2016 Request

現実トリップ続き

現代に戻った二人の関係

初めて結ばれた時の話

R18


※途中、オリジナルキャラクターの青年が出てきます。

 

続・現実トリップ/銀神←オリジナルキャラクター(リクエスト)

 

 あの後、銀時は神楽を正座させるとこう言ったのだった。

「あれはな、現実じゃねぇんだよ。ジイさんが見せた幻だ」

 しかし、体に感じた銀時の熱や胸の苦しみ。あれらは確かに存在し、今もまだこの身を包んでいた。

「でも、銀ちゃんだって感じたダロ? 気持ち良かったとか、そういうの」

「でもな、神楽。いくらでも未来は変えられるんだよ。だから……」

 銀時は頭を掻くと言いづらそうにこう言ったのだ。

「無理に……惚れなくて良いから……」

 どういう意味だろうか。神楽は眉間にシワを寄せた。何故こんな事を言うのか理解できないのだ。銀時は何か勘違いしている。神楽が無理やり、嫌々、未来で銀時と一緒に居るとでも思っているのだろうか? しかし、確かに未来の神楽の気持ちを神楽自身が知ることは出来なかったのだ。それでも今、胸を焦がすこの気持ちは誰かに言われて携えているわけではない。神楽の意思で銀時を好きになった。風俗なんかに行けば嫉妬もするし、自分だけを見ていて欲しいと思うのだ。神楽は今の気持ちを言おうとして…………銀時が立ち上がり家から出て行ってしまった。追いかけて、そうじゃないと言うべきなのか。いや、もしかするとあの未来を銀時は良いと思っていないのかもしれない。今好きな人がいるのでは? 神楽の表情は一気に曇り、今さっきまで幸せだと思っていたのだが途端に胸が締め付けられた。どのみち今の銀時が今の神楽を女性として見る事はない。それならいつか来る《あの日》まで、ただ銀時を見ているだけしか出来ないのだろうか。それでも一つだけハッキリしている事は、もうどうにもならないほどに銀時を好きだと言う気持ちであった。

 

 結局、神楽は銀時へ好きだと伝える事が出来ないまま月日が流れた。その間、銀時が風俗店へ行く事はなくなり……もしかすると神楽が知らないだけで行っていたのかもしれないが、それでも銀時の意識は大きく変わったようだった。未来を見て来た事が影響しているのかはわからないが、密かに神楽は喜んでいた。しかし、だからと言って銀時の思いが自分へ向くという話とは違うのだ。一年、また一年と過ごしている内に不安は膨れ上がり、あの見て来た未来は銀時の言うように幻だったのではないかと思うようになっていた。もう一度だけあの未来へ帰りたい。銀時の温もりに包まれたい。そんなおかしな願いまで生まれてしまった。それくらいに神楽は精神的にも肉体的にも女性へと成長していたのだ。髪も伸びた。長いツインテールに短い丈のチャイナドレス。そのシルクの生地を押し上げる形の良い豊かな乳房。一目見た男がハッと息を飲むような美少女へと神楽は成長していたのだ。だが、それを感じているのは神楽を含めた万事屋以外の人間だけだ。それでも神楽の密かな想いはまだ継続していた。口に出して《好き》だと言えるほどの自信はない。けれど何もせずにいる事もまた出来ないと、努力を惜しまなかった。いつか結ばれる日が来るのかもしれない。そんな僅かな希望だけが神楽を照らしていたのだ。

 

 ある日のこと。穏やかな気候に木々が芽吹き始め、桜の花が江戸を覆った季節。風呂から上がった神楽は居間でくつろいでいる銀時の元へと向かった。

「銀ちゃん……」

 やや頬が赤く見える。それは風呂上がりだからだと言う事もあるのだが、今から口にするセリフが彼女を緊張させていたのだ。神楽は窓際の椅子に座る銀時の正面へと立った。しかし漫画を読んでいる銀時の目はこちらへ向かない。しかし、そっちの方が好都合だと神楽はモジモジとしながら銀時へ言うのだった。

「あ、えっと、今度お花見しないアルカ? ふたっ……」

 二人でと言いかけた時に銀時の顔がこちらへ向いた。

「あぁ、花見な。新八もお妙も誘っておけよ。あと婆さんに弁当作ってもらうか」

 神楽は結局《二人で》とは言えず、その年の花見を賑やかに過ごした。

 

