剥離/桂神:02(桂side)

 

 幼い頃から堅物だと言われて過ごして来た桂だったが、恋愛においてはそうでもないと自分では思っていた。恋の数なら銀時よりも遥かに多い。ただ、どの恋も真剣であり遊びではなかった。それが相手の負担となり、気付けば「旦那がいるから本気になられても困る」と振られて恋が終わるのだ。それでも一度覚えた大人の女の味は忘れることが出来ず、若い頃は血気盛ん故に肉欲に溺れてしまうことも多かった。だが、ここ最近は禁欲生活こそが日本の夜明けへの近道だと、慎ましく生きてきた。

 それが思わぬところから揺らぎそうなのだ。

 ずっと妹のように思ってきた神楽の挑発。それが思いの外、自分を揺らすのだ。守るべき無垢な少女。そう思っていたのだが、オセロゲームをしたあの日、それは突如として覆された。白いオセロの裏は黒。それと同じように神楽もまた、無垢な肌の下に小悪魔のようなカオを隠していた。

「俺を挑発するとは、銀時が知れば泣くぞ」

 桂はそんな言葉を小さく呟くとグラスに入っている酒を飲み干した。

 

 この日、夕方から攘夷志士の仲間を連れてスナックお登勢で呑んでいた桂は、酒もほどほどに夢や日本の未来について、そして最近ハムスターを飼いたいことについて熱く語っていた。気付けば夜の帳は降り、すでに時計の針は夜9時を回っていた。

 今日はそろそろお開きにしよう。そう思ってスナックお登勢からエリザベスと一緒に家へと向かった。その道中だった。

「オエ゛ッッ!!」

 電柱の陰で激しく胃の中の物をぶちまけている男を見つけたのだ。桂はそんな風景にも慣れているのか気にもせずに通り過ぎようとしたが、その男が知り合い……それも幼馴染みとあっては放っておくことも出来なかった。

「銀時、貴様はまだ飲み方を覚えんのか」

「しゃーコラ! うるせェ! 誰か知らねーが俺に喧嘩売るとか……オロロロロッ」

「エリザベス、先に戻ってくれ。俺はこの碌でなしを家まで送り届けてくる。リーダーが心配しているだろうからな」

 桂は情けない幼馴染みである銀時に見かねて家まで連れ帰ってやることにしたのだった。

「ほら、自分の足で立たんか!」

 銀時はすっかり眠気にやられたのか桂にもたれながらフラフラとしていた。

 本当ならば道端に転がしておいても良いのだが、頭に浮かぶ神楽に引き寄せられるのだ。

 あれから数週間、片時も離れなかった。大江戸ランドでポップコーンを売るバイト中も、ピンサロの前で呼び込みをしている最中も、下手こいて真選組に追われている間ですらもずっと。

 自分に口説かれたいと言った神楽は一体どう言う気持ちなのだろうか? 身近にいた手頃な相手だと思い、若い好奇心を満たしたかっただけか?

 だが、桂は気付いていた。そうではない事に。神楽は恋をしているのだ。この自分に対して。

 はっきりと突っぱねてやるのが大人として正しい行いだろう。そう考える自分もいるのだが、欲しいものは欲しい。そう強く望む自分も確かに存在していた。

 丁度いい頃合いだろう。

 数週間も経てば神楽の想いが一過性のものだったかどうか判断がつくだろう。今から万事屋へ行き、たまたま神楽が起きていて、もしまだ想いを溶かすことなく持っていたならば――――

