていた。神楽はそれを苦笑いで眺めていると、その辺に居た新八が時計を見つめて行った。

「姉上。そろそろ支度する時間じゃないですか?」

 時刻はまだ明るいが夕暮れ前。キャバクラへと出勤する時間が迫っていたのだ。新八の言葉にお妙は銀時の顔を見ると、それまで白目を剥いていた銀時がこちらを向いた。

「じゃあ、お前は帰ってろ。ちょっと飲んでくっから」

 その意味を神楽は知っている。同伴出勤するのだろう。二人でどこへ行くのだろうか。神楽の顔から赤みが消えた。

「……銀ちゃん、姐御とどこ寄るアルカ?」

「こいつに新しい着物を選んでくれって言われてな」

 神楽はその言葉に生意気そうな表情になると胸の前で両腕を組んだ。

「私のチャイナドレスは一度も選んでくれたことないアルナ」

 すると銀時の手が神楽の頭に置かれた。

「どうせお前は真っ赤なチャイナドレスしか着ねーくせに」

 髪を乱すように銀時が頭を撫でると、お妙も新八もおかしいと笑うのだった。

 子供扱いだ。神楽は腹を立てると銀時の手を払い除けて立ち上がった。

「じゃあナ! もう帰るアル」

「おう、気を付けてな」

 神楽はその言葉を背に聞くと足早に万事屋へと帰って行った。

 

 腹が立つ。何故こんなにも苛立つのか。それは銀時の態度や対応が極端に自分を子供扱いしているせいだ。エロの知識も町の裏事情も、金の流れも全て知っている。それのどこが子供だろうか。真っ赤なチャイナドレスの何がそんなにおかしい? 銀時の態度全てにムカつくのだ。神楽は家に着くと定春に抱きつき、しばらく丸まっているのだった。

 

 深夜。銀時が酒に呑まれて帰って来た。ヘラヘラと笑いながら。神楽は重い瞼を擦りながら玄関へ向かうと、銀時が抱き付いて来た。

「神楽ァ、向こうまで運べ〜」

 いつもの事だ。酒臭い顔を平気で引っ付けて、偉そうに指図する。神楽は銀時の体を頭上に持ち上げると叫んだ。

「気円斬!」

 銀時の体は宙を舞って居間のソファーへと叩きつけられた。だが、今日はご機嫌らしくまだ笑っているのだ。

「何があったアルカ?」

 神楽は毛布を持って来ると銀時にかけてやった。

「別に何もねぇよ」

 だが、神楽はそれが嘘である事に気付いている。

「…………おやすみアル」

 神楽は押し入れに戻ると胃のムカつきのせいで眠れそうになかった。

 最近、銀時の機嫌が良い時がある。決まってそれは飲みに行った日で、決まってそれは――――お妙の店であった。そうじゃなくても普段から銀時が誰を見ているのか分からないワケがない。それが自分を苛立たせている事も。だが、お妙が銀時を相手するとは考えづらい。だからまだ幾分か平気なのだ。

 

 翌日。神楽は駄菓子屋へ行き、その帰りに沖田とひと暴れし、そして夕方――――キャバクラへと向かうお妙を見つけた。だが、様子がおかしい。知能が低そうな入れ墨男数名に囲まれているのだ。そうこうしている内に路地裏へと引っ張られて行った。

「誰かッ! 嫌ァ!」

 神楽は急いで後をつけると、ゆっくりと近付き息を潜めた。だが、時間がない。今は丸腰だが、躊躇している時間はないのだ。このままではあの綺麗な着物を引き裂かれ、脂ぎったクズ共に嬲られてしまうかも知れない。神楽は自分が飛び出し、多少の痛手を負うくらいでお妙を助けられると信じていた。だが、足がすくんだ。理由は――――――

 神楽は頭を振ると、連れていた定春を万事屋へ帰らせると勢い良く飛び出したのだ。

「その人を離すアル!」

 男共はその声に驚いてこちらを見たが、小さな少女の姿に鼻で笑った。

「おいおい、お嬢ちゃん。お呼びじゃねぇよ! 家に帰って母ちゃんのおっぱいでもしゃぶってな」

「神楽ちゃん!」

 神楽はお妙を見て頷くと男に飛び掛ったのだった。素早く首に体重を掛けてチョークスリーパーをきめると大男に泡を吹かせた。だが、二人がかりで捕まれ引き倒されると神楽の手足を封じ込めた。

