ROUND/沖神+銀神

 

 爽やかな風に頬を撫でられる穏やかな昼下がり。公園で走り回っている定春と戯れる神楽は、眩しい笑顔を周囲に振りまいていた。一見して天使にすら見える少女。誰もが微笑ましく思うことだろう。そんな穏やかな空間を一瞬にして戦場へと変えるように砂埃が舞い上がった。

「退け! 退け! 退け!」

 どうやら真選組に追われて盗っ人が公園に逃げ込んで来たようなのだ。神楽はそれに気が付くとこちらへ向かってくる男を見計らって足をヒョイと横に出した。勢いよく前のめりになり躓(つまづ)く男。そこまでなら神楽の働きは素晴らしいもので賞賛に値するのだが、その後がよろしくなかった。

 盗っ人を追っている真選組の隊士があの沖田総悟であると気付いた神楽は、天使のようであった顔に悪魔が宿る。神楽は盗っ人にしてやったように足を出すと――――――沖田が勢いよく躓いた。

「てめーッ! なにすんでィ!」

 しかし、沖田は即座に体勢を直すと神楽に掴みかかった。

「お前! ドロボー放っておいて良いのカヨ!」

 沖田と神楽は手を掴み合い揉み合いになると、言葉のままに揉み合いとなった。つまりは沖田の手が弾みで神楽のなだらかな胸の膨らみに触れたのだ。

「けっ、テメーにも一丁前に乳がついてたんだな」

 沖田は涼しい顔で神楽の乳房を軽く揉むと、神楽の顔は火でもついたかのように真っ赤に染まった。こんな屈辱的な仕打ちをされて許せるはずないのだ。

「あ、ああ当たり前ダロッッ!」

 神楽は怒りに任せて沖田を投げ飛ばそうとするも、どういうわけか震えて力が出なかった。怖いわけではない。腹が立ちすぎているのだ。しかし、沖田は更に神楽を怒らせる言葉を投げつけた。

「なんでィ、その顔。発情期のメス豚かよ」

 発情期――――――こんな昼間から、それも公園でデリカシーの欠片も無い男に乳を揉まれて発情するわけがないのだ。神楽の怒りは頂点に達する。

「ふざけんなヨ! クソドS野郎ッッ!」

 遂に神楽にぶっ飛ばされた沖田は公園の木に引っかかると、神楽は定春を連れて万事屋へと帰るのだった。


 ムカつく。腹が立つ。それだけではない。それ以上の煮えたぎった感情があるのだが、神楽は今の感情を表すに相応しい言葉を知らなかった。

 帰宅後、しばらく押入れにこもった神楽は、どうにかして沖田に仕返しする方法はないかと考えていた。

「アイツにとって最も屈辱的な方法で仕返ししてやるネ……ぐぬぬ、覚えてろヨ」

 胸を触られたことに対する怒りは勿論あるのだが、怒りの元を辿れば《触ったのに少しもありがたみを感じていなかった沖田》に対して怒っていたのだ。

 小さいとは言え、ふっくらとした乳房はちゃんとついていて、それを触ったのだから何か反応があっても良いだろうと思ったのだ。まるで女だと今まで気付いていなかったような物の言い方。それと人を発情期のメス豚扱い。

 腹立つアル!

 神楽は押入れの何もない空間をボンヤリと見つめた。そして、沖田にとって最も屈辱的な方法による仕返しを――――――思いついたのだ。

「間違いないネ! これだったらアイツに泡ふかせる事ができるアル!」

 神楽は押入れから飛び出すと、軽く腹ごしらえをして風呂場へ走った。そして丁寧に体を洗うと、邪悪な笑顔を浮かべて髪を結った。

「絶対に……これなら……ウヒヒヒ……」

 風呂から上がった神楽を見ていたのは、台所で麦茶を沸かしていた新八で、そのあまりの薄気味悪さに冷や汗を掻いているようだ。

「じゃあ、新八、ちょっと行ってくるアル。帰りは遅くなるから」

 そんな言葉だけを残して、神楽は万事屋から出て行った。目指すは沖田が居るであろう真選組屯所である。


 夕刻をやや過ぎた過ごしやすい時間帯。神楽は屯所の門をくぐらず、高い塀を立体機動装置も使わずに夜兎の持つ超人的な脚力で乗り越えると、沖田の部屋を目指した。

「ここか!」

 バーンとひと部屋ずつ戸を開けていくがなかなか沖田の部屋に辿りつけない。こんなことなら下調べをしておくべきだったなと思いながら廊下を歩いていると、たまたま斉藤終が通りかかった。

