狂犬乱舞/土神

 

 この日、土方は職務を放り出した部下がいる公園へと向かっていた。大抵の場合、そこでチャイナ娘と騒いでいるのだが…………公園に着くも部下の姿はどこにもなく、代わりに暇そうにベンチへ腰掛けているチャイナ娘を見つけた。

 総悟がいねェから、アイツも暇してんのか?

 そう思って見ていると、チャイナ娘――神楽の青い瞳が土方へと向けられた。結ばれる視線。しかし、数秒後には互いに別の方角を向いて終わった。そんな意味のない、ただの風景の一部。土方も特に気にはしておらず、神楽もそれは同じようであった。

 だが、そんなことが二回、三回、四回……と続けば少し状況は変わってくる。

 道ですれ違う瞬間や沖田を捜しているささいな日常。そんな物の中から切り取られたほんの僅かな時間、土方の視界にこちらを見ている青い瞳が入ってくるのだ。さすがに何度も目が合えば異変にも気付く。それが並んで歩く銀髪と眼鏡に笑いかける無邪気なものでもなく、また職務怠慢な部下を睨む厳しいものでもない、と言う事に。土方の前だけに現れるのだ。意味ありげな神楽の瞳が――――――

 しかし、何か言葉を交わすことはない。ただそんな目をした神楽を視界の隅に入れるだけだ。それは神楽も同じで、ただ静かに端正な顔をこちらへと向けているだけであった。それだけに妙な苛立ちが土方の胸を掻き乱していた。

 何のつもりだ?

 そうは思っているのだが、土方も本当に意味が分からないわけではない。ああいった類の瞳を女が宿す時、それは大抵が…………惚れた男を見つめる時である。だが、それにしては真っ直ぐで濁りがなく、だがどこか挑発的であった。追いかけて来いとまるで誘っているかのように…………

 真っ赤なチャイナドレスから覗く白い四肢が頭に浮かぶ。血の通っていないような透き通る白。そして、明るく笑っている顔や怒って睨みつけている顔。だが、やはりこちらを見る灼けるように熱い眼差しが土方の脳に強く刻まれているのだ。

 『それがなんだ』と思ってはいるのだが、いつも意識の片隅にそんなものが浮かんでくる。無理に忘れようとすればするほどにそれは鮮明に色濃く映しだされ、すっかりと取り込まれてしまったように思うのだ。だが、煙草を吸えば幾分か気も紛れ、それこそ煙のように立ち消える。今も丁度それを経験しているところだ。

 自室の文机の前で土方は、書類の山を前に煙草を吸っていた。

「テメーのせいだろ! ここで土方さんに子守でもしてもらえ!」

「離せヨ! やめろォォオ!」

 部屋の前……廊下が騒がしくなり何事かと思っていると、部屋と廊下とを仕切る襖が勢い良く開けられた。

「こいつ任せますんで、好きに使って良いですぜィ!」

 そう言って入ってきたのは、神楽を小脇に抱えた沖田であった。

 土方はまだ書類の山と格闘している最中であり、邪魔されるのは御免だと沖田を睨みつけた。

「ガキの相手はガキがしてろ」

 しかし、どうも沖田は何か急ぎの用があるらしく土方に向かって神楽を放り投げると走って部屋から出て行った。いや、逃げ出した。

「あのクソドS! 覚えてろヨッ!」

 そう叫ぶ神楽を受け止めた土方ではあったが、正直相手をしている暇がないと神楽を畳の上に座らせた。

「邪魔だ、帰れ」

 神楽に目もくれず書類に向かいながらそう言った。どうせ神楽にしてもここで遊ぶよりは、外で遊ぶほうが楽しいはずだ。出て行かないという事もないだろう。そう思っていた土方にとって神楽の返事は意外なものであった。

