2016 Request

18歳の神楽

歌舞伎町の花火大会から話が始まる

浴衣姿の神楽へに沖田、土方、桂がそれぞれ懸想し物語が進んでいく

R18


回旋:01/神←沖・土・桂(リクエスト)

沖田side

 

 その日、かぶき町で花火大会が開催されていた。老いも若いも皆が空を見上げて歓声を上げている。沖田総悟はそんな夜空の大輪には目もくれず、全然別の方を向いていた。ある方の護衛でそれどころではなかったのだ。怪しい人物がいないか鋭く目を光らせて……ではなく、会場の屋台に意識を注いでいた。隙を見て職務放棄をしようと考えていた。そう思って屋台の前を見ていると一人の女が目についた。白地に薄紅色の花が描かれている浴衣に身を包み、明るい髪色がとても珍しかった。後ろ姿しか見えないのだが、うなじから色気が立ち込め、女にそう簡単に興味など引かれないのだが今回ばかりは違った。どんな女か知りたくなり、屋台ではなく女の為に職務放棄したのだ。人混みを掻き分け、女の後を追う。どこかで見た事があるような気がするのだが、誰だったのか思い出せない。沖田はどうしても顔が見たいと、声を掛けたいと走ったのだ。

五メートル、三メートル、一メートル。そうして六十センチ。四十センチ。あと、二、三歩。そこで声を掛けられた。

「おい! 総悟!」

 背後から土方に引き留められ、女はどんどんと遠退いて行った。

「何してんだ。テメェの仕事は女の尻を追いかけることか?」

 そう言って土方が女を見たものだから、沖田は慌ててその視界の先へと移動した。見せたくないと思ったのだ。

「あ? 何だよ? それよりこっちに来い」

「うるせーな。土方さんも少しは俺の力に頼らずやってくれよな」

 土方に捕まった沖田は連れて行かれる間際に女の方を振り返り見た。すると男と喋っている美しい横顔に釘付けとなったのだ。それはよく知っているあの万事屋の神楽で――――沖田は目の辺りがカァと熱くなった。

「チャイナ娘かよ……」

 そのあと配属場所に戻ったのだが、意識は花火でも屋台でもなく、先ほどの神楽へとずっと注がれたままだ。正直、初めてこんなにも気になった。神楽に特別な感情など抱いたことなどなかった。だが、今はそうじゃない。気になって仕方がないのだ。認められない程にもう子供でもない。沖田は神楽への対応を改めなければと考えたのだ。神楽が欲しい。その欲求を満たせる可能性があるのなら、何だってしてやる。標的を逃すことだけはしたくないと、沖田は神楽に明日にでも会いに行こうと思うのだった。

 

土方side

 

 土方はこの日、花火大会の会場を見廻りながらテロリストがいないかと目を光らせていた。浮かれた人々にも特に心乱されることなく、涼しい顔で煙草を吸いながら。人混みから少し離れた所で花火の上がる音だけを聞いていたのだが、そうして隙間のような暗がりから往来する見物客を見ていると、一人の女の草履が脱げ、それが蹴られてこちらへと転がって来た。土方は咥え煙草のまま草履を拾い上げると、片足で跳んでやって来たのは万事屋の神楽だったのだ。おろされたばかりの真新しい浴衣といつもより眩しく見える笑顔。神楽がこちらへ跳ねて来ると土方の肩を強く掴んだ。

「あれ? 仕事?」

 神楽がそう尋ねてくると土方は拾った草履を履かせてやった。

「あぁ、俺らはこういう日にこそ駆り出されるもんだ」

「そう。じゃあ、頑張ってね」

 短い会話だったが、神楽は土方に笑いかけてまた喧噪へと戻って行った。

 その後ろ姿に目が奪われ――――神楽がもう一度だけ立ち止まりこちらを振り返り見ると手を振った。たったそれだけの事に咥えていた煙草は落ち、目だけでなく心まで奪われてしまったのだ。何か予感がする。いや、期待をしていると言った方が正しい。神楽をもっと詳しく知りたいと土方は思ってしまった。

 煙草を吸い終えると再び人混みに戻った。そうして沖田が居るであろう場所を通りかかったのだが、案の定あの沖田が大人しくじっとしているわけがない。土方は辺りを見渡すとフラフラ歩いている沖田を見つけた。何かを追っているようなのだが。土方は沖田をつけて歩いた。

 見覚えのある浴衣美人。土方は沖田が追っている人物が神楽だと気が付いた。追い駆けてどうするつもりなのか。沖田がわざわざ神楽に声をかけるなど想像もつかないのだ。だとすると、こんな場所でまさか喧嘩か――――? いや、それはさすがに考えられない。だとしたら何か。見えている沖田と神楽の距離がどんどんと近付いていく。そして考えた。沖田が声をかけたら神楽はどんな顔をして振り返るのだろうか。そんな事は知りたくないと、土方は沖田が神楽に手を伸ばす前に引き留めたのだ。

「おい! 総悟!」

 沖田の顔は本当に何も知らずに驚いていた。そして、相手が神楽だとも知らないようだった。それはこの表情を見ればよく分かる。神楽を見る時だけは年相応のカオをするからだ。だが、今は違う。何も気付いていない。追い駆けていた女が神楽だとは微塵も気付いていないのだ。どうかこのまま気付くなと言う願いが土方の瞳に込められたが、沖田は遠くに見える神楽の横顔を目に映していた。一瞬、ニヤリと笑った気がした。神楽だとはっきり気付いたのだろう。土方は思わず舌打ちをすると沖田を引っ張り持ち場へと戻って行った。

 

桂side

 

 桂はこの日、かぶき町の花火大会に《さるお方》がお忍びで来ている事を知っていた。だが、爆弾を投げ入れるような事はしない。桂も漏れなく祭りが好きな江戸の一員だからだ。ひっそりと会場の隅で一人空を見上げて花火を見物していた。

「綺麗!」

 近くで聞こえた聞き覚えのある声に顔を下げれば、随分と美人が正面に立っていた。浴衣の似合う青い瞳が印象的な女性だ。一瞬目を疑ったのだが、この彼女が誰かであるのかすぐに分かった。

「リーダーか。銀時は一緒ではないのか?」

 その言葉に神楽は目を細めてこちらを見つめた。表情がグッと大人びて映り、自然と桂の胸の鼓動が速まった。しかも良い匂いまで漂っている。

「さっきまで一緒だったんだけど、はぐれちゃって……」

 桂は自分を見つめる神楽の視線にどこかくすぐったさを覚えた。いつもとは違う。熱を帯びた眼差しだ。ドーンと間近で花火の打ち上げ音が胸を叩く。こんなふうに胸が震えるなどどれくらいぶりだろうか。まるで雷にでも撃たれたかのような痺れ。だが、それが心地好い。桂は神楽の目から視線を逸らす事が出来ないでいた。ずっとこうして見つめ合っていたいのだ。だが、そう思っているのは自分だけではないようで、神楽も花火ではなくこちらを見ている。その意味は何か? 花火に照らされて神楽の頬の赤みがはっきりと見える。意味を無理やりにでもこじ付けてしまいそうだ。

「では、銀時を捜すか」

 湧き上がる感情を抑え込むように桂はそう言ってようやく視線を外した。

「待って。先に万事屋へ帰ろうと思うんだけど……送ってくれる?」

 桂は良いだろうと頷くと神楽と並んで万事屋へ向かった。

 