「あっ、お前、ドS野郎の部屋知らないアルカ?」

 神楽が可愛い顔と声で尋ねれば、斉藤は簡単にスケッチブックに何やら書いた。どうも屯所の見取り図のようだ。それを見れば今いる場所から………………

「なんか面倒臭いアルナ。つまりこの部屋に居るってことネ?」

 どうやら今立っている部屋が沖田の居る部屋らしく、神楽は回りくどい斉藤に嫌悪感を抱くも礼を言って別れた。

 

 いよいよあの憎き沖田に仕返しできるとあって、神楽は頬の緩みを誤魔化すことが出来ない。

「首洗って待ってろヨ」

 表情を引き締めた神楽が戸に手をかけると、畳の上で隊服のまま仮眠をとる沖田がいた。こちらに気付いている気配はない。神楽はそっと近づくと、沖田の傍らにしゃがみ込んだ。そして、ゆっくりと手を伸ばすと沖田の首ではなく、沖田の股間に手を伸ばした。

「何やってんでィ」

 さすがに沖田も異常に気付いたらしく目を覚ますと、神楽は可愛げのない不満そうな表情で沖田を見た。

「お前こそ私のナイスボディで発情させてやるネ!」

 神楽のとった復讐方法。それは、神楽の乳に何の魅力もないと思っている沖田に対して自分の魅力を知らしめると言うことだった。

『発情期のメス豚に発情してるお前は発情期のオス豚アルナ! キャハハハ』

 そう言って屈辱的な目に遭わせてやろうと思ったのだ。

 神楽はなんの抵抗もしない沖田の股を開かせると、ズボンの上から適当に擦った。前に銀時の隠し持っているアダルトビデオで見たのだ。こんな風に擦ってると男がハァハァと呼吸を荒くして、女に欲情する姿を。

 しかし、いつまで経っても沖田の沖田は起き上がらない。

「一体、どうなってるアルカ?」

 神楽の顔に焦りの表情が見える。

 知らなかったのだ。男の体の作り以前にこの沖田がド級のSであると言うことを。SMプレイなど全く興味のない神楽にとって、沖田を勃たせることは容易ではなかった。

 さすがにこの状況に痺れを切らせた沖田がつまらなさそうに言い放つ。

「俺は女に攻められておっ勃てるタイプじゃねーや。残念だったな発情チャイナ娘」

 発情チャイナ娘。その言葉の響き、語感。全てにショックを受けた神楽はワァっと声を上げて屯所を飛び出すと、再び屈辱的な仕打ちを受けたと泣き帰るのだった。


 一度でなく二度までも。神楽は居間のソファーでしばらくむせび泣いていたが、このまま終わっては女がすたると再度奮起した。

「何がなんでも、どんな手段を使ってでもあいつを発情させてやるネ」

 神楽はそう決意を改めると、飲みに出ている銀時が帰るのを待つのだった。




「お前、またこんな所で寝てんのか」

 どれくらいか経って、ほろ酔いの銀時が傍らに突っ立てることに気付いた。神楽はどうやら待ちくたびれていつの間にか眠っていたのだ。

「今、帰って来たアルカ?」

 銀時はフンフンと鼻歌を歌いながら空いているソファーに倒れ込むと、懐から中身の詰まった財布を取り出した。どうやら今日はパチンコで儲けたらしく機嫌が好さそうである。神楽はこんなチャンスは滅多にないと、横になっている銀時に膝立ちで歩み寄った。

「銀ちゃん!」

「あ? なんだよ! これは銀さんのだから!」

 金を取られると思ったのか、銀時は慌てて体を起こすと財布を懐にしまった。だが、今日の神楽は復讐の鬼である。お金なんかよりも、もっと欲しいものがあったのだ。

 銀時の股ぐらに正座している神楽は震える下唇ときつく噛みしめると、銀時を仰ぎ見た。昼間のことを思い出すだけで涙が溢れるのだ。だが、それを銀時は知らない。少々困った顔になった銀時は軽く首を掻いた。