 そこからまた季節が少し進んだ。神楽の傘が小さな影を作り、そこに身を隠さなければならない鬱陶しい暑さ。陽射しは白い肌に噛みつき容赦なく牙を立てる。それでも祭りに花火大会と楽しいイベントが目白押しだ。神楽はお妙からもらった浴衣をチャイナドレスの上から羽織ると姿見の前で回ってみせた。これを来て祭りに行くところを軽く想像してみる。賑やかな祭り会場で銀時の隣を歩く――――思わずニヤけてしまった。花見の時は失敗したが、今度こそは二人で祭りに行こうと誘うつもりなのだ。神楽は浴衣を脱ぐとソファーに座りテレビを見ている銀時の元へ向かった。

「なぁ、銀ちゃん」

「あっ、そう言えば来週、祭りがあるだろ?」

 まさか銀時から誘ってくれるのだろうか。神楽の胸の鼓動が速まる。

「屋台の手伝い頼まれたから」

「えっ! 仕事アルカ!」

 ショックだった。銀時と二人で行けないどころか、祭りを楽しむ事も出来ないのだ。神楽はすっかり落ち込むと静かに押入れに入るのだった。

 

 祭りの時期も終わり、最近は頬を撫でる風が冷たく感じる。それでも神楽はミニスカートから生脚を無防備にもさらけ出していた。ニーハイソックスとスカートの間の僅かな太ももがやけに眩しい。それを道行く男性に見られている事など気にせずに神楽は歩いていた。今夜は十五夜で月が綺麗に見えると朝の天気予報で結野アナが言っていた。神楽はそれを銀時と二人で見たいと思ったのだが、例のごとくお月見をしたいと言えば『新八とお妙とばあさんと――――』と言われる事は目に見えている。それならば黙って連れ出すに限るのだ。

 神楽は友達からデートに御誂え向きのスポットを聞き、夕暮れの街を万事屋へと向かって急いでいた。まだまだ好きだなんて口に出せないけど、二人だけで何か思い出を作ることが出来たら……少しでもあの未来へ繋がるのなら努力は惜しみたくなかった。

 万事屋へ着いた神楽は息を弾ませると相変わらず何もしていない銀時へ飛び付いた。

「銀ちゃん!」

 腕を掴んで銀時の体を揺すった。

「なになに?」

 慌てる神楽に銀時はソファーの上に体を起こした。

「ちょっと一緒に来てヨ!」

「今から?」

 銀時は時計を見ながら困った顔をしていたが、神楽はその視界の中に顔を入れると良いから来てと引っ張った。そしてスクーターの鍵を取ると玄関で靴を履いた。二人で月を見ることに一体何の意味があるのか。頭でそんな事を考えもしたが、二人だけで過ごすという事に意味があるのだ。特別だと思えるから。

 神楽は銀時を万事屋から引っ張り出すことに成功すると、スクーターに跨る銀時の後ろに飛び乗った。そしてヘルメットを着用すると銀時の腰に腕を回す。

「それでお嬢さん。どちらまで?」

 神楽は行き先を銀時へ伝えると二人は小高い丘へと向かうのだった。

 

「こんなとこに何があるってんだよ」

「良いから黙って走れヨ!」

 神楽は嬉しかった。今だけはこうして銀時に抱きついても誰にも何も言われないのだ。銀時の背中へそっと頬をつけた神楽は目を閉じると目的地までその温もりを静かに感じていた。

 住宅街を抜け、だいぶ坂の上まで来た時だった。銀時がスクーターを停めた。神楽は顔を上げると前方を見た。黄色く丸い月がすぐ近くで輝いて見えたのだ。

「……おっきいアルナ」

 神楽が銀時の体を抱いたままそう言えば、銀時も珍しく目を輝かせていた。

「これが見たかったのか? 神楽」

 銀時が振り向きこちらを見た。そのせいで顔が近付き、神楽の心臓が跳ねた。まるで月で跳ねる兎のように。頬を赤く染めた神楽は急いで顔を伏せると、首だけで返事をしたのだった。でも、正確には違う。銀時と二人で見たかった。その一言が言えず胸を締め付ける。きっと言ってしまったらスッキリするのだろう。それでも振られて諦めなければならなくなる恐怖には勝てない。神楽は下唇を軽く噛み締めた。