 万事屋までの道をゆっくりと神楽の歩幅に合わせ歩いていた。黙って静かに。神楽との会話はない。先ほどからある疑問が脳内を駆け巡っているのだ。何故、神楽は自分に送らせたのだろうか。そればかりが気になっている。しおらしい神楽の姿が浴衣の魔法だとして、そんな夜に自分が選ばれたのは不思議な感覚だ。いつも共にいる銀時や新八ではない。この自分が隣に居るのだ。会場で偶然会っただけなのだろうが、ここから万事屋までは目と鼻の先。送らせる程の距離でない事は知っている。今から何かが始まるのではないかと期待値だけが高まっていた。

「ちょっと待ってよ」

 後ろの神楽が歩きづらそうにこちらへ向かって来る。いつの間にか歩幅が大きくなっていたらしく、神楽は追い付くのに必死のようだ。桂は少し悩んだ挙句、神楽に手を差し出してみた。

「へぇ。そういうこと出来るんだ」

 神楽はそう言って笑うと桂の手を掴んだ。少し前なら《ガキ扱いすんなヨ》と悪態をつかれていたのだろうが、今目の前に居る神楽は間違いなく大人へと成長していた。触れた手が熱く、桂の体に女を感じさせる程であった。

「すまないなリーダー。では、行くとしよう」

再び歩き出した二人はゆっくりと万事屋を目指した。まるで離れたくないとでも言うようにスローなペースで。桂は神楽とのはじまりを感じずにはいられなかった。こんなにも期待させる魂胆が知りたい。神楽の手を握る桂は遠のく花火の音よりも煩く鼓動が鳴り響いていた。

 


回旋:02

沖田side

 

 大人になるのもそう悪くはない。それを痛いほど感じたのは神楽との関係だ。公園のベンチで散歩の休憩をしている神楽に何気なく声をかけることが出来るのだ。殴りかかったりしなくても神楽がこちらを見てくれる。

 見廻り中の沖田は神楽の隣に断りなく座ると足を組んだ。

「テメーの犬、日に日にデカくなってねぇか?」

 すると神楽は長く輝く髪を揺らして沖田を見た。

「でしょうね。すごい量食べるもの」

「飼い主に似たのかねィ」

 神楽の大食らいを知っているが、どうすればこのプロポーションを維持出来るのか不思議で仕方がなかった。すると神楽の胸を見ていたのがバレたのか、神楽が胸の前で腕を組んだ。そのせいで更に胸が押し上げられ強調された。

「それで何の用?」

「今夜、飯食いに行かねぇか?」

 神楽が分かりやすく驚くと急に頬に張り手を食らった。

「何すんだ! テメェ!」

「だってあんたがそんな事言うなんて夢だと思うでしょう」

 つまり現実かどうかを沖田を使って確かめたという事らしい。

「トシなら分かるけど、あんたが食事に誘うなんて……」

 神楽が信じられないと言った顔でこちらを見ていたが、沖田は真剣である事を伝えた。

「そんなにおかしい事か? テメーと食事に行って、その後しっぽりテメーを戴くことは」

 神楽の顔に僅かに赤みが広がった。

「口説くにしても、もっと他に言葉があるでしょ」

「俺は回りくどいのが嫌いなもんでね」

 神楽と普通に食事に出掛け、普通に恋愛をしてみたいと思ったのだ。歯の浮くセリフではなくストレートな言葉で誘ってみたくて仕方がない。沖田の中に燻っていた人間のオスとしての本能に火がついたのだ。花火大会での神楽のせいだ。あんなに艶やかでどこか慎ましく、それでいて挑発的な体と――――濁る事なく澄んだ目が沖田を見ていた。

「それでいつ?」

「今晩」

 思い立ったが吉日と言う。それならば早いに越した事がない。しかし、神楽は悩んでいるようだ。まつ毛を伏せて数回瞬かせていた。何を悩むのだろうか。今晩は既に予定があるのか? それともこの自分と食事に行く事を悩んでるのだろうか。

「本気でテメーを食うつもりじゃねぇ。心配すんな」

 だが、神楽は何とも言えない表情をしていて返事すらもなかった。

「それでどーすんでィ」

 すると神楽は小さく頷いた。

「……良いアルヨ」

 突然の片言な日本語。これが沖田の体を痺れさせると思わず笑みが溢れた。そしてより思いは強くなった。絶対に自分のものにしてやると。

「それなら仕事が終わったら迎えに行く」

「分かった。でも、あんまり遅いと寝ちゃうから」

 そう言って神楽は立ち上がると定春を連れて公園を出て行った。沖田はそんな後ろ姿を見ながら、今晩どこへ連れて行こうかと考えるのだった。

 

 仕事が終わり、着替えを済ませ、沖田は万事屋へ向かっていた。女と食事に行く事がこんなにも心躍るなど思いもしなかったのだ。町娘に愛の告白だなんだとされはするが相手にする気は無かった。たまに調教してやったりと性欲を満たす為だけに女を使うくらいのものだ。だが、神楽にだけはそんなふうに思わない。彼女が特別であることは今も昔も変わらないが、今の神楽はまさに聖域であった。何者も踏み込んではならない、けれど己だけの物にしたい。そう願うのだ。

 万事屋の階段を上って、玄関横のインターホンを押す。

「思ったよりは早かったわね」

 そう言って珍しく真っ赤なチャイナドレスを着た神楽が出て来たのだ。銀時とお揃いのあの衣装ではないのだ。沖田は片方の口角を上げると、ついて来いと目で合図した。

「へんな感じ。あんたの隣を歩くなんて」

 店までの道中、神楽はそう言って笑っていた。そんなありふれた光景に体の芯が熱くなる。今から食事をして、それで……大人しく帰る事ができるだろうか。触れられそうで触れられない距離にある神楽の手に約束は出来そうになかった。

 その後、一軒の店で食事を終え、軽く酒を引っ掛けて気分も良い。だが、神楽はどこか落ち着き払っていて沖田と対等ではなかった。熱量が違うことはよく分かる。つまり神楽の中で沖田は《その他大勢》と変わらないのだろう。それならば神楽は一体誰を思っている? こんなふうに男と食事に出掛ける事はあるのだろうか。次々と止めどなく疑問が浮かび上がる。

「おい」

 沖田は神楽の腕を取って足を止めた。

「急に何?」

 何も分かっていない神楽を暗がりに引き込むと、そのまま壁に押しやって唇を――――奪う予定は狂った。神楽が上手くかわしたのだ。

「そんなに酔ってるの?」

 額と額がぶつかる。神楽の熱を感じるがそれは唇からではない。

「てめーが美味そうに見える程には酔ってる」

「……冗談じゃないのね?」

 沖田は神楽の股を膝頭で割って入った。

「冗談だと思うか?」

 神楽の目が沖田から逸らされて困って見えた。やはり誰かを想っているのか? だが、今の沖田にはそんな事はどうでも良かった。神楽が横を向いた隙に首元に飛び付いた。

「何してるのよ、んッ」

 聞いた事のない神楽の声が漏れる。その声に腰が疼き、堪らなく神楽が欲しくなった。細い首に唇を寄せて軽くついばめば、またしても神楽が声を漏らす。

「はぁッ、んッ」

 頭がクラクラとする。手が勝手にスリットの中へと入っていく。

「こんなとこで……なにやってッ……」

 しかし沖田ははもう止める事が出来ない。首筋を舐めて、噛んで、吸って。そして神楽のショーツに手を掛けると――――

「そこで何してる!」

 急に明るく照らされて沖田と神楽は目を閉じた。

「チャイナ娘と……総悟か?」

 聞き慣れたその声に沖田は目を見開くと明かりの向こう側を見た。そこに立っていたのは土方だった。

「土方さんこそ何してんでさァ?」

「……見廻りだ」

 土方はそう言って煙草に火をつけるとすぐにその場を後にした。

「ぶち壊しだ」

 沖田はそう言って神楽から離れると、神楽も乱れた服を直した。そして、沖田の腹に拳を叩きつけるとこちらを睨み上げたのだ。

「私はトシに感謝するわ……」

 そう言って神楽は沖田を置いて、一人立ち去ってしまった。残された沖田は狭い路地で空を見上げると、面白くなさそうに壁を殴るのだった。

 