「え? どうしたよ。お前泣いてんのか?」

「泣いて……ないアル!」

 神楽は手の甲で目蓋をゴシゴシ擦るも涙をいっぱいに溜めた瞳で言ったのだった。

「銀ちゃん、ドS男を手玉にとりたいアル!」

 銀時はゆっくりと瞬きをした。神楽の言ってることの1%も理解が出来ないのだろう。しかし、神楽の手は躊躇うことなく銀時の股間に伸びる。

「ここ、勃たせたいアル」

「ひぇ? おいおいおい! どうしたッ!」

 神楽は真剣であった。ドS男である銀時に教示願おうと思ったのだ。ドSを興奮させる術を。

 銀時は何かを考えるように両腕を組み、深く首を捻るも納得したのか『わかった』と一言発した。それに少しホッとした神楽だったが、思ったよりもその教育=調教はスパルタであるのだった。


 

 

「もっと丁寧に。そこは下から上に舐めあげて、そう」

 ソファーに座る銀時の股間に顔を埋めている神楽は、跪くように座り不慣れな口淫を仕込まれていた。

 独特のニオイと妙な感触。神楽は小さな舌で懸命に竿を舐めるも、目にはまだ涙が溜まっていた。その目はまるで銀時を睨みつけるように見上げており、ドS心をくすぐったのか銀時の肉棒はガッチガチに固まっていた。

「いつまでこんな事しなきゃ駄目アルカ」

 不満そうな神楽は銀時に言われるがまま口を動かすも、出来ればもうやめてしまいたかったのだ。しかし、沖田をアフンと言わせる為だ。それにこんなに銀時がハァハァと興奮しているのだから、間違ってはいないのだと銀時を信じて続けていた。

「じゃあ、次はそれを口の中に突っ込んで」

 しかし、神楽の小さな口には先っぽしか収まらない。すぐに気分が悪いと口を離した。

「無理アル! 入んないネ」

 神楽の厳しい目が銀時に突き刺さる。見えている銀時の顔は意識を失くしたかのように表情がない。

 銀ちゃん?

 神楽はそれに少々不気味さを覚えるも絶えず見つめていた。すると、何かを唾をごくりと飲み込むような音が聞こえたかと思ったら、急に神楽は銀時に頭を抱えられ喉元まで陰茎を突っ込まれるのだった。激しく上下に振られる頭。

「ヤベ、マジ神楽……ヤバいわ……」

 玩具のように扱われ、神楽は銀時の性器で喉を突かれた。激しく擦れる口内。嫌な筈なのに、どこか高まる気持ちが存在していた。

 何アルカ? 変な感じ……

「神楽ァ、射精るゥ!」

 わけも分からず頭を振られ、気付けば口の中には苦味と酸味とよく分からない味が広がっていた。ネバネバとする。ニオイも酷い。それが銀時の精液だと分かる前に神楽は次の命令を受けた。

「じゃあ、次はテーブルの上に四つ這いになって、こっちに尻を向けろ」

 神楽は苦いネバネバをごくりと飲んでしまうと、言われるままテーブルに上がった。そして、銀時に向かって尻を見せて四つ這いになる。これくらいならさっきのよりも全然良いと思っていたのだ。

「ちげーよ。神楽、パンツ脱いで、前はべたっとつけてケツだけ上げろ」

 言わば《女豹のポーズ》という体勢である。神楽は顔を真赤に染めると下着を脱ぐことに抵抗を示した。

「そんなん出来るわけないダロ! 何言ってるアルカ!」

 すると銀時はズボンを穿いて、ソファーから立ち上がった。そして、グッと背伸びをすると神楽を冷たい目で見下ろした。

「ん、じゃあもう寝るわ」

 それは『これで終わり』を意味するのだ。

 嫌なフェラチオだって頑張ってした。それなのにここで終わらせていいものか。神楽は腹の立つ沖田の顔を思い浮かべた。

「待ってヨ」

 神楽は震える手で銀時の着物を摘んだ。本当は嫌なのだ。銀時にそんな下着を脱いだ姿など見せたくはない。しかし、ここは背に腹は代えられないと銀時に懇願するのだった。

「言うとおりにするから教えてヨ、銀ちゃん」

 目には更に涙が集まる。顔も真っ赤だ。しかし、その表情と神楽の言葉を無視できるほど銀時も人間が出来てはいないようだった。

「しゃーねーな。そうまで言うなら、教えてやるからちゃんと言う事聞けよ」

 神楽はコクリと頷くと、テーブルの上でパンツを脱いだのだった。そして、ゆっくりと四つ這いになる。だが、チャイナドレスで大事な部分はちゃんと隠れていた。それだけでも救いである。

