2015 Request
原作設定の銀神、R18
黒い薔薇のイメージで銀→→→→←神
神楽を束縛する銀さん

モノクロモノポリー/銀神(リクエスト)


 その依頼者が来たのは一ヶ月前のことだ。

 男前な顔に柔らかい表情。華奢な体。そして左手にはステッキを持ち、右足をズルズルと引きずっていた。年齢は10代後半くらいだろうか。ある日、その男が万事屋の階段の下で途方に暮れていた時だった。

「お前、階段上がれないネ?」

 そう言って声を掛けたのは万事屋の神楽であった。神楽は男が万事屋に用があること、そして足が不自由なことを見抜くと、すぐにその男に手を貸してやった。

「大丈夫ネ! 私、こう見えても力持ちアル」

 神楽がそう言って男に微笑むと男も柔らかい笑みを返した。それを見た神楽は男に肩を貸す…………のではなく、体ごと抱えると階段を軽々と上がって行った。

「銀ちゃん、お客さんアル」

 そう言って神楽は男を抱えたまま居間へ向かうと、ソファーに座っていた新八と銀時が大きく驚いたのだ。

「いや、お前……どんな歓迎の仕方だよそれ」

「そうだよ、神楽ちゃん! 寧ろ、失礼だろ!」

 何も知らない二人がそう言うと神楽は男を下ろして眉尻を釣り上げた。

「お前らこそ何にも分かってないアル! いいから新八、茶出せよゴルァ!」

 男は威勢のいい神楽に苦笑いを浮かべるも、どこかその瞳は温かいものであった。


 話を聞くと、その男の依頼とは、引っ越しの手伝いというものだった。出来るだけ安価で請け負ってくれる業者を探していたようなのだ。万事屋の社長である銀時は一つ返事で仕事を請け負うと、後日三人で男の引越しを手伝うことになった――――――

 話はそこで終わりなのだ。通常であれば。しかし、今回に限ってはそうではなかった。あの後、どういうことなのか神楽が週に一回程あの依頼者宅へ通っていたのである。それを銀時は風のうわさで知るのだった。

「神楽ちゃん、体の不自由な男の世話してやってるんだとな。偉い子だよ」

 その言葉に対して銀時も当初は面倒見がいいこったァと、特に何の感想も抱いてなかった。それは、神楽が男へ同情しているだけだと思っていたからだ。人に親切であることは、一向に構わない。だが、もしそれが恋心故の優しさであれば………………

 銀時の胸に一本の棘が刺さる。胸に咲いた黒薔薇の棘。

 その痛みに顔を歪めるも、別にどうってことないと気にしない振りをした。

 神楽に限ってそれはねーよ……

 銀時は否定した。それは神楽がまだ幼い精神である、という事も理由なのだが……

 認めたくないのだ。いつの頃からか自分の中で育ってしまった神楽への愛しさ。それが《神楽の胸に芽生えた恋心》を否定する。神楽が照らし出す先、それが自分以外の人間であれば許せないと思うほどに、銀時は神楽を手放したくはなかった。

 ただ可愛い。大切な玩具のような感覚だ。だからこそ他人に取られるなど胸を掻きむしる程に悔しい。だが、それを神楽は知らない。何も知らずに銀時に引っ付いて甘えてくるのだ。そんな態度なのだから、神楽も神楽で銀時が大好きであると疑わなかった…………


 しかしある日、神楽が慌ただしく帰って来たかと思えば、真っ赤な顔で玄関の戸を閉めたのだ。

「あ? どうした?」

 たまたまトイレから出てきた銀時が神楽に尋ねるも、神楽は何でもないと首を振り物置へと閉じこもった。

 その時またしても銀時の胸に棘が刺さった。

 チクリと痛む。しかし、問題ない。神楽に何かあったことは明白だが、それが何かなど知らなければ良いだけなのだ。

 そう思っていても、銀時の頭に浮かぶのは例の男で、神楽に身の回りの世話をさせているのだろうかと奥歯を強く噛み締めた。

 一見、人の良さそうに見える男であったが男である以上、下心がないとは言い切れない。ましてや口は悪くとも神楽は美少女だ。二人きりで世話なんてされていたら、悪い気が起こらないとも言えない。やはり男と神楽との間に何かあったのだろうか。