「このガキ! 痛い目みねえと分からねぇらしいな」

 押え付けられたまま腹を殴られた。

「ぐぁぁあああ!」

 だが、お妙はその間にも着物を脱がされそうになっている。真新しい綺麗な着物が……その時だった男共のケツに木刀が刺さり倒れていったのは。路地を見ればそこに立っていたのは銀時であった。

「銀ちゃ……」

「銀さん!」

 そう言ってお妙が銀時に抱き付くと銀時もお妙を抱き締めた。

「怪我して無えか」

 神楽はその光景に心臓が潰されそうになると、ゆっくりと立ち上がった。呼吸が苦しい。眩暈もする。

「神楽、お前も無事か?」

「神楽ちゃん、ありがとう」

 お妙と銀時がこちらを向いたが神楽は上手く笑える自信がなかった。そのまま駆け出すと、万事屋ではなく公園へと向かうのだった。

 

 ベンチに座って震える体を抱く。比較される事には慣れていた。地球では頑丈な方だから、救助の時に最優先でないことは多々ある。それでも銀時だけはいつでも自分を護ってくれる存在だと信じていた。だが、現実は違った。銀時はお妙の無事を確認し、お妙も神楽ではなく銀時を求めた。それを見ているだけの自分は滑稽で、馬鹿馬鹿しく、ちっぽけな存在に思えた。

 何やってんだろ。自分も『銀ちゃん!』と叫んで飛びつけば良かったのだ。だが、それが出来なかったのは二人の仲を邪魔しちゃならないと察したからである。

「よォ、チャイナ娘」

 聞き覚えのある声に顔を上げれば、人語を喋るゴリラが居たのだ。

「なんダヨ」

 近藤がいつもみたいにお妙をストーカーしていれば、神楽が飛び出ていくこともなかったし、銀時が駆け付けることもなかった。全てはこの男に責任がある……そんな気にさえなった。

「お前、姐御のストーカーやめたアルカ?」

 神楽の隣に腰を下ろした近藤は神楽に缶ジュースを差し出した。

「……気付いた時にはもう万事屋が無双してた」

「そっか」

 それなら全てを見ていたのだろう。だが、そうへこたれる男ではない。あんな事くらいでお妙を諦めるとは思えなかった。

「お前は……勇敢だった」

 缶ジュースを受け取ると近藤の顔を見た。

「フン、私の上司にでもなったつもりアルカ?」

「お前が男ならウチに欲しかったとは常々思うがな」

 慰めだとしたら余計なお世話だ。哀れだと思われる事には耐えられない。それでも誰かに必要とされる事は……そう悪い気はしない。

「なぁ、お前も見てたアルカ?」

 ジュースを飲みながら近藤を見れば、こちらを見ている目に戸惑いが見えた。

「まぁ、気付いてたがな」

「諦めるアルカ?」

「お妙さんが幸せならそれで良い。それでお前はどうすんだ?」

 その言葉に動悸が激しくなる。近藤は一体なにを訊いているのか? 

「どうするって何ネ? 意味わからんアル」

 近藤は頭を掻くと笑った。

「なら良いんだけどよ……」

 それだけ言うと立ち上がり神楽に背を向けた。

「気持ちの行く先をどうするかって事より、その気持ちを認める事の方が案外難しいのかもしれねェな」

 そんな言葉だけを残して近藤は立ち去った。神楽はその言葉の意味を考えながら、まだ万事屋へ帰る事が出来ないのだった。

 

 そこから少しして家へ帰ると新八が居間で一人寛いでいた。そして神楽を見るなり言ったのだ。

「神楽ちゃん、その傷どうしたの? また暴れてきたの?」

 神楽は新八を睨みつけた。

「またってどういう意味アルカ?」

「神楽ちゃんも女の子なんだから、もう少し気を付けた方が良いよ」

 新八は心配して言ったのだろうが、今日だけはその言葉が許せなかった。神楽は新八に飛び掛ると床に倒したのだ。

「急になんだよッ!」

 新八がもがいて肘が神楽の頬にぶつかった。それが更に神楽を怒らせると髪の毛を掴んだ。

「うっさいアル! その眼鏡割ってやるネ!」

「ヤメロォおおおお!」

 その時だった。帰って来た銀時が二人を引き離したのは。

「おまえら! 何やってんだバカヤロー」

「神楽ちゃんが急に殴りかかって来て……」

 神楽は新八を睨んだまま突っ立っていた。そして銀時に腕を掴まれた。

「何が気に入らなかったんだよ。お前はジャイアンか?」

 その言葉に神楽は銀時を強く睨みつけた。お前の言動が、その全てが気に入らないんだと。神楽はそれを口に出さず、代わりに自分が家を出て行くのだった。

 