 これならまだ我慢できるアルナ

 しかし再びソファーに腰を降ろした銀時は、神楽に嫌な笑みを浮かべるとその救いすらも取っ払おうとした。

「神楽、自分で尻抱えて開いてみ」

「そ、そんなこと出来るわけ……」

 背後の銀時を見ればまたも冷めた目だ。神楽は額に汗を滲ませると、頬をテーブルにピタリとつけて、両手を突き上げている尻に回した。そして、尻の肉を掴むと割れ目を大きく開かせるのだった。

 恥ずかしい。まだ辛うじてチャイナドレスが隠してくれてるとは言え、布一枚を隔てて性器を見せつけているのだ。しかも、銀時は神楽の尻の真正面に顔を持ってきている。いつでも簡単にその秘部を覗かれてしまうのだ。

「あれ? 神楽、どーしたよ。これ」

「え?」

 銀時の視線は、テーブルの上に落ちてくる雫を見ていた。神楽の体がカァと熱く火照る。分かっているのだ。先程から膣の奥から愛液が止めどなく溢れてくることは。神楽の心臓が激しく走りだす。

「何するつもりアルカ……?」

 遂に銀時の手が神楽のチャイナドレスのスカートをまくり上げると、ピンク色した初々しい割れ目が顔を覗かせた。しかし、そこは既に泉のように湧き出ており、今にも舐めとってくれと言っているようである。

「おいおい、見てるだけだろ。どうした?」

 銀時の息がヒダにかかる。神楽からは見えないが性器の間近に銀時の顔が迫っている事は想像がついた。それを考えただけで、何故か呼吸が浅くなるのだ。

「お前、こっちの方はどMだな」

 その言葉に神楽は目を見開いた。どMと言えば猿飛あやめこと、さっちゃんである。つまりは変態だと言われているようなのだ。神楽は強く否定した。

「違うネ! 全然そんなんじゃないアル!」

 しかし、そう言っても神楽の溢れ出る愛液が止まることはなかった。銀時の視線が突き刺さるのを感じて膣がヒクヒクと何かを期待するのだ。ゾクゾクと身が震える。あまりにもそれが切なくて、神楽は背後の銀時を目だけで見つめた。何かを訴えかけるように。

「どうして欲しいか言ってみ?」

 銀時もそれを汲み取ったのかそんな言葉を紡ぐ。しかし、口に出すことは出来ない。何を望んでいるのか、どうして欲しいのか言えばまさに変態なのだ。それを認めるには神楽には経験が浅過ぎた。

 しかし、それではいつまでも神楽の割れ目から涎が流れ落ちるだけである。銀時もあまり上手に待てるタイプではないようで、痺れを切らす。

「言えねぇの? いい加減、素直になれって」

 銀時がそう言って神楽の愛液まみれの割れ目に息を吹きかければ――――――

「ひンッ!」

 神楽はたったそれだけの事で意識を遠くに飛ばしてしまった。絶頂に達したのだ。まだ若い肉体とこの経験の浅さ。それでも銀時に触れられることなく絶頂に達したということは、余程の敏感体質である。銀時がほくそ笑む。朦朧とする神楽の背後で銀時は再び熱くそそり立つ肉棒を取り出すと、ぐったりしている神楽にあてがった。その熱さと感触に神楽は意識を戻すと、ブンブンと頭を左右に振った。

「待ってヨ、銀ちゃん……」

「いや、お前こうなった以上『待て』は酷だって……」

 銀時の真面目な表情とどこか被虐的な視線。神楽の体はまたしてもビリビリと痺れて、震え上がった。

 抵抗はしない。そのせいで銀時の陰茎はゆっくりと、だが確実に神楽の中へと押し入る。

 少し痛む。だが、聞こえて来た銀時の声に神楽の体は異常をきたした。

「……神楽、最高」

 何が最高なのか。この体だろうか。

 もしかして銀ちゃんは私の体に発情してるアルカ?

