初めての体温(分岐:土方ルート)

if 最終回後

※銀神本収録の土方ルート


◇分岐

土方ルート

 

まだ薄暗い。銀時は起きていないだろう。そもそも声を掛ければ起きてくるだろうか。何も分からないまま居間へ入ると―――――椅子に座りこちらに背を向けている銀時が居た。

「もう起きてたアルカ?」

「……どこ行ってたよ」

銀時の声が妙に冷たく聞こえた。

「どこって散歩アル」

「窓から見えたんだけど……なんであの野郎と散歩してんの?」

責めるような目つきと対象的な力のない声。

「なんでって、途中で出会っただけアル」

「そうか。じゃあ、こっち来てパンツ下ろせよ」

神楽は嫌だと首を振った。

「なんで嫌がんの? なぁ、神楽ちゃん」

「歩いたから汗かいてるアル。それに……」

銀時は静かに椅子から立ち上がると神楽の肩を掴んだ。痛い。爪まで立てているようだ。

「神楽、机の上に座れ」

無理矢理に机の上に座らされると、剥ぎ取るようにショーツを足首へと下ろされた。嫌がり抵抗しているがその力は弱々しく、夜兎としての力など発揮することもなく大きく股を開かれて割れ目に指を這わされた。

「ピチャピチャ言ってんの聞こえる? これ、お前なんで?」

「汗アル」

「違うだろ? こんなに糸引いて……おい、これのどこが汗だって?」

神楽はあまりの恥ずかしさに目の前に掲げられている指から顔ごと逸らした。

「土方くんとやってないにしても……これはアウトだろ。土方くん見て発情した?」

「なっ、違う! そんなわけないアル」

「土方くん見て発情しましたご免なさい……って素直に言ったら許してやるよ」

言えない。口に出してそんな恥ずかしい言葉など言えるわけがない。ましてや今、玄関の向こうに本人が立っているのだ。神楽は首を振って無理だと意思表示した。

「じゃあ、なんでこんなことになってんの?」

愛液が溢れ止まらないのだ。自分でも理由は分からない。ただいつもは感じない胸の高鳴りや幸福感があって、それは少なくとも銀時のこうした言葉から発生しているものではない事はわかる。

「土方くんのが欲しいの?」

銀時の指がゆっくりと奥へ入り、それが引き抜かれる瞬間、無意識に膣が指を締め付けた。キュウキュウと締め付け、肉体が孕まされることを望んでいる。しかし今の神楽には銀時の嫁になり、家族を持つことなど到底想像できないことであった。こんなふうに乱暴に扱われ、言葉で責められ、愛など微塵も感じられないのだ。

「じゃあ、そんな神楽ちゃんに銀さんの精液注いでやるよ。嫌がりながら孕めよ、俺の子」

「いやッ、やめて、やめてってば!」

神楽は覆いかぶさって来る銀時を蹴りつけ、必死に抵抗した。このままでは銀時にこじ開けられ、受精させられてしまうかもしれないのだ。こんな精神状態で、こんな関係で結ばれる命を果たして受け入れられるだろうか。神楽はどうなっても良いと銀時を投げ飛ばし、靴も履かずに玄関から飛び出た。

「助けて」

神楽が玄関を開けるとそこにはまだ土方が立っており、神楽の顔と足首にまで下げられたショーツを目にして全てを察したようだった。

「いいか、走れ」

神楽は土方に手を取られると無我夢中で走った。もう戻ることは出来ない。全てを捨てる覚悟で逃げなければならない。思い出はあまりにも重すぎて途中、思わず足を止めてしまいそうだったがその度に土方が引っ張った。そうして朝の雑踏の中、神楽と土方は現実から逃げ切ると一軒の家に身を隠した。

「俺んちだ。風呂沸かしてやるから入れ」

神楽は何も言わず頷くと風呂に入り、汗や涙や抱えている思い出などあらゆるものを流すのだった。

 

風呂から上がれば土方が用意したと思われる真新しいシャツとが置かれていて、それに袖を通すとテレビの音声の聞こえる部屋へと足を運んだ。

「お風呂、ありがと……」

居間のソファーには体を横たえて眠っている土方の姿があり、さすがに疲れたのだろうと神楽はそっと部屋から出た。そして別の和室を見つけるとそこへ体を横たえた。これからどうなってしまうのだろう。不安で仕方がない。それでも眠気だけにはどうやっても抗えず、不思議と穏やかな眠りに就いた。初めて訪れた家だと言うのに妙にしっくりと来るのだ。どうしてだろう。神楽はそんな事を考えながらまぶたを閉じた。