 追い駆けても来ない。神楽は今夜帰らないと決めた。だが行く充はない。結局、夜遅くまで神楽は酢昆布をかじりながらコンビニ前で座り込んでいた。だが、こちらをじっと見ている黒服が居て、神楽は無視をするもやはりこちらに近付いて来た。近藤だ。

「逃げねぇのか?」

「でも、家に帰らんアル」

「まぁ、だろうな……」

 無理やりに帰すつもりはないようだ。昼間話した事と関係があるのか? まさか何か同情でもしている?

 神楽は近藤を見上げるとその目を覗いた。

「で、何しに来たネ」

「さすがにもう十時を回る。放ってはおけんだろ」

「ならホテル代でもくれるアルカ?」

 すると近藤はニカッと笑い神楽に言った。

「雨風しのぐには充分な寝床を用意してやれるぞ」

 そんな言葉を信用するなど、いつもの神楽ならあり得ないだろう。しかし今日だけは他人の……近藤の言葉に耳を傾けるのだった。

 連れて来られたのは――――――真選組屯所。ある部屋に通された。

「……なんか臭いアル」

 近藤は涙目でこちらを見ていたが、神楽は畳の上に座ると口角を上げて言った。

「早く布団敷けヨ」

「仕方ねえな」

 そうしてこの日神楽はフカフカ……とは言い難いが布団で眠りについた。

 

 どれくらい寝ていただろうか。襖の開く音と文机の上の明かりに目が覚めた。うっすらと誰かが居るのが見える。仕事が終わったのか近藤が着替えているようだ。

「ここお前の部屋だったアルカ?」

 すると浴衣に着替え終えた近藤が畳の上にどっかりと胡座をかいた。

「どうだ。そろそろ帰る気になったか?」

 神楽は布団の上に体を起こした。

「銀ちゃんに連絡したアルカ?」

 銀時は神楽の保護者である。神楽の友人でも恋人でも彼氏でもなんでもない。そうだ。この自分を親代わりに世話してるだけの人間なのだ。それを考えると胸が苦しくなった。

「どうした?」

 表情に出ていたらしく近藤が険しい顔でこちらを覗いていた。まるで心配してくれているようだ。

「お前と私が一緒だって思ってるアルカ? だから泊めたりするネ?」

「……そうは言ってねえだろ」

「でもお前と私は違うアル。お前はストーカーだけど私は……」

 分かっているが自分も銀時との関係など有って無いようなものなのだ。だけどさすがにストーカーとは違う。

「俺もそろそろ寝ようと思うんだが……ここに布団敷いても良いか?」

 神楽は家に帰らないで済むのなら、近藤と同じ部屋で寝ることも厭わなかった。今日だけは銀時に心配をかけてやりたいと思ったのだ。だが、自分を探している気配すら感じない。

「良いアルヨ」

「そうか。だが、朝になったら帰れよ」

「でもまた来ても良いアルカ?」

 近藤の返事を聞く前に神楽は目蓋を閉じると再び眠るのだった。

 

 翌朝、近藤が眠っている内に神楽は家へ戻った。万事屋の戸を静かに開ける。だが、家に居たのは定春一匹だけで、銀時は神楽が居なくなった後、飲みに行きそのまま帰っていないのだろう。もしかすると神楽が居ないのを良い事にお妙と――――――胸が張り裂けそうだ。

 案の定、銀時は酒臭い状態で帰って来てソファーに倒れ込んだ。神楽が居なくなっていた事にすら気づいていないだろう。悔しい。自分に全く興味が無いこの態度が……銀時のすべてが憎らしい。でもどうすることも出来ない。こうして今も同じ部屋に居て、同じ空気を吸っているにも関わらず銀時の胸の内を共有することは出来ないのだ。自分だけを見ていてくれたらどんなに良いだろうか。だが、銀時の目はいつだってお妙を映している。そしてお妙の瞳にも銀時だけが映しだされているのだ。それを誰も咎める事はもちろん引き裂く事も出来ないのだ。

 それから銀時が飲みに行く夜は、決まって近藤の元を訪ねた。近藤が居ない日もあったが、それでも近藤は快く神楽に部屋を与えてくれた。その優しさには気付いていたが、それを素直に口にする事は出来ない。だから今日も悪態をつきながら近藤の部屋でゴロゴロとしていた。