「たまには悪くねぇな。こう言うのも」

 珍しく優しい言葉が掛けられ、神楽の顔がニヤついた。

「……うん。たまには良いデショ」

 心臓の高鳴りが銀時へと伝わってしまいそうだ。それでもこのまま時間が止まってくれないだろうかと、この瞬間が永遠に続けば良いなと思っていた。離れたくない。だが、銀時がかけたエンジンの音に神楽はそれを諦めるしかなかった。

 その後、特別何かがあったわけでもなく冬を迎えた。今年のクリスマスこそは……そう思っていたが、やはり銀時はみんなと一緒に過ごす事を提案した。もちろん楽しい時間となり神楽も満足はしていたのだが、一向に近付かない距離にもどかしさを感じていた。だが、それもまだ自分が子供だからなのだろう。そう言い聞かせると早く大人の女性になりたいとただ願うのだった。

 

 

 更に一年、また一年と月日は流れた。神楽もすっかりと成長し、身長だけでもかなり高くなっていた。スラリと伸びた四肢に爆乳と言っても過言ではない程に育った胸。だが、くびれたウエストが体の細さを表していた。とにかく誰が見てもとびっきりの美女である。それは共に過ごしている新八ですらドギマギしてしまう程の……だが、相変わらず銀時はそんな神楽を《特別》だとは思っていないようであった。さすがの神楽ももう諦めなければならない恋だと考え始めていた。

 そんなある日、一人の青年が万事屋へ飼い猫の捜索を依頼して来たのだ。居間で銀時の隣に座る神楽は、向かいのソファーに座る依頼者の話を聞いていた。

「……それなら私と新八で出来ると思うわ」

 神楽がそう言って微笑めば、依頼人の青年が頬を赤らめた。年齢は神楽と同じ歳くらいに見える。同世代の依頼人は珍しく、神楽も興味を持って見ていた。すると視線が交わって、互いになんとなく恥ずかしさを覚えたのだ。

「それじゃあまた後日、報告させてもらいます」

 銀時が割り入るようにそう言えば、ようやく二人の視線が離れるのだった。

「あっ、はい。分かりました」

 そう返事をした依頼者だったが、何か言いたそうに神楽を見ている。神楽は何かと思い瞬きをすると、青年が尋ねて来たのだ。

「あの、お名前を伺っても良いですか?」

 神楽は自分の名前をまだ告げていない事に気付くと柔らかく微笑んだ。

「わたしは神楽よ」

 青年はそれを聞くと満足そうに笑い帰って行った。

 

 後日、神楽と新八は青年の猫を無事捕獲する事に成功した。成功報酬として結構な額の料金をもらい、更に神楽は青年の実家が宝石商を行っているとの事でシルバーのネックレスをもらったのだ。そこには赤い小さな石がついていて高価なものに見えた。初めは断ろうとも思ったのだが、新八にも『似合うよ!』などと言われて結局受け取ってしまった。それを着けて万事屋へ帰った神楽は、留守番をしていた銀時に報告をするのだった。

「ねぇ、銀ちゃん。これ見て!」

 そう言って首元のネックレスを揺らしてみせた。

「なんだよそれ。買ったの?」

 神楽は首を振ると依頼者から特別にもらったのだと答えた。すると一瞬、銀時の顔が曇ったように見えたのだ。しかし、すぐにいつもの腑抜け面になると鼻の穴に指を突っ込んだ。

「まぁ、豚に真珠だろうな」

 その言葉に怒りを露わにすると銀時の体ごと持ち上げてぶっ飛ばすのだった。だが、後にどんな意味を込めて銀時がそう言ったのか神楽は知ることになるのだった。

 

 あの青年が万事屋へと仕事を頼む事が増えていた。その度に神楽は宝石のついたアクセサリーを贈られ、手元にはネックレスやらブレスレット、ブローチにイヤリング等、たくさんの贈り物で溢れていた。しかし、初めにもらったネックレスを一度着けただけで、その後神楽がアクセサリーを身に付ける事はなかったのだ。それはデザインが理由ではない。やはり男性から贈られたアクセサリーを身につける事に抵抗があったのだ。銀時がいつか言った言葉。豚に真珠。それは価値のあるものだと知らない……と言う意味ではなく、アクセサリーに込められた想いを知らずに身につける神楽を揶揄した言葉だった。日に日に向けられる青年の熱い眼差し。神楽もその熱の正体には気付いていた。確かに嫌な気はしなかったが――――――