 

次に目覚めたのは辺りが朱色に染まる夕暮れであった。随分と眠っていたらしい。そして気づく。いつのまにか布団の上へと移動している事に。部屋は変わっていないが、いつの間にか運ばれていた。もちろんこんな事をするのはたったひとりである。神楽はグッと背伸びをすると部屋から出て土方を捜した。

「……布団、ありがとう」

居間へ入れば土方がソファーに座り新聞を読んでいた。神楽の存在に気づいたらしく顔を上げると咥えている煙草を灰皿へと置いた。

「好きなだけ居ろ」

それだけを言って再び視線が新聞へと戻る。その言葉に胸が熱くなり、そして涙もろくなってしまったのか目頭まで熱かった。何かお礼をしなければ。そう思うのだが、自分に与えられるものは何もないと辛くなった。最近覚えたての家事仕事くらいなら少しは……だが、役立てるほどのものではなかった。

「なんでアルカ?」

責任を取れとは言ったが、その時は本気ではなかった。それなのに土方は約束の3分以上も面倒を見てくれるらしい。やはり目の当たりにしたからだろうか。襲われた自分の姿を。

「同情かもしれねェ。下心かもしれねェ。俺自身も理解は出来てねェ。悪いか?」

乱暴な言葉に思えたが、神楽には素直で正直で誠実さを感じた。

「悪くないアル。同情でも下心があっても別にいいヨ」

そう言って神楽は土方の背後に回ると腕を伸ばし、ソファー越しに抱きついた。

「ありがとう」

土方は何も言わなかった。それでも《気にするな》という言葉が背中から聞こえるような気がした。

この日、銀時が神楽に接触してくることもなく、土方も特になにと言うこともなかった。有り触れた日常が流れていて、神楽は出来るだけ何も考えないようにすると、静かに翌日を迎えるのだった。

 

 

土方が仕事へ行き、神楽が家仕事をし、その帰りを待つ。不思議とそんな生活が遠い昔から絶えず続いてきたかのような錯覚に陥る。土方の洗濯物を庭の物干し竿に干しながらそんな事を神楽は考えていた。

あの日から神楽と土方の間にあるルールが設けられた。ひとつ、一人で外出しないこと。ふたつ、土方の部屋へ入らないこと。みっつ、誰が来ても家へあげないこと。それ以外にルールはない。ここへ来て、そろそろ一ヶ月が経とうとしているが、正直まだ外出する気にはなれないし、土方の部屋にも興味はない。家へ来る客もいない――――――そう思っていると誰かが玄関の戸の前で土方の名前を呼んでいる。神楽は急いで家に上がると耳をすまし、その声を聞いた。

「おーい、土方さん。いるんだろ? さっき詰め所で帰ったって聞いた……ってテメーも居留守かよ!」

どうやらマフィアが警察官のお宅訪問に来たようだ。

「あいつ、何考えてんの」

神楽は呆れてものも言えないと言った表情で柱の影から玄関の戸に浮かび上がるシルエットを見ていた。すると突然、その戸が爆音と共に木っ端微塵に吹っ飛んだ。

「邪魔するぜ」

沖田はどうやらバズーカ砲を打ち込んだらしく、爆風で神楽は廊下の壁へと背中を叩きつけられてしまった。

「クソサドォォオ!」

神楽の頭に完全に血が上り、土足で室内へと上がり込んだ沖田目掛けて飛び蹴りを入れた。不意打ちに成功したらしく、沖田をとっちめた神楽は伸び切っているその体を引きずって家の柱に縛り付けるのだった。

 