土方side

 

 まだあの光景が焼き付いて離れない。見廻り中に見た神楽と沖田の姿。そして、二人に感じた腹立たしさと形容できない胸を掻き毟る想い。煙草も気付けばこの一本が最後となっていた。見廻りの帰りにコンビニへと寄って、そして煙草をワンカートンとコーヒーを買った。店を出てまず一本吸おうかと煙草を取り出していると目の前を神楽が走り過ぎて行った。一人だ。沖田が追いかけて来る事もない。土方はパトカーを駐車場に停めたまま神楽の後を追った。そして、捕まえると無言でこちらに向かせたのだ。

「な、やめッ……トシ!?」

 振り向いた神楽はまさか追って来たのが土方だとは思ってもみなかったようだ。激しく揺れている瞳がすべてを物語っていた。

「大丈夫か?」

 土方の言葉に神楽は視線を逸らすと小さく頷いた。

「まぁね……」

 だが、見えている肩や手。そして唇が震えているように見えた。土方はついて来いとアゴでパトカーを指すと、神楽は乱れた髪を直しながら黙ってついて来た。

 

 助手席に乗った神楽は先ほどから窓の外を眺めたまま、何も言わない。一体何を考えているのだろうか。土方は神楽の頭の中、胸の内、それらが知りたいとそちらばかりに気が取られていた。すると神楽がウンザリとした表情でこちらを見て、そして言った。

「運転中は前見てよ。後で好きなだけ見ていいから」

「……うるせェ」

 土方は自分が見ていた事がバレてあまりいい気分ではなかったが、沖田から逃げた神楽がここに居ると言う事実に優越感に浸っていた。それで嫌な気分も緩和されると真面目にハンドルを握るのだった。

 

 万事屋のアパートの下にパトカーが到着すると神楽は土方にある事を約束させたのだ。

「今日見たこと誰にも言わないで。勘違いされるとキツイから」

その言葉に土方は吸っていた煙草の煙を吐き出すと、顔を前に向けたまま尋ねた。

「勘違いって何のことだ?」

「だって、あんたも思ったでしょ? 私とあいつが付き合ってるって」

 土方は軽く笑った。

「総悟と出来てたら、こうして逃げて来るかよ」

 すると神楽は表情を僅かに明るくして、土方の横顔をマジマジと見つめたのだ。先ほどとは立場が逆転し、見つめられるくすぐったさを感じた。

「仕返しか?」

 そう言って土方は神楽を見ると二人の視線は繋がった。すると神楽が照れくさそうに笑って土方の体温も上昇する。途端に先ほど沖田が神楽を味見していた事への苛立ちと怒りが沸き上がり、まだ何も手に入れていない自分に焦りを感じた。だが、沖田とは違う。ここで無理やり唇を奪う気はないのだ。そんなやり方では神楽が手に入らない事を土方は知っている。

「じゃあ、送ってくれてありがとう。おやすみ」

 そう言って神楽がパトカーを降りようとドアを開けた。

「何かあればいつでも連絡しろ」

 そう言って連絡先を書いたメモを渡すと神楽は受け取って階段を上って行った。本当に何かが起こり連絡が来るとは思っていない。それだと困るのだ。何もないが神楽から連絡が欲しい。だが、そう簡単に叶わないのが世の常であった。いつだって欲しいものが手に入るとは限らないのだ。

 

 神楽からの電話があったのは、そこから数週間後の夜だった。もうこちらの事を忘れたかと思っていたのだが『今すぐ会えないか』と来たのだ。断る理由もない。それに神楽の声が随分と甘えたものであった。何か用事があるとしたら――――喉が鳴る。神楽が寂しい夜にこの自分の元へ来る事を選んだのなら、慰めてやらないわけにはいかない。土方はそろそろ寝ようかとも思っていたのだが、屯所へと通じる裏の戸の前で神楽を待つのだった。

 足音が近づく。そしてギィと建て付けの悪い戸が開いて、神楽が入って来た。少し息を切らしており、走って来た事が分かる。一刻も早く会いたかったのだろうか。土方は吸っていた煙草を足元に落とすと草履の裏で踏み消した。

「誰にも言ってないわよね?」

 土方が嗚呼と返事をすると突然神楽が背伸びをし、唇を押し付けて来た。首の後ろに手が回されて、そのせいで体が前のめりになる。

「あ……待て、ここじゃ……」

 しかし、神楽は柔らかな唇を押しつけ、言葉を遮った。こんなふうに求められては土方も大人しくはしていられない。神楽の体を強く抱くと、小さな唇を舌で割って口腔内を犯したのだ。甘い蜜のような唾液を絡め取り、尻を撫で回しながら貪った。だが、良いところで神楽の手が土方の胸を押した。

「続きしたいなら……部屋に連れてってよ」

 確かにこんな所で交わるつもりはないと土方は神楽を自室へと案内した。だが、部屋に入った途端に土方は布団の上に投げ飛ばされ、仰向けで倒れた。そこに神楽が跨って妖しい顔で笑っていた。

「何のつもりだ」

 神楽はその言葉に土方の下腹部を指でつついた。

「こういうの嫌い?」

 土方の腕は頭の上に万歳させられると、いつくすねたのか腕に手錠が掛けられた。それもただ単に掛けただけでなく、間に文机の脚を通したのだ。万歳をしたまま拘束された土方はこちらを見下ろす神楽に唾を飲み込んだ。神楽の手がゆっくりと浴衣の中へと差し入れられる。細い指が肌の上を滑りくすぐったさと心地よさに表情を歪めた。

「痛くはしないから安心して」

 下着の上から擦られる肉棒は既に起き上がり、何かを期待していた。神楽は悪戯な笑みを浮かべると土方の浴衣をまくり、下着の上からキスをしたのだった。

「くッ!」

 堪らず反応を見せる。下着を押し上げて今にも破裂してしまいそうである。だが、神楽は直接触ってはくれず優しく口づけをするだけだ。

「今日、もしかして期待してたの? 私と……出来るって?」

「はぁ……はぁ……」

 土方は苦しそうな呼吸で頷くと神楽に目で懇願した。今すぐにでも吸ってくれと。中に溜まっている欲望の残骸を早く放出してしまいたいのだ。

「ひとつ聞いても良い? 手錠の鍵ってどこで管理してるの?」

 そもそも神楽はこの手錠を外すつもりがなかったのだろうか。土方の頭に神楽が自ら腰を振る姿が見えた。細いくびれと対照的な巨乳。その肉体が自分の上で跳ねるのだ。いやらしく腰を動かして。それも悪くない。

「鍵なんざ無くても良いだろ? 早く来い」

 だが、首を振った神楽は下着の上から土方の肉棒を握ると甘える声で言ったのだった。

「だってトシの指で気持ち良くして欲しいアル」

 神楽の手に力が加わり肉棒が刺激される。土方は思わず腰を浮かした。このままでは下着の中で果ててしまう。土方は歯を食い縛るとどうにか言葉を口にした。

「くッ、突き当たり左の……部屋だ!」

 すると神楽は手を離して乱れている髪を直した。そして微笑むと立ち上がった。

「少しお預け。待っててね」

 そう行って部屋から出て行くも神楽が土方の元へ戻ることはないのだった。

 