 ある日、神楽は青年に呼び出された。仕事とは関係なく個人的に呼ばれたのだ。小さな茶店の窓際で神楽は青年と向かい合って座っていた。やけに緊張して見える顔。神楽はそれを目に映しながら青年から《想定している言葉》が紡がれるのを静かに待っていた。

「か、神楽さん……今日呼び出したのは実は大切なお話があってですね……」

 青年の手が震えカタカタと机が揺れている。神楽はそれをどこか冷めた目で見ていたのだ。

「僕と交際して頂けませんか!」

 そう言って青年は神楽へ小さな箱を差し出した。それにはきっと石のついた指輪が入っていることだろう。神楽はフゥと息を吐くと持って来ていた数々のアクセサリーを青年の前に置いた。

「悪いけど、付き合えないわ。それとコレ、全部返す。じゃあね」

 神楽がそう言って席を立った時だった。青年が神楽の腕を掴んで引き留めたのだ。その手はまだカタカタと震えていてこちらまで震えてしまう。

「僕の何がダメなんでしょうか!」

 下を向き真っ赤な顔でそう言った青年に神楽は困惑した。どう答えようか悩んでいると……ふと見た窓の外に銀時の姿を見つけたのだ。神楽の体温が僅かに上昇した。すると銀時もこちらに気付いたのか、通りの向こうから神楽を見ていたのだ。神楽はこんな所を見られてしまった事に焦るも、青年は神楽を掴んで離さない。こうなったらハッキリ言うしかないのだろう。神楽は銀時から目を離さないまま青年へと言った。

「……好きな人がいるの。昔からずっと」

 青年の顔がこちらへ向き、泣き出しそうな顔で笑うとそこでようやく神楽から手を離すのだった。

「その人を諦めてはくれませんか……なんて……図々しいですよね」

 その言葉に思わず神楽は青年を見つめると、彼もまた本気である事を知った。そうして一瞬銀時から目を離してしまうと、もうその姿を窓の外に見つける事は出来なかった。それがどこか自分と銀時との距離に重なった。手の届かないほど遠くに銀時が離れてしまったような気がしてならない。不安で胸が押し潰されそうだ。神楽は青年を残すと店を飛び出した。銀時にちゃんと言わなければと思ったのだ。ずっと昔から温めて来た自分の想いを。それを言わずに終わってはあまりにも自分が可哀想なのだ。

 人が行き交う道を走り、神楽は万事屋を目指した。たとえ傷つく結果になったとしても、何も伝えることなく終わってしまうよりは良いと思った。万事屋へと伸びる階段を駆け上り、玄関の戸を開ける。息を切らしたままの神楽は誰の靴もないタタキの上を静かに見つめた。銀時は居なかった。それがこの恋の結末だと、やっぱりダメなのかもと力が抜けてしまった。神楽はその場にへたり込むと、いつ帰るか分からない銀時を一人で待つのだった。

 今年の花見もみんなと一緒だった。夏祭りも花火大会も。わざとじゃないかと思えるほどに銀時は神楽と二人きりになる事を避けていた。ほんの数年前に過ごした十五夜を思い出す。銀時の背中にしがみ付いて、夜風に吹かれながら丸い大きな月を眺めた。あれが最初で最後の銀時との時間。そんなふうに思えたのだ。もう二度と触れ合えないのだろうか。こんなにも銀時への想いは膨らみ破裂しそうだと言うのに。神楽は一人の万事屋でその胸の苦しみに顔を歪めていた。堪らずに銀時の布団へ駆け込むと、うつ伏せに倒れて銀時の熱を思い出そうとした。だが、あの未来を見た日から五年もの際月が流れており、何ひとつ思い出せないでいたのだ。こんなにも好きなのにどうする事も出来ない。神楽は主のいない布団で銀時の匂いに包まれながら静かに目蓋を閉じた。

 

 どれくらい眠っただろうか。神楽は既に窓の外が暗い事に気付くと体を起こし、風呂場へ向かった。服を脱ぎ、下着を取り、真っさらな体になった神楽はシャワーを浴びた。こんなにも体は成長し、魅力的になったと言うのに一番欲しいものは手に入らない。大人になればきっと銀時が振り向いてくれると信じていた。それなのに――――――現実は自分を嘲笑うのだ。