「目、覚めた?」

薄っすらと目を開けた沖田にバケツの水をぶっかけた神楽は薄笑いを浮かべると、沖田の頭にバズーカ砲の銃口を向けた。

「は? なんでてめーが……」

「お前こそ、土足って……土足ってどう言うことアルカ!」

「いや、怒る所そっちかよ!」

どうやら沖田は土方が既に家に帰ったと言う情報を掴み、訪問したようなのだ。だが、あいにく土方はまだ帰路についていない。

「それで、なんでてめーがここに居るんだ?」

「お前に関係ないダロ」

「確かに関係ねーが……」

沖田がジロリと神楽の体を見た。神楽もその視線に気づくと妙な照れくささを感じ、沖田に背中を向けた。

「もうヤッたのか?」

涼しい顔でそう言った沖田に神楽は蹴りを入れてやろうと思ったが、そうやって触れる事すらどこかおぞましく感じた。

「なわけないダロ……」

「へぇ、そりゃテメーも酷い女でさァ」

耳がピクリと動いた。酷い、とは一体どういう意味だろうか。沖田を見下ろす目に動揺が現れる。それを逃す沖田ではなく、解放してくれれば理由を教えると言ってきたのだ。以前までの沖田ならここで解放すれば、逃げるか掴みかかるかのどちらかだったのだろうが、今の沖田はもうそんな遊戯で満足する男ではなくなっていた。無駄な戦闘《あそび》はしないのだ。それを知っている神楽は沖田を解放すると、自分がどうして酷い女なのか理由を教えてもらうことにした。

「酷いことなんてしてないけど」

解放された沖田は手首を回し調子を確認しながら神楽に言った。

「ついて来い。来れば分かる」

そう言って廊下を歩いて行った先にあったのは……土方が書斎として使っている部屋だった。入ってはいけないと言われていた部屋。

「ここは駄目だって言われてるアル」

「でも、知りてーんだろ?」

沖田は神楽を振り返り見るとそのまま部屋と廊下を仕切る襖に手を掛けた。スーっと開かれる薄暗い部屋。裏庭に面していて天気の良い今日ですら、どこか冷えて陰鬱な雰囲気が漂う。

「ほら、見つけた」

沖田はさほど広くない部屋を見回し、くずかごを手に取った。そしてその中から生臭い匂いを放つちり紙を神楽に見せつけた。

「……お前、最低アルナ」

そのちり紙に包まれているものが何かは分かる。銀時と何度も交わったのだから。神楽は赤い顔で沖田を遠ざけるも、沖田は神楽の顔にくずかごごと押し付けた。

「てめーが呑気にままごとしてる間、女買うこともなく外で働いて、それでこのザマだ。なんか思うことねーのかよ」

その言葉に神楽の胸がズキンと痛んだ。だが、面倒を見ると言ったのは土方だ。それに神楽だって求められれば差し出すつもりでいた。この身も心も。それなのに土方は少しも求めて来なかった。だからてっきり現状に満足し、プラトニックな関係を続けていきたいものだと思っていた。いつかの万事屋で銀時と神楽がそうだったように。だが時は刻まれ、神楽は女になった。そしてああ言った騒動の中、共に生活を始めたのだから土方が神楽に求めてくる事がないことなど……初めから分かっていた。それに甘え、見てみぬふりして今日まで来たのだ。本当は土方に我慢を強いていたのかもしれないのに。

「エロい服で酌したことはなかったか? 風呂上がりに寄りかかって眠ったことは? 意味もなく体に触れたりしなかったか? その度にテメーは酷い女になっていったんだよ」

顔がカァと熱くなる。昨晩も土方の隣でいつの間にか眠ってしまい、布団へと運んでもらった。日頃の行いがフラッシュバックのように蘇って来る。だが、いつだって土方は面倒そうな、でも仕方ないと神楽を甘やかして来た。見返りもなく何故なのか。責任感から? 警察だから? それともまだ子供だと思われているから? だが、沖田が神楽の心を見透かしたように神楽に詰め寄りながら言い放った。

「テメーは自分じゃガキだと思ってんだろうが……そんな匂いさせて、何がガキだ」

ゆっくりと神楽の首元で深呼吸する沖田。それがどれくらいかぶりに体の性を目覚めさせる。ゾクリと痺れるような目眩。一度男の味を知ってしまった若い肌は、簡単に思い出せるのだ。快楽の悦びを。

「まっ、ちょっと、こっち来るな……」

「なんでィ。赤い顔して。発情期かよ。てめーも本当は土方さんを挑発してたって? それで手を出さないなんて、あのひと……負け犬以下の馬鹿犬で……」

「出て行け」

そこで沖田の体と神楽の体の間に小刀が投げ込まれ、壁に刺さった。入り口を見れば土方が立っており、その目は獲物を食い殺すような恐ろしい殺気に満ちていた。

「今日はしかたねーから帰るが、また来る」

沖田はそう言って土方の肩を叩いて出て行ったが、空気の流れが変わることはなかった。

「お前も出ろ」

「……悪かったアル。勝手に入って」

「いいから出ろ!」

怒鳴る土方の顔はこちらへは向かず、神楽は土方の余裕のなさを見た。怒っている。焦っている。恥じている。様々な感情が読み取れる。神楽は部屋から出るのを躊躇うとくずかごの前で佇んでいる土方へと声を掛けた。