「気にすんナ。問題ないネ。押し入れでちょっと寝るだけアル」

 そんな声が耳に入り…………そして、背後でなにやら襖が開く音がした。慌てて土方が振り返ると、ひとの部屋の押入れに入り込む神楽の後ろ姿があった。

「問題あるに決まってんだろ!」

 土方は吸っていた煙草を急いで灰皿へ押し付けると、上段の布団の上へと乗り込んだ神楽を捕まえにかかった。

「なんでヨ! 大人しく寝るだけダロ! 離せヨ!」

「何してんだッ! つべこべ言わずいいから出ろ!」

 こめかみに青筋を浮かべ、乱暴な口調で土方が言うも神楽は少しも堪えていなかった。大人を舐めきったような態度と憎たらしさのつまった表情で笑うのだ。

「なにマジになってるアルカ? 子供の遊びダロ?」

 そう言って布団の上に座った神楽のスリットから、白い腿が妖しげに姿を見せた。程よい肉付きと見るからに柔らかそうな少女の肌。そんなものが自分の部屋の押し入れで息づいているのだ。土方は不思議な気分で眺めていた。

「てめェが……ガキだからこそ言ってんだろ」

 自分の価値をまだ知らない無邪気さ故なのか、土方の目線が脚に流れていても神楽は少しも見えている腿を隠そうとしなかった。それどころか笑って土方へと顔を近づける。

「お前も押入れで寝てみろヨ! けっこー癖になるアル!」

 そんなふうに笑いかける少女に胸の鼓動は速まり、土方は神楽を探るような目つきで見つめた。今まで感じていたあの視線は、やはりこちらの思い込みだったのかと。

 しかし次の瞬間、神楽の脚がスリットから大きく出されて、行儀悪く開くと土方の胴体を捕まえてしまうのだった。

「お、おい! だからてめェと遊んでる暇は――――」

「さっき、脚見て何考えてたネ?」

 見えている表情と似つかわしくない可憐な声。それが耳元に迫ってきて、あどけない唇が桜色に染まる。

「どーせ、エッチなことダロ?」

 耳にかかる息と少女の甘い香りが土方の理性を刺激すると、脳は大きく、激しく揺れ動いた。

「……勝手にしろ」

 そう言って襖を閉めてしまおうとした。取り合ってはいけないと判断したのだ。それは適当な事を言われて神楽に腹が立ったからではない。子供だと思っている神楽の発言に動揺してしまったからだ。それがバレてしまうことだけは避けなければならないと、狼狽える土方は逃げ出そうとした。

「ま、待てヨ」

 襖にかかる手に神楽のものが添えられる。やけに体温が高く感じる。子供だからこうなのだろうか。そんなことを考えるも神楽のどこにも《子供らしさ》が見受けられない。いや、実際にはどこもかしこも未成熟で壊れやすそうに思えるのだ。重ねられてしまった手はガラスのように脆く、扱いを間違えれば一瞬にして終わってしまうようなそんな気がした。そのせいで土方は動くことが出来なかった。いや――――――それだけが動けない原因ではないのだ。先程から神楽の脚がしっかりと土方をホールドしており、まるで離したくないとでも言うように強く締め付けられている。これには土方の額に脂汗が滲んだ。

 密着するカラダとカラダ。餓鬼のものだと軽んじてはいられな状況であることは確かである。収まりを見せない胸の鼓動がその証拠だ。それはいつまでも鳴り止まない警鐘であった。今のこの状況が危険であることは土方のカラダが誰よりも知っているのだ。だが、その音に耳を傾ける力は残っていない。自分の手に触れる神楽の白い手が正常な判断を鈍らせてしまった。

 言葉もなく見つめ合う二人。時の流れすら感じない瞬間がやってきて――――――気のせいだと思っていたあの瞳はやはり土方へと向かっていたのだ。だが、すぐにその瞬間は神楽によって崩されるのだった。

「いつも、なんで私を見てるネ?」

 それはこっちのセリフだと思いながらも土方の唇は動かない。

「可愛いなって思ってた?」

 神楽の頬が僅かに上気する。これには土方も反応を見せてやった。

「誰がてめェに……自惚れんな」

「それとも『脚キレー』とかネ?」

 土方は思わず自分の体を挟む白い太ももを見つめた。触れたことはないが、触れればきっと吸い付くような柔肌で男を虜にするに違いないと思った。その勘定に己も入っているのか……もはや『入っていない』と強く言い切ることは不可能であった。