 そうこうしている内に銀時と桂は万事屋へと帰って来た。

 室内には灯りがついている。それが桂の心音を速めた。

「銀時、着いたぞ」

「かぁ~ぐらちゅぁ~ん!」

 銀時は甘ったれた声を出して神楽を呼ぶと玄関に入ってすぐ床に転がった。

「靴ぐらい脱がんか!」

 桂は寝転がる銀時の足元にしゃがみ込むと、動くことをやめた銀時のブーツを脱がしにかかった。

「かぁ~ぐら~水ゥ!」

 偉そうに声だけを上げる銀時に桂もこめかみに青筋を浮かべると、結局ブーツを脱がすことを諦め立ち上がった。

「リーダーは寝ているのか?」

 桂は玄関へと出て来ない神楽に今日はもう会えない事を察すると、銀時を置いて万事屋から出ようと戸に手を掛けた。

「もううっさいアル! 自分で飲んでヨ水くらい」

 背中から聞こえた声に桂は急いで振り返ると、居間と繋がる廊下にパジャマ姿の神楽が立っていた。

「り、リーダー……」

 だが、神楽は何も言わずに目蓋を擦るとこちらへ近付いて来て、銀時のブーツを無理やりに脱がした。

 そんな様子に桂は期待していた気持ちがどこかへ飛んでいくのが分かった。

 今まで通り、何の関係も結ばれないただの知り合い。それが神楽の出した答えだと知った。

 神楽は黙々と銀時のブーツを脱がせ、水の入ったグラスを持ってくると慣れた手つきで力の抜けた銀時を担ぎ上げた。するとそこでようやく桂と神楽は目が合った。

「女の子1人に運ばせる気アルカ? ほら、そっちの肩担いでヨ」

 本当は慣れているであろうに、桂に手伝いを要求した。

 桂は言われるがまま草履を脱ぐと、神楽と2人で銀時を奥の部屋の布団まで運んだのだった。

 

 ゴロンと布団に転がる銀時は既に寝息を立てていた。そんな呑気に眠る銀時を見下ろす神楽はどこか微笑んでいるように桂の目に映ったのだった。

「お前は呑んでないアルカ?」

 突然、先ほどまで銀時を映していた瞳に己が映し出され桂は焦った。

「ああ、俺は酒の飲み方を心得ているからな」

 すると神楽は何か考えこむような素振りを見せ、部屋から出て行ったかと思うと居間へ桂を手招きした。そして、居間の灯りを消して常夜灯だけの仄暗い空間を作った神楽は桂の正面に立った。

「あれから私、考えたアル。お前のこと」

 何故灯りを消して、囁くようにそんな事を言うのか。桂の心音がまた騒ぎ始める。

「リーダー? 電気くらいつけないか?」

 常夜灯のオレンジの光と障子から透け入る月の光が神楽を暗闇にもはっきりと浮かび上がらせていた。まるで隠していた物を全て見せるかのように。

「銀ちゃんが起きたら厄介デショ? それとも銀ちゃんにバレても良いアルカ?」

 神楽はどうやら銀時に桂との事を隠しておきたいようなのだ。

 もちろんそれには桂も同意だったが、これから何か起きるとしたらそれをいつまでも隠し通せる自信はなかった。

 神楽は桂の胸元あたりに視線を落とすと、小さな声で呟いた。

「次、お前に会ったら絶対に言おうと思ってた事があるネ」

 桂はそれが何か大体は察しがついていた。しかしそれでもハッキリと言葉を耳にするまでは確信は持てない。

 早く言ってくれ。桂はそんな想いから神楽の長い髪にそっと触れた。

 その行為に神楽の顔がこちらへと向けられる。弱々しく、恥じらいがあり、だが美しい表情をしていた。桂は堪らず髪をすくうと唇をつけた。

「言えぬか? 何も」

 桂は神楽の髪を元に戻すと、静かに頭を撫で付けた。それに神楽の目が泳ぎ、落ち着きをなくす。

「……キスしてヨ」

 しかし、ハッキリと聞こえた。キスという単語。桂はそれも想定内ではあったが、その顔でその声で言われると堪らないものがあった。

「覚悟は出来ている。そういうことだな?」

 神楽はコクンと頷くと、そのまま顔を伏せてしまった。

「他の人としてもダメだったネ。私、心の底からお前としたいって思ってる。これってお前のこと好きって意味デショ?」

 桂はそう言った神楽に目を細めると、そのまま腕の中へ閉じ込めてしまった。

「ならば、確かめてみるか?」

 桂はこの時、どれくらいかぶりに心が震えていた。いや、体も少し震える。神楽のあごを軽く掴む手が痺れてるのだ。桂は自分を抑える自信がなかった。このまま口付けを交わせば……それだけで終われるだろうか。色んな考えが頭に過るが、欲しいものは欲しいのだ。桂は熱い神楽の顔へ近付くと、いつも見ているだけの唇を奪ったのだった。

 

 柔らかく瑞々しく、壊してしまうのはもったいない程の小さな唇。それを桂は数回ついばむと、口の中へ舌を滑り込ませた。少女らしい甘い唾液が絡みつく。柔らかな口腔内に桂はゆっくりと恐る恐る舌を差し入れる。すると、神楽の熱い舌が怯えるように収まっており、それを舌でつついて誘き寄せると、一気に貪り食うのだった。