「お前、結構忙しいアルナ」

「まぁな。お偉いさん方のお守りとここの連中の世話、あと……子守があるからな」

 神楽は年中暇な万事屋である。誰かに構って欲しいと言う思いは常々あるのだが、銀時にそれをぶつける事は出来ない。代わりにこうして近藤に相手してもらえて……正直、嬉しいのだ。

「子守? 誰のこと言ってるネ」

 畳の上で横になっている近藤に神楽は四つ這いで迫った。

「子どもだって馬鹿にしてるネ? だからいつも泊めてくれるアルカ?」

 少し背伸びをしたセリフ。こちらを見ている近藤の瞳が揺れた。それが何を意味するのか神楽にはわからなかった。

「馬鹿にしてるつもりは無え」

 怯まずにこちらを見返している。そんな所に大人の余裕を感じる。

「分かってるアル。でも私は……子どもアル」

「だが、じきスゲエ良い女になる。万事屋が惚れるくらいのな」

 気休めの言葉。そうだと思うがくすぐったい。神楽の頬が薄紅色に染まる。それを見て近藤は目を細めると片手を伸ばして――――――だが、何も触れずに元へ戻した。

「……やっぱり今日は帰れ。その方が良い。送って行ってやるから」

 神楽は近藤に触れられなかった事にどこか寂しさを感じたが、なんとなく追及してはいけない事を察すると深夜の街を万事屋まで送ってもらった。

 

 万事屋はやはり空っぽで、朝まで銀時が戻らないと静けさが教えていた。銀時の匂いの残る部屋で一人と言うのは辛い。銀時の布団に忍び込み、顔を埋めた。そして今頃どこで何をしているのか。それを想像する。誰かの着物を脱がしているのだろうか。そして肌に唇を寄せて、乳房に舌を這わせて――――――

「俺の布団で何してんだよ」

 銀時が帰ってきた。こちらを見下ろす目がどことなく冷たい。怒っているのだろうか。神楽は布団の上に正座するとゆっくり瞬きをした。

「……ごめんアル」

「なに謝ってんだよ? もしかして……」

 銀時は神楽の真ん前にしゃがみ込むと神楽の頬を撫でた。

「悪い遊びを覚えたことか?」

「悪い遊び?」

 神楽は怪訝そうな顔で銀時を見たが、銀時は冗談で言っているようではなかった。

「なんかお前、急になんつうか……」

 銀時の手が頬から耳、首筋へと流れていく。くすぐったい。だが、そのドキドキが堪らなく痺れるのだ。もっと触れて欲しい。一体どんな理由がこの手にあるのかは知らないが、どんなものであっても神楽は良いと思っていた。その間にも銀時の手は神楽の胸へと伸び、チャイナドレスの上からつつかれた。

「銀ちゃん……?」

「見て良いか?」

 神楽はゆっくり頷くと銀時に全て剥かれるのだった。

 

 白い肌に赤い舌が這わされる。天井に向けて開かれた脚の間に銀時の頭が埋もれていた。舌でクリトリスを舐めあげられながら、膣穴を指でほじられる。その初めての快感に神楽は唾液を垂らしながら甘い声を上げたいた。

「あッ……んっ、あッ、ぁあんッ……」

 他の娘にもしたのだろうか。でも、それでも構わない。そう思える程に脳は溶け、快楽に飲み込まれていた。銀時の考えなど素面であっても分からない。だが、こうして肌を重ね合わせていると嫌でも伝わってくる。自分を激しく求めている事や神楽を独り占めしたいことも全て。

 銀時の指が優しく神楽の中を掻き回し、ピチャピチャと音が漏れてくる。大人になる瞬間はもう間もなくだ。銀時によって一皮も二皮も剥かれるのなら本望である。それがたとえ痛みを伴ったとしても。暗闇に神楽の泣き声が響いた。

「いたッ……いッ……痛いアル……ぎんッ、ちゃ……」

 銀時が神楽の膣穴を大きく開かせ、そして扱き上げる。

「痛いアル! 痛いッ、んぐッ……んッ……」

「お前、初めてだったの? そ……か……」

 銀時は嬉しそうに神楽に口づけすると、痛がる神楽を優しく撫でた。そんな様子に神楽は目を閉じると、全てを銀時に委ねるのだった。

 