桂side

 

 あの花火大会の後。桂は寝苦しい夜を過ごしていた。今もまだ神楽の熱が体に残っているのだ。浮つく心。あの夜、結局それ以上何もなかったのだが、それでも万事屋の玄関前で《帰りたくない》と言うような顔でこちらを見ていた神楽が忘れられないのだ。昔から知っている仲なのだが、こちらは成長した神楽に女を意識せずにはいられない。今もこうして考えているだけで胸が苦しくなる。割り切った関係を互いが求めているような恋愛ならば、桂も慣れていた。しかし、神楽への想いはただ抱きたいと言うものではなかった。愛でたいのだ。この腕に包み、甘い言葉の一つでも紡ぎたい。そんな澄んだ想いであった。もう一度会って気持ちを伝えたなら、それが叶うような予感があった。おおっぴらに会う事は出来ないが、桂は神楽にどうしても会いたいと昼間の万事屋を訪ねるのだった。

 

「銀ちゃんなら居ないけど」 

 居間に通された桂は、神楽と定春以外誰も居ない万事屋で向かい合っていた。

「今日はリーダーに用があって寄っただけだ」

 今更だが、何を愚かな事をしようとしているのか。そもそも自分はテロリストと言う立場だ。誰かを愛せばそれだけ傷つける存在を増やす事になる。彼女を愛し、幸せを願うのであれば近付くべきではないだろう。そんな警告が聞こえて来た。だが、感情に逆らう事は難しい。惹かれる心に杭を打つなど身悶えするほどに苦しい。自分では掲げた鉄槌を下ろすことなど、出来そうになかった。

「それで用って何なの?」

 桂は想いを述べるべきか悩んだ。愛しさを感じれば感じるほど、遠ざけなければならないのだ。今ここで吐露したとして、関係が今と変わらないのであれば心情を語るなど愚かでしかない。

 桂はソファーから立ち上がると神楽を見下ろした。

「リーダー。すまないな。予定変更だ」

 神楽の不思議に謎めいた目がこちらに向く。

「予定って何の話?」

 桂はそのまま居間を出ると玄関へ向かった。自分を追ってくる神楽に思わず振り返ってしまいそうだ。だが、きっとここで振り返れば神楽に腕を伸ばし、胸の中へと閉じ込めてしまうことだろう。そうすれば歯止めが益々きかなくなる。実害が出る前に立ち去るのが一番だろう。

「では、邪魔したな」

 だが、次の瞬間には玄関の戸が塞がれ、神楽が桂の背後から戸を押さえ込んだのだ。背中のすぐ向こうに神楽の熱を感じる。

「待って」

 桂は目を閉じると息を吐いた。そして額に汗がじわりと滲んだ。

「何の用か知りたいんだけど」

 桂は振り向かずに言った。

「……大した事ではない」

「それは聞いてから私が決めるから」

 神楽はもしかすると気付いているのだろうか。この胸を締め付ける熱い思いに。神楽の手が戸から離れると桂の手を握った。

「覚えてる? 花火大会の帰り……」

 そう言って神楽が背中に顔を埋めると、桂の心臓は痺れてしまい振りほどく事が出来なくなった。

「……嗚呼、覚えているとも」

「私、嬉しかったんだから」

 そんな事を可憐な声で言われては堪らなく心苦しい。今すぐにでも抱き締めてしまいたいのだが、そうすれば神楽を危険に晒すことになる。それだけは耐えられない。

「リーダー……俺に構うな。もっと他に相応しい男がいるだろう」

 珍しく声が震えた。嘘やハッタリと無縁と言うわけではないが、彼女を欺く事が辛いのだ。

「私じゃダメならはっきり言ってよ。そんな言い方……ズルい」

 ダメなわけがあるか。そう言って抱き締めてしまいたい。何があっても護ると誓えば良いだけなのだから。だが、その約束が果たせなかった時の事を考えると怖いのだ。自分ではなく神楽が傷つけられるなど――――――

「すまないな」

 やや掠れた声でそう言った。すると神楽の手が、体が、離れていき、桂は万事屋を出るのだった。

 

 またしても眠れない夜がやって来た。いくら目を閉じても目蓋の裏に神楽が浮かび、桂の胸を苦しめるのだ。散歩でもしてくるか。桂は布団から出ると今夜の隠れ家であるアパートを出た。するとアパートの前をうろつく人影に胸の鼓動が速まった。下を向いて何か悩んでいるようにクルクルと同じ場所を回っているのだ。長い髪と少し露出度の高いミニ丈のチャイナドレス。そこから伸びる四肢は今宵の月のように白く艶かしく映った。

桂はアパートの敷地から出ると神楽に声を掛けた。

「リーダー。ここで何をしている?」

 すると顔を上げた神楽が駆け寄って来た。

「……眠れなくて。散歩よ。悪い?」

 こんな場所で散歩など無理があったが、桂はもう神楽を追い返す気にはなれなかった。

「ならば少し歩くか? 俺も眠れなくてな」

 桂は神楽と二人で真夜中のかぶき町を歩いて、少し静かな場所を探した。

 

 公園に着けば右も左も暗がりで何かをしていて、だが桂も神楽もこれには慣れていると奥の空いているベンチに座った。

「ねぇ、ちゃんと教えて。私じゃダメな理由」

 桂は神楽の方を向くと街灯に照らされた白く美しい顔を見つめた。

「……ふざけていると思うかもしれないが、愛しているからだ」

 神楽の頬に赤みが浮かぶ。

「どういう意味よ?」

 桂は神楽の両肩に手を置くと、顔を近付け小声で言った。

「俺はこの通り指名手配犯だ。リーダーを危険に晒したくはない」

「危険? 真選組の連中なら平気。それに自分の身くらい自分で護れるわ。だから……」

 そこで神楽の唇が桂に寄せられると、二人は一つに重なった。神楽の甘い香りに目眩が起こりそうだ。桂は神楽の唇をゆっくりと味わい、そして舌を絡めた。呼吸が浅く変わっていき、意識が遠退きそうだ。熱い舌を互いに擦り合わせ、唾液をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせると二人は静かに唇を離した。そして微笑み合うと互いの想いを知るのだった。

「……今夜はもう送って行こう」

 神楽が少し寂しそうな表情をした。おおよそ離れたくないのだろう。だが、今晩隠れ家に連れ帰れば確実に神楽を剥いてしまう。しかし、大切にこの関係は育てたい。そんなに急ぐ必要はないと思ったのだ。

「リーダー……」

 桂が手を差し出すと神楽はしっかりとその腕を取った。ひっそりと始まった恋であったが、想いは強く燃え上がっていた。そしてそれと同じくらい浮かれ上がっていた。油断した。桂は万事屋で神楽と別れると隠れ家へ戻る道中、何者かに襲撃されたのだ。暗がりの中、地面に倒れ込むと誰かがこちらを覗き込んでいたのだが、逆光で特定することは出来ない。そんな事を考えていると目がかすみ、意識を失うのだ。

 

 次に目覚めた時。桂の両手には手錠がハメられ、暗い牢屋の中に居た。ここには見覚えがあった。屯所内にある独居房だ。暗くひっそりとし、不気味である。そんな人気も感じない牢の中で目を覚ました桂は、痛む体を起こすとこちらへ近付いてくる靴音に気が付いた。真選組の連中には違いない筈だ。桂は薄明かりに浮かぶ鉄の錆びたドアを睨み付けていた。すると鍵の開く音がして――――――