 途端に神楽の体は強張り、呼吸が浅いものへと変わる。それを感じた桂は一旦、神楽の中から舌を抜くと今度はその唇に照準を合わせた。

 ゆっくりと優しく吸ってやろうと思うのだが、体が言うことを聞かない。そのせいで神楽を抱きかかえた桂はそのままソファーへ向かうと、神楽を寝かせて覆い被さった。

 そして、唇はゆっくりと神楽の口元から離れ、首筋へと向かう。

 そこでようやく神楽の声が聞こえた。

「……私の知ってるキスと違うネ」

「これから知っていけば問題ない」

 神楽はされるがままであった。抵抗はしない。ただ、初めての感覚に戸惑っているのか体が強張ったままだ。

 桂は羽織りを脱ぐと、神楽の首へキスをした。そして神楽のパジャマの裾から手を滑り込ませると、丸みの帯びた柔らかな胸へと辿り着いた。

「んッ! 待ってヨ」

 神楽は男の手に初めて胸を揉まれたらしく初々しい態度で驚いた。

「言っただろう。覚悟がない内は俺をからかうなと。銀時と違って俺は抑えが利かん」

 桂はパジャマの下の神楽の柔らかな胸を激しく揉むと、プクッとふくれ始めた乳首に指を押し付けた。

「や、んんッ! 向こうに銀ちゃんが居るアル!」

「ならば、やめるか?」

 桂はそう言って自分の下の神楽を見つめた。既に瞳は焦点が定まらず涙目だ。浅い呼吸は時々、甘い声を交えて桂の劣情を煽る。止める気などさらさらない。今も神楽に問いながら、桂の指は神楽の小さな乳首を弄り回している。

「あン、やっ……変な気分アル」

 苦しそうな表情でそう答えた神楽は、桂の指の動きに悶え耐えていた。桂も火のついた体はそう簡単に鎮まらないことを知っている。神楽が止めてなどいうはずがないと。

 それでも提示してやるのだ。お前には止めてと叫ぶ権利があると。

「俺はいつでもやめてやる。本気で抗うのならな」

 そう言って神楽のパジャマを大きくめくり上げると白い素肌が露わになる。しかし、すぐに桂は大きく被さると神楽の乳房に顔を埋めた。そして躊躇うことなく口に乳首を含めば――――神楽が大きく跳ねるのだった。

「あっ、それっ、ヤダっ……」

 神楽は必死に自分の口を手で押さえると、声を押し殺しながら快楽の波に飲まれていった。

 柔らかく、しかし張りのある乳房。それもまだ誰の手垢もついていない真っ白な身体だ。そう、誰も……銀時はまさか隣の部屋で同居してる女が幼馴染みとまぐわっているなどと思いもしていないだろう。桂はそんな事を考えた。

 ほんの少しの申し訳なさ。だが、それを吹き飛ばすだけの効果がこの悩ましげな神楽にはあるのだ。

「やめなくていいのか? まだ今なら俺も抑えが利く」

 そう言って桂は神楽のパジャマのズボンの中へと手を入れると、女性らしい肉付きの尻に手を回した。

 滑らかで絹のような肌。それと程よい弾力。この体を抱けるのなら今だけはこの国の行く末などどうでも良いことだった。ひどく男を惑わせる神楽に桂はすっかりと虜になっていた。