「なあ、暇なら……もっと触ってみるネ?」

 耳を疑う言葉だが挑発的な視線が投げかけられ、今の言葉が幻聴ではないことを知る。

「だから暇じゃねェつってんだろ!」

「じゃあ、暇ならするアルカ?」

 揚げ足取りに土方は溜息をつくと首を横へ振った。

「ガキの癖に生意気言ってんじゃねェ! いいから帰れ」

 しかし、神楽はクスクス笑うと更に体を密着させた。

「イマドキみんなしてるネ? なのになんで駄目アルカ?」

 土方はイマドキの子供事情など殆ど知らなかったが、目の前の神楽を見るだけでもそれは嘘ではない気がしていた。

 どこで習ったのか大胆な誘惑と挑発的な視線。それに屈するつもりはないのだが、自分でなければ食いついているようにも感じる。いくら子供とは言え神楽は女で、しかも男を惑わせるだけの雰囲気を持っている。だが、神楽はそのことを理解していない。こうして大人の男をからかって面白がっているのだろう。まさか、それが大の男を苦しめる行為であるとは気付きもしていない。それだけに質が悪い。

 無邪気さを武器に飛びかかってくる輩が一番厄介だと、土方は眉間にシワを寄せた。

「あんまりからかうようなら……ただじゃ済まねェぞ」

 凄むように言ったがやはり全く効果が無い。それどころか土方へ顔をグッと近づけると、神楽は小さな声で囁いた。

「口ばっかりうっさいアルナ……それなら早いとこ摘み出した方が身のためアルヨ」

 そうして不意打ちのキスが送られた。神楽の唇が自分のものに触れて、そしてすぐに早熟な舌がイタズラにつつく。土方はそれに胸を震わせると、熱い息を鼻からゆっくりと吐いた。そして、もう一度慌てずに落ち着こうと息を吸うも――――――神楽の匂いに頭を殴られた。だが、このままやられっぱなしでは面目丸つぶれである。

 いい加減に……しろよ……

 そんな言葉を心で呟くと、引き剥がした神楽に向かって目眩を起こしながら怒鳴りつけるのだった。

「ふざけるなッ! てめェは正気かッ!?」

 怒りと衝撃。それをぶつけるように勢い良く神楽を布団に押し倒した土方は、悔しさのにじむ顔で歯を食いしばっていた。どこか馬鹿にされたような気分なのだ。しかし、触れた柔らかい唇や舌から滴る甘い唾液。それらが土方の理性を全力で崩しにかかっていた。これ以上は子供の戯れでは済ませられないのだ。だが、神楽がこんな事で大人しく身を引くとは考えられない。案の定、押し倒された神楽は笑っていた。大人を馬鹿にするようにケラケラと声を上げて。だが、こちらへ向く眼差しはそんなものとは正反対である。それに意識を持っていかれると、白い手が首元のスカーフへと伸びてきて……そのまま引っ張られるのだった。

「もしかして火ついちゃったアルカ?」

 再び近付く顔。キスをしたせいか白い肌に紅が広がり、こちらを見る目も輝いて見える。そんなものに惑わされるような土方ではなかったが、惑わされても別に構わないと既に思い始めていた。

 女に求められることは――――――嫌いじゃない。

「てめェが火つけたんだろ? つけたなら、消せ」

 そう言った土方は中段に足を掛けると、神楽と二人押入れに閉じこもるのだった。


 互いの体温だけが頼りの暗闇で、土方は息苦しさに溺れた。狭い押入れに収まる神楽に被さると口づけを交わし、チャイナドレスを淫らに脱がせたのだ。触れる肌の瑞々しさと反応の良さ。それに陶酔するように土方は神楽の小さな胸の蕾を口に含んだ。吸って、舐めて、舌で転がす度に行為とは対極的な声が耳に届く。