「桂。テメーもこんなくだらねぇ捕まり方するんだな」

 聞こえたのは真選組一番隊隊長・沖田の声であった。桂は生きてここから出られない絶望を感じた。だが、まだ殺していない所から察するに、この自分を捕まえた理由が《指名手配》の他に何かある気がした。普段ならこんなヘマはしない。それに尾行されていたなら、気付いた筈だ。となると沖田が後をつけていた相手、それは神楽だったのだろう。そして偶然、居合わせた桂を捕まえた。それならば納得がいった。だが、何故沖田が神楽の後をつけていたのか。それには個人的な感情が大いに関わっているのだろう。いい気はしなかった。だからわざとこう言ってやった。

「後をつけていたのか? 俺の女の」

 すると沖田はこちらに向かってバケツの水をぶっ掛けたのだ。

「テメーを殺す」

 その目は殺意に溢れ、悪魔に取り憑かれているかのようであった。だが、こんなものにビビる桂ではない。

「ならば早くしてくれ。娯楽の一つもないこんな部屋では、退屈なものでな」

 しかし、沖田は不気味に笑うとパイプ椅子に腰掛けた。

「そうかィ。なら存分に愉しめるだろーな。てめーの為にひとつ余興を見せてやる。チャイナ娘に知らせてやった。桂が手錠掛けられて、ここに居るってな」

 嫌な予感がした。沖田の事だ。ただ単に殺して終わる筈がない。たっぷりと苦痛を味わわせてくれるのだろう。さすがの桂も表情を強張らせた。その標的がこの自分だけで済まないことが分かったからだ。

「彼女に何をするつもりだ。貴様も侍なら卑劣な手は使うな!」

 しかし沖田は呑気に頭の後ろで腕を組んでいる。

「手段なんざカンケーねぇや。勝てば良いんだ、勝てば」

 その時だった。こちらに駆けてくる足音が聞こえたのは。

「来るなッ!」

 そう桂が叫ぶも神楽は手錠の鍵を持って入って来たのだ。鉄製の重いドアが閉まる。

「なんであんたがここに居るのよ」

 薄明かりに照らされる神楽の顔は青ざめて見え、桂を見る目も震えていた。

「俺に構わず逃げろ!」

 しかし、神楽は逃げることなく沖田の前に立ったのだ。

「あんたが言ってた条件って何? 早くそいつを解放して!」

 どうも神楽は桂を逃す為に沖田と取引をしていたようなのだ。桂は益々嫌な予感しかしなかった。

 沖田のニヤついた不気味な顔が桂を見下ろした。

「チャイナ娘。手錠の鍵を渡してやれよ」

 桂と神楽は驚いて見合った。沖田はどういうつもりなのだろうか。しかし、手錠を外した所でこの牢から出るには、更に牢屋の鍵が必要であった。

「すぐ出してあげるから待ってて」

 神楽がそう言って檻越しに手を握ってくると、桂は鍵を受け取り、手錠を外した。

「それで、私が言うこと聞いたら本当に出してくれるんでしょうね?」

 神楽がそう迫れば、沖田は頷いた。

「約束する。だが、少しでもテメーが反発したり逃げ出せば、奴は明日にでも打ち首だ」

 

 桂は今から何が行われるのか分からずに、額に汗を滲ませてただ檻の中から二人を見ているだけであった。

 


回旋:03

沖田side

 

 沖田は神楽を逃した夜、初めて屈辱を味わったのだ。女が自分に従わない事など初めてだ。だが、獲物が逃げれば逃げるほど闘争心が煽られ、どんな手段を使ってでも必ず仕留めたくなるものである。少しは愉しめそうだと沖田はほくそ笑んだ。

 神楽をどうすれば自分のモノに出来るのか。どうすれば神楽から望んで体を差し出すのか。沖田は神楽を観察し、彼女の弱味を探した。そしてついに見つけたのだ。神楽を服従させるに良い《餌》を。桂小太郎だ。元々、そっちはいつでも捕まえられると泳がせていたのだ。今こそあの男を捕まえるに相応しい時期だと沖田は考えていた。計画は完璧に、そして誰にも気付かれることなく遂行しなければならない。桂の捕獲は一人で……個人的に行うことに決めた。

 桂のどこに惹かれるのか。自分と何が違うのか。だが、神楽が逃げ出した夜。キスこそかわされたが、土方が邪魔しなければ交わる事は可能だったように思うのだ。いくら神楽の気持ちが桂に向いていても、一度体を弄れば簡単に堕ちるような危うさがあった。きっとあの豊満な肉体を持て余している。沖田は神楽を落とす自信があった。それも桂の目の前でだ――――――

 

 沖田は牢の中の桂に笑いかけた。

「こんな時の為にこいつを手懐けて正解だったな? テメー、まさか本気じゃねーだろィ?」

 桂の目が鋭く沖田を睨み付けた。神楽はと言うと、桂の釈放と引き換えにその身を捧げると決めたようだった。

 沖田は神楽の背後から手を伸ばし、チャイナドレスの上から乳房を揉みしだく。そして、既に勃っている両乳首を引っ張れば神楽の口から吐息が漏れた。

「うッ……んふッ……」

 沖田の睨み通り感度の良い体は、愛する男の前だと言うのに感じているようなのだ。

「おい、桂。チャイナ娘がどんなふうに鳴くかよく聞いとけよ。それとテメーの手を自由にしてやった意味、分かってんだろ?」

 沖田なりの優しさであった。陵辱される神楽を見ながら自慰でもさせてやろうと思ったのだ。

「貴様……」

 桂が髪を振り乱し檻からこちらに手を伸ばしたが、神楽は歯を食い縛ると苦しそうに答えた。

「これくらい……はぁ、ん、大丈夫だから……」

 沖田はくだらないメロドラマのようでうんざりした。チャイナドレスのホックを外して、手に余る大きさの乳房を剥き出しにすると、直接指で乳頭を摘んだ。

「み、ないでッ!」

 神楽はそう言って首をイヤイヤと横に振るも沖田を欲情させるだけである。

「こんなにおっ立ててるって事は……悦んでんだろ?」

「な、わけないでしょ!」

 そう言って口では強がっているが、沖田は神楽の体の火照りを知っていた。神楽にショーツを脱ぐように命令すると、神楽は反発することなく、赤い顔で目を閉じたまま下着を脱ぐのだった。

「舌出せよ」

 沖田は片手で神楽の顔を背後に向けると、もう片方の手で乳房を弄りながらキスを強要した。いつもなら舌を噛んで死のうとするかもしれないが、今だけは桂の為に神楽は舌を出したのだ。沖田は桂を見たまま神楽の舌に吸い付いた。唾液が交わり、卑猥な音を立てている。それを桂は何も言わず、何の感情もない目でこちらを見ているが怒り狂っている事はよく分かる。だが沖田は気にもせず、神楽の乳首を強く摘みながら口の中を激しく犯した。

「んふッ、んッ……ん」

 神楽から鳴き声のような吐息が漏れる。そして、ポタポタと足の下に愛液を垂らし始めたのだ。沖田は益々悦びを感じた。乳房から手を下へと移動させると、神楽のヌルヌルになっているクリトリスを刺激した。神楽の唾液がじわりと溢れ出し、沖田の喉を潤す。そうして、クリトリスを弄ると神楽の乳首は更に勃起し、興奮している事は桂にもよく伝わっただろう。沖田はついに膣内へ指を入れるとそこでようやく神楽の唇から離れた。