 どっちにしても銀時は、そろそろもう良いだろうと、男の家へ行くなと言うつもりであった。何かが起こってからでは遅いのだ。銀時はそんな事を考えると、閉じている物置の戸をノックした。

「おい、神楽」

「な、なにアルカ?」

 焦っているような神楽の声。何かを隠しているのは嫌でも分かる。

 何があったんだよ…………

 銀時の胸に棘が刺さる。血もそろそろ流れだす。光を飲み込む漆黒のような腐った血だ。

 それが徐々に体中に広がっていく。まるで毒のように。

「入るぞ」

「待ってヨ! 着替え中アル!」

 そこで銀時の息が冷えた。外から帰ってきた神楽を思い出すも、特に泥で汚れていたわけではない。それなのに何故着替えているのか。

 銀時の顔が歪み、眉間にシワが寄った。

「開けられたくねーから嘘ついてんだろ?」

「違うネ、本当に着替えてるアル」

 声の調子でそれが嘘かどうかくらい銀時にも分かる。今のは…………嘘ではないだろう。ならば、何故神楽は着替えなければならないのか。考えられることは一つである。

 アイツ……世話って風呂とかの面倒も見てんのか?

 ザクザクと胸に棘が刺さる。もうそろそろ痛みが麻痺し始めた。お陰でその顔には暗い影が落ち、もう簡単には笑えそうになかった。

 銀時は頭を軽く掻くと、戸の向こうにいる神楽に尋ねた。

「服、濡れたのか? 誰かを風呂に入れて…………」

 すると勢い良く戸が開かれ、瞳を揺らす神楽が現れた。

「ち、違うアル。ただ汗掻いたから……それよりも銀ちゃん何の話してるアルカ?」

 銀時は目を細めて神楽を見下ろした。

「正直に話せよ」

 しかし、神楽は目を逸らさずに言った。

「本当のことアル」

 それを信じてあげよう。心の済ではそう考えていた。疑って気分が悪くなるよりも、何もなかったと見てみぬ振りする方がずっとラクだからだ。

「…………分かった。お前がそう言うなら信じるわ」

「う、うん」

 そう言って神楽が銀時の横を通り過ぎた時だった。漂う香りの中に受け入れ難い異臭を見つけた。白い絵の具に混ざる濁りだ。

「待て、神楽」

 そう言って銀時が神楽の二の腕を掴むと、神楽の表情が一気に強張った。その表情は怯えているような、恐ろしいものでも見るような顔だ。

 そんなものに銀時の黒く染まった胸は笑みを浮かべる。

「なァ、何して来たよ? 正直に話せば、お前のパピーには黙っててやるから」

 銀時はそう言って神楽を無理やり風呂場に連れて行くと、頭からシャワーを浴びせた。それには神楽も怒り銀時を睨みつける。

「プハッ、なにすんダヨ! やめろヨ!」

 だが、銀時は本気である。汚れてしまったのなら洗ってやると、俺のこの手で綺麗にしてやると、冗談ではなくそう思っていた。

「服脱げよ」

「い、いやァアア!」

 神楽は叫び、服を脱がされまいと必死に抵抗した。しかし、それでも銀時はやめない。目に涙を浮かべる神楽の表情に自然と笑みが溢れた。

「なに嫌がってんだよ。さっきまで他所では裸だったんだろ?」

 神楽は何も言わずにしゃがみ込むと体を丸めて震えていた。恐怖を感じているのだろう。銀時にこんなことをされるなど全く考えていなかった、そう思っているようだ。

「……でも、神楽ちゃんが悪いんじゃねぇの? 見ず知らずの男の家に上がって、その体をベタベタ触らせて」

 すると神楽の強い眼差しが銀時を下から射抜いた。

「アイツはそんなことしないアル!」