「きゃ、くすぐったいネ……ンフフ……」

 これだけ聞けば無邪気で可愛げのある少女の声だ。だが、それも今の土方には寧ろ耳障りの悪い騒音に聞こえた。自分の行いがまるで《悪いこと》だと突きつけられている気分になる。

 誘ったのは……こいつだ…………

 断じて自分は悪くないと、これは躾のようなものであるのだと土方は赤子のように神楽の胸に顔を埋め続けた。すると神楽の手が土方の股間に伸び、ズボンから熱の塊が取り出されてしまった。神楽の足首には既に下着がぶら下がっていて、互いに下半身が剥き出しの状態である。もう何も言い訳は出来ない状況だ。神楽も遊びでは済まさないつもりらしく、腰を浮かし、無垢な割れ目に熱の塊を密着させた。クチュっと卑猥な音が聞こえ、土方の敏感な部分へと神楽の温もりが広がった。

「コレ、なんでこうなってるか知ってるアル。前に銀ちゃんの隠してるDVDで見たネ。したいんデショ? 良いアルヨ……好きにしても」

 土方は強く腰を押し出し、神楽のぴったりと閉じている割れ目へ肉棒を押し付けると咥えている乳房から口を離した。

「好きに? アホか……ガキに欲情する趣味は無え」

 腰が震える。ああは言ったが、カラダは神楽を欲しがるのだ。今にも目の前の神楽を狂ったように犯したいと喉が鳴る。奥歯に力が入り、顔も歪む。煙草でも吸えれば気分も紛れるのだが……今はあの愛しい煙草にすら口付けしたと思わなかった。

「そんなこと言って……良いアルカ? こんなチャンスもう無いアルヨ……それに……本当はいい機会だって思ってんダロ?」

 土方の顔が更に歪む。胸の裂け目をなぞられたような気分なのだ。お陰で妙な声が出そうになった。

「くッ……いい機会だと……まるで俺が待ってたとでも……言うのか……てめェは……」

 僅かに腰を神楽へ押しやると、既に水分で溢れている割れ目に亀頭が触れた。擦りつけるように腰を動かしクリトリスを刺激すれば、神楽の息遣いも軽く乱れる。その反応に土方の動悸は急速に速度を上げていく。

「ふざッ……けんな…………」

 しかし、神楽は望んでいるのだ。この自分に抱かれたいと。しかも、もうこんなことになってしまっている。ここまで来たら引き返すことは出来ない。

 そうだ……哀れみだ。

 こんなにも発情してしまった神楽に可哀想だと、同情して抱くだけだと、他意はないと言い聞かせた土方は、竿に手を添えて神楽の割れ目を突き破るのだった。

「うッ……ふんッ…………ああッ!」

 捻り込むように狭い膣穴を奥へ奥へと押しこんでいく。

「ほら……入ったぞ」

 これがお前の望んでいたことだろうと、少しだけ得意げな顔で神楽を見下ろすも暗い押入れでは互いの顔どころか何も見えない。それをあまり良いとは思えず、土方は誰が入ってくるかも分からないと言うのに押し入れを僅かに開けるのだった。

 細い線となった光が差し込み、被さっている神楽の顔が照らしだされる。白い頬には赤みが広がり、大きな目には涙が浮かんでいた。その表情は苦痛に歪み、明らかにそれは不安を表現しているものであった。噛みしめる下唇が震えているのだ。

「誘っておいてこのザマか? 泣くな」

「痛く……ないもん……泣いてない……アル……」

 だが、どう見ても痛みを堪えるように見えるのだ。それを可哀想だと思って見ているのだが、神楽の中に入った己は縮む事を知らない。気を抜けばどうなるか、容易に想像ができる。

「強がって何になる……ンな面してる女見ながら……」

 だが、土方の腰は神楽の奥深くに到達すると、一気に引き抜き膣内を擦り上げた。そして再び奥を目指して突き動く。こうなったらもう止まらない。

「誰がッ……愉しめる……かよ!」

「で、でも……動いてるネ……奥に……んんッ……刺さってるッ!」

 腰を打ち付ける度に窮屈なほど狭い膣が、土方を快楽へ沈めようとする。絶え間なく理性を砕き続けるのだ。体の求めるこれ以上の快感を土方は知らなかった。歯を食いしばり、どうにか腰の動きを止めようと試みるも、食い縛った歯の隙間からはだらし無く涎が流れ出るだけだ。