「ヅ、ラ……見ないで……」

 神楽は檻を掴むと間近に立っている桂に言った。だが桂は無表情でただ遠くを見つめているだけだ。まるで廃人にでもなったように見える。それが痛快であった。沖田は神楽の中の指を激しく動かした。すると神楽は苦しそうに喘ぎ始め、膣内の音もグチャグチャと言ったモノへ変わっていった。愛液が止まらないのだろう。沖田の指に快感を得ているのだ。神楽は尻を徐々にこちらに突き出し、足を開いていった。なんて卑猥で下品な格好だろうか。自ら沖田を受け入れようとしているのだ。沖田もズボンがそろそろキツいと感じ始めていた。沖田はベルトを外し、ファスナーを下ろした。そして檻を掴んでこちらに尻を向けている神楽の割れ目にペニスを押し当ててやった。

「まっ、待って!」

「今更泣き言か? テメーも感じてんだろ?」

 止めてと言われても止める気はない。だが、神楽はそれだけは嫌だと怯えた目でこちらを振り向き見ていた。

「何度も言わせるな。テメーが逃げれば桂は打ち首だ」

「リーダー……俺の事はもう良い……」

 桂がそう言って檻を掴む神楽の手を握ると、神楽は涙を零した。その瞬間に沖田は神楽の膣へズルッとペニスを突き刺すのだった。

「……ぁあッ!」

 この涙は感涙か――――――こうして肉棒を突っ込まれた事への悦びなのだろうか。神楽の膣は沖田を悦んで受け入れると、更に尻を高く上げて快感を得ようと必死に見えた。だが、口はそんな体とは裏腹の言葉を発する。

「もうッ、やめてッ……満足したでしょ!」

 沖田は神楽の前髪を掴むと顔を上げさせて桂へと向かせた。

「スゲーや……テメーが俺を欲しがってんのがよく分かる」

 沖田は激しく背後から突いた。神楽も次第に声を大きく漏らし始め、紅潮している頬が快感を得ているように見えた。

「ぁッ、んッ、ぁんッ、あんッ!」

 だが、不意に桂と目が合うのだろう。神楽は表情を崩し紅潮した頬で言うのだった。

「みッ、ないで!」

 もう少し桂が半狂乱するかと思ったのだが、今は気味が悪い程に落ち着いている。このままここで最後までする意味も無さそうであった。すると突然、神楽が沖田に言ったのだ。

「ちゃんと……部屋でしたい……」

 こんなふうに背後から犯されるのは嫌だと思ったのだろうか。それとも桂に見られない為の方便か? どちらにしても今すぐには、この場から離れられなかった。

「もう……出る!」

 すると神楽は叫んだ。

「待って! 危険日だから! いゃああ! だッ、め……んあッいぐぅううッ!」

 神楽は潮を噴いて惨めにも堕ちてしまったようだ。そんな神楽の奥深くで射精した沖田は、ゆっくりペニスを引き抜くとズボンの中へとしまった。神楽はその場に崩れ落ち、膣穴から沖田の精液を垂れ流していた。桂はと言うと静かに佇み、こちらを殺意のこもった目で見ているだけであった。

「テメーの言葉通り、部屋で抱いてやる。来い」

 グッタリとしている神楽をつれて私室へと戻った沖田は神楽を布団の上に投げると覆い被さった。

「もう充分でしょ」

 だが、沖田は神楽を見つめると首を横に振った。

「終いにして欲しいなら、俺が欲しいと懇願しろ」

 神楽は涙目で沖田を睨み付けた。何も言いたくない。そんな思いはひしひしと伝わってくるのだが、剥き出しになっている乳房はパンパンに膨らみ、まだまだ男の子種を求めていた。神楽もその本能には逆らえないようだ。

「お願い……さっきみたいに……激しく壊して……」

 言わされたにしては、よく出来すぎていた。神楽はきっと気付いたのだろう。その身が何を求めているのか。プラトニックな関係と言うものは、果たして本当に愛なのだろうか? 沖田にははっきりと答えが見えていた。肉体の繋がりにはどんな関係も勝てないのだと。

「なら、コレぶち込んだら牢屋の鍵、渡してやらァ」

 神楽はその言葉に目を閉じると、沖田に突かれて再び嬌声を上げるのだった。

 

土方side

 

 土方は文机の上から金属のクリップを落とすと、それを器用に伸ばし手錠を外した。神楽が出て行ってもう一時間は経っている。初めは何か神楽の身に起こったのだろうかと心配もしたのだが、次第に利用された事に気付いたのだ。

土方は擦れた手首に痛みを感じたが、身なりを整えて神楽が行ったと思われる部屋へと向かった。敷地の奥。それも暗がりだ。土方は少しだけ気味の悪さを感じると静かに廊下を歩いた。

「うっ……ううっ……」

 女のすすり泣く声が聞こえる。土方は身震いをした。それも牢屋の方からなのだ。気のせいだろうかとも考えたのだが、ここに霊が居る可能性よりは消えた神楽が居る可能性の方が高かった。ゆっくりとドアノブを回し、鉄製のドアを開ける。そこに居たのは空の牢の前で座り込み泣いている神楽だったのだ。乱れた髪と――――この臭い。土方は神楽の隣にしゃがみ込むと肩に手を置いた。

「何があった?」

 だが、神楽は土方にしがみ付くと震えながら泣いていた。あんなに普段強気な女が何故? しかしこの異様な光景におおよそは何があったのか察したのだ。

「立てるか?」

 土方は神楽を支えてゆっくり立ち上がると部屋まで戻った。とにかく万事屋まで送って行こう。だが、神楽は疲れ切っているのかグッタリと布団の上で動かない。このまま寝かせてやっても良いが屯所内で事件があったのなら、ここに置いておくのは心もとない。それにしても神楽の身に一体何があったのか。土方は神楽の横に腰を下ろすと煙草を咥えた。

「……あんな所で何してたんだ?」

 すると神楽はうずくまりながら小さく返事をした。

「別に」

 そんな筈ない事は濡れているまつ毛からも分かる。

「なら、なんで泣いてんだ」

「ただ自分が惨めなだけ」

「そう思う理由があるのか?」

 神楽は疲れきった顔でこちらを見ると何があったのか、誰にも言うなと口止めして土方に話すのだった。

 

 沖田に抱かれる代わりに愛する男を護りたかったこと。だが、その男に《利用しただけだ》と冷たくあしらわれた事。何よりも沖田に陵辱され、気付けば自ら腰を振っていたこと。全てが惨めだと神楽は言った。

この話を聞き終えた土方は、神楽が今夜自分に会いに来た理由が他にあったのだとはっきりと知った。こちらこそ惨めだと言ってやりたかったのだが、あの沖田に陵辱されたのだ。かける言葉も見つからない。それに神楽には愛する男が居たのだ。惨めなんてものじゃ済まないないだろう。土方は煙草の煙を吐き出すと、神楽の髪を撫でつけた。

「タクシー呼んでやる」

 神楽は何も言わずにその言葉をただ聞いているだけであった。

 

 屯所前にタクシーが停まり、神楽を押し込んだ後で自分も乗った。隣に座れば神楽の腕が伸びて土方を掴んだのだ。こちらが断りきれない事を分かっていて、神楽は甘えているのだろう。誰かに利用されたのだろうが、利用しているのはお前も同じだ。そう思わずにいられなかったが、何も言わずに万事屋へと向かった。