「きもちくて……もう分かんないアル」

 神楽はそう言うと桂に自ら口付けをした。それも舌をつかい、拙い動きだが必死に男を求めていた。

 桂もそれには体の火照りが一層強まり、尻を撫でていた手をついに神楽のパンツの中へと進入させた。

 割れ目にそっと指を沈めれば、生温かい体液が指に絡みつく。それと同時に神楽の舌も桂の舌に絡まり、鼻から抜けた声が響く。

「ンッ!」

 神楽の中へ指を一本挿し入れると、狭い膣内はキュウキュウと指を絞り出した。男を早く迎え入れたいと啼いているようだ。

 桂は神楽の唇から離れると、とろけて表情の崩れている神楽の顔を見下ろした。

「本当にやめなくていいのか……」

 神楽は今にも泣き出しそうな顔で頷いた。

「それ気持ちいアル、やめないで」

 その言葉に桂は理性など完全に吹き飛ばすと、神楽のズボンと下着を剥ぎ、股を大きく開かせたのだった。

「前にも言ったが、俺は本気だ。その意味はもう分かるな?」

 神楽は両手で顔を覆ったまま体を左右に揺らした。

「分かんないアル! もう何も分かんないネ!」

 桂は聞き分けのない子供のような神楽に構わず膣内へと指を挿入し、そして激しく手を動かした。

神楽の甘い声がだだ漏れで、桂の乱れた髪と神楽の白い肌が妙な絡まり方をしていた。

「リーダー、俺はもう待てぬぞ」

 そう言って桂は雑に着物を脱いで半裸になると、神楽の割れ目に硬くそそり立つ男性器を押し付けた。

「入れるアルカ? それ」

 神楽は浅い呼吸で苦しそうに尋ねた。

 それには桂も出来るだけ落ち着いて、目蓋を閉じて答えたのだった。

「ああ、入れたい」

 桂は神楽の割れ目にゆっくりと、だが図々しく性器を押し付けると神楽の中へズブズブと沈んでいくのが分かった。

「くっ、あッ、リーダー……」

 桂は久々の女の体に直ぐにでも果ててしまいそうだった。だが、まだ神楽の中には半分も入っていない。鍵をこじ開けるように桂は腰を押し進めると、神楽の腕が桂の手首を掴んだ。

「痛いアル!」

 神楽の痛みが桂の手首に食い込む爪に表れていた。

 初めての性交。それは分かっていたことだが、今更止められるものではなかった。

 こんな時、人妻ならすんなりとインサート出来るのだがと、ついそんなことを考えてしまった。

「力を脱いて深く呼吸をしろ」

「うっ、うう……痛いアル」

 だが、神楽の性器からは汁が次から次と溢れてくる、そのお陰で桂のものも遂に根元までズップリと沈んだのだった。

「ぜ、全部入ったぞ! よく我慢したなリーダー」

 桂はそう言って神楽に大きく被さると、優しく触れるだけの口付けをした。

「悪いが動くぞ」

 桂の体がゆっさゆっさと神楽の上でぎこちなく動く。どれくらいか振りに女を抱いたのだ。少々、勘が戻るまで時間がかかる。それでも快楽に従って好きにやってる内に体もスムーズに動くようになった。

乱れる黒髪が神楽の白い肌に墨絵を描くように揺れる。時折、桂の両手が神楽の乳房に伸びると強く揉みしだく。

 神楽も次第に苦痛の表情が苦悶の表情に変わると、だらしなく開いた口から甘い声を出す。

「あンッ、んんッ! ぎ、銀ちゃんが起きちゃうアル!」

 ギシギシとソファーが音を立て、それに合わせるように神楽が啼けば、万事屋には女の悩ましげな声が響く。そこにねちゃねちゃと淫靡で卑猥な音が混ざり合い、桂の欲情を絶やすことなく煽り続ける。

「ああ……リーダー……」

 桂も堪らず声を漏らすが、隣の部屋で銀時が寝ていることを思い出すと、意識の定まらないような表情でただひたすら腰を打ちつけた。

 全てを持っていかれるような、包み込まれるような感覚。このまま神楽の中で果ててしまいたい。桂は自分の下で必死に快感の波に飲み込まれないようにと耐える神楽に愛しさを感じた。

 その途端、身体中の血液が下腹部に集まり、性器は更に腫れ上がった。

「ああンッ、な、なんか出ちゃうネ」

神楽は体をくねらせて仰け反ると、桂との結合部分が今までよりも深く刺さった。

「俺も射精そうだっ」

「ああっ……」

 神楽はそう言ったのを最後に動かなくなると、いやビクンビクンと痙攣するような動きを見せると天井をただ見つめていた。その表情はまさに恍惚としたもので、尻の下には神楽の吹き出した体液が溜まっているようだった。

 桂も頭を真っ白にさせてブルッと震えると奥の方で精子を放出した。それを神楽の膣内は搾り取ろうとキュッと締まる。それには思わず顔を歪めると、一気に男性器を引き抜いた。

「リーダー……」

 そう言って神楽に被さり抱き締めれば、神楽も意識を取り戻したのか桂の背中にゆっくりと腕を回した。

「……もっとお前って淡白だと思ってたアル。こんな風に女抱くアルな」

 その言葉に桂は笑った。

「優男だ貴公子だと世間は言うが、俺は自分をそうは思わん。業火の如く強烈に熱い炎を燃やしているぞ」

 何事に対しても全力だ。手を抜くことはない。それは女を愛する時でもそうなのだ。

「リーダー、風呂に連れて行ってやろう」

 桂はまだグッタリとしている神楽の体を抱きかかえると、暗い室内を風呂場まで歩いた。

「お風呂くらい自分で入れるネ!」

「体くらい洗わせてくれ」

 そう言って二人はようやく灯りの下で互いの裸を見るのだったが、その照れ臭さと恥ずかしさに今更ながら桂は鼻血を噴き出すのだった。

 

2015/05/10