 止まんねェ…………

 こんなにも夢中になるのは初めてで、この小さな蜜壺にハマってしまいそうな自分が居る。だが、相手は餓鬼だと思っている神楽だ。いくら誘われたとは言え、それを認めるわけにはいかない。

 俺は冷静だとでも言うように土方は目を閉じて呼吸を整えると、持って行かれそうになる意識をどうにか必死で繋ぎ止めた。しかし額には大量の汗が滲む。だが、その努力を知らない神楽がとろけそうな顔で土方を見上げており……そんな表情をされては辛いのだ。思わず心の声が漏れる。

「くそッ……キツい……」

 すると神楽は呼吸を乱しながら次々に言葉を発した。


『キツくて、気持ち良いんデショ?』

『もっと激しくしたいんダロ?』

『言ったアル……好きに良いって』


 言葉に惑わされそうだ。いや、既に神楽の膣の中に突っ込んでいるのだから惑わされたあとなのだが、それでもまだどこかこのまま終われるような気がしていた。今なら悪い夢で互いに済ませられるような――――――

「グチャグチャに犯したって、誰も怒らないアルヨ」

 そこまでであった。土方の理性の紐はそこでぷっつりと切り離されてしまった。

 脳に酸素が届かない。そのせいか酷い目眩が襲う。理性のタガが外れた土方は、弾けるように神楽を激しく突き上げるのだった。

「あッ……はあッ……あン……」

 やや高めの甘い声が押入れに充満する。自室の押し入れがこんな声で溢れたことは未だかつて無い。それが如何に異様な状況であるのかを示していた。

「その声……どうなってんだよ!」

「あはッ……あン……んんッ……あッ……」

 初めて男を受け入れたと言うのに、神楽の声は女の悦びに満ちていた。

「てめェ……犯されてんだぞ……ちっとは……嫌がれッ!」

 それはほぼ土方の願いであった。

 嫌がってくれ…………

 そうでなければもう最後まで止まらないのだ。昼間から、それも勤務時間になにをやっているのか。冷静であればこんなことに興じるなどあり得ないのだが、不意打ちのキスが全てを掻っさらった。立場だとか、社会性だとか、世間体だとか、倫理だとか、道徳心だとか理性だとか。土方は己を絞り上げるような神楽に魅入られてしまっていた。

「どうした? さっきまで……痛がってた癖に……なに善がってんだ? クソガキ」

「だ、だって……んんッ……好きアル……お、お前と繋がれて……嬉しいアル」

 知っていた。土方はそのことにずっと前から気づいていたのだ。だからこそ神楽の想いを利用して若い体を貪った。なんて自分は悪い大人だろうか。極悪人も顔負けの罪を犯した。そうに違いないと決めつけた。だが、この状態で『好き』などとくすぐったい言葉を聞くと結構堪えるのだ。

「いま、言うか? それ」

「だ……だって本当ネ、好き、好きアル」

 好き。その言葉を聞く度に意識が遠退きそうになる。ふわっと、引っ張られるのだ。それに負けなようにと腰を動かし続けるのだが…………

 ハッ、ハッ、と犬のように息が上がる。見えている神楽は土方の為だけに乱れていて、気持ちが好いと腰まで浮かせる。そして、何よりも喘ぎながら短く言うのだ。

「トシ、好き……あッ、あッ、好き」

 それが腰に響いて、土方は今にも泣き出しそうな表情で言うのだった。

「ああ、クソ、俺も……お前が好きだ」

 自分は神楽の好意を利用し、性欲を発散させた悪い大人――――――だが、それが土方の正体ではなかった。ずっと神楽を見ていたのは、気になって、知りたくて、どうしようもなく惚れていたからだ。しかし、それを素直に認めることが出来なかった。神楽に惚れてしまった自分を認めることが怖くて、ただ情けなく怯えていただけなのだ。