「私……」

「出ろって言っただろ。聞こえなかったか」

そう言って背を向けたままキツイ言葉だけが向けられる。それでも神楽は言わなければと思っていた。我慢させていたなら申し訳なかったと。それとお前が望むのなら――――――

「追い出さないで。何でもするから。どんな事でもするから……嫌いにならないで……」

土方の背中にすがり、自分でもなんて惨めだろうと思うセリフを吐いた。だけどこれも神楽なりの優しさだ。土方が求めているのなら、それを告白しやすい状況を作ってみせた。これに乗っかるかどうかは土方の性欲と理性が決めること。だが、神楽は自分にもそういう気がある事をそれなりに伝えた。

「そもそもテメーを好きだ、嫌いだの感情で見たことなんてねェ……」

そう言って土方はすがる神楽の手を振りほどき、正面をこちらへと向けた。見下ろす目は動揺が隠しきれず、脈も早いのか呼吸がどこか苦しそうだ。緊張しているのだろうか。女慣れしていると思っていたが、案外そうではないらしい。手を出さなかったのは、もしかすると出せなかっただけなのかもしれない。神楽はそれに気づくと自分から懐へと踏み込んだ。

「じゃあ、どんな目で見てるか教えてヨ。もう隠さなくていいから」

先程まで涼しさすら感じていた室内の気温が一気に上昇する。土方の喉が動き、生唾を飲む音が聞こえると掠れた声が聞こえた。

「風呂……入ってきて良いか?」

土方の視線はまっすぐ遠くを見ている。目がギョロギョロと泳ぎ、額に脂汗が滲んで見えた。神楽はそんな土方の様子に一瞬目を大きく見開くも小さく頷いた。

「う、うん。じゃあ、部屋で待ってる」

そうして二人の体は離れると初めての時間が訪れようとしていた。

 

 

風呂から上がる音が聞こえたのが10分も前だった。神楽は何をしているのだろうと遅い土方に少々苛立っていた。もしかすると奥手な所があるせいで、間際になって尻込みしているのではないか。神楽は仕方がないと腰を上げると土方の書斎に出向き、襖を叩いた。

「何してるアルカ」

するとスグに襖が開き、だが僅かに開いた襖の隙間から土方は顔だけを出した。

「部屋、何かあったアルカ?」

なんとなく見えるのは物が散乱し、タンスがひっくり返ったかのような室内の状況であった。もしかして何かを探していたのか?

「時間かかるアルカ?」

「…………ちょっと煙草を買いにコンビニに」

「嘘アル! 居間にいっぱいあったデショ!」

この期に及んで逃げる気なのか。神楽としては覚悟を決めて誘ったのだから、ここで逃げられるなど許しがたかった。それに風呂に入る前まで、土方もその気に満ちあふれていた。一体、何がどうしたと言うのか。神楽は無理やり襖を開けて書斎の中へと足を踏み入れた。