 銀時の胸に深く深く棘が刺さった。強烈な一撃だ。この自分よりもあの男を神楽が庇ったのだ。その衝撃はヒビの入っていた銀時の精神を打ち砕くと、粉々に散ってしまった。

 人間というものはこんなにも脆いものだろうか。そんな事を考えると思わず笑いがこみ上げてきた。ずっと護るべき存在だと思っていた女がいつの間にかその手を離れ、別の男の腕の中で楽しそうに笑っているのだ。護りきれなかったと自尊心は傷つき、そして奪われた事に対する嫉妬。あんなに可愛いと思っていた玩具もどこか憎たらしく思えるのだ。

「神楽、何があったかどうしても話たくないのか?」

 濡れている床にぺたんと座った神楽は、力の抜けたような顔を銀時から逸らした。

「言ったら、銀ちゃんこんなことやめてくれるアルカ?」

「ああ、やめてやるよ。こんなこと」

 銀時は頷くと愛しいものでも見るように目を細めた。

 その顔に神楽も安心したのかゆっくりと口を開いた。

「ちょ、ちょっと、本当にちょっとだけ……ギュッってハグしただけアル、でもあれは事故ネ」

 その言葉を聞いて銀時は目を閉じた。

 疑問が浮かぶ。それだけで何故、服を着替えるのか。抱きしめたくらいで大量の汗を掻いたのだろうか。もっと別の……他の猥褻な遊びをしたのではないか。

 銀時は神楽を立たせると、僅かにかがみ目線の高さを合わせた。

「嘘つくんじゃねーよ……」

 そういって銀時は神楽の唇を奪ったのだった。抵抗する神楽。だが、舌を差し込んで神楽のものに絡めればすぐに抵抗は小さくなった。

 柔らかい神楽の唇。甘い舌。しかし、どれももう自分のものではない事に銀時は悲しくなった。

 もう手に入らないのなら壊してやろう。そう思う一方で、こんなことをするつもりではなかったと罪の意識を抱いていた。しかし、もう時間は戻らない。涙を零す神楽に構わず銀時は濡れている中華服の中に手を滑り込ませた。

 小さな胸の膨らみ。それを乱暴に揉めば神楽が暴れる。

「んッ! ンぐッ! んん!」

 銀時は気にせずに神楽の乳首を擦り上げた。するとそれはすぐに反応を見せて、すっかりと体に快楽を仕込まれていることに気が付いた。

 一体、いつからだ…………?

 いつの間にか女になっていた神楽に、銀時の胸は引き裂かれるように痛んだ。出来ることなら知らずに過ごしていたかった。見て見ぬふりして、今まで通りに…………

 しかし、己の中の膨れ上がる嫉妬や憎悪を見過ごすことは出来なかったのだ。こんなにも執着することなどあっただろうか。神楽だけだ。神楽だからこんなにも自分は狂ってしまうのだ。

 銀時の手は胸から離れ、神楽の下腹部へ移動するとズボンの中へと入った。そして、下着の隙間から指を差し込めば…………

 銀時は神楽の唇から離れると言ってやった。

「銀さんが好きでこんな濡らしてくれてんの?」

 神楽は赤く染まる頬でぐったりと銀時に体を預けていた。抵抗をやめた所を見れば、諦めたのか、それとも受け入れたのか……と言ったところだ。言い返すこともない。ただ浅い呼吸で銀時に掴まっている。まるで『銀ちゃんから離れたくない』そう言っているかのように。

 それが錯覚であっても、もう何でもいいと銀時は神楽の体の奥へと指を潜り込ませたのだった。


『いや、いやアル!』

『やめッ……て……銀ちゃん……』

『ごめんなさい、ごめん……ごめんなさい……』


 風呂場に響く神楽の声。それが銀時の定まらない意識に入ってくる。しかし、今更あとには引けない。いつの間にか全裸にさせた神楽に銀時は舌を這わせると、マーキングする獣になった。