 鬼の副長と恐れられる土方の正体……それは恋に不器用で悪ぶった、ただの青年であった。

「だ、だめ……おかしく……なっちゃうネッ……!」

 神楽はそう言って両手で顔を隠すと、膣穴から潮を噴いて体を震わせた。そんなふうに自分の下でイッた神楽に土方は更に愛しさを感じると、どれくらいか振りに余裕ができたのだった。

「これで終わりと思うなよ……誘ったのはテメーだからな」

 土方は体を後ろに倒すと、神楽を上に乗せた。そして、股を開かせてしまうと充血したクリトリスを弄りながら下から突き上げた。これには神楽は嫌だというふうに頭を横に振ると、声にならない声で訴えた。

「こ、われひゃう……また……きちゃうアル……」

 それならまた壊れれば良いと、土方は激しく思いのままに膣穴を肉棒で擦り続けた。溢れる愛しさには歯止めが利かない。それはお前も同じだろとでも言うように神楽を激しく愛した。

「い、いやネ……こわれる……」

 そう言いながらも動く腰は正直で、神楽の本音を表していた。土方はそんな神楽の顔が見たいと、覆っている両手を掴んでしまった。

「み、みられたく……ないアル……こんな……顔……ううッ……ああッ……!」

 口はだらしなく舌がはみ出て、大きく開いたチャイナドレスの胸元にまで涎が垂れていた。目は焦点が定まっておらず、今にも熱で溶け出しそうだ。興奮している頬は赤く、唇に至っては熟した果実のようであった。それが軽く歪みながら悩ましげな声を上げているのだ。

「ああ、確かに見せられねェな……他の野郎には…………」

「トシ……きもちいアル……ここ、擦るのきもちい……ああッ!」

 そんなことを口にして、突然激しく神楽が跳ねたものだから土方の顔も大きく歪んだ。

「もう無理だ、イク……」

 ビュルルルル……と音が出そうなほどに大量の精液を土方は神楽の中へと注ぎ込んだ。神楽が上に乗っている以上、それはどうしても避けられることではなく、だが少しも悪かったとは思わない。寧ろ、神楽の中を己で満たせた事に幸福感すら覚えるのだ。それだけ土方は神楽をひと時の感情ではなく、ずっと好きであった。一人の女性として。


 体を離した二人は狭い押し入れで乱れたまま寝転がっていた。

「ずっと知ってたアル、お前が私のこと好きだって」

 神楽と頻繁に目が合った理由は、ほかでもないのだ。気にかけて見ていたに過ぎない。それが恋愛感情の絡む好意であることは土方も当初から分かってはいた。それだけに神楽も自分に惚れているのではと勘ぐった。だが、今更になって言い様のない照れが襲った。

「言ってろ…………」

 神楽はきっと何か甘い言葉を期待したのだろうが、そんな言葉は素面では言えそうもない。先ほどのように神楽に酔っていなければ口には出来ないのだ。

「なにそれ! さっき思いっきり中に出したの誰アルカ!」

「うるせェ」

 気持ちを口に出して伝えるには、やはり再び神楽に酔わなければ無理だ。そう思った土方は神楽の唇を塞いでしまうと、割れ目に指を差し込んでゆっくりと精液を掻き出した。

「んっ……ふんッ……んんッ……」

 ドロォっとした体液が指に絡み、だがそれを無視して指を動かし続けると神楽の膣穴からピチャピチャと精液だけではあり得ない音が聞こえてきた。すると、神楽は土方から顔を離すと怒ったような口調で言った。

「さっき出したから……んッ、終わり……ダロ!」

 どうやら神楽は自分がどれほどに愛されていて、魅力的か知らないようなのだ。土方は指を動かしながらまだ火照りの取れない体を押し付けた。

「てめェ、夜兎ならもう一回……出来るだろ?」

「えっ、ちょっと……待って……いやぁ!」

 今日ばかりは本当に禁煙が出来そうだと、神楽の唇を吸いながら土方は思うのだった。


2015/09/05