 そう考えた瞬間、頭の先から背筋、指先、そして膣内。ゾクゾクと波打ったのだ。

「あン、あッ……銀ちゃん……」

 突然上がり始める神楽の甘い声。その声に突き動かされるように銀時の腰も速度を上げる。神楽は夢中であった。酷いことをされているのに気持ちが良いのだ。痛みだってあったはずなのに快感なのだ。今までに感じたことのない激しく熱い感情に神楽は身を委ねていた。

「ずっとお前とこうしたかったんだけど……」

 神楽をオス犬のように犯す銀時は耳元でそう囁くと、神楽を壊そうと躍起になった。

「バカッ、駄目アルッ! そんなこと言ったら……」

 卑猥な粘着質な音が部屋に響く。そこに銀時の熱い呼吸と神楽の甘い声も混じると、万事屋は非現実的な空間となった。汗が飛び散り、愛液がまみれる。

 限界アル。

 神楽は今まで出したことのない類の声を上げると、潮を吹いて豪快にイッたのだった。狭いテーブルに倒れ込む銀時と神楽。しかし、銀時の顔は非常に満足そうであった。

「まさかお前が俺とこうしたかったとはな。想像もしてなかったわ」

 そう言って銀時が神楽を抱きしめれば、神楽は銀時の腹に蹴りを入れた。

「ふざけんナ! 誰もお前とこんな事がしたいなんて言ってないアル!」

 気持ちが良かったけど……

 後に続く言葉は黙っておくことにして、銀時を締め上げた神楽は押入れに飛び込むと泥のように眠るのだった。明日こそは絶対に沖田を発情させてやると意気込んで――――――




 翌日の昼過ぎ。神楽はまたしても真選組屯所に忍び込んでいた。今回は部屋の場所も分かっている。何よりもドSを手玉に取る方法も心得ている。絶対に負けるわけにはいかないと意気込む神楽の目の前に酢昆布の箱が落ちてきた。

 辺りを見渡すも誰もいない。これはしめた! そう思った神楽は酢昆布の箱に飛びついた。しかし、酢昆布の箱はどこにも見当たらない。今さっき拾い上げたと思ったのだが手にはないのだ。見れば数メートル先に酢昆布の箱が何事もなかったかのように落ちてある。

「どういうことアルカ?」

 神楽はまたしても飛びかかる。しかし、やはり酢昆布の箱は数メートル先にあるのだ。

 こうなったら絶対に捕まえてやる。

 神楽は目的も忘れて屯所の廊下を酢昆布めがけて走るのだった。だが、そのせいで自分の背後がガラ空きでことをすっかりと忘れていた。

「隙あり」

 その声に気付いた時には既に遅く、縄で上半身を縛られた神楽は沖田の部屋に引きずり込まれるのだった。


「離せゴルァ!」

 しかし、沖田にそのつもりはないらしい。ドSがドSらしい表情を浮かべて畳に転がる神楽を見ていた。

「そう咆えるな。今日は休みだ、時間はたっぷりある。昨日俺を発情させるって言ったな? 言葉通り俺を勃たせてみやがれ」

 そう言った沖田は畳の上に胡座をかいて座った。神楽は睨みつけながらも、昨日銀時に叩き込まれた手練手管の数々を披露してやると意気込んだ。

 縄で縛られた体では自由もあまり利かないが胡座をかいて座る沖田の股間に顔を埋めると、袴の上から口で優しく刺激したのだった。しかし、その目は既に涙で溢れていた。

「てめー、どこで覚えた」

 明らかに昨日と違う神楽の愛撫。沖田の表情に焦りの色が見えた。

「ドS男を手玉に取るには、ドS男を頼るしか無かったネ。お陰で散々な目に遭ったアル」

 昨夜の出来事。まさか銀時とセックスをするハメになるとは思いもしていなかったのだ。しかし、沖田を落とすためにそれは避けては通れぬ道であった。

「つまり旦那か? まさかテメーがそこまでするとはな」

 余裕ぶって笑った沖田の股間が僅かに盛り上がる。神楽はその異変を逃さなかった。

「あっ、今お前興奮したアルな」

 神楽の心臓がドクンと大きく跳ねる。今、沖田は僅かではあるが自分の対して欲情したのだ。その手応えに神楽は思わず白い歯をこぼした。

「惚れてもねぇ男に体捧げてまで俺を発情させるたァ、テメーの本質はMだろィ」

 昨夜もそんな類の言葉を聞いた気がしたが、今は耳に入っているだけで意識にまで到達していなかった。何故なら昨夜と違い、今は男の肉棒がどんなに素晴らしいものかを知っているのだ。沖田の股間に顔を埋めながら、既に神楽の下着は湿り気を見せていた。