 結局、銀時はその日帰らなかった。他の女のところにいるのだろうか。どうして私を選んでくれないのか。神楽は身悶えする程の苦しみを抱えながらこの夜、銀時の布団で眠った。夢でくらい銀時に愛されるように。そう願って。

 

 髪を撫でられる懐かしい感覚。それがやけにリアルで神楽はふと目を覚ました。だが、まだ日が昇っていないのか室内は暗くはっきりとしたものは何も見えない。それでも自分のものではない熱を頬に感じた。どうやら大きな手が神楽を撫でているようなのだ。神楽はなんて夢を見せるのだと再び目を閉じて、その手の熱に胸を震わせた。

「なんで……俺の布団で寝てんだよ……」

 ボソリと呟く銀時の声が聞こえた。だが、神楽の目蓋は重く、もう一度開あける事は無理だった。

「ひとの気も知らねぇでよ」

 それはこっちのセリフだ。こんなにも好きなのに、どうして気付いてくれないのだと。

「勘違いしちまうだろ……」

 その唇から放たれるひと言、ひと言が神楽の鼓動を速めた。今更、何を言っているのか。こうして銀時の布団で眠る神楽を見てもまだ勘違いだと思うのだろうか。神楽は意識の底で銀時へと訴えかけていた。《早くどうにかして》と。

 銀時の布団で眠る理由は寂しいからと言うのもあるが、もう一つ別の理由が存在していた。それは銀時になら何をされても良い。持て余した劣情をぶつけられても構わないとそう思っていたのだ。いつかの未来での出来事。銀時と体を結んだことへの喜びだけは忘れてなかった。銀時もきっとそれを完璧には忘れていないはずだ。一度はこの身を使って結ばれたのだから、今更禁止する理由もない。それでも神楽へ伸びる手は仔猫を愛でるようなものである。焦ったさと安心感に包まれた神楽はいつかの銀時の言葉を思い出していた。

 未来から戻ってスグのこと。銀時は《無理に惚れなくて良い》と言った。その発言の真意とは? あの言葉に隠された思いは? 明確なことは何一つ分からなかったが、それでも自分を思いやる優しさが銀時の手の平から伝わってくる。頬を撫でる手は温かく、そしてどこか大胆になり切れず遠慮がちだ。もっと本当は触れたいのだろうか? 頬だけでなく色んな所。それなら早く言ってあげないと。ずっと昔から好きだったと。未来なんか見る前からずっと好きだったと。神楽はゆっくりと重い目蓋を開けるのだった。

「銀ちゃん……」

 そう言って神楽は暗闇にぼんやりと浮かび上がる人影を見つめた。すると神楽を撫でていた手が急いで引っ込んだ。

「……なんだよ。お前、起きてたの?」

 焦って聞こえる声。表情を窺い知る事はできないが、銀時が気まずいと思っている事はよく分かった。神楽は布団の上に体を起こすと銀時に尋ねた。

「どこ行ってたアルカ?」

 酒の匂いがしている事に気が付いた。先ほどまで飲んでいたのだろうか。女性と肩を並べて酒を飲む銀時の姿が頭に浮かんだ。

「お酒ってそんなに美味しいアルカ?」

 神楽がそう言って畳の上に座る銀時へ迫ると、銀時の手が神楽の両肩を掴んだ。

「その布団使って良いからもう寝ろ」

 先ほどまで愛しそうに神楽を撫でていた手が逆に遠ざける。何故なのか? 神楽はその理由を知りたかった。

「じゃあ、銀ちゃんも一緒に……ダメ?」

 心臓がバクバクと音を立てる。自分の口からこんな言葉が出るなど信じられなかった。だが、もう止める事は出来ないのだ。許容量を超えた想いが零れ出る。

「おいおい。神楽、どうした?」

 銀時の声に焦りが見える。一体いつになれば女性として銀時に見てもらえるのか。それとも一生無理なのか。もうハッキリとさせたかったのだ。神楽は胡座をかいている銀時の腿に手をついて身を乗り出した。それを銀時が押し返そうとする。これには傷ついた。