 俺以外を考えられなようにさせてやる。

 一方的で独善的な愛情だ。正解など分からない銀時は、これが正しいのだと疑うことはしなかった。疑えば絶望が押し寄せる。だから今はただ何も考えず神楽にすがって手垢をつけた。

「神楽、壁に手ついて、こっちに尻向けろ」

 その言葉に泣きじゃくる神楽は、歯向かうことなく黙って言うとおりにした。

「可哀相にな、ほんと」

 その同情心の欠片もない言葉は銀時のせめてもの優しさであった。嫌がっていることは分かっているのだが、他の野郎に許して自分には許さないといった態度の神楽に腹立つ気持ちの方が上回った。だから、今からもっと乱暴なことをしてやる。その前に嘘でも優しさだけは見せてやりたかったのだ。それが不器用な男のやり方であった。

 銀時は神楽の尻の肉を手で広げると、テカテカと濡れて光っている神楽の割れ目へと己の欲の塊を押し当てた。ただそれだけなのに、神楽の体は飲み込もうとヒクついていた。

「あれ? 神楽ちゃんも本当は嬉しいの? 嫌よ嫌よも好きのうちってか?」

 銀時はそんなことを言うと、絶対に犯してはならない罪に手を染めた。


 真っ黒である。夜の闇より深く、光を飲み込む苦々しい黒。

 白銀色の銀時の髪も雪のような神楽の肌も全てを黒く染め上げる。

 苦しさはひとしお。そのせいか聞こえる声も息の詰まるものだ。

 それでも自分のもので善がる神楽に嫌な気など起こらない。

「どっちの方が……良いって……?」

「ぎん、ちゃん、銀ちゃんの……」

 そんな言葉だけでも十分に銀時の自尊心は修復されていく。

 神楽は誰にも渡さない。自分だけが愛でていれば良いのだ。もう自分以外に触れさせない、そんな独占欲を剥き出しにした銀時は神楽の中へたっぷりとエゴを注ぎ込めば――――――

 神楽はその場に崩れ落ちた。

「神楽」

 銀時がしゃがみ込み声を掛けると、神楽の白い顔がゆっくりとこちらを向く。目は真っ赤で光はない。

「こんなことしなくても……わたしは、銀ちゃんのものアル……死ぬまでずっと……」

 その言葉に銀時は神楽を深く傷つけたことを知った。

 しかし、それなのに思うのだ。傷つけてでも欲しいものであったのだと。それは神楽が玩具だからではない。離れたくないほどに大切で愛しい女だからだ。誰よりも側においておきたくて、自分だけを見ていて欲しかった。愛している気持ちが歪み、銀時を衝動的に動かしたのだ。まるで鬼のように…………

 自分で壊しておきながら胸が痛んだ。だが、それは棘のせいではない。胸を引き裂かんとする傷口に唇が落とされたせいであった。

 神楽の優しい口付け。こんな目に遭ったと言うのに神楽は銀時の頭を抱え、癖のある髪に唇を引っ付けた。

「乱暴なのは嫌いネ、でも我慢出来たのは銀ちゃんだから……忘れるナヨ、私が銀ちゃん好きってこと」

 銀時は神楽の華奢な体を目一杯抱きしめると、黙って目を閉じた。

 馬鹿だ。そう己を罵るも、散った花は元に戻らない。銀時の胸に咲いた黒薔薇は、花弁を一枚も残さず綺麗に散っていた。だが、そう悪い事ばかりでもない。嫉妬や憎悪を道連れにして散っていったのだ。

「嘘臭えけど、今なら信じるわ」

 銀時は見えている神楽の胸にキスをすると、神楽の瞳に光が戻った。

 不器用で愛し方を知らない大人の男と、それを全身で受け止める少女。愛などどこにもないように見えるのだが、それでも互いに重なる唇から『愛しい』と漏れ聞こえてくるようだ。

 二人はそこからしばらく風呂場で抱き合うと、冷えた体を温めに寝室へ向かうのだった。


2015/07/16