 家に上がればガランとしており、銀時はいないようであった。神楽が風呂場へ向かったので、土方は一人暗い居間でソファーに寝転んだ。やけに疲れた。それなのに目は冴えている。それは神楽への複雑な思いがこうさせるのは分かっていた。沖田との事など聞きたくもなかった。それに愛する男のことも。だが、矛盾する。気になるのだ。自分の身を沖田に差し出してでも護りたい男――――一体誰なのだろうか。しかし、その男は神楽への想いはなく、利用しただけだと話した。神楽は今、物凄く傷ついているハズだ。つけ込むなら今だと本能は言っていた。だが、理性的な自分がいて、そこにつけ込むような卑怯な事はしたくない。ただ臆病なだけかもしれないが、沖田と同等になるくらいなら何も望まない方が良いのだろう。土方は、今夜は大人しくしていようと誓った。

 その後、風呂から上がった神楽は奥の部屋に布団を敷くと横になった。

「一緒に寝ても良いけど、どうする?」

 この場合の《寝る》は文字通りの意味だろう。土方はソファーで良いと返事をすると目を閉じるのだった。

 

 

 あれから。神楽とは頻繁に会うようになっていた。相変わらず神楽の心はこちらに向いていない気がするのだが、それでも休日になれば《会いたい》と神楽から連絡が来ていた。

 沖田はと言うと、その後謹慎処分が下った。桂小太郎を檻から逃した事が判明したからだ。何故、捕らえたにも関わらず脱走させたのか。その理由を沖田は誰にも話さなかったが、土方は知っていた。神楽の体と引き換えに桂を釈放したのだと。早熟な肉体を貪り、涙ながらに嬌声を上げる神楽の膣内へと子種を注いだのだ。おぞましい。だが、どこかで羨む自分もいて結局は沖田と同等であるのかと自己嫌悪に陥った。それでも神楽の隣に居るのはこの自分であり、沖田や桂ではない。今も二人で町を歩いていた。

「……ねぇ、多分そう簡単にあんたを好きになれないけど、それでも良いの?」

 隣を歩く神楽が突然そんな事を口にした。土方はその言葉に何度目かの裏切りを感じるも、それを承知で隣を歩いているのだと自分に言い聞かせた。

「良いわけ無えだろ」

 神楽がこの自分を利用した日。口付けられた下腹部は、まだ期待して《いつか》を待っていた。だが、沖田との一件があり、土方から神楽を求める事はなかった。こう言うことは時間がかかるものだと理解している。

「でも、いつも一緒に居てくれる事には素直に感謝してるんだからね」

 その言葉が聞けただけで土方の胸は満たされた。いつか見た、眩しい笑顔が戻って来たのだ。それを誰よりも間近で見ることが出来るのだ。これ以上何も望んではいけないような気分になった。

「テメェの勝手でそう過ごしてるだけだ。感謝される覚えは無え」

 土方はそう言って煙草を口に咥えると――――神楽がそれを抜き取った。

「あ? 何しやがる」

「……キスしてヨ」

 神楽がそう言って土方の手首を掴んで立ち止まった。周囲には人々がひっきりなしに行き交い、こんな所で口づけなど出来るわけがなかった。

「ふざけてんのか」

「そう見えるアルカ?」

 神楽はゆっくりと目蓋を閉じると、軽く唇を突き出した。瑞々しい果実のような唇に目が奪われて、もどかしい気持ちに体が疼いた。

「……ンな場所で出来るかよ」

 僅かに上気した顔で土方がそう言えば、神楽は目を開けて上目遣いで尋ねた。

「ここじゃなかったら良いってこと?」

 屁理屈なのだろうが、実際二人っきりの密室でキスをせがまれたら……断りきれないのは目に見えている。だが、もはやキスで抑えられる自信はない。きっと唇が触れ合えば、この間の続きを望んでしまうことだろう。

「テメェはそれで良いのか?」

 気持ちを弄ばれている状況なのかもしれないが、それに対して嫌気などなかった。神楽が良いと言えば今すぐにも誘って二人だけになれる場所へ行くだろう。

「トシが全部を忘れさせてくれるって言うなら……」

 神楽の瞳が間近で揺れて、土方をそそのかす。

「どこにでもついて行くから」

 そう言って手が握られた。大胆な女だと思っているのだが、その手は震えていた。自然と護りたい気持ちが溢れて来て、もう誰にも傷付けられる事がないように胸の中へ閉じ込めたくなったのだ。

「……そうか」

 神楽が自分だけを見つめてくれる日はそう遠くもないような、そんな予感だけがしていた。

 

桂side

 

 脳にこびりついて、削ぎ落とすことの出来ない声と映像。桂は自由になったにも関わらず、一生抜け出すことの出来ない闇に覆われた気分であった。

《見ないでッッ!》

 そう叫ぶ愛しい人は、涎を垂らし、獣のように体を揺らしていた。自分のせいで神楽は沖田に体を差し出す事になったのだ。嫌がればこの自分を殺すとでも言われていたのだろう。だから、あんな声を出して沖田に突かれていたのだ。そう思い込む方が幾分かマシであった。

 あの日、牢屋の鍵を持って来た神楽を抱き締めてやる事が出来なかった。関わればまたどうなるか分からないからだ。冷たい言葉をわざと浴びせ、泣き崩れる神楽を置いて屯所を出た。彼女をあれ以上傷付けない為には、ああする他に方法がなかったのだ。いざ捕まった時の為に女を利用して己の身を守る。そんな下劣な男になるしかなかったのだ。もう二度と神楽とこの人生で交わる事はないのだろう。桂はいつか見た花火が、もう随分と遠い昔の事のように感じた。そうやって神楽の事も忘れていけば良い。そんなふうに気持ちの整理がつき始めた頃だった。街で神楽の姿を見たのだ。隣には――――――真選組副長の土方が歩いていた。沖田でなかった事に一安心したが、それでも歯痒い気分になった。二人は手も繋がず、何とも言いがたい距離感で歩いている。もしかするとまだ二人の間には、関係が芽生えていないのかもしれない。そんな事を思って見ていると神楽が立ち止まり、土方に唇を突き出したのだ。からかっているだけだろうか。きっとそうに違いない。そんなふうに思うのだが、胸がざわめくのだ。そして、まだまだ神楽を忘れていない自分に気が付いた。土方が神楽を軽くあしらったように見えた。しかし、互いを見つめる目は熱を帯びていて、どんな口付けよりも二人を結びつけていた。神楽はもうこの自分を忘れたのだろうか。確かに神楽を突き放しはしたが、本心ではない。そのせいか神楽を目の当たりにすると決意が揺らぐ。もう二度と関わらないと決めたのだが、欲は小さな蕾をつけた。気付けば二人を尾行していて、一軒のホテルへ入る姿を見た。昼間からこんなホテルで何をしようと言うのか。目的は他に無いだろう。一度鎮火した筈の炎が燃え上がると、神楽を欲しくて堪らなくなった。あの日、沖田に陵辱された神楽が途端に淫らで劣情を煽る牝に見え出したのだ。他人のものになって初めて分かる。純粋な想いだけで神楽を見てなどいなかったのだと。

 桂はそこから数日後、深夜の万事屋へと忍び込むのだった。

 

 銀時が飲みに出ている事は知っていた。静かに万事屋へ入れば、神楽が眠っている奥の部屋へと急いだ。襖を開ければ、パジャマ姿で眠っている神楽がいた。桂はゆっくり枕元に座ると、神楽の髪を撫でつけた。すると神楽の目が薄っすらと開いた。