「そんなに……私のこと……嫌いなの?」

 唇が震える。受け入れてもらえない恐怖を肌に感じるのだ。

「そうじゃねぇ……」

 そう言った銀時は苦しそうな、切なそうな表情をしていた。何かを言い淀んだがすぐに頭を振ると、神楽の肩を掴む手を離したのだ。

「お前が色んなもん見た上で、それでも俺が良いって選ぶなら…………」

 徐々に明るくなり始める窓の外。銀時の表情が少しずつ明らかになっていく。少し眠たそうで、だが真面目な顔。それが神楽へと真っ直ぐに向いていた。あの時言った《無理に惚れなくて良い》という言葉の意味は、神楽を想ってのものだったのだろう。未来を見てしまったせいで神楽の選択肢が減る事を銀時は恐れたのだ。

「比べなくたって……分かるよ。銀ちゃん……」

 神楽は更に前のめりになると銀時へ顔を近付けた。視線が交わるだけで心が震え、火がついたかのように熱くなる。すると銀時は再び神楽へ腕を伸ばした。だが、今度は突き放す為ではなく抱き締める為であった。神楽の柔らかい体は逞しい腕に包まれ、今にも溶けてしまいそうだ。ずっとこうされたかった。銀時の背中に腕を回すと、二人は隙間が出来ないくらい強く抱き合った。

「ずっと好きだった。銀ちゃんのことずっと……」

 神楽は我慢出来ず銀時へ顔を寄せると唇を引っ付けた。初めてなのだが、神楽はこの温もりを知っていた。やはりあの未来は幻ではなかったのだと嬉しくなった。そうしてようやく二人は互いの想いに気付くと唇を奪い合うのだった。

 

 銀時の膝の上に座り抱き合ったまま唇を押し付ける。舐められて、吸われて。そうしてどんどんと銀時が神楽を支配していき、酒の味のする舌がゆっくりと絡みついた。呼吸は乱れ、神楽の甘い蜜のような唾液が溢れ出す。それが銀時の舌によって吸い出されると、ピチャピチャと卑猥な音が聞こえてきた。銀時の興奮した手が神楽の腰を撫でる。それは収まるどころか更に体の上を動き回ると柔らかな乳房へと向かった。

「んふッ……んっ」

 神楽の体がピクッと跳ねる。パジャマの薄い生地越しに胸を撫でられたのだ。しかし撫でるだけでは終わらず、鷲掴まれるといやらしく形を変えた。そんな刺激を与えられては神楽の体も反応せずにいられないと乳首がパジャマを押し上げた。それを見逃さない銀時の手がいたずらに動き、神楽はついに銀時の唇から離れると甘い声を漏らした。

「ぁッ……やんッ……一応、言っておくけど……初めてなんだから。勘違いしないでよね……」

 すると銀時の目が神楽をジッと見つめた。

「悪いけど……余裕無えから……」

 そんなに堂々と宣言されては神楽も堪らない。布団に倒されてしまった神楽は銀時の手で裸に剥かれてしまうと、白肌を紅く染上げるのだった。

 仰向けに寝かされた神楽はまじまじと見つめる銀時に顔を真っ赤にしていた。

「そ、そんなにじっくり見ないでよ。恥ずかしいんだから」

 体を隠している手を銀時に奪われてしまうと、そのまま覆い被さられ唇を吸われた。そして、徐々にその唇は移動していき神楽の身体中を愛撫した。耳や首筋、白い胸に乳頭。それを舌でねぶられて吸われてしまうと、神楽はその快感に身をよじり艶かしい声を漏らす。裸を見られて恥ずかしいと言う思いはあるのだが、それ以上に気持ちが良く、体が悦んでいるのだ。ずっとこうされたかったのだと。