「探しものしてたアルカ?」

「まぁ、いや……ああ、そうだ」

観念したのか土方は目を閉じて頷くと、悪戯が見つかった子供のように萎縮していた。

「何を探してたネ? ちゃんと言ってヨ。待ってたんだから」

ハァとため息をついた土方は机の上に置かれた煙草へ手を伸ばすと一本口へと咥えた。

「……その、あれだ。避妊具」

「ゴムのこと?」

確かにないとなれば問題だろう。それならコンビニへ向かう事にも合点がいった。

「じゃあ今から買いに行くアルカ?」

しかし土方は目を閉じたまま首を左右に振る。買いに行けない理由があるのか。土方は適当に床に散らばる物をどけるとどっかりと座った。

「何か行けない理由があるネ? 代わりに私が……」

「行くな」

先程まで閉じられていた目が開き、鋭い眼光で睨みつけられた。神楽はその目から逃れる事が出来ず動きを止めると腕を引っ張られ座らされた。

「テメーの腕っぷしは知ってる。もし野郎に外で出会ったとしても、軽く投げ飛ばせるだろう。だが、心ン中はどうだ? 拒否できるか? ここにまた帰ってくるか?」

土方の言葉から、神楽にここから出ていって欲しくない事が窺い知れた。好きや嫌いの感情などないと言ったが、それなら何故そう思うのか。神楽は知りたくなった。

「お前は、私に帰ってきて欲しいの?」

「……もうテメェのいない家に帰る気なんざ起こらねぇ」

「それって家事をする必要がないから?」

土方は灰皿に煙草の灰を落とすと軽く口元だけで笑った。

「家仕事なんかどうでも良い。テメェの存在が……」

「存在が?」

赤い顔で押し黙った土方に神楽はハァと息をついた。それよりも土方はコンビニに行けないと言ったが、何か理由があるのだろうか。

「コンビニ、なんで行けないアルカ? まさか買うのが恥ずかしいわけじゃないデショ?」

さすがにこの年齡にもなってそれが理由であれば大問題であるが、そうではなかった。が、安心は出来なかった。

「悪いが、外に出られねぇ」

「なんでアルカ?」

「分からねェか?」

神楽は首を左右に振った。さっきまで外で仕事していた人間がどうして外に出られないと言うのか。全く、何一つ思い当たらなかった。すると土方は遂に煙草を消して、文机に肘をつき頭を項垂れた。そしてもう片方の手で神楽の腕を取り引っ張ったのだ。

「え、なにアルカ?」

「これで分かんだろ!」

胡座をかく土方の股間へと誘われた神楽の手は、浴衣越しにバッキバキに膨張している肉棒を触らされたのだ。

いつからこの状態なのか。神楽はこちらを見る事が出来ないでいる土方に尋ねた。

「収まらんアルカ?」

「……ああ」

どうするのが良いのか。いくら銀時と経験があっても、それは銀時とのこと。土方が何を求めているのか、どうして欲しいのかは土方にしか分からない。神楽はゆっくりと浴衣の中へ手を忍ばせ、下着越しに肉棒を擦った。

「手……で、とりあえずするアルカ?」

「おい、よせ……益々、収まらなくなるだろ」

「それじゃあ、ゴム……諦めるネ?」

神楽は銀時とずっとコンドーム越しのセックスしかした事がなかった。それは土方も知っている事実だ。この言葉が何を意味するのか、土方も気づいたのか、その顔がこちらへと向いた。

「自分で何言ってるか、理解してんのか?」

神楽だって分かっている。この男とゴムなしのセックスをする意味や可能性。この男の子を孕むかもしれないと言うことくらい。だけど、もう十分であるように思えた。互いに口にしなかっただけで、今二人が共に感じている想いは一緒である。きっとそうなのだから。

「一緒にご飯食べて、テレビ観て、笑って……楽しかったデショ?」

そう言って神楽は土方の下着をずらすと飛び出した熱の塊を直接触った。

「私は楽しかったヨ。ずっと続けば良いのにって思ったアル」

「……俺もだ」

乱れていく土方の呼吸。神楽は溢れ出来る先走り汁を利用し、更に手の中で肉棒を滑らせた。ニチャニチャと卑猥な音が立ち、土方も神楽も赤い顔で黙り込んだ。だが、すぐに静寂は過ぎ去り、土方が神楽の胸に手を伸ばしたのだ。

「……い、いいか?」

「うん」

知らない動き。銀時とは違う男の愛撫。緊張してる自分がいた。すると突然体が抱き寄せられ、胡座をかいた膝の上に座らされると唇を奪われた。いつも嗅いでる煙草の匂い。それが近い場所にあって、そしてすぐに唇が割られると熱い舌が差し込まれた。

「ンっ……」

ぬるりといやらしい動きで舌が絡まり思わず声が漏れた。すると土方は勢いあまって神楽を畳の上に押し倒し、神楽のチャイナドレスのホックを外した。

剥かれる白い肌。丸い形のよい乳房は土方の武骨な手により形を変える。股を膝で割られ、いよいよ逃げ場はない。このまま絡まってもつれていくだけだ。

指で乳首を擦られ、舌先も同じように焦らされ、神楽は久々に潤っていくような感覚に包まれた。喉が鳴る。早く欲しい。だが土方の興味はまだそこへたどり着かない。唇から首筋、胸元と下りていき桜色の乳頭を舌で転がしている。静かに吸われ、舐められ、神楽はただそれだけの事なのに絶頂を迎えそうな程の快感に包まれたいた。

「はァ、ぁ、ん!」

神楽は土方の頭を抱え込むとビクンと体を跳ねさせた。痺れるのだ。こんなことくらいでイカされてしまい情けないような、自分があまりにも淫らなような……土方を解放した神楽は顔を横に向けると潤む瞳と唇でじっとしていた。