「銀ちゃん?」

「リーダー……こんな時間にすまないな」

 そう答えれば、神楽は慌てて布団の上に体を起こしたのだ。

「なんで? どうして!」

 怒っているようにも聞こえるが、桂が神楽の頬に手を添えて耳を触れば、神楽は何も言わなくなった。

「あの日、どうしてもリーダーを遠ざけるしかなかった。分かってくれとは言わんが、弁解くらいさせて欲しくてな」

「でも、今更……それもこんな時間に……」

 先ほどから神楽の顔が熱い。きっともう既にその敏感な体はオスを求め出しているのだろう。桂が知っているだけでも、最近の神楽は、土方と一週間は会っていなかった。つまり、体は熱を持て余している筈なのだ。

「迷惑だったか?」

 神楽は答えづらいのか何も言わずに俯いた。

「俺はリーダーを忘れることが出来なかった」

「でも……軽蔑したでしょ……沖田と……」

 神楽は桂の前で絶頂を迎えるほどに感じてしまった事を恥じているようだった。確かに無理やり犯されていたと言うのに、神楽は潮を噴く程に激しく感じていたのだ。

「俺を思ってのことだろう? 本当にすまなかった」

 桂はそう言って神楽を引き寄せると抱き締めた。すると神楽の腕もゆっくりと背中へ回り、思わず口角が上がった。

「償わせてくれないだろうか。リーダーが迷惑でなければ」

 桂の肩に顔を埋めている神楽は言った。

「そんなの……要らない……」

「それはもう他に愛しい男が出来たからか?」

 すると神楽の顔がこちらを向き、驚いた表情をしていた。桂はわざと傷ついたようなカオを作ると、神楽から目を逸らして言った。

「良いんだ。リーダー。いまだ忘れる事の出来ない俺が異常なだけなのだろう」

 そう言って桂は神楽を離し、立ち上がって部屋から出て行こうとした。すると神楽が慌てて立ち上がり、背後から桂の腕を掴んで引き留めたのだった。

「……待って」

 神楽の顔は赤く、息も苦しそうだ。きっと久々の男の肉体に性欲が高まったのだろう。十代の少女の肉体ほど孕みたがる体もそうないのだ。

「だが、リーダー……これ以上ここには居られない。理由は分かるだろう?」

 神楽は何も言わず、ただ顔を真赤にしている。自分でも気付いているのだろう。今、強く桂を求めていることに。あとひと押しだと桂は最後の言葉を放った。

「ならば、その身を抱かせてくれるのか_」

 こちらも神楽の肉体を求めていると伝えれば、神楽の瞳が揺れて……

「誰に言わないって約束してくれる?」

 神楽は簡単に落ちてしまった。

 桂は頷くと神楽へ口づけした。甘い蜜を吸い、舌を絡ませる。神楽も興奮しているのか、桂の顔を掴んで深く交わるキスをしていた。積極的で何の悪気も感じさせないような口づけ。今、神楽の頭に土方はいるのだろうか。桂は確かめてみたくなった。

「リーダー、あの男には大切にされているのか?」

 すると神楽の顔が強張り、目が泳いだ。こんな事を尋ねられるとは考えていなかったのだろう。何も答えない神楽を桂は抱えると布団へ寝かせた。そして覆いかぶさると、顔を見つめたまま神楽のパジャマを脱がしていった。

 暗がりに白く艶かしい肉体が浮かび上がる。股を大きく開かせれば、既にそこは光っており、水分が溢れ出ている事が分かった。今すぐにでも何かを咥え込みたいのだろう。両手で顔を覆ってはいるが、見られる事もイヤではないようだった。沖田との件でも感じたのだが、もしかするとマゾの気があるのかもしれないと桂は驚いた。それならこういう扱いも悦ぶかもしれないと、桂は熱い肉棒を取り出すと神楽に一度も愛撫する事なく突っ込んでやった。

「ぁッ! ひゃあッ!」

 つま先まで力を入れて、神楽は体をのけぞらせた。モノのように扱ったのだが、神楽の膣はそれをとても悦んでいるようだった。桂は繋がったまま着ているものを一枚一枚脱ぎ捨てると、正常位で腰を動かした。

「俺を愛せとは言わないが……今だけは求めてくれないか……」

 しかし、久々の男根に乱れている神楽にはその言葉も聞こえていないようで、いやらしく啼き声を上げて揺れているだけだ。普段は強気に思えるのだが、欲望には抗えない、性欲の忠実な僕のようであった。桂が子宮を揺らす度に神楽は甘い声を漏らす。

「おちんちん……きもちいいアル……」

 きっと土方にもそう言っているハズだ。それは少し面白みがない。表では見せる事のないハシタナイ姿をもっと見てみたいのだ。自分だけしか知る事のない神楽を見たい。そう言った意味では沖田が羨ましくもあった。この神楽をあんなにも激しく壊せたのだから。

桂は体勢を変えると神楽の背後に寝そべったまま性器を突き刺した。そうして神楽に片足を抱え上げさせると、後ろからクリトリスを擦りながら交わった。

「それっ、やぁ、ダメ……」

 神楽はそう言って枕を強く掴んだ。桂の乱れた髪が白い肌へと落ち、神楽がどんどん蝕まれていくように見えた。

「ぁひッ、いっ、ぢゃううッ!」

 しかし、構わずに桂は神楽に口づけをするとうごめく膣で肉棒をしごいた。神楽はびくびくと体を震わせていたが、桂は腰の動きを止めずに神楽を犯し続けた。力が抜けてしまったのか神楽の口から唾液が溢れ出ている。何も考えられない程に激しく感じているようだ。だが、すぐにまた体を震わせると声にならない声で言った。

「今、イッてるからァァア! こすっちゃ、らめ……んッ、いっ、ぐッ! いく、いくッ!」

 絶頂を迎えている途中にもう一度絶頂を迎え、神楽は苦しそうに顔を真っ赤にし、膣を締め上げていた。そんなに自分のモノが良いのかと勘違いしてしまいそうだ。思わず目を細めると桂は唇を神楽の耳元に近付けた。

「俺も……限界だ……」

 桂の肉棒が最大に膨らみ、破裂間近に迫っていた。体位を後背位に変えながら桂は神楽を犯すと、射精する瞬間に急いで引き抜いて神楽の尻へぶっかけるのだった。

グッタリして二人はそのまま布団に倒れ込むと、互いの顔を見た。不思議だ。恋人にはなれなかったと言うのに、満たされた気持ちがある。桂は腕を伸ばして神楽を捕まえると、沖田や土方よりも神楽を征服出来た気になったのだ。しかし、当の神楽が誰を愛しているのか。それは一生分からないのだろう。明日になればまた別の男に抱かれているかもしれないのだ。湧き出る独占欲に自然と奥歯へと力が加わった。

「もう会えないのだろうか」

 そう言って神楽の長い髪に唇を落とすと、神楽もまた同じように桂の髪に唇をつけた。

「会いたいけど……」

 今、神楽の頭には土方が思い浮かんでいるのかもしれない。それが躊躇いを生んだようだ。

「あの男を愛しているのか?」

「わからない」

 それならば、そんな男から離れて――――――とは言えなかった。あの時、神楽を護れなかったのは他でもない、この自分なのだ。土方の元にいるからこそ、沖田を気にする事なくこうして神楽と接触も出来る。もう自分だけのものにしたいと望んではいけない。桂は現状を受け入れると神楽を抱き締める腕に更に力を加えた。

「もう考えるのはよそう」

 そう言って目蓋を閉じると、二人は朝まで眠るのだった。

 

2016/08/23