「ぎん、ちゃんっ」

 銀時の手が神楽の下腹部へと伸び、愛液まみれの割れ目を擦り上げる。だが、そんな刺激では足りないとでも言うように神楽の下の口が開き始めると銀時は指を入れるのだった。

 もう何も分からない。銀時に身体中を愛撫され、神楽の脳は溶けてしまいそうだ。早く一つに重なりたい。銀時と溶け合いたいと神楽は可愛い声でねだってしまった。

「銀ちゃんの、早く、頂戴」

 何も答えず銀時も荒い呼吸で神楽を見下ろしていた。我慢の限界だったのだろうか。着ているものを手早く脱ぐといきり立った肉棒を神楽の手に握らせた。

「分かってんだろうけど、今からこいつを突っ込むから……痛くても我慢しろよ」

 神楽は自分の手の中で脈打つ銀時の男根にいつかの記憶が蘇った。銀時と体を繋げる心地良さ、そして肉体が感じた悦び。痛むと言われてもよく分からなかったが、ヌルヌルとした汁を垂らしている銀時の肉棒を軽く扱いた。銀時の呼吸が更に乱れる。歯を食いしばり目を閉じた。手のひらの中でどんどん膨らんでいくソレは神楽を欲しいとヨダレが止まらない。指先で腫れ上がった亀頭をつついてみた。

「かぐらぁ……」

 だらしない表情で苦しそうにこちらを見ている銀時は、早く溜まっているものを出したいと訴えかけていた。神楽もそんな顔をされては仕方ないと、自分で足を抱えると大きく開いてみせた。

「もうこんな事になっちゃてるけど……それでも痛むと思う?」

 神楽の濡れた秘部を見て銀時の眼の色が変わった。何も言わずに銀時は愛液で潤っている膣へ亀頭を押し付けるとズブズブと中へ押し入って行くのだった。神楽はこじ開けられていく感覚に息を吐きながら体を震わせていた。痛くなんてないのだ。そのあまりの気持ちよさに勝手に腰が動きそうで、それを抑えるのに必死なのだ。

「動いて良いか?」

 辛そうな表情の銀時が尋ねるも涙目の神楽は首を横に振った。今動かれると簡単にイッてしまいそうなのだ。そんな所を銀時に見られるなど、さすがにまだ慣れていない。神楽はダメだと銀時の腕を掴むも銀時の腰は子宮を揺さぶるようにいやらしく動いた。

 部屋には神楽の淫らな声と、時折銀時の呻くような声が聞こえていた。体を繋ぎながら舌を吸われる。こんなにも激しく舌を吸われると神楽の膣はキュウっと締まり、愛液が止まらなくなるのだ。そのせいでいやらしい音を立てながら肉棒が出たり入ったり繰り返している。

「気持ち良くて……頭おかしくなっちゃう……」

 これ以上されると神楽ははしたなく潮を噴きながらイッてしまいそうであった。そんな淫らな姿はまだ見せられないと必死に理性を保とうとするのだが、銀時の言葉にそれも無駄な努力だと感じるのだ。

「お前の顔……すげぇエロいわ……」

 神楽のとろけきった表情と男を惑わす甘い声。銀時は満足そうに乱れる神楽を見ていた。

「やッ、ダメ……」

 そんな目で見つめられては堪らない。神楽の体は敏感に反応し、腰を浮かせながら更に体を密着させた。

「神楽っ、そんなに……」

 銀時は言葉を失くすと口付けをし、奥深くで神楽を愛した。言葉などなくても銀時が何を求め、神楽のことをどう思っているのかハッキリと伝わってくる。それでも神楽は言わずにいられなかった。

「銀ちゃん、愛してる」

 銀時の背中へ腕を回し、神楽は体全体でしがみつきながら言葉を発した。すると汗をポタポタと落としながら体をゆらしている銀時も、神楽の耳元に口を寄せると呼吸を乱しながら言った。

「愛してる……神楽。愛してる……」

 その言葉がどれほど聞きたかっただろうか。二人の指と指は絡まり、体も心も全てが繋がっていた。それがどんな行為よりも気持ち良く、しかし今だって言葉に出来ないくらい快感を得ている。

「銀ちゃん……もう、ダメェ……」

 もう二度と離れたくないとでも言うように二人は体を繋げたまま果てるのだった。

 いつの間にか眠っていた神楽は、目覚めてすぐに同じ布団で眠る銀時の横顔を見つけた。誰にも邪魔されることのない二人だけの空間。神楽は銀時の胸に頬を寄せるとうっとりと目を閉じた。十四歳の自分が見た未来はきっとこれだったのだと。やはり幻ではない。今だって神楽の肌に銀時の温もりが触れる。これは紛れもない現実だ。過去より未来よりも《今》を銀時と共に生きて行きたい。時間はかかったけれど確かに手に入れた現実に、もう二度とトリップなんてしたくないと強く思うのだった。

 

2016/09/04