 袴越しに沖田の陰茎を刺激しているが、本当は早く口に突っ込んでしまいたかった。さらに言えば膣内に入れてしまいたかった。だが、身動きが出来ない上にそんな事を口に出して望めば一巻の終わりである。沖田に対して発情しているなど絶対にバレてはいけないのだ。

「そろそろ厳しいんじゃねーアルカ? 私に無理やりされて股間腫らすなんて……」

 その神楽の言葉に沖田は袴とパンツを下げてしまうと、やや下降気味の陰茎を見せつけた。

「見てみろよ、まだ半分も勃ってねぇ。ほら、しゃぶりやがれ」

 沖田は強引に神楽の顔を近づけると、小さな口目掛けて突き刺した。神楽の口内に沖田の肉棒がめり込む。みっちりと詰まるがやや硬さに欠けていた。

 あともうひと押しネ

 神楽はきつく沖田を睨みあげるも、熱く灼ける舌は懸命に亀頭を舐め回していた。知っているのだ。この陰茎が硬くなればどんな素敵な行為が待っているのかを。沖田に悟られないようにと口を動かすが、内心は早くこれを膣内に突っ込んで欲しいと下着を濡らしていた。

 昨夜の銀時のレクチャー通り裏筋を舐めて亀頭に辿り着くと、今度は口をすぼめて一気に吸い上げる。体が求めるのだ。沖田の肉体を。神楽は息を荒くさせながらまるで貪るように励んでいた。しかし、それが沖田の目にどんな風に映っているのか。神楽は冷静に判断が出来なくなっていたのだ。

 突然、神楽の口内から沖田の陰茎が引きぬかれた。

「あっ、ああ!」

 思わず声を上げる神楽。その表情は随分と艶っぽく、物欲しそうだ。

「テメー、すっかりメス豚の顔だな」

 そう言って沖田がニヤリと笑えば、神楽は顔を強張らせる。

「ち、違う…………誰がメス豚ネ!」

 しかし、体は早く触れてくれと叫んでいる。沖田に腹を見せて寝転がって猫のように媚びてしまいたい。神楽は可愛がって欲しい思いを必死に体に押し込めていた。

 だが、それは簡単に露呈してしまう。沖田の手が神楽のスリットに入り込み、更にその奥の下着の中にまで入り込んだ。銀時の肉欲にまみれた棒とは違う、熱い指が割れ目を這う。その指に絡みつくのは紛れも無く神楽が分泌した愛液であった。

「これの説明はどうするんでィ」

 神楽は沖田に倒され背中からしがみつかれると、逃げることなく指の動きに目を閉じた。沖田のどこか丁寧な指使いに思わず声が漏れる。

「ふン……ん……」

 しかし、屈してはならないと神楽は歯を食いしばった。

「お前こそ……そのおっ勃ってるもんの説明は……どーするネ」

 尻に押し付けられる沖田の熱の塊に神楽は頬をバラ色に染めていた。もうすぐでコレが入ってくる事を想像すると目眩が止まらないのだ。

 全ては銀ちゃんが悪い。

 神楽は自分にイケナイ遊びを教えた銀時を恨んだ。

「あんまりブヒブヒうるせーと入れちまうからな」

 沖田は遂に神楽を仰向けに寝かせると、柔らかくほぐれた割れ目に亀頭を擦りつけた。沖田の先走り汁と神楽の愛液が混ざり合い、なんともその様は卑猥であった。

 神楽の顔が苦悶に歪む。早く入れてと声に出てしまいそうなのだ。しかし、沖田がそう簡単に神楽の思う壺にはハマらない。いや、ハメないのだ。

「もう何も言えなくなったのかよ」

 沖田はそう言って神楽の乳房へ手を伸ばすと、チャイナドレスの上から神楽の乳首を捻り上げた。

「あ、ああ! やめるアリュ……」

 神楽はそんな触られ方などしたことがないと、体を仰け反らせビクンと跳ねた。だが、沖田はやめない。更に数回擦ってしまうと神楽は分かりやすいくらい表情を崩して絶頂に達した。