「かまわねェ……もっと乱れろ……」

そう言った土方は神楽の股を開き、ショーツを脱がせてしまうと白い生脚に口づけをした。股を開かれたまま愛おしそうに自分の足を抱える土方に神楽は泣きそうな顔で言った。

「やめ、てヨ……恥ずかしい……」

「こんなに濡らしてるからか?」

そう言って土方は神楽の割れ目に触れると指でなぞった。クリトリスが弾かれ、クチュっと音を立てて僅かに指が沈む。

「ぁ、ン、いやぁ……きもちいぃ……」

神楽はついに両手で顔を覆うと下腹部への刺激に正直になった。土方の指がまた一本神楽の中へと差し込まれる。それが震えるように動けば神楽の体温は上昇し、いやらしい女の匂いを放つ。

「ずっと、こうして……テメェを……啼かせたかった……」

土方の指が更に奥へと滑り、神楽の中を刺激した。

「そこぉ、ダメっ、ぁッ、あ、ぁ」

神楽は顔を覆っていた手を離すと土方の太い腕を掴んで首を振った。目と目が合う。土方の顔にも余裕はなく、神楽の惚けきった表情は限界を表していた。

「イキそうなんだな」

「ぁ、いやぁ、いッ…………ぁ、ぁッ」

嬌声が部屋に響き、神楽の膣も軽い痙攣を起こし始めたが土方は神楽の中から指を抜いてしまった。思わず声が漏れた。

「なんで?」

しかし、土方は無言で着ているものを脱ぎ捨てると神楽に被さった。

「ンな顔をするな。こっちも十分焦らされてんだ」

そう言って熱く硬い肉棒を神楽の割れ目へとあてがい――――一気に貫いた。尋常ではないほどの熱。そして肉の生々しい感触。ゴム越しじゃ感じることのできない粘膜と粘膜の交わり。神楽は入れられたばかりだと言うのに体を弓なりにのけぞらせ、シーツを必死に掴んだ。

「ぁ、い、イちゃった……あひ、ぁ……」

土方も顔を歪ませ、まだ挿入したばかりだと言うのに額から汗を流していた。

「すまねェが、こっちももう手加減……してやれねェから」

土方は神楽の手と自分の手を指を絡めて繋げると奥の方を刺激するように腰を押し出した。

「きもちぃ、それ、すごく気持ちいいアル」

土方は何も言わず神楽を堪能するように腰を打ち付けた。神楽の膣もその度に締り、肉棒を逃さないようにと締め上げる。そこで扱かれるもんだから、土方も情けなく声をあげた。

「くっ、はぁ……!」

「イキそうアルカ? いいよ……我慢しなくても」

すると土方は神楽へと覆い被さり唇を塞ぎながら肉棒を擦った。しつこく吸われる神楽の唇。フゥフゥと荒い呼吸だけが神楽の耳に届く。激しく求められているのに少しも乱暴じゃなく、神楽は喜びを感じていた。ずっと我慢させていたのだ。中で肉棒が膨らむのが分かる。それで突かれている内に再び神楽の頭が真っ白く飛ばされる。

「ン、ぐ、んふ」

唇を塞がれた神楽がくぐもった声で喘ぐ。それに気づいた土方は神楽の唇から離れると、腰を掴んで奥の方で体を震わせた。

「くッ、う……!」

「ぁ……出てる、熱い……ぁ、あ」

土方は神楽の中から抜け出ると隣に倒れた。薄暗い部屋には茜色の光が差し込み、すっかりと日が暮れていた。天井に揺らめく外からの光。それと耳に入る土方の呼吸と神楽自身の呼吸。神楽は体を横たえ隣を見た。すると土方もこちらを見ていて目があった。

「何もかも……責任とる……嫁に来い」

ムードも順序もぐちゃぐちゃで、まだ好きだとも言われてないがそれでも神楽にはどんな言葉よりも信頼でき、安心できた。

「まだ実感無いし、問題もあるけど、それでも構わないアルカ?」

土方は神楽を引き寄せると頭を撫でた。

「テメェを連れ込んだ日から、ンなもん承知してるつう事がわかんねーのか」

「なんで? やっぱり同情ネ? それとも下心?」

土方は体を起こし、煙草に手を伸ばすと神楽に背を向けたまま言った。

「惚れてるからに決まってんだろ」

以外に素朴で、垢抜けてない所があるこの男に神楽はクスクスと笑った。どれくらいぶりにこうして笑っただろうか。未来は思っている程、きっとそう暗いものでもないのかもしれない。玄関の戸のことなどすっかりと忘れている二人はもう少しだけ肌を重ねるのだった。

 

2018/07/21