 翌日、体のだるさに布団から出る事が出来なかった。重たい腰と既に空っぽの隣。昨晩の銀時は幻だったのだろうか。だが、体に刻まれた印が現実だった事を示していた。それなのに愛情と言うものをこの部屋から感じることは出来ない。ただ体が欲しかっただけだろうか。誰でも良かったのかもしれない。そんなふうに思ったのだ。だが、その考えの奥にもっと淀み濁った思いが存在する。本当はお妙の代わりに――――――神楽は頭を振るとシャワーを浴びに部屋を出て行った。

 銀時はどこへ行ったのだろうか。朝、目覚めて隣に居るのがお妙ではなかった事に気付き、動揺したのだろうか。そして慌てて出て行った。考えられなくもない。気分までも重くなる。昨晩、銀時と結ばれたにも関わらず。

 神楽は着替え終わると万事屋を出てある場所を目指した。話を聞いて欲しいのだ。何か答えが欲しかった。不安が溢れてくる。塞いでも塞いでもどこからか溢れ出てきて、体を蝕もうとするのだ。そういえば昨晩、一度も銀時は名前を呼んではくれなかった。誰かと間違えるのが怖いから? とにかく今は安心できる場所を求めて神楽は走った。

 

 真選組屯所。近藤が居るかどうか分からないが居ることを願って神楽は訪ねた。するとちょうど玄関で靴を履いていた近藤と出会ったのだ。

「ちょっと時間あるアルカ?」

 近藤はやや迷惑そうな顔をしたが隊士達を待たせると、神楽を私室へと連れて行った。

「昨日……銀ちゃんとセックスしたアル」

 その言葉に近藤は驚くことなく落ち着いて言った。

「そうか。で、それを俺に言う理由はなんだ?」

 神楽は近藤の両腕を掴むと揺さぶった。

「でも、絶対……姐御の代わりアル……姐御の代わりに――」

 喋り出すと涙が溢れて、唇が震えた。全て捧げたのに誰かの代わりだったとしたら、そんなのはとてもじゃないが耐えられない。しかし、近藤はきっぱりと否定した。

「それはお前の考えすぎだ。分かったら帰れ」

 その言葉についに涙が頬へと流れた。どうすれば良いのか分からないのだ。この不安な気持ちを掻き消す方法を。銀時に直接尋ねれば良いのだろうか。

「じゃあ、私を姐御の代わりに抱いたかって、銀ちゃんに訊けば良いアルカ!? そんな事……絶対に無理ネ」

 泣きじゃくりながら神楽がそう言えば、近藤もさすがに焦っていた。

「分かった。分かった。じゃあ一つ良いこと教えてやる。さっき万事屋が俺の所に来たんだ」

「銀ちゃんが? なんで来たアルカ?」

 すると近藤は頭を掻いて言いづらそうにこう言った。

「その……俺とお前との関係を聞かれてだな……俺の神楽が、とか言ってたな確か。あとは、お妙さんとは関係を結ぶ前に終わったんだと。お前の事で頭がいっぱいになったらしい……」

 神楽は胸が熱くなって近藤を大きな目で見つめた。

「ほ、本当アルカ!?」

「本人に聞いてこい。まださっき出てったばかりだ。その辺に居るだろうよ」

 神楽は近藤の部屋から飛び出そうとして思い留まった。そして、振り向かずに言ったのだった。

「ありがとうナ」

 それだけ言うと神楽は屯所を出て銀時を探しに出かけた。

 通りの西、東、駅前。そして、公園の中。そこでようやくベンチに座る銀時を見つけた。だが、どこか塞ぎこんでいるような丸まった背中が何か不安を表していた。神楽はそっと銀時に近づくと隣に座った。

「銀ちゃん、どうしたアルカ?」

 銀時はこちらを目だけで見ると軽く笑った。

「お前、泣いてたのか? 昨日の……嫌だったか?」

 神楽は銀時の背中に手を置くと首を振った。

「そんなわけないアル。だって私……」

 すると銀時は人差し指を自分の唇に押し当て『しーっ』と言った。

「まぁなんつうか、今自分がスゲー情けなくてよ……」

 神楽は銀時の背中に回していた手で腕を掴んだ。

「銀ちゃんこそ昨日のこと後悔してるアルカ?」

 銀時がフッと笑った。

「なわけねーだろ。お前が他の男に奪られたんじゃねーかなんて不安になる男だぜ?」

 神楽はその言葉に先程までの不安な気持ちが全て綺麗に吹っ飛ぶと、公園にも関わらず銀時に飛びついた。

「じゃあ、もう私は銀ちゃんのものアルナ!」

 その言葉に銀時が頷くと、二人は万事屋まで手を繋いで帰るのだった。

 

2016/07/30