「あッ、んんッ!!」

 震えが止まらない。体がふわふわとして視界も霞む。

 神楽は力なく沖田を見ていた。

「刺激が強すぎたか? だけど休んでる暇はねーぜ」

 そう言って沖田は腹に付きそうな程に反り返った男根を、まだ意識の定まらない神楽へと突っ込んだ。再び神楽が大きく仰け反った。

「や、ンっ……やめろ!」

 しかし、心の中では反対の思いをぶちまける。

 もっと突いてヨ! 激しく奥まで、早く!

 そのせいで膣はキュウキュウと締まっていく。沖田がそれに気づかないわけがないのだ。

「やめろたって、こいつが離さねぇことには無理でィ」

「うッ、うう……」

 沖田はそう言って神楽へと腰を打ち付け始める。その刺激に神楽は必死に歯を食い縛って耐えるも、甘い声は鼻から抜け始める。

「ふッ、あン、あッ、あッ……」

「ほら、言えよ……気持ち良いって正直に……」

 神楽は言ってしまいたかった。自分を解放してやりたかった。だが、沖田相手に自分の方が発情しているなど知られたくはないのだ。絶対に屈しない。しかし、沖田は無情にも神楽の中で激しく暴れ回る。その動きが堪らなく気持ちが良く、神楽は今にも溶けてしまいそうだった。快感に耐える顔は涙でもうグチャグチャだ。

「ぎもぢぐなんてっ……なっ、なぁ……」

 神楽の顔には書いてある。

 お前のが気持ち良くて、最高で、大好きアル。

 それを沖田は読み取ったのか、腰を打ち付けながらきつく目を閉じた。

「俺ァ……もうイきそうだ…………」

 そう言って薄っすらと目を開けた沖田の表情があまりにも切なくて、沖田も自分と同じようにこの行為に酔いしれていることを神楽は知ったのだった。

「お前っ、駄目アル……あッ、んんっ……」

 そんな顔をされると神楽の膣はどうしようもなく締る。まるで沖田のモノを飲み込んでしまいたいと言わんばかりに。

 神楽は沖田の見せた表情のせいで遂にリミッターを解除するのだった。

「気持ち良いアル! んッ、どうしよう……気持ち良くて……もう…………」

 言葉を失った。あまりの快感に沖田へ足を使ってしがみつくと、沖田は腰を引くことが出来ずに神楽の膣内へと全てを注ぎ込んだ。神楽の奥底に信じられないほどに熱い精液が流れ込む。

「う、うう…………」

 まだ苦しそうに胸を上下させている神楽に重なるように沖田は倒れ込んだ。そこでようやく神楽は縛っている縄が解かれたのだった。痛む体。だが、それを吹き飛ばす程の快楽に溺れた。

 神楽はボンヤリとした視界に見える沖田の頭を軽く叩くと目を閉じた。

「縛らなくても良かったダロ」

 すると沖田は神楽の胸に顔を埋めながら答えた。

「ムード作りだ。そんなことも分からねぇのかよ」

 何がムードだ。神楽は沖田のロマンを一欠片も理解出来なかった。だが、今はどうしてこんな事になっただとか、セックスをした理由だとか、何も考えられなかった。ただ一つハッキリしているのは、神楽も沖田も発情する年頃だと言うことである。

 好きだとか嫌いだとか。そんな言葉や感情は、体の繋がりを前にすると実に無力である。気持ち良いから繋がって、そこから何か発展するのも有りのような気がしていた。

「…………ベッドの上から始まる恋ってこれアルカ?」

「はぁ? 恋?」

 神楽は何でもないと首を振るも、ようやくスッキリとした視界に沖田を見た。すると沖田も真っ直ぐにこちらを見ている。

「なんでィ、その顔」

「そっちこそ何だヨ! ニヤニヤすんなヨ!」

 しばらくは大人しくしていると思われた二人だが、すぐにどちらが先にイッたのかで喧嘩になると二回戦を始めるのだった。